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与論島におけるさとうきび機械化の現状と課題

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最終更新日:2020年5月11日

与論島におけるさとうきび機械化の現状と課題
〜さとうきびを中心にした耕畜連携によるスマート農業化に向けて〜(前編)

2020年5月

元鹿児島大学農学部教授 宮部 芳照

【要約】

  ()(ろん)島の農業形態はさとうきびを中心に肉用牛、野菜、花きを組み合わせた複合経営が行われており、耕種、畜産部門ともに小規模農家が多い。近年、さとうきびの生産量は減少傾向にあり、ハーベスタ収穫率は県内最低である。機械化の遅れは()(じょう)区画の(きょう)(あい)さに大きく起因している。今後は、担い手への農地集積・集約化、作付面積の拡大、集落営農組織の育成、受託組織の確立、干ばつ対策、土づくり、適期管理の徹底などが不可欠である。また、畜産部門では、飼育・繁殖管理作業の省力化および肉用牛増頭に伴う自給粗飼料の生産拡大を図る機械化体系の確立が必要である。スマート農業化は、耕畜連携による地域農業の構築のために是非必要であり、高精度な省力化技術の導入と作業体系の確立について検討した。

はじめに

 令和元年度に与論島(鹿児島県大島郡与論町)におけるさとうきび機械化の現状と課題を把握するために現地調査を実施した。調査方法は、現地調査を行う前に、「さとうきび栽培の機械化に関するアンケート調査票」を与論町産業振興課を通じて、各地区11カ所に事前配布し、そのアンケート結果を基に調査を行った。調査先は、個人農家(6カ所)、あまみ農業協同組合、与論町和牛改良組合、与論町糖業振興会、与論島製糖株式会社、与論町堆肥センターである。

1.与論島の農業

 与論島は鹿児島県最南端(鹿児島市から約590キロメートル)にあり、人口5186人(平成27年国勢調査)の隆起サンゴ礁からなる周囲約24キロメートルの島で、平坦な土地が多いが、島の東側は傾斜地が点在している。年平均気温は23.0度、年間降水量1760ミリメートルの亜熱帯性気候で観光業と農業振興を目指している島である。土地利用状況は総面積20.58平方キロメートルのうち、畑53.1%、田4.5%、宅地7.6%、原野・公共・その他34.8%であり、島の5割強が農耕地である。
農業はさとうきびを中心に肉用牛、主に島外に輸送される野菜(サトイモ、インゲン、ニガウリ)、花きなどを組み合わせた複合的経営を行っている。農業人口は1837人、農家戸数723戸、販売農家89%、うち専業農家40%、第一種兼業農家11%、第二種兼業農家38%である。また、耕地面積は約1100ヘクタールで、1戸当たり0.3〜1.0ヘクタール規模の農家が最も多く全体の約42%を占めており、認定農業者は105人である(平成31年度与論町産業振興課資料)。

 町内総生産額138億4100万円のうち農業関係は10億2700万円(7.4%)であり、町民1人当たりの所得(185万5000円)は大島郡内の平均より低く、鹿児島県民平均の約77%の所得である(平成27年度市町村民所得推計報告書)。
さとうきび関係の統計資料を図1〜6と表1〜2に、また耕畜連携を進める上で一つの参考になる畜産、花き、野菜、果樹関係の資料を図7〜13、主要作目の販売実績を表3に示す。

 近年、さとうきび生産量は、図1に示す通り上昇傾向にあったが、29年産は干ばつや台風被害により前年比27.1%減と大きく落ち込み、30年産では約2万4400トンとやや持ち直したものの、同2.8%増と微増にとどまっている。生産額も同様な傾向を示し、30年産で約5億2100万円である。

 図2にさとうきび栽培農家戸数と収穫面積の推移を示したが、農家戸数および収穫面積ともに減少傾向に歯止めがかからず、30年産で農家戸数613戸(同3.6%減)、収穫面積411ヘクタール(同3.3%減)である。栽培規模別では収穫面積が10〜50アールの農家が最も多く、約40%を占め、小規模農家が多い。また、1戸当たりの収穫面積と生産量は図3に示した通り横ばいであり、30年産で1戸当たりの収穫面積67アール、生産量39.8トンである。また、1筆当たりの圃場面積は11.1アールで小区画圃場が多く、全筆数は3865であり、いかに狭隘な圃場が多数存在しているかが分かる。

