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岐路に立つ喜界島のサトウキビ生産

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最終更新日:2020年4月10日

岐路に立つ喜界島のサトウキビ生産
〜効率的・安定的な生産に向けた取り組みと課題〜

2020年4月

鹿児島事務所 (ごう)() 祐里(ゆり)

【要約】

 喜界島のサトウキビ生産量は、株出し面積の拡大や収量の低下によって低迷している。機械の共同購入や規模拡大と収量の維持を両立させることで、効率的・安定的な生産を実現している事例がある一方で、島全体を見ると、生産者の高齢化などによる土づくりや管理作業の不足、圃場の分散など課題は山積しており、関係者が一体となった対策が求められる。

1.喜界島の気候と地勢

 喜界島は鹿児島県奄美大島の北東26キロメートルの洋上に位置し、その大半が隆起サンゴ礁からなる平坦な島である(図1)。気候は年平均気温22.1度、年間降水量約1851ミリメートルの亜熱帯海洋性で、降水量の約半分が台風と梅雨期に集中するが、冬から春にかけても低気圧や前線の影響で雨の日が多く、四季を通じて温暖多湿である。

 同島の地形的特徴として、不透水性の島尻層群を基盤に、上層をサンゴ礁由来の琉球石灰岩が覆っているが、この琉球石灰岩は多孔質で透水性が高いため、降水は土壌にとどまりにくく、速やかに地下へ浸透してしまう。また、夏季の降水量のほとんどが台風からもたらされることから、台風の接近が少ない年には干ばつが起こりやすかった。

 そこで、平成4〜15年にかけて、国内では2例目となる大規模な地下ダムが建設され、恒常的な水不足の解決が図られることとなった(図2)。地下ダムとは、下層の島尻層群と地中に造られたコンクリートの壁(止水壁)を用いて、琉球石灰岩中に水を貯留させる水源開発技術である。地下ダムの建設と併せて、()(じょう)や畑地かんがいの整備が進められた結果、喜界島の農業インフラの整備率は奄美群島内で最も高くなっており、干ばつ時期(7〜9月)には地下ダムの水を利用したかん水が農作物の生育促進に役立てられている。
 

 

 

2.喜界島における農業の位置付け

 一島一町の喜界町では、38の集落を単位とした地域コミュニティが形成されている。人口は平成30年10月現在6839人(鹿児島県推計)で、直近の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)および人口減少率は、群島内で最も大きくなっている(表1)。また、出生数の減少や進学・就職に伴う島外への転出によって、65歳未満の人口は過去35年間で半減しており、将来的な社会基盤の維持が喫緊の課題となっている。


 

 次に、農業について見ると、町全体の約2割の世帯が農業を営んでおり、販売のあった経営体のうち農産物販売金額の8割以上がサトウキビやゴマなどの工芸農作物のみで構成される経営体は全体の約8割を占め、他の島と比べ際立って高い(表2)。また、作目別の作付面積および農業産出額では、サトウキビがそれぞれ全体の82%および62%を占めることからも、とりわけサトウキビ生産が島の経済を支える重要な役割を担っていることが分かる(図3)。

 こうした中で、27年には基幹的農業従事者の過半が65歳以上となっており、島全体の人口減少率ほどではないものの、その従事者数も減少傾向にある。さらに、同居する後継者がいる農家数は、相対的に農業への依存度が低い奄美大島に次いで、群島内では2番目に少ないことが読み取れる。これらのことから、喜界島の社会基盤を維持するためには、農業の振興が欠かせないといえるだろう。

 

 

3.喜界島のサトウキビ生産

 喜界島のサトウキビ生産の変遷をたどると、平成初めごろまでは、夏植え(秋植え含む。以下同じ)・春植え・株出しの三つの栽培型のうち、株出し栽培が主流であった。この時期は、手刈りや小型脱葉機による収穫を行っており、株出し栽培でも10アール当たり7トン近い収量に達していた。しかしながら、その後、当時の主力品種であり、株出し多収性を長所としていたNCo310に、黒穂病などの病害がまん延するようになる。そこで、黒穂病に強いNiF8などが鹿児島県の奨励品種に採用されたものの、NCo310よりも株出し(ほう)()性が劣っていたことから、NiF8の普及とともに株出し栽培は衰退し始めた。

