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3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年7月時点予測)

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最終更新日:2019年8月9日

3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年7月時点予測)

2019年8月

 本稿中の為替レートは2019年6月末日TTS相場の値であり、1ユーロ=124円(123.99円)である。

ブラジル

2019/20年度、輸出量はわずかに減少する見込み
 LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)の2019年7月時点の予測によると(以下、特段の断りがない限り同予想に基づく記述)、2019/20砂糖年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は砂糖の国際相場の低迷により他作物へ転作する動きが見られるため、847万ヘクタール(前年度比2.0%減)とわずかに減少する見込みであるものの、生育状況がおおむね良好であることから、サトウキビ生産量は6億2400万トン(同0.5%増)と横ばいで推移すると見込まれている(表2)。

 砂糖の国際価格の低迷が長期化していることから、サトウキビのエタノール生産への仕向け割合が上昇するとの見通しの下、砂糖生産量は3092万トン(粗糖換算〈以下、特段の断りがない限り砂糖に係る数量は粗糖換算〉、同1.2%減)、輸出量は2029万トン(同1.4%減)と、ともにわずかに減少すると見込まれている。

メルコスールとEU、FTAで政治合意
 南米南部共同市場(メルコスール)とEUは6月28日、自由貿易協定(FTA)について政治合意した。この協定が発効すれば、数年かけて関税が撤廃されるものも含めると、メルコスールはEUからの輸入品の91%、EUはメルコスールからの輸入品の92%を完全に自由化する。FTA交渉においてEUが関税引き下げや撤廃に慎重な姿勢を貫いてきた砂糖については、ブラジル産粗糖に対して現行の関税割当数量(33万4054トン)(注1)の範囲内で無税の関税割当枠(18万トン)を設けることで決着した。

 これを受け、ブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)(注2)は同日、「ブラジルに与えられた砂糖の関税割当量は、EUの砂糖需要量を考慮すると必ずしも十分とは言えないまでも、自由化が進んだ点などは評価できる。ブラジルの砂糖産業にとって大きな弾みになるだろう」との声明を発表した。

(注1)ブラジル産粗糖に対する関税割当内の関税率は1トン当たり98ユーロ(1万2152円)、関税割当外の関税率は同339ユーロ(4万2036円)である。
(注2)ブラジル全体の砂糖生産量の9割を占める中南部地域を区域としている団体。


ブラジル政府、インドの砂糖政策をめぐりWTOにパネル設置を要請
 ブラジル政府は7月11日、インド政府との砂糖産業に対する支援政策に関する2国間協議が決裂したことを受け、世界貿易機関(WTO)に対し裁判の一審に当たる紛争処理小委員会(パネル)の設置を要請したと発表した。同政府は、インド政府が実施する生産者や製糖業者への財政支援はいずれもWTOのルールに反していると断じ、「これらの措置により公正な価格競争が阻害され、市場の機能が(ゆが)められている」と主張している。
 インド政府は、「WTOのルールに何ら反していない」と従来の主張を繰り返し、歩み寄る姿勢を見せていないことから、パネルで決着するかは不透明である。ここで解決できなければ、どちらかが裁判の二審に当たる上級委員会に不服を申し立てる可能性が高く、最終的な判断が出るには1年以上かかるとみられる。

表2 ブラジルの砂糖需給の推移

(参考)ブラジルの砂糖(粗糖・精製糖別)の輸出量および輸出単価の推移

インド

2018/19年度、輸出量は大幅に増加する見込み
 2018/19砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は、サトウキビの買い取り価格が引き上げられたことに伴う生産意欲の高まりにより505万ヘクタール(前年度比4.6%増)とやや増加すると見込まれている(表3)。一方、サトウキビ生産量は主要生産地における干ばつや害虫被害の影響でサトウキビの生育が停滞しているため、3億9938万トン(同2.4%減)とわずかに減少すると見込まれている。 砂糖生産量は3548万トン(同2.2%増)とわずかに増加し、輸出量は政府が製糖業者に対し輸送費などへの助成措置と引き換えに500万トンの最低輸出義務を課していることから、370万トン(同56.6%増)と大幅な増加が見込まれている。

インド製糖協会、2019/20年度は800万トンの輸出を目指す
 インド製糖協会(ISMA)は7月10日、過剰な砂糖在庫の縮減に向け、2019/20年度は800万トンの輸出を目指す考えを示し、これを達成するために必要な財政支援をインド政府に要請していることを明らかにした。 現地報道によると、同政府はブラジルや豪州などから現行の政策支援に関してWTOに提訴されている現状を踏まえ、輸出補助金と指摘されている製糖業者への輸送費の助成措置などについては支給要件を見直しつつも、2018/19年度と同規模の予算措置を検討しているとされる。