 図4に10アール当たり収量の推移を示したが、28年産で7.7トンを記録したものの、29年産は深刻な干ばつによって5.6トン(同27.5%減)まで低下し、30年産も5.9トンにとどまっている。

 

 

 

 

 

 表1に30年産実績のさとうきび栽培農家戸数、収穫面積、生産額および10アール当たり収量などを示しておく。

 

 図5にさとうきびの品種別収穫面積の構成比を示したが、農林23号(Ni23)が18年に鹿児島県奨励品種に採用されて以来急速に普及し、30年産では65.0%(県全体では18.5%)が作付けられている。本品種は発芽、萌芽、茎伸長に優れ、春・夏植え、株出しともに原料茎重が重く、高糖性である。また、強風による折損や黒穂病には弱いが、特に耐干性に優れている点で与論島に適した品種である。

 図6に栽培型別作付面積の構成比を示したが、30年産の与論島の株出し面積は80.5%、春植え13.1%、夏植え6.4%の割合であり、県内で最も株出し面積割合が高い地域である(県全体では72.0%)。また、表2に株出し回数別作付け面積の構成比を示したが、株出し3、4回以上が最も多く、それぞれ26.6%(県全体では株出し3回16.6%、4回以上6.1%)を占め株出し回数も多い。株出し面積割合の増加は収穫時期と株出し管理作業の競合による単収減につながっている。
 

 

 

 

 次に、さとうきびを中心にした耕畜連携による地域農業についての考察を進める上での資料として、肉用牛飼養農家戸数、飼養頭数の推移を図7、肉用牛生産量(出荷頭数)と生産額(販売額)の推移を図8に示しておく。経営形態は繁殖牛経営であり、生産された子牛は鹿児島県本土などの肥育農家へ出荷される。飼養頭数は子牛価格の堅調な伸びもあって25年度以来上昇傾向にあり、30年度には5400頭を超えるまでに増頭している。一方で、飼養農家戸数は20年度以来減少傾向を示し、30年度は277戸(20年度比18.5%減)であり、多頭飼育化や専業化が進んでいることがうかがえる。経営主の年齢構成を見ると、総飼養農家(277戸)の中で50〜59歳が最も多く、全体の約26%を占めており、働き盛りの経営主が多い。また、後継者については約半数が存在している。飼養頭数規模を子取り用雌牛飼養頭数で見ると、10〜19頭飼養が全体の約31%で最も多い。50〜100頭農家も6戸存在する(31年度、与論町産業振興課資料より筆者算出)。また、生産量、生産額は23年度以来ともに上昇傾向にあり、7年間で生産量は約1.2倍、生産額は約2.3倍の値を示している。子牛価格は近年の全国的な子牛不足などにより高値で取引されている。

 以上のように、近年の畜産部門の生産推移はさとうきび生産の低迷に比べて顕著な伸びを見せていることが分かる。
 

 

 

 続いて、図9、図10に野菜生産の推移を示す。秋から春にかけてサトイモ、サヤインゲン、ニガウリなどが生産され、JA共販出荷が行われている。近年、農家戸数と栽培面積はやや減少傾向を示し、30年度のサトイモとサヤインゲン栽培を合わせた農家戸数は282戸、栽培面積50ヘクタールであるが、生産額は過去10年間の平均3億4000万円台で推移している。また、安心・安全な野菜生産を目指す「かごしまの農林水産物認証(K−GAP)」の取得も進められている。
 

 

 

 続いて、図11、図12に花き生産の推移を示す。秋から春を中心にソリダゴ、トルコギキョウ、スプレーギク、ユリなどが生産されている。農家戸数、栽培面積は22年度以来、それぞれ12〜34戸、2.1〜4.2ヘクタールで少ないが(平成30年度は12戸、2.8ヘクタール)、単収益の高い品目である。また、26年度以来、JA共販出荷が減少傾向にあるが、ソリダゴを中心に個人出荷が増加しているため、生産量はほぼ横ばいである(約70万〜90万本)。

 

 

 図13に果樹生産の推移を示す。マンゴー、アテモヤ、ドラゴンフルーツを中心にした熱帯果樹の栽培が盛んである。25年度は相次いだ大型台風の来襲で大きな被害を受けて生産額(JA共販)は31万3000円で大幅な減収となった。その後、27年度の生産額は18万6000円である。その中で、マンゴーは全国的に認知度が上昇しているが、出荷は島内外への個人直販が中心である。

