砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > 画像診断によるサトウキビ品種識別の試み

画像診断によるサトウキビ品種識別の試み

印刷ページ

最終更新日:2019年6月10日

画像診断によるサトウキビ品種識別の試み
〜普及現場での活用に向けて〜

2019年6月

琉球大学農学部 寳川 拓生、キティポン アパラタナ、泉川 良成
平良 英三、上野 正実、川満 芳信
沖縄県南部農業改良普及センター 新里 良章、小橋川 隆一

 

はじめに

 品種を見分けることを、識別、鑑別、判別という。サトウキビ生産現場では多くの品種が普及しているが、それらが多く混植されていること、生産者による申告に正確さを欠くなど、各()(じょう)の品種情報が曖昧なものとなっている。各圃場の品種、作型、面積、収穫量を正確に把握することは、それぞれの単収を正確に把握できるというメリットがある。この単収の正確な把握により、生産技術や気象などの影響の詳細な検証、収量予測の精度向上に貢献できると考えられる。また、各生産者や普及関係者が品種の特性を理解し、品種別に生産技術を改良するのにも資すると考えられる。
 

 近年は分子育種分野における遺伝子マーカーの開発などにより、サトウキビ品種における識別も実用化段階に近づいている。遺伝子マーカーの活用の課題は分析価格と迅速性にあるが、他の作物においては既に実用化されている。われわれの研究チームでは、遺伝子マーカーではなく、画像解析などを用いて、より視覚に訴えるような(感覚にのっとった)品種識別技術を開発していきたいと考えている。将来的には遺伝子マーカーによる識別をサポートする技術(あるいは逆も)になることも予想される。
 

 品種情報・品種識別の現状を糖業関係者らとの情報交換により把握し、独自の品種識別技術の開発とその実用の方向性について、以下の成果を得たので報告する。なお、本調査は独立行政法人農畜産業振興機構の平成30年度砂糖関係学術研究委託調査により実施したものである。

1.品種識別・品種情報の現状

(1)サトウキビ品種識別に関する文献調査

ア 外観的特性からの識別

 日本では、宮里(1986)が海外の文献情報を参考に著書「サトウキビとその栽培」1)において、葉舌、葉身、葉鞘、()(ほう)(もう)(ぐん)、茎の生長亀裂、ろう質物(ワックス)の多少、芽の形や芽翼の大きさ、肥厚帯の形状を品種識別に活用できる特性として挙げた。その参考文献の一つが、現在でも世界的に引用されるDillewijn(1952)の著書「Botany of sugarcane(甘蔗植物学)」2)である。本書では、サトウキビの形態について植物学的に詳述されており各形質について類型化・分類化されている。また、品種識別に関し章を設けて説明している。茎色の変異、生長亀裂、蔗茎の新鮮な横断面の肉色、生長した肥厚帯、葉舌、葉などの毛じ群を品種識別に用いる特性として挙げた。ただし、生長亀裂の発生は環境の影響も大きいこと、肥厚帯は1本の茎においてさえ成熟するに伴って変化すること、毛じ群は他の特性と併せて識別に活用することも指摘した。品種識別に用いる特性は、その安定性が重要であり、特に葉舌はほとんど外的条件の影響がなく有用であるとしている。

  ルイジアナ州立大学農業センターは、生産者や種苗会社の品種の有効活用を促進するため、品種識別ガイド「Louisiana Sugarcane Variety Identification Guide3)を作成・発行している(図1)。本書では、品種識別の重要な視点は、あくまで収量を最大化するのに必要な栽培方法や栽培土壌と併せて品種を活用するためであるとの重要な指摘が見られる。例えば、虫害耐性のある品種に大量に殺虫剤を散布するのは非経済的である。本書は各品種の栄養生長器官の外観的特徴(identification descriptor)を写真やBlackburn著の「Sugar-cane」(19844)のイラストを用いて説明している。主要な外観的特徴として、茎のワックス、葉鞘のワックス、葉鞘の縁(色と厚さ)、葉鞘の毛じ群、肥厚帯、茎色、葉耳などを挙げている。