 この株出し栽培の衰退とともに、喜界島では夏植え栽培への移行が進み、平成18年ごろまで続く夏植え一作時代が幕を開ける(図4−1、4−2)。このとき夏植え栽培に特化した生産者が増えたことで、元年から18年にかけて、夏植えの収穫面積は全体の3割から6割にまで増加することとなった。しかし、株出し面積の減少が夏植え面積の増加を上回り、収穫面積が減少を続けた結果、平均収量こそは10アール当たり約7トンを維持していたものの、生産量の減少には歯止めがかからなかった。





 19年ごろから、収穫面積および生産量の減少に対する危機感などを受けて、植え付けの必要がなく萌芽から1年間で収穫できる株出し栽培復活への機運が高まり、株出し栽培体系の確立に向けた官民の取り組みが始まる。時を同じくして、特に株出し栽培における不萌芽の原因となっていたハリガネムシに有効な薬剤が登場し、株出し多収を長所としたNi22やNi23が奨励品種に採用されたことも影響し、19年から30年にかけて、株出し収穫面積は全体の4割から7割に増加した。その結果、収穫面積は平成初期並みの1400ヘクタール近くまで回復を果たしている。

 一方、19年産以降の生産量については、年によって変動があるものの、収穫面積のような回復基調は見られず、収量とともに低迷している。その要因として、気候変動を含む複合的なものが考えられるが、以下に主なものを挙げる。

(1)株出し面積の増加
 夏植え栽培は生育期間が約1年半と長い分、他の栽培型よりも収量が高いが、夏植えに代わって株出しが主流になったため、収穫面積ほどには生産量が伸びなかった。また、近年は株出しを通常(1〜2回)よりも多く行う多回株出しの割合が、株出し面積の2割近くまで上昇しており、さらなる収量の低下が懸念されている。

(2)機械化の進展
 6年ごろにハーベスタが導入されて以降、ハーベスタ収穫率(面積比)は19年産で68%、30年産で96%に達した。冬から春にかけて比較的雨が多い喜界島では、ハーベスタ収穫による土壌の踏圧や株の引き抜きが起きやすいため、収量低下を招いたと考えられる。また、ハーベスタの走行に適した畝幅や枕地を確保するなど、機械化を前提とした作業体系の整備が進んだことの影響も否定できない。

(3)生産者の高齢化、1戸当たりの面積増加に伴う負担増大
 喜界島のサトウキビ生産者の高齢化率(注1)は、30年産で52.8%と10年前に比べて約14ポイント増加している。また、収穫面積が回復した一方で、生産者数が減少を続けた結果、30年産の1戸当たりの収穫面積は238アールと30年前と比べ約2倍に拡大し、鹿児島県下で最大となった(図5)。それに伴い1戸当たりの作業負担が増大したことで、土づくりや病害虫防除、肥培管理に費やす時間が減ったほか、適期の作業が難しくなっていると考えられる。

 このような複数の要因が重なって、19年産以降の平均収量は10アール当たり約6トンとなり、30年産では平成以降初めて、喜界島の平均収量が鹿児島県の平均を下回った。高齢化と生産者数の減少に歯止めがかからない中で、生産量を回復し、維持していくための取り組みは一刻を争っており、喜界島のサトウキビ生産は、岐路に立たされている。

 (注1)甘味資源作物交付金の交付決定を受けた生産者(法人を除く)のうち、65歳以上の割合。

 

4.課題克服に向けた生産者の取り組み

 喜界島のサトウキビ生産は厳しい局面にあるものの、個別の事例では、機械の共同購入によってコストの削減と作業の省力化を図っている生産者や、規模拡大と高収量を両立している生産者も存在している。以下にその事例を紹介する。

(1)城久集落受委託部会の事例

ア 組織の概要

 城久(ぐすく)集落受委託部会は、喜界島のほぼ中央南西部に位置する城久集落のサトウキビ生産者らで構成される任意組織である。本誌では平成25年に、担い手生産者が集落内の高齢生産者を支援しながら共同で作業を行う集落営農(注2)の取り組みとして、同部会を取り上げた。