  表3に主要作目の販売実績(30/31年期のJA共販)を示す。さとうきびと他作目の出荷額を比較すると、さとうきび5億2090万円に対して肉用牛(子牛、成牛)18億9460万円、野菜(サトイモ、サヤインゲン、ニガウリ)3億4150万円、花き(ソリダゴ、トルコギキョウ)4910万円である。さとうきびの出荷額に対して肉用牛は約3.6倍と高く、野菜約0.7倍、花き約0.1倍である。また、10アール当たりの出荷額では花きが高く、さとうきびの約21倍(ソリダゴとトルコギキョウの平均は同263万円)である。

 

 

 以上、主要作目について、それぞれの生産推移を見てきたが、図14にこれらの作目をまとめた農畜産物生産額(20〜30年度JA共販実績)の推移を示しておく。与論町の主要農畜産物の生産額は23年度以来上昇しており、30年度は約28億円(22年度比51%増)である。中でも畜産部門の生産額の上昇が著しく、30年度は約18億7000万円(同149%増)で全生産額の67%を占めている。一方、さとうきびの生産額は減少傾向にあり、30年度は約5億2000万円(同18%減)で全体の約19%に過ぎない。また、野菜、花き、果樹の生産額は20年度以来やや減少か横ばい傾向であり、30年度でそれぞれ全体の12%、2%、0.3%を占めている(以上、いずれもJA共販実績による)。

 次に、主要作目の作付面積の推移を図15に示す。飼料畑を含めた作付面積は20年度以来約880ヘクタール前後でほぼ横ばいである。その中でも飼料畑が増加しており、30年度は397ヘクタール(22年度比23%増)で全体の約46%を占めている。これはさとうきびの作付面積411ヘクタール(同17%減、全体の約48%)とほぼ同程度の面積までになっている。また、野菜、花きの面積は20年度以来ほぼ横ばいであり、30年度でそれぞれ全体の6%、0.2%である。

 以上のように、さとうきび作より畜産の方が家族で兼業しやすく、規模拡大も有利と考えるさとうきび農家が畜産分野にかじを切るケースがあることをデータから読み取ることができる。

 

 

2.機械化の現状

 次に、さとうきび生産を中心に耕畜連携の推進に向けて、与論島農業の機械化の現状を見ることにする。

(1)耕種部門の機械化の現状

ア.さとうきび栽培について

 耕種農業で最も重要な土づくりでは、新植圃場74ヘクタール(春植え54ヘクタール、夏・秋植え20ヘクタール)の全圃場で深耕作業が実施されているが、堆肥、緑肥の投入や土壌改良資材の散布はほとんど行われていないのが現状である。

 さとうきび栽培関係の機械稼働状況(平成30/令和元年期)を表4に示したが、植え付けから中間管理、収穫作業に至るまで、特に小区画圃場用として小型機械類の導入が多いことが分かる。

 管理作業では、夏・秋植え(26ヘクタール)と新植夏・秋植え+春植え(74ヘクタール)の全圃場(100ヘクタール)で培土作業が実施されている。しかし株出し圃場(331ヘクタール)では、株(ぞろ)え作業が約6%(20ヘクタール)、中耕・除草作業が約45%(150ヘクタール)の圃場で実施されているに過ぎない。根切り・排土や堆肥施用作業はほとんど行われていない。

  病害虫防除作業では、収穫面積(411ヘクタール)の全域でコバネナガカメムシ、メイチュウ類、()()の発生がほぼ認められている。しかしコバネナガカメムシ類の被害は顕著でない。また、野鼠防除作業が38ヘクタールで実施されている。

 収穫作業では、小型ハーベスタ(原動機の連続定格出力が100馬力未満)14台が全収穫面積の72.3%(297ヘクタール)を収穫しており、残り27.7%(114ヘクタール)を人力で刈り取っている。また、脱葉作業では、ハーベスタによる脱葉以外に小型脱葉搬出機(2台)で3ヘクタール、ベビー脱葉機(12台)で12ヘクタール(それぞれ人力による収穫面積の2.6%と10.5%)が脱葉され、残り86.9%(99ヘクタール)が人力による脱葉作業である。このように、栽培面積50アール程度の小規模農家では、依然として簡易なベビー脱葉機や小型脱葉搬出機が好まれて使われており、収穫作業の多くを人力と小型機械類に頼っているのが現状である。写真1、2は島内で活躍するベビー脱葉機とその処理茎である。