  日本の育種現場では、「農林水産植物種類別審査基準(さとうきび)」(農林水産省)5)が利用されている。サトウキビ品種登録の際に提出する形態的および生態的特性(形質1から69)の一覧ならびにそれらの調査基準を網羅的にイラストも用いながら列挙してある(図2)。本文献のイラストや調査基準などは基本的には「サトウキビに関する調査基準」(農林水産省九州農業試験場ら 19826)、「Sugarcane guideline」(UPOV 20057)などを参考にしている。その他には、「沖縄のさとうきび主要奨励品種の特長(改訂版)」(沖縄糖振協・沖農セ 20098)、「日本のさとうきび品種(改訂版)」(独立行政法人農畜産業振興機構〈alic20139)、「A Guidebook for Sugarcane in Japan」(JIRCAS 200510などで断片的にではあるが品種識別に関する言及が見られる。

  このようにいくつかの文献で言及があるが、いずれも日本のサトウキビ育種黎明(れいめい)期の情報で海外の文献情報を取り(まと)めたもの、あるいは海外品種・系統を扱ったもの、断片的なものに終始しており、日本の品種の外観特性を網羅的に扱い品種識別を目的として作成された資料は見当たらなかった。


イ その他の技術を用いた識別
 

 遺伝子マーカーを用いた品種識別に関する報告に「DNA Markers: A tool for identifying sugarcane varieties」(Piperidis et al. 200411がある。本報はマーカーだけでなく育種家による観測結果 (Plant Breeders Rights)と併せた品種識別も観点に解析を行っている。日本ではトヨタ自動車が国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)九州沖縄農業研究センターらと共同で遺伝子マーカーを作成し、育種工程への普及に移す課題として発表しており育種の効率化・短縮化が期待される。ドローンや空撮を用いたハイパースペクトル画像(注)解析による品種識別は、ブラジルの「Discrimination of sugarcane varieties in Southeastern Brazil with EO-1 Hyperion data」(Galvao et al. 200512などの報告がある。
 

 (注)光を各波長ごとに分光して撮影が可能なハイパースペクトルカメラを用いて撮影された画像を指す。農業分野では、果実や牛肉の品質等級分け、異物混入の検知、植物体の種分別などに応用されている。

(2)普及関係者への聞き取りによる品種識別の現状

  研究を始める前に、普及現場における品種識別の現状や品種普及の現状を把握し、抽出される課題、研究のアウトプットの方向性に関し情報を共有する必要があることから、普及関係者や生産振興対策協議会、製糖工場農務部門などの糖業関係者らと情報交換を行った。
 

  今回の情報交換により、普及現場における品種識別や品種普及に関する現状を一部認識することができた。普及現場における品種識別は生産者からの申告に大きく依存しており、茎色など外観形質での識別も行うがその場合は前述のalic資料9)などを参照するとのことである(最新品種は紙媒体での冊子がないため要望があるとのことである)。生産者は品種に関する()(こう)性があり、品種の識別に興味を示す生産者が普及関係者を訪れている事例(2030センチメートルのキビを1本持ってきて、何の品種か聞いてくるなど)が明らかになった。また、勤続年数が浅い普及関係者、品種などに関心の低い生産者は識別が困難であるとの意見も聞かれた。普及関係者による品種識別には順序があり、まずは離れた位置で()(かん)してから草姿や出穂、品種に特異な病気の発現を観察し、近寄って茎、芽、葉耳、毛じ群を詳細に観察しているようだ。これら識別に用いる形質は、稚茎では判別が難しくなる(せめて1メートルは原料茎があるとよい)。なお、株出しより新植時の方が明瞭に形質が発現する印象があるとのことである。また、判別しにくい場合は栽培地域や聞き取りも参考に判断するとのことである。ただし、栽培地域など環境が異なる場合は同じ品種でも様子が異なる場合があることも指摘された。
 