 前回調査において同部会は、“できるところから集落営農に”をスローガンに、特に高齢の生産者にとって重労働となる夏場の採苗、調苗、定植に関する受託作業を行っていた。また、高齢生産者にも可能な限り作業に参加してもらい、対価として賃金を支払うことで、実質的な受託料金の減額を図っていた。

 (注2)「集落」を単位として農業生産過程における一部または全部についての共同化・統一化に関する合意の下に実施される営農を言う。

イ 効率的な生産のための取り組み

 城久集落における平成30年産のサトウキビ生産の概要は表3に示す通りで、生産者数と収穫面積は前回調査した24年産からほぼ変わっていないが、株出し面積の割合が15ポイント以上増加している。また、前回調査との相違点として、同部会役員の(げん)()幸一さんによると、高齢生産者の経営規模縮小によって休耕が見込まれた農地を集落内の担い手生産者5戸が引き受けたことで、集落全体の約7割に相当する農地がこれらの担い手生産者に集積された。



 

 このように株出し面積の増加と担い手生産者への農地集積に伴い、夏植えにおける集落ぐるみの活動の必要性が低下した結果、集落営農の取り組みとしては、現在約30アールの植え付け作業を部会で受託し、委託生産者と共同で作業する程度となった。

 一方、前述の担い手生産者たちが25年に国の補助事業を活用し、共同で導入したブームスプレイヤーは、コストの削減と防除作業の省力化に大いに貢献している(写真1)。
 


 まず、導入経費としてのリース料の支払いは5戸で均等に、修繕費については面積割で負担することで、単独で導入した場合と比べて、農機具費の低減につなげている。また、従来の動力噴霧機よりも薬剤を均等に散布することができるため、散布のムラがなくなり、結果的に薬剤の使用量を抑えることにもなった。農業経営統計調査によると、農機具費と薬剤費は、サトウキビ生産費の物財費のうち上位3、4位を占めている(注3)ことから、削減の効果はより大きいものと考えられる。

 加えて、作業効率では、これまで防除作業に10アール当たり2〜3時間を要していたのに対し、導入後は同15分程度の作業となり、労働時間の大幅な短縮にもつながった。

 源久さんによると、ブームスプレイヤーによる防除作業面積は、前述した担い手生産者の面積と部会が受託した面積を合わせて、集落内の栽培面積の約5割に達しており、作業時期の競合が少ないことや機械の性能を踏まえれば、作業能力にはまだ余力があるそうだ。

 (注3)農林水産省「農業経営統計調査 平成30年産さとうきび生産費」(第1報)による。

ウ まとめ

 城久集落受委託部会では、集落内の担い手生産者へ農地の集積が進んだ結果、集落内で共同作業を行う集落営農の取り組みとしては一定の役割を終えたといえる。しかしながら、高性能・省力的な機械を複数の生産者で共同購入することができた要因の一つに、部会という生産者同士の話し合いの素地があったことは間違いないだろう。本事例のように、小・中規模の生産者が集まって、機械の共同購入や共同利用を行うことは、生産者の所得向上を図る上で有効な手段だと考える。

(2)小田満義さんの事例

ア 経営の概要

 小田満義さんは、喜界島の北東部に位置する()()()(まえ)(がね)())集落で、約13ヘクタールのサトウキビを栽培する認定農業者である(写真2)。小田さんは、“サトウキビで生計を立てていく”ことを目標に集落内で積極的に規模拡大し、収穫面積を10年前と比べて3倍近くまで拡大させた。また、経営の特徴として、サトウキビの収穫後にゴマを栽培し、ゴマの収穫後に再びサトウキビの秋植えをする輪作を行っている。喜界島は日本一のゴマの産地であり、その中でも小田さんの収穫面積は180アール、生産量は約1トンと、島内屈指の生産量を誇っている。

 サトウキビの機械については、小型ハーベスタや全茎式プランタ、ブームスプレイヤーなどを一式取り(そろ)えており、本人と親族2人の計3人で植え付けから収穫までのすべての作業を行っている。また、あと3年ほどでめいの息子がUターンし、後継者として就農する予定である。

 


 
イ 収量維持のための取り組み

 平成30年産の収穫面積は1094アールで、栽培型ごとの内訳は秋植え18%、春植え3%、株出し79%となっている。また、原則として株出しを3回まで行う多回株出しを実施しているが、収量はすべての栽培型において、ほぼ毎年喜界島の平均を大きく上回っている(図6)。