表3 インドの砂糖需給の推移

(参考)インドの砂糖(粗糖・精製糖別)の輸出量および輸出単価の推移

中国

2018/19年度、輸入量は横ばいで推移する見込み
 2018/19砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は122万ヘクタール(前年度比1.0%減)とわずかな減少が見込まれる一方、生産量は7859万トン(同2.4%増)とわずかな増加が見込まれている(表4)。てん菜については、政府がトウモロコシ支援政策を変更(注)したことでトウモロコシ価格が低下したことを受け、内モンゴル自治区などの生産者がてん菜への転作を進めていることなどから、収穫面積は24万ヘクタール(同30.5%増)、生産量は1167万トン(同21.7%増)と、ともに大幅な増加が見込まれている。
 
 砂糖生産量は、原料作物の増産が期待できるものの、天候不順などの影響で平均糖度が平年を下回るとみられることから、1164万トン(同4.4%増)と小幅な増加にとどまると見込まれている。輸入量は、米中貿易摩擦により中国経済の減速懸念が強まっていることなどから、604万トン(同0.4%増)と横ばいで推移すると見込まれている。

(注)政府は2016年4月、トウモロコシ備蓄政策について、最低保証価格を廃止し、市場買い付けとする変更を行った。

中国農業農村部、2019/20年度の砂糖の需給見通しを公表
 中国農業農村部(日本の農林水産省に相当する政府機関)は7月11日、2019/20年度の砂糖の需給見通しを公表した。これによると、前年度と比べおおむね天候に恵まれ、原料作物の生育が順調なことから、砂糖生産量は1088万トン(前年度比1.1%増)とわずかに増加すると見込まれている。

 現地報道によると、内モンゴル自治区では6月に大量発生したバッタ類によるてん菜の食害被害が報告されているほか、広西チワン族自治区に次ぐサトウキビの産地である雲南省ではサトウキビの栽培面積の約35%に相当する()(じょう)が干ばつに見舞われ、初期生育が著しく阻害されるなどの被害を受けているが、これらの影響は今回の見通しに反映されていないとみられる。このため、生産に関する見込みの数値は下振れする可能性がある。

 他方、砂糖消費量は景気の安定的な推移を背景に、1520万トン(前年度同)と横ばいで推移すると見込まれている。

2019年5月の砂糖輸入量、前年同月をかなり大きく上回る
 中国税関総署が6月23日に公表した貿易統計によると、2019年5月の砂糖の輸入量は、前年同月と比べ11.8%増の38万トンと4カ月ぶりに前年同月を上回った。この結果、2018年10月からの累計では、177万トン(前年同期比13.5%増)とかなり大きく増加した。

表4 中国の砂糖需給の推移

(参考)中国の砂糖(粗糖・精製糖別)の輸入量および輸入単価の推移

EU

2018/19年度、輸出量は大幅に減少する見込み
 2018/19砂糖年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は171万ヘクタール(前年度比1.1%減)とわずかな減少にとどまるものの、春先の冷え込みによる植え付けの遅れと、その後の少雨で乾燥した日が続いた影響により、てん菜生産量は1億1439万トン(同17.4%減)と大幅な減少が見込まれている(表5)。

 砂糖生産量はてん菜生産量の減少に加え、てん菜の平均糖度が平年を下回るとみられることから、1829万トン(同15.2%減)とかなり大きく減少し、輸出量は前年度の砂糖の生産割当撤廃に伴う輸出増の反動で、196万トン(同48.6%減)と大幅に減少すると見込まれている。

欧州の砂糖業界、メルコスールとのFTA合意を批判
 欧州てん菜生産者連盟(CIBE)、欧州砂糖製造者協会(CEFS)および欧州食品・農業・旅行労働組合連合(EFFAT)は7月2日、EUとメルコスールとのFTAが政治合意に達したことを受け、懸念を示す声明を共同で発表した。

 この声明によると、今回のFTA合意を「史上最悪の譲歩」と酷評し、「EUで使用が禁止されている農薬を使用して生産されたブラジル産の砂糖がEU域内に流通することになるだろう」と皮肉った。また、過去にEUが一部の国とのFTAで実施した協定発効前の暫定適用についても、EUの砂糖産業に深刻な損害を与えるとし、今回のFTAでは実施すべきでないと主張している。

表5 EUの砂糖需給の推移

(参考)EUの主要国別砂糖生産見通しおよび生産割合(2019年7月時点)

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