  また、普及に関し、生産現場からの要請と品種登録、配布要請から実際の配布までにはそれぞれタイムラグがあり、品種の効率的な利用を妨げていることが示唆された。品種識別のためのガイド作成に当たり、品種の特定ではなくランク付けによる絞り込みに重点を置くことや、製本サイズや調査基準の必要性などについて意識を共有した。さらに識別だけでなく効率的な利用に関する総合的な品種ガイドブックが求められていることを確認した。

(3)品種情報の主要な情報源であるOCR調査について

  品種情報の大元である甘味資源作物交付金交付要件審査(サトウキビ植え付け圃場調査、以下「OCR調査」という)および調査データの2次利用に関し情報収集した。OCR調査は、平成19年度より導入されたさとうきび経営安定対策において、国から直接支払われる甘味資源作物交付金の交付を受けるために必要な生産者要件審査申請書の作成に供される調査である。本調査はJAおきなわにより総括されており、沖縄県の市町村は県職員、製糖工場職員の協力の下、本調査を行いJAに提出する。本調査情報の2次利用として、担い手育成、増産対策および営農支援の強化への活用が挙げられているが、前作の製糖終了後の5〜6月に行われる植え付けに関する調査のため当該昨期の収量などの情報がなく、後の搬入データとの照合が必要である他、個人情報が含まれる可能性があり、学術利用においても細心の注意を払う必要がある。また、いくつかのデータの信頼性については課題があるようだが、近年は精度が向上しているようだ。品種については、覚えていない、あるいは調査に代理で来ているために把握できていない場合が多く、高齢化や兼業化の影響も見られる。現状では、1筆ごとの生産情報を把握するには至っていないが、収穫量を自動計測できる機器をハーベスタに取り付ける(Magalhaes and Cerri 200613、石垣島や南大東島のように採苗・植え付け受託を推進するなどして品種や単収などの圃場情報を精査することが可能になる日も遠くない。

(4)品種保護の観点から見た品種識別

  農研機構種苗管理センター本所を訪問し、品種保護の実態や遺伝子マーカーを用いた品種識別に関し情報収集した。種苗管理センターは種苗に関する業務を総合的に行う日本唯一の機関であり、茨城県つくば市に本所を置き、全国各地に11の農場を有する。主要な業務に、品種登録のための栽培試験、種苗検査、品種保護活動、ばれいしょとサトウキビの種苗生産、遺伝資源の保存・増殖があり、それらの業務遂行に必要な調査研究を随時行っている。
 

  種苗法は、新品種の保護のための品種登録に関する制度および指定種苗の表示に関する規制などを定めることによって、品種の育成の進行と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする法律である(種苗法第1条;村林ら 201314。ここで規定されている品種登録制度における品種登録の要件は五つある。「品種登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること」(区別性、Distinctness)、「同一の繁殖の段階に属する植物体の全てが特性の全部において十分に類似していること」(均一性、Uniformity)、「繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと」(安定性、Stability)、「出願品種名称が適切であること」(品種名称の適切性)、「品種登録出願日よりも1年以上前(外国においては4年以上前、永年性植物なら6年以上前)に種苗又は収穫物が業として譲渡されていないこと」(未譲渡性)である。このうち、最初の三つは当該要件を満たしていることが登録に必要な要件なので積極的要件、残り二つは当該要件に該当しない場合は登録が受けられないので消極的要件と呼ばれる。積極的要件については、種苗管理センターにおいて栽培試験を行い、審査基準に沿って特性評価され、頭文字からDUS評価と呼ばれる。審査基準は、「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」に準じている。特性の多くはスコアで定性的に評価されており、画像解析は用いられていないとのことであった。栽培試験で最も重要な作業は、対照品種の選定であるとされ、種苗管理センター独自の品種登録情報データベース、種苗会社の種苗カタログ、過去の栽培試験結果報告書などを参考にするとともに、必要に応じて農林水産省食料産業局知的財産課にも問い合わせ、これらの情報から出願品種と類似性の高い品種が選定される。
 