 また、図16にハーベスタによる収穫面積率の推移を示したが、30年産で72.3%(前年比6.3ポイント増)である。これは鹿児島県平均の93.8%に比べて最低水準であり、ハーベスタによる収穫作業の遅れが特に目立つ。その原因については後述する。

 バガスなどの利用状況は、年間で6471トンのバガスを製糖工場のボイラー燃料用として利用し、フィルターケーキ同1538トンは堆肥原料用、糖みつ同905トンは精製糖会社販売用に有効利用している。

 

 

 

 

イ.野菜、花き、果樹栽培について

 野菜栽培の中で作付面積の最も多いサトイモの植え付け作業は、耕うん機やトラクターで耕うん・畝立て後、人力あるいはトラクター用マルチャでマルチングを行い、人力によって種イモを植え付けている。収穫作業は、トラクター装着の簡易な根切り刃で根切り作業の後、人力で抜き取るか、あるいはトラクター用掘り取り機で塊茎を浮せ掘りして人力で収集する。また、かん水作業に動力ポンプ、水中ポンプを利用している農家もある。写真3、4は周りのさとうきびを防風林代わりにした圃場で小型トラクター(10馬力)用ロータリを使用したサトイモの植え付け準備作業の様子とサトイモ生育中の様子である。

 写真5はサヤインゲンの有機栽培で1穴2粒播種(はしゅ)し、発芽間引きの後、野生のハト、キジ害防止のためにネットをかぶせている。現在、サヤインゲンの有機栽培農家は島内で4戸存在しているが、年々減少しているのは残念である。写真6はサヤインゲン生育中の様子である。

 花き栽培は、農家にとって最も高い単収益を上げる品目になっており、比較的若い生産者が多く、後継者の問題も現状では心配ない。トラクター、中耕管理機、防除機や選別機などを導入している生産者もいるが、ほとんどが人力作業である。土づくりから収穫・調製までの機械化体系は確立していないが、施設化に努め、徹底した栽培管理と目揃え会などの実施により品質向上を図っている。

 果樹栽培は、さとうきびや野菜(サヤインゲンなど)を同時に栽培している農家が多い。マンゴーはここ数年来、補助事業によるハウスの導入が進み、温暖な気候を生かした暖房費のかからない無加温栽培が進んでいる。アテモヤは比較的に新しく珍しい果樹であり、栽培農家も少ないが、平張施設や露地での栽培が行われている(写真7)。また、ドラゴンフルーツは台風や塩害に強いために、ほとんどが無農薬露地栽培されている。栽培機械としてトラクター、中耕管理機や草払い機が導入されているが、ほとんどの作業が人力に頼っている。

 

 

 

 



 

(2)畜産部門の機械化の現状

ア.飼料栽培および飼養管理について
 
 飼料作物(ローズグラス、イタリアンライグラス、エンバクなど)の栽培では、機械化がかなり進んでいる。トラクタ類の他、()(しゅ)作業にブロードキャスタ、飼料用収穫機械として、フォーレージハーベスタ、ヘイレーキ、ロールべーラ、ラッピングマシンなどが導入されている。その他、草払い機や飼育頭数20頭程度以上の農家では自走式小型モアー、トラクター装着用ディスクモアーが主に利用され、さらに飼料畑への堆肥の搬入・投入(年間10アール当たり約3〜4トン程度の投入が多い)にはホイルローダやフォークリフト、マニュアスプレッダが利用されている。また、飼料畑面積が絶対的に不足している状況(現在、約400ヘクタール弱)であるが、先祖代々の土地の貸借問題や同じイネ科同士(例えばローズグラスと、さとうきびなど)の連作を敬遠することもあり、現状では規模拡大がかなり難しい。なお、本島では放牧地は存在していない。
 
 次に、飼養管理関連の機械化は、ほとんど進んでいない状況である。その中で、飼養管理用機器として、個体の識別・行動把握用などに監視カメラ、発情・分娩時期監視用などの機器2台(商品名「牛温恵」)が導入されているが、歩数計測による発情監視用等の機器(商品名「牛歩」など)は導入さていない。写真8は肉牛の飼養舎の様子であり、写真9、10は飼料畑に積まれたローズグラスのロールベールラップサイロと飼料畑に投入された堆肥である。
 