 

 
 このように高い収量を維持する()(けつ)として、小田さんは「管理作業が第一」と語る。具体的には、まず新植をする前に、秋植えで9〜10回、春植えで4〜5回の耕うんを必ず実施している。耕うんの推奨回数は6回とされるが、暑い時期の作業を敬遠したり、収穫期の繁忙で手が回らなかったりして、喜界島では2回程度の実施が一般的である。小田さんの圃場では、多めの耕うんによって土壌中の害虫が死滅・減少することで、その後の作物の生育に良い効果をもたらしている。

 第二に、圃場では、サトウキビの収穫残さ(葉など)のすき込みと中耕による除草を徹底している。春植えでは、収穫後すぐに収穫残さをすき込んで土づくりを行ったあと、植え付け時に基肥を10アール当たり200キログラムと多めに施用し、その後追肥をせずに雑草の生長を見ながら中耕する。株出しでは、収穫後すぐに株(ぞろ)えを行ったあと、中耕と一緒に収穫残さをすき込んでいる。小田さんの圃場では収量が高い分、収穫残さの量も多いため、土壌へ還元される有機物もより多くなるという好循環が生まれている。

 加えて、収穫作業などの受託を行っておらず、自らの圃場の管理に注力できるため、少ない労働力ながらも、適期の肥培管理の実施が可能となっている。このことも、収量に対してプラスの要因になっていると考えられる。

ウ まとめ

 小田さんは基本的な管理作業の徹底によって、新植時の株数と茎数を多く保つことで、欠株の補植を行っていないにもかかわらず、その後の株出しでも高い収量を維持している。農業経営統計調査における規模別の農業所得(注4)に鑑みるに、収量と経営規模の両方において、小田さんはサトウキビで生計を立てられるだけの十分な所得を確保しているといえるだろう。また、サトウキビとゴマの輪作によって、他に収入の機会が限られる夏から秋にかけての収入源を確保していることも経営の強みであり、この強固な経営基盤が後継者の存在につながっていると考えられる。

 (注4)農林水産省「農業経営統計調査 平成29年産さとうきび生産費」における10アール当たりの農業所得を1経営体当たりに換算すると、作付面積5ヘクタール以上の経営体の農業所得は約405万円となっている(10アール当たりの平均収量は5787キログラム)。

5.課題克服に向けた行政などの関係者の取り組み

 前節では生産者による効率的・安定的な生産のための取り組みを紹介したが、喜界島の生産者の約5割は栽培面積が150アール未満の者(注5)であり、全体の生産量を底上げするためには、行政を含めた関係者による団結した取り組みが不可欠である。以下で、その現状を紹介するとともに課題を整理する。

 (注5)鹿児島県「平成30年産さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」による。

(1)第2地下ダム建設と高付加価値型農業の推進

 喜界島では、耕地面積の約75%を受益地とする地下ダム(第1地下ダム)に続き、第2地下ダムの建設に向けて動きだしている。すでに事業実施の前段階である全体実施設計(工事計画の設計や事業費の算定など)が着手されており、完成には十数年を要する見込みだが、これまで受益地外であったサトウキビ生産者がその恩恵を受けることが期待される。

 一方で、喜界町は地下ダムの水を利用した高付加価値型農業を推進しており、これまで栽培に不向きであったカボチャやブロッコリーなど収益性の高い露地野菜や、畜産業における飼料作物の生産拡大に力を入れている(図7)。
 


 

 まず、()(ざかい)()に本土へ出荷できるこれらの野菜は、競合産地が少なく比較的高値で取引されることや、施設野菜ほどの初期投資が必要ないことから、近年順調に栽培面積を増やしている。また、喜界町によると、直近3年間における45歳以下の新規就農者数を営農類型別に見ると、サトウキビが1人に対し、野菜が6人であることからも、野菜の好調ぶりがうかがえる。

 次に、畜産については、全国的な担い手不足の中で、喜界町の担い手生産者数はここ数年間維持しており、繁殖雌牛の飼養頭数は微増傾向にある。喜界町はさらなる生産基盤強化に向けて、国の事業を活用した飼料作物の作付面積拡大と地下ダムの水を使った安定的な生産を図っており、10年後には現在の作付面積の1.6倍に相当する400ヘクタールの確保を目指している。