  出願品種が登録されると出願者は登録品種について育成者権を得られる。育成者権は品種登録日から25年(果樹、材木などの永年性植物は30年)存続する知的財産権である。サトウキビに関し、生産者は原種圃場から配布された種苗を自家増殖し、自家経営に供することは許容されるが、他人に譲渡したり販売することは種苗法により禁じられている。そのため、製糖工場や種苗会社、生産法人などが種苗を増殖し、配布・販売するためには、育成者権者との契約が必要になる。契約内容は契約者間に委ねられており、当該業務の売上何%を支払うなどといった契約がなされるとのことである。新品種の育成者権が適切に保護されるよう、全国7カ所に計20人の品種保護Gメンが設置され、育成者権の侵害対策やその活用のための相談、侵害事実の判定のための品種類似性試験などを行っている。類似性試験には、特性比較、比較栽培、DNA分析があり、それぞれ2万2680円、129600円、3万4344円の手数料がかかる。特性比較や比較栽培は目視や計測により定性的に評価されているものが多く、画像解析は用いられていないとのことである。特性比較では、育成者からの持ち込みや郵送、Gメンが現場で押収した植物体を数時間から1日で調査し、切り花など、しおれの見られるものは母株を再生して評価される。比較栽培では、対照品種と栽培し、植物体にもよるが数カ月〜1年を要する。遺伝子マーカーによる識別は主作物の主要品種に限定されており、マーカー数にもよるが依頼から手続きなどを含め1カ月ほど要する。各作目に関し識別が容易かつ明瞭なマーカーを作成する必要があり、測定機器による違いなどを考慮する必要があるようだ。簡易かつ迅速なマーカー検出方法にLAMP法が医学分野では開発されており、将来的には(リトマス紙の要領で)圃場現場での簡易かつ迅速なマーカー識別が可能になることが期待される(Monden et al. 201415

2.本研究における品種識別の試み

(1)調査地の概要

  関係者への聞き取りから品種の外観に対する環境や作型などの影響が示唆されたため、南大東島、石垣島、宮古島、沖縄本島南部、琉球大学農学部内圃場といった県内各地の品種保存圃場を探索し調査を行った(表1)。これらの圃場は、試験研究者が品種の特性を把握すること、生産者や関係機関と品種特性を共有・普及啓蒙すること、試験に利用することなどを目的として展示・保存されている圃場である。
 

  各調査圃場の土壌環境は、栽培後の土壌ということもあるが、いずれも中性から弱酸性で比較的()(よく)な土壌であると言えた。調査地の平均気温は、少雨傾向の5〜6月で平年より高く、9月で平年より低温、10月に平年より高温となる傾向が見られた(図3)。梅雨前の少雨傾向で低収傾向が予測されたが、本島を除く多くの地域で梅雨明け後も台風が適度な降雨をもたらしたことと、大型の台風接近もなく9〜10月に高温を維持しつつ適度に降雨もあったことにより、生産量は平年並みに持ち直す見込みのようだ。沖縄本島においては9月時点では生育良好であったが、9月下旬から10月初旬にかけて大型の台風24号、25号が相次いで襲来し植物体が倒伏、折損、裂傷するなど甚大な被害を受け低収が予想されている(2019年4月末時点)

 

 

(2)調査方法

  文献調査や関係者への聞き取り調査結果および台風被害時の特性把握を考慮し、画像解析に用いる形質を芽子の形状に決定した。草型、葉耳の形状、肥厚帯の形状・色、葉鞘の色、茎色、葉舌の形状などその他の形質については画像解析による識別がやや困難であることが予想され、目視により評価し選択肢を絞っていく選択形式に活用することを検討した(図4)。

  選択式で品種を判別していくためには元の品種特性情報が正確でなければならない。品種登録時に農林水産省に提出される品種特性データは、育種家により長期にわたり定性的に観察されてきたもので比較的正確であると考えられるが、その判別には一定の専門性を要する。素人でも比較的容易に判別できそうな特性として、出穂の有無、茎色について各調査において目視により確認した(図5)。