 








 
イ.堆肥センターについて

 さとうきびを中心に畜産、野菜、花きなどを組み合わせた複合経営を推進するために、平成17年度に与論町堆肥センターが稼働し、良質牛ふん堆肥の製造が可能になった。また、23年度には「ゆんぬ敷料化ラブセンター」が完成し、伐採木などを原料とする敷料を製造して堆肥の品質と子牛生産性の向上が図られてきた。30年度の島内畜産農家214戸からの堆肥原料(牛畜ふん尿)の受け入れ実績は、9482トン、製造(利用)実績は、3624トンである。
 製造工程は原料搬入−天日干し・水分調整−1回目攪拌(かくはん)−堆積(20日間)−天日干し−2回目攪拌−堆積(20日間)、この工程を約5カ月間繰り返して振るいがけした後、完熟堆肥とし袋詰めあるいはフレコン詰めで出荷している。販売価格は袋詰め完熟堆肥で1袋(15キログラム)当たり376円である。また、製造堆肥の4〜5割(1400〜1800トン)が飼料畑へ、その他がさとうきび、野菜、花き農家へ利用されている。なお、飼料、さとうきび栽培用は中熟堆肥、野菜、花き栽培用は完熟堆肥が主に利用されており、中熟堆肥は製品、配達、散布作業込み価格で1トン当たり3000円である。

 施設は堆肥舎4590平方メートル、天日干し場1480平方メートルであり、機械類はホイルローダ、フォークリフト、マニュアスプレッダ、トラックスケール、堆肥自動計量包装装置などが導入されている。写真11、12、13は堆肥の天日干し場と堆肥舎内の様子およびセンター所有のマニュアスプレッダである。









 

3.機械化の課題

 機械化に関連する諸要因について触れる。

(1)土地基盤整備とかんがい施設整備について

 与論島は平坦地が多く比較的耕地に恵まれているが、土地基盤や畑地かんがい整備は遅れている。平成30年の圃場整備率は68.8%、農業用水の安定確保に欠かせない畑地かんがい整備率は32.9%、大型機械の走行や農作物輸送に必要な農道整備率は71.5%である。これらはいずれも奄美群島の平均(それぞれ圃場整備率75.7%、畑地かんがい整備率50.6%、農道整備率82.1%)に比べて低い整備状況である(平成30年3月、鹿児島県大島支庁農村整備課資料)。

 本島では、水源確保のために、ため池の整備やかん水体制の整備に取り組んでいるが、県営、国営ダムの設置により水源整備が進んでいる地域(奄美市、徳之島、喜界島、沖永良部島)に比べて水源確保に大きな苦労が強いられている。土地基盤の整備、かんがい施設の整備は喫緊の課題である。写真14、15は島内に点在するため池とかん水用給水圧力タンクである。

 また、農作業の機械化・効率化および土地の有効利用などに大きな影響を与える圃場区画の面積、特に1筆当たりの圃場面積は県内各離島の平均に比べて最も狭隘であり、本島の1筆当たりのさとうきび圃場面積は11.1アール、離島平均20.4アールの2分の1程度である。特に、機械の稼働効率を高めるためには、圃場区画面積の拡大が必要不可欠である。
 




 

(2)集落営農の組織化について

 集落や地域を単位として、担い手を確保し、機械・施設の共同利用や農地の効率的利用を図るためには、農業生産過程について話し合い、集落の資源(農地、機械、施設、労働力)を十分生かすための集落営農組織が必要である。

 集落営農組織数を見ると、県全体で139(法人29、非法人110)存在しているが、その内で与論島を含む大島地区(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島)は5組織で非常に少ない(平成29年、鹿児島県集落営農実態調査)。

 今後、本島の耕畜連携による効率的な地域農業を構築するためには、集落営農の組織化は欠かすことが出来ない。組織化に当たっては、耕起、植え付け、防除、収穫の基幹作業をオペレーターに委託する、いわゆるオペレーター委託型で全戸共同参画による組織形態が現段階では良い。また、複合経営を効率的に行うには、耕種および畜産部門(さとうきび、飼料作物など)の土地利用型作物に対応した汎用(はんよう)機械の共同利用可能な受委託組織を整え、土地・労働生産性の向上を図ることが重要である。さらには、組織化による農畜産物の加工・販売・出荷拡大への取り組みが、零細・兼業農家の多い本島農業の持続ある発展につながる。これに関連して、珍しい熱帯果樹類の栽培、自然の豊かさ、海岸線とさとうきび畑の景観など、生産地の魅力の発信にも力を入れたい。