 野菜と飼料作物の生産はともに、サトウキビの作付けと競合する関係にあり、将来的にはサトウキビの収穫面積が減少する可能性も否定できない。しかしながら、一部の事例を除き、サトウキビ生産だけで生計を立てることが難しい中、サトウキビに野菜や畜産などを組み合わせた複合経営を模索する段階にきているといえる。

(2)土壌改良資材の供給と堆肥センター

 喜界島の土壌の多くは隆起サンゴ礁が風化してできた暗赤色土であり、粘着性が強く腐植に乏しいため、有機物などの施用が重要とされている。しかし、堆肥や土壌改良資材の施用は、10年前と比較すると増加しているものの、その割合は新植の栽培面積の1割にも満たない(表4)。
 

 
 喜界島の堆肥や土壌改良資材の供給は、そのほとんどが公益財団法人喜界農業開発組合(以下「喜界農業開発組合」という)によって行われている。同組合は、喜界町、あまみ農業協同組合、有限会社喜界運送および生和糖業株式会社の4者が出資する第3セクターで、収穫作業や管理作業の受託業務に加えて、平成24年から土壌改良資材の供給事業を開始した(表5)。




 
 土壌改良資材の原料は、精脱葉処理施設から排出される収穫残さと製糖工場の副産物として発生するフィルターケーキやバガス焼却灰であり、すべてサトウキビ由来のものである。年間約3600トンが製造され、生産者に販売されており、最近は野菜生産者からの注文が増えているようだ。

 土壌改良資材の供給における課題をいくつか挙げると、まず一つ目に、製造量が前年産のサトウキビ生産量に左右されるため、年々高まる需要に応えきれなくなっており、半年前から予約しなければ購入できないほどになっている。二つ目に、専用の製造施設を有しておらず、製糖工場横の空き地で造られているため、石などの混入による機械の故障が頻発している(写真3)。三つ目に、特殊肥料に指定されておらず堆肥として販売できないため、品質や作物への効果を宣伝できないことが普及の障害になっている。

 これらの課題を解決すべく、喜界町では島内の畜産農家から発生する家畜排せつ物とサトウキビ由来の原料などを利用した堆肥センターの設立を計画している。設立後は、喜界農業開発組合による土壌改良資材の供給事業は同センターに一本化される予定で、「鹿児島県さとうきび増産計画(平成28〜37年度)」によると、サトウキビ圃場への年間目標投入量は3000トンとなっている。現在、町では家畜排せつ物の回収方法や費用負担に加えて、家畜排せつ物とサトウキビ由来の原料だけではなお不足する原料をどのように補うか、などについて検討が進められているところだ。

 喜界農業開発組合の土壌改良資材を使用するサトウキビ生産者からの評判は、根の張りが良くなるなど良好であり、堆肥センター設立による一層の利用促進が期待される。一方で、農業経営統計調査によると、肥料費は物財費の約2割を占める費用である(注6)ことから、普及に当たっては、購入助成などによる生産者の負担軽減と併せて、喜界島に合った適切な施用量の目安や栽培指針を定めることが望まれる。

 (注6)農林水産省「農業経営統計調査 平成30年産さとうきび生産費」(第1報)による。

 

(3)農地の集積・集約と受委託の効率化

 喜界島では農地中間管理機構を通じた農地の売買・貸借を推進しており、喜界町農業委員会によると、平成30年における耕作放棄地は約1.4ヘクタールにとどまっている。一方で、近年は農地の所有者が亡くなった後に登記の変更がされないまま、相続人が増加して権利関係が複雑化するなど、相続未登記農地(注7)の問題が顕在化してきており、農地の少なくとも3〜4割が相続未登記またはその恐れのある状態とされている。

 30年の農業経営基盤強化促進法の改正によって農地の貸借を行う際に必要な相続人の探索範囲が簡素化されたことを受け、31年1月には喜界町が全国に先立って、相続未登記農地の貸借手続を実施した。こうした行政の後押しもあり、担い手生産者への農地の集積は少しずつ進んでいるが、依然として農地の貸借は地縁・血縁を基に行われることが多く、圃場が分散していることが課題となっている。