  各調査地において各品種3本の茎を対象に、葉耳、芽を撮影した。葉耳については第1〜3葉を対象とした。芽については中位節の健全な芽を撮影した。撮影は携帯電話iPhoneSEまたはiPhoneXのカメラを用い、背景をカットしやすくするために、トイレットペーパーの芯に手を加えた器具を取り付け行った(図6)。画像処理・解析は統計ソフトMatlabを用いて行った。

  撮影された芽子のみをクローズアップするため関心領域(Region of Interest, ROI)を手動で決定し(図7)、領域内のピクセル情報(RGB, L*a*b, HSV)を主成分分析(注1)にかけ品種特性値を得た。全地域のデータと各採取地のデータを対象データとしてそれぞれ主成分分析を行った(注2)
 

(注1)複数の変数を主成分と呼ばれる変数に要約する統計手法の一つであり、得られた主成分の意味は、主成分と各変数の相関などから解釈する必要がある。本調査では莫大(ばくだい)な画像情報の次元を落として理解しやすくするために用いた。
(注2)主成分分析では用いる変数によって得られる主成分が変化するため、それぞれのデータを用いて分析を行った。

(3)結果

  目視による確認において、全調査地で出穂が確認された品種はなかったが、農林6号、7号、8号、9号、18号、30号、31号は多くの地域で出穂が確認され、収穫期の品種判別の指標になると考えられた(表2)。茎色に関しては、9号、10号、11号、33号は全地域で共通して黄色を帯びており、22号、31号は紫色を帯びていた。これら茎色は日焼け程度にも左右されるが品種判別に有望な形質であることが示された。

  撮影画像のピクセル情報の主成分分析を行い、固有ベクトルと主成分得点を算出した。その固有ベクトルから、主成分1は芽の明るさ、主成分2は芽の大きさ、主成分3は芽の先端部の形状を表すと推察された(図8)。主成分2以降は、全データを対象とした主成分分析結果と各採取地のデータを対象とした分析結果とで異なる解釈が求められるが、主成分1についてはいずれの解析結果でも寄与率が高く、芽の明るさを表していると解釈できそうだ。ちなみに、寄与率の低い主成分2以降の値もディープラーニングなど人工知能(AI)を用いた解析には有用となる可能性もある。本実験では撮影時に遮光するよう設計されていたものの、芽の明るさは撮影条件(特に圃場で晴天下)の影響を受けると想定されるため、装置を改良し遮光を強化するか、主成分2以降の解釈に重点を置くなどの改良を検討していく予定である。

  各主成分得点の散布図を見ると各品種はよくばらけて分布しており、品種特性値の分布がよく離れているいくつかの品種については識別が容易であると考えられた(図9)。ただし、各地域で品種特性値が異なること、各反復で品種特性値にバラつきが見られることも分かった(例えば全地域で調査対象の品種Ni17;図10)。

  各地域のデータでそれぞれ主成分分析を行ったところ、全データ対象の解析結果(図9)と比較的類似した分布を示し、同様に各地域で品種特性値のバラつきが異なっていた(図11)。いずれの地域でも主成分1は99.99%の寄与率で、芽の明るさを表すものと解釈可能であった。

3.まとめ

  遺伝子マーカーを用いず、これを視覚的にサポートする品種識別技術を模索したところ、いくつかの知見が得られた。今回の調査では、まず文献調査、関係者らへの聞き取り調査により、品種識別の方向性を定めた。携帯電話にて撮影された画像を解析する、あるいはクリックで品種特性を選択していく方式が検討され、識別に用いる形質として、芽、葉耳、草型、肥厚帯の形状・色、葉鞘の色、茎色などが選抜された。その内、芽を例に画像解析による識別の方向性を示した。以下に本調査を通して分かったことおよび課題を列記した。
 

分かったこと

・生産者へのインタビューによる品種情報は現状では不正確である可能性が高い

・生産現場では品種識別の要望がある(切断茎を持って来て尋ねてくるなど)

