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3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2020年2月時点予測)

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最終更新日:2020年3月10日

3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2020年2月時点予測)

2020年3月

本稿中の為替レートは2020年1月末日TTS相場の値であり、1ブラジル・レアル=27.69円である。

ブラジル

2019/20年度、生産量はわずかに増加するものの、輸出量はやや減少する見込み  
 LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)の2020年2月時点の予測によると(以下、特段の断りがない限り同予測に基づく記述)、2019/20砂糖年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、砂糖の国際価格の低迷により他作物へ転作する動きが一部で見られるため、859万ヘクタール(前年度比0.7%減)とわずかに減少するが、生育期間を通じて天候がおおむね良好で、生育が順調であることから、サトウキビ生産量は6億4110万トン(同3.3%増)とやや増加すると見込まれる(表2)。
 
 長期化する砂糖の国際価格低迷などの影響を受けて、多くの製糖業者でエタノール生産を強化する動きが目立つものの、砂糖とエタノールの仕向け割合は前年度と同水準で落ち着くとみられることから、砂糖生産量は3161万トン(粗糖換算〈以下、特段の断りがない限り砂糖に係る数量は粗糖換算〉、同1.2%増)とわずかに増加し、輸出量は2033万トン(同3.1%減)とやや減少すると見込まれる。

RenovaBioによるバイオ燃料製造業者の利益は長期的に増加する見通し  
 2019年12月24日、パリ協定に基づいた温室効果ガス排出量の抑制などを目的とする再生可能エネルギー法(RenovaBio)がブラジルで施行された。同法では、石油会社が石油を販売する際、その販売量から計算される二酸化炭素排出量に応じて炭素排出権(以下「排出権」)を製糖業者などのバイオ燃料製造業者から購入することが規定されている(注1)。また、排出権を石油会社に販売できるのはブラジル石油・天然ガス・バイオ燃料監督庁(ANP)の認証を受けた者のみとされている。同国の投資銀行によると、ANPの認証作業が滞っているため、2020年に売買される排出権の量は短期的に不足する可能性がある(注2)。一方、排出権の売買によるバイオ燃料製造業者の利益は年々増加するとみられ、2020年は5億5500万レアル(約154億円)、2030年までに660億レアル(約1兆8275億円)に達すると予測されている。

(注1)バイオ燃料の生産によって削減された二酸化炭素排出量に基づき、バイオ燃料製造業者に排出権が付与される。
(注2)2020年2月上旬時点で認証を受けた業者は19社(うち製糖業者は11社)と非常に少なく、100社以上の業者が認証待ちの状態となっている。

表2 ブラジルの砂糖需給の推移

(参考)ブラジルの砂糖(粗糖・精製糖別)の輸出量および輸出単価の推移

インド

2019/20年度、輸出量は上方修正  
 サトウキビの主産地であるマハラシュトラ州で発生した圃ほ場じょうの浸水被害などが影響し、2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は461万ヘクタール(前年度比9.5%減)、サトウキビ生産量は3億5923万トン(同10.7%減)と、ともにかなりの程度減少すると見込まれる(表3)。
 
 糖みつなどを利用したエタノールの生産量は当初の予測を下回って推移しているものの、前述のサトウキビ生産量の減少や長雨によるサトウキビの糖度低下の影響を考慮すると、砂糖生産量は2954万トン(同17.2%減)と大幅に減少すると見込まれる。製糖業者が砂糖相場の上昇傾向に乗じて輸出量を伸ばしつつあることから、輸出量は前月の予測から3.9%上方修正されたものの、532万トン(同3.3%減)と見込まれる。

インド首相、ブラジル大統領にWTOへの提訴取り下げを要請  
 インドのナレンドラ・モディ首相は1月下旬、同国政府主催の憲法公布(1950年1月26日)を祝う「共和国記念日」の式典に来賓として出席するため同国を訪問していたブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領と会談した。両首脳は、インフラ整備や農業、エネルギー、文化、観光など15の分野において政府間で緊密な協力関係を構築することで合意した。うちエネルギー分野においては、サトウキビやトウモロコシの茎葉などからバイオ燃料を効率的に製造するため、双方で技術協力や情報共有を行うこととなった。  
 
 会談後、ボルソナロ大統領は2019年2月にインド政府の砂糖産業保護政策に対しブラジルが世界貿易機関(WTO)に提訴した問題をめぐってモディ首相から提訴取り下げを要請されたと明らかにした。同大統領は、二国間での協議を通じてこの問題に取り組むことに合意したと述べたものの、提訴を取り下げるかどうかは明言しなかった。

(注)会談の詳細は、令和2年1月31日付け海外情報 「ブラジルとインド、バイオ燃料生産で連携に合意するも、砂糖をめぐる対立は解決の目途立たず」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002607.html)を参照されたい。また、ブラジルのWTOへの提訴の詳細は、平成31年3月5日付け海外情報「ブラジルと豪州がインドの砂糖産業への補助金を問題視、WTO提訴へ」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002411.html)を参照されたい。

