ホーム > 砂糖 > 調査報告 > 物流危機、農業危機を乗り越え持続可能な社会の実現へ
最終更新日:2020年1月10日
物流業界を取り巻く危機的な状況に対し、各社は他業界からの新規雇用の獲得、働き方改革の断行、自動化技術への投資を通じた労働生産性の改善など、さまざまな取り組みを行っている。日本通運株式会社(以下「日通」という)は2017年、「ロジスティクス・エンジニアリング戦略室」を立ち上げ、自動運転技術を活用したトラック隊列走行、先端技術による物流センターの無人化・省力化、人工知能(AI)活用の物流ソリューション、ドローンの多目的活用、トラックマッチング(求荷求車)(注1)のシステム化―などを主要テーマとして研究・開発を推進している。また、経済産業省は2017年に「Connected Industries」(注2)構想を提唱した。産業間や業界間でデータを相互に活用することで個々の業界だけでは解決が難しかった社会課題を解決し、より良い社会を実現していくことを目指している。なかでも、IoT(モノのインターネット)、データや自動化技術の活用による物流機能の効率化および高度化は中心的な議題となっている。さらに、国土交通省では2014年からトラック運送業界における女性の活躍を促進するため、「トラガール促進プロジェクト」(注3)を進めている。
(注1)目的地まで荷物を運び終わった帰りの便などでトラックの荷台が空いている輸送会社・運送会社の「車両情報」と、運びたい荷物があるが何らかの理由により車両手配ができず輸送が困難な状態に陥っている荷主の「貨物情報」を活用し、適切な配車手配を行うこと。
(注2)さまざまな業種、企業、人、機械、データなどがつながり、AIなどにより新たな付加価値や製品・サービスを創出し、生産性を向上させることにより、高齢化、人手不足、環境・エネルギー制約などの社会の課題を解決すること。これらを通じて、産業競争力の強化や国民生活の向上、国民経済の健全な発展を目指すこととしている。
(注3)トラック運送業界は、他業種に比べて女性の進出が遅れていたが、近年は、細やかな気配りや高いコミュニケーション能力、丁寧な運転など女性ドライバーならではの能力を評価する声が高まっている。このため、国土交通省は2014年、「トラガール促進プロジェクト」を立ち上げ、トラック運送業界における女性の活躍を促進するための取り組みを加速している。
政府は成長戦略の一環として、他業種の知見やICT(情報通信技術)など日本の先端技術を活用して農業の産業化を実現するため、スマート農林水産業を推進している。生産現場におけるデータ活用は徐々に進みつつあるものの、第1次産業のバリューチェーン全体を俯瞰した場合、生産年齢人口の減少もあり農林水産物の輸送効率化は大きな課題となっている。長時間労働に代表される物流業界の構造的な課題を放置したまま単一の経済主体の効用のみを追及することは、根本的な解決にはつながらないことから、民間主導のオープンイノベーションの一例として、当社UDトラックス株式会社(以下「UDトラックス」という)、日通およびホクレンの3社は2019年7月に交わした合意に基づき、自動運転技術を使った大型トラックの実証実験をホクレン中斜里製糖工場の敷地内で実施した。これは、各経済主体単独による取り組みが業界の垣根を超えた有機的な連携の実現に至っていないのが現状であり、そのため、オープンイノベーションを通じ、業界の垣根を超え、幅広い知見や経験値などを集約することが不可欠になるものと考えられているためである。
大型トラックがシステムのみで限定領域を走行する「レベル4」(注5)の実証実験を行うのは国内初となった。具体的には、8月29日に中斜里製糖工場周辺の公道から工場入口を経て、てん菜集積場と工場内加工ライン投入口へ横持ちする運搬ルートをレベル4自動運転技術を活用し、てん菜運搬業務について無人化の実験を行った、同実験では、当社の大型トラックをベースに開発された車両を使用し、RTK−GPS(注6)(リアルタイムキネマティック全地球測位システム)や3D−LiDAR、ミリ波レーダー、操舵アクチュエーターなどの自動運転技術を駆使し、およそ1.3キロの運搬ルート(公道、舗装道路および未舗装道路を含む)を時速20キロで自動走行した。なお、同実験は警察庁が定めた「自動走行システムに関する行動実証実験のためのガイドライン」の規定に基づき、車両にはドライバーが搭乗し、不測の事態に対する有人緊急操縦態勢を確保した上で実施した。さらに、独自の安全対策として、公道の使用部分を閉鎖し、実験中の構内走行に際しては、走行ルートと観覧席の間にブロックを敷設するなどの対策を講じた。同実験にはUDトラックスの酒巻孝光代表取締役社長、日通の竹津久雄代表取締役副社長、ホクレンの内田和幸代表理事会長、土屋俊亮北海道副知事などが列席したほか、約150人の経済産業省、国土交通省、農林水産省、北海道農業協同組合中央会(JA北海道中央会)や業界関係者などが臨席し、イノベーションを通じた社会課題の解決に対する関心の高さがうかがえた。
酒巻社長は記念式典で、「人手不足という大きな社会課題に、業界の垣根を超えて取り組んでいかなければならないと痛切に感じている。今回、商用車メーカー、物流、農業が手を組み、そして、広大な農地を持つ北海道の協力を得て、実証実験を実現させることができた」と述べ、農業、物流、地域経済が抱える課題に向けて取り組んでいく決意を強調した(写真1)。
この共同実証実験は、物流の省人化や効率化を通じ、物流業界が抱える課題を解決し、物流の持続可能性を高める一つのアプローチである。同実験により限定領域における自動運転技術の有用性を示したことから、人手不足に苦しむ業界関係者の間で実用化へ向けた期待感が高まっている。
(注5)公益社団法人自動車技術会は、自動運動のレベルについて、レベル0(ドライバーが全てを操作)、レベル1(システムがステアリング操作、加減速のどちらかをサポート)、レベル2(システムがステアリング操作、加減速のどちらもサポート)、レベル3(特定の場所でシステムが全てを操作、緊急時はドライバーが操作)、レベル4(特定の場所でシステムが全てを操作)、レベル5(場所の限定なくシステムが全てを操作)と6段階で定義している。
(注6)4Gで受信するRTK基地局からの補正信号を使い、GPS衛星から得られる位置情報を補正することにより、誤差数センチメートルの精度を確保できる技術。悪天候や悪路などにおいてもより高い精度で自己車両の位置を測定するため導入された。