・普及関係者による品種識別は生産者に対する聞き取り以外では、遠目から外観(草型、茎色、出穂、病徴)を観察し、その後近づいて芽や葉耳などを観察して行われている

・サトウキビでは芽、葉耳、葉舌などが育種現場で識別に用いられている

・他作物を含め品種保護の現場でも品種識別に画像解析は用いられていない

・形質の撮影画像のピクセル情報を主成分分析にかけることにより品種特性値を得ることができ、品種識別の可能性が見出された

・しかし、地域差や反復差などがあり精度の向上や技術改良が求められる

 

今後の課題

・品種当たりの調査点数の増加

・識別精度の実地検証

・作期、調査地、作型による表現型の変化を継続的に調査する必要

・画像処理、解析の自動化(AIを用いるなど)

・品種識別のマニュアル化

・品種選択や品種別栽培方法などへの活用
 

 今回の調査では、精度の高い品種識別ガイド用アプリの開発には至らなかった。しかしながら、画像解析やAIなどの先端技術を用いた品種識別の方向性が示されるに十分な知見が得られた。今後、データ数を増やしていくとともに識別技術の改良を行い、品種識別ガイド用アプリやハンドブック作成を行っていきたいと考えている。
 

謝辞
 

 本調査を行うに当たり多くの方々にご協力いただいた。沖縄県農林水産部南部農業改良普及センター、南部地区さとうきび生産振興対策協議会、ゆがふ製糖株式会社、沖縄県農業研究センター本所、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センター、大東糖業株式会社、沖縄県農業研究センター石垣支所、同宮古島支所職員に、この場を借りて感謝申し上げる。
 

引用文献

1)宮里清松(1986)『サトウキビとその栽培』日本分蜜糖工業会

2)Dillewijn1952)『Botany of sugarcane』(1972年内原彪翻訳)琉球分蜜糖工業会

3)ルイジアナ州立大学農業センター(年不詳)『Louisiana Sugarcane Variety Identification Guide

4)Blackburn1984)『Sugar-caneLongman

5)農林水産省(年不詳)「農林水産植物種類別審査基準(さとうきび)」

〈http://www.hinshu2.maff.go.jp/info/sinsakijun/kijun/1554.pdf〉(2019/5/9アクセス)

6)農林水産省九州農業試験場、鹿児島農業試験場、沖縄県農業試験場、財団法人甘味資源振興会(1982)『サトウキビに
  関する調査基準』

7)International Union for the Protection of New Varieties of Plants UPOV)(2005)「Sugarcane guideline

〈https://www.upov.int/edocs/mdocs/upov/en/tg/2005/tg_186_1_proj_2.pdf〉(2019/5/9アクセス)

8)公益社団法人沖縄県糖業振興協会、沖縄県農業研究センター(2009)『沖縄のさとうきび主要奨励品種の特長(改訂版)』

9)独立行政法人農畜産業振興機構(2013)『日本のさとうきび品種(改訂版)』

10H. TakagiM. SatoM. Matsuoka 2005)『A Guidebook for Sugarcane in Japan』国立研究開発法人国際農林水産業研究
  センター(
JIRCAS

11Piperidis et al.2004)「DNA Markers: A tool for identifying sugarcane varieties」『Proc. Aust. Soc. Sugar Cane Technol. Vol. 26

12Galvao et al.2005)「Discrimination of sugarcane varieties in Southeastern Brazil with EO-1 Hyperion data」『Remote Sensing of Environment』 (94 pp.523534.

13Magalhaes and Cerri 2006)「Yield Monitoring of Sugar Cane」『Biosystems Engineeringdoi:10.1016/j.biosystemseng.2006.10.002

14)村林隆一、松本好史、伊原友己、平野和宏、中野睦子(2013)『植物新品種保護の実務』一般財団法人経済産業調査会

15Monden et al.2014)「A rapid and enhanced DNA detection method for crop cultivar discrimination」『Journal of Biotechnology』(185 pp. 5762.

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272