表3 インドの砂糖需給の推移

(参考)インドの砂糖(粗糖・精製糖別)の輸出量および輸出単価の推移

中国

2019/20年度、輸入量はやや増加する見込み  
 2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は118万ヘクタール(前年度比3.5%減)とやや減少し、天候不順で停滞していたサトウキビの生育状況に回復の兆しが見られるものの、収穫面積の減少による影響を相殺しきれず、サトウキビ生産量は7769万トン(同1.1%減)とわずかに減少すると見込まれる(表4)。てん菜については、収穫面積は21万ヘクタール(同12.4%減)とかなり大きく減少すると見込まれる。主産地である内モンゴル自治区で広範囲の害虫被害が発生したものの、糖度が前年度よりも高いことが収穫面積の減少を一部相殺し、てん菜生産量は1090万トン(同6.6%減)とかなりの程度減少すると見込まれる。  

 これに伴い、砂糖生産量は1103万トン(同5.2%減)とやや減少し、その不足分を賄うため、輸入量は499万トン(同3.3%増)とやや増加すると見込まれる。

新型コロナウイルスの砂糖消費への影響は限定的か  
 オランダの農業系金融機関ラボバンクは、2019年末から中国で流行している新型コロナウイルス(2019-nCoV)は砂糖消費を短期的に抑制するものの、甚大かつ長期的な影響を与えることはないとみている。ラボバンクは、同ウイルスの感染を予防するために外食の需要が低下するものの、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでの購買活動は維持されることで家庭での砂糖消費は減少せず、同ウイルスの流行が収まれば景気は速やかに回復するとし、2019/20年度の中国の砂糖消費量は前年度比1%増と、同ウイルスの流行前に発表した見通しを修正していない。万一、国内の砂糖需給がひっ迫した場合、砂糖の備蓄放出で対応できるとみている(注)。  

 中国最大の食品会社である中糧集団有限公司(COFCO)の砂糖部門によると、同ウイルスの影響で需要が急増した錠剤用の砂糖を製薬会社に速やかに納入するため、中国の旧正月である春節の休暇期間中も営業を続けたほか、国内の主要港に保管されている砂糖を適切に流通させるなど砂糖の安定供給に尽力している。

(注)政府は国内砂糖価格の適正化を図るため、1991年から一定量の砂糖を備蓄用として買い付けるとともに市場へ放出する砂糖備蓄制度を開始した。詳細は、「砂糖類情報」2006年8月号「中国の砂糖産業の概要〜国内の需給ギャップと闘う中国政府〜」(https://sugar.alic.go.jp/japan/fromalic/fa_0608a.htm)を参照されたい。

表4 中国の砂糖需給の推移

(参考)中国の砂糖(粗糖・精製糖別)の輸入量および輸入単価の推移

EU

2019/20年度、輸出量は大幅に減少する見込み  
 2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は161万ヘクタール(前年度比5.7%減)とやや減少すると見込まれる(表5)。てん菜生産量は、深刻な干ばつに見舞われた前年度からの反動で1億1455万トン(同2.8%増)とわずかに増加すると見込まれる。  

 前年ほどではないものの平年より高温・乾燥した状況が続いた、EU最大の砂糖生産国フランスにおけるてん菜生産の落ち込みが響き、砂糖生産量は1789万トン(同2.3%減)とわずかに減少すると見込まれる。生産量が消費量を下回ると予想されることから、輸出量は110万トン(同42.5%減)と大幅に減少すると見込まれる。

フランスのバイオエタノール需要、2020年も引き続き増加する見込み  
 フランスでは、てん菜や穀物からバイオエタノールが製造されており、ガソリンにバイオエタノールが10%混合されたSP95-E10やバイオエタノールが85%混合されたE-85などが流通している(注)。フランスアルコ―ル製造業者協会(SNPAA)によると、同国における2019年のバイオエタノールの売り上げは、税の優遇措置やバイオエタノールの購入が可能なガソリンスタンドの増加、ディーゼルの需要低下などを背景に過去最高となり、その消費量は11億3000万リットル〜11億5000万リットルと予測されている。SNPAAは、2020年のバイオエタノール需要は前年から1億3000万リットル増加し、うちE-85の消費量は、ガソリンスタンドへの普及が進むことで前年比50%増と見込んでいる。製糖工場では砂糖とバイオエタノールの生産割合を容易に調節できることから、2020年はより多くのてん菜がバイオエタノール製造に仕向けられる可能性がある。

(注)現在SP95-E10を給油できる国内のガソリンスタンドは、約2店に1店の割合まで拡大している。一方、E-85は2019年の消費量が前年比85%増の3億4000万リットルに達したものの、燃料市場のシェアは全体の約3%にとどまる。

表5 EUの砂糖需給の推移

(参考)EUの主要国別砂糖生産見通しおよび生産割合(2019年12月時点)

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