 また、喜界島の農地は基盤整備によって平均30アールの区画に整えられているが、1区画を複数の生産者で細切れに分割して所有することも多く、1筆当たりのサトウキビの栽培面積は群島内で2番目に小さい(注8)。喜界島ではハーベスタの年間実稼動時間が300から700時間までと、圃場の条件によってかなり幅があることが指摘されており、サトウキビの受託組織についても、こうした土地の制約を強く受けていると推察される。

 特に、島で唯一管理作業の受託も行っている喜界農業開発組合は、公益法人であるがゆえに島内全域を受託範囲としており、圃場内での作業時間よりも圃場間の移動時間の方が長いことも少なくない。そこで現在、喜界町と喜界農業開発組合は、受託した遠方での管理作業をその近隣の担い手生産者に再委託することを検討しており、将来的には、同組合が各受託組織や担い手生産者を取りまとめる一元的な受委託体制の構築も視野に入れているそうだ。

 農地の集積・集約と受委託の効率化は急務であり、行政などが中心となって、生産者や受託組織との調整を進めていく必要がある。

 (注7)相続が発生しても、登記名義人が変更されず、権利関係が不明確となっている農地をいう。農業経営基盤強化促進法改正前は、農地を貸す際に共有者(相続人)の過半の同意を得る必要があったため、相続人の探索が課題となっていた。

 (注8)鹿児島県「平成30年産さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」による。

6.おわりに

 喜界島のサトウキビ生産は、1戸当たりの収穫面積が鹿児島県下で最大であり、数字上は最も効率的な生産が行われているように見受けられる。しかしながら、生産者の高齢化などによる土づくりや管理作業の不足、圃場の分散など、課題は多岐にわたっており、生産者による個々の取り組みだけでは、生産量の低迷から脱することは困難な状況にある。

 とりわけ高齢化の問題は深刻で、筆者の推計によると、10年後のサトウキビ生産者の高齢化率は70%前後まで上昇し、生産者数が減少し続けた結果、1戸当たりの収穫面積は約380アールまで拡大することが予想される(注9)。このままでは、生産者のさらなる作業負担の増大は避けられないだろう。

 サトウキビ生産の振興は、島の農業、ひいては社会基盤の維持にかかわる問題であり、行政には総合的な展望を示すことが求められると同時に、行政による旗振りのもと、生産者とJA、糖業などの関係者が方向性を一にして取り組む必要がある。

 (注9)甘味資源作物交付金の交付決定実績を基に、平成25年産から30年産における年齢階層ごとの人口変化率が今後も続くと仮定して、令和10年産の年齢階層ごとの人口を筆者推計。また、1戸当たりの収穫面積は、平成30年産の収穫面積が維持されると仮定し、令和10年産の推計人口で除して算出。

 最後に本稿の執筆に当たり、ご多用にもかかわらず取材にご協力いただきました城久集落受委託部会の源久幸一さま、小田満義さま、公益財団法人喜界農業開発組合の星野久夫さま、喜界町農業振興課の皆さま、そして本稿の構想から現地との調整に至るまで、多大なご助力をいただきました生和糖業株式会社の皆さまに、この場を借りて深くお礼申し上げます。

(参考文献)

1)生和糖業株式会社(2009)『生和糖業株式会社創立50周年記念誌』50周年記念事業・推進委員会
2)小牧有三(2011)「鹿児島県におけるさとうきびの主な品種と課題」『特産種苗』(第12号)財団法人日本特産農作物種苗協会
3)渡邊陽介(2013)「城久(ぐすく)集落受委託部会における集落営農の取り組み(鹿児島県喜界町)」『砂糖類・でん粉情報』(2013年11月号)独立行政法人農畜産業振興機構
4)『全国農業新聞』2019年5月17日「改正基盤法の活用第1号が誕生 所有者不明農地の活用 鹿児島・喜界町農業委員会」〈https://www.nca.or.jp/shinbun/pushing/4680/〉(2020/2/13アクセス)
5)宮部芳照(2016)「喜界島におけるさとうきび機械化の現状と課題」『砂糖類・でん粉情報』(2016年7月号)独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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