(3)担い手への農地集積・集約化について

 高齢化などにより離農する農家の受け皿になり、機械稼働率を高め、土地生産性の向上を図るためには、意欲ある中核的担い手の育成と担い手への農地集積・集約化が是非必要である。また、高齢化や生産者の減少による遊休農地、耕作放棄地の発生防止のためにも、農地中間管理事業などを活用した担い手への農地集積が必要である。これが、農業経営の規模拡大、機械の効率的利用、生産基盤の強化、新規参入による土地利用を促し、土地・労働生産性の向上につながる。
 
 鹿児島県の担い手への農地集積状況を見ると、与論島の農地集積率は44.7%(耕地面積1110ヘクタール、担い手への農地集積496ヘクタール)であり、県全体の42.4%よりやや高いものの、他の奄美群島(喜界町59.1%、徳之島町52.9%)に比べると低い(平成31年、鹿児島県農政部農村振興課資料)。

 現在、農地集積率は徐々に高まっているが、伸びが鈍いのも事実である。これは、離農者などの農地が地縁・血縁者へ貸与されたり、先祖代々引き継いできた農地に対する強い思いなども農地集積の大きな障害になっている。また、相続未登記農地の存在も大きい。30年5月、農業経営基盤強化促進法が改正され、簡素化した手続きで農地中間管理機構が最長20年間、借り受け可能になったことで相続未登記農地の集積・利用促進が期待されている。

 今後は、地域の将来方向を見据えた農地集積に関する合意形成や引き受け手の少ない中山間広域農地の担い手を支援する認定農業者制度の見直し、新規就農者への自立支援などが必要である。農地中間管理機構がその機能を十分発揮して農地の流動化がより一層進むことを期待したい。

(4)土壌特性について

 奄美群島を含む鹿児島県南部から沖縄県に至る地域では風化残積土である赤土などが地盤表面を広く覆っている。与論島は全島が隆起サンゴ礁で形成されており、広く琉球層群の石灰岩に覆われ、地域によって異なるが、ほぼ粘土集積石灰性の暗赤色土が多く広がっている。これらの土壌は、一般にpHが高く塩基に富んでいる。また、無機質成分含量(N、P2O5、K2O、MgO、CaO)やEC(電気伝導度)の低い土壌が多く存在している。物理的には、高い粘性を持ち、作土層が浅いために保水性に乏しく干ばつに弱い。また、乾燥すると固結する特徴を有しており、これが土壌耕起などの機械作業の大きな負担になり、これらの土壌に対応するための耐久性の高い機械の改良・開発が望まれる。写真16は土地改良などで出現したサンゴのがれきを野積みした山である。

 


 以上のような土壌特性を踏まえて、保水性・透水性・通気性などの物理性、pH、養分保持力などの化学性、各種の微小生物生息などの生物性についての土壌環境の改善が必要である。そのためには、深耕、心土破砕作業に加えて、収穫残さのすき込み、緑肥、堆肥などの有機資材の圃場還元が団粒構造を形成促進する上で極めて重要である。また、これら土壌の理化学性の改善が作物単収の向上のみならず機械作業の効率化および高精度化につながる。

 しかし、本島では耕畜連携による複合経営を目指してきているが、堆肥原料の高水分含量、製造コストの問題などに課題が残っており、堆肥の圃場への絶対投入量が少ない。また、緑肥のすきこみは皆無である。現在、さとうきび農家は主に中熟堆肥を利用している(野菜、花き農家は主に完熟堆肥利用)が、各圃場の保肥量を的確に把握(土壌診断)し、堆肥はもちろん化学肥料の適期・適量施肥の徹底が必要である。土壌条件の良否が機械の作業性能と土地生産性の向上に大きく影響することを再認識して土づくりの重要性を今一度肝に銘じておきたい。
(5)さとうきび栽培の機械化について

ア.機械の改良および開発

 機械の改良および開発について、農家からの要望と課題は以下の通りである。

(ア)軽量化した全天候型ハーベスタの開発。

 土壌踏圧、株出し茎の踏みつけを軽減した重量2トン程度までの軽量化した機種の開発。

(イ)採苗用小型ハーベスタの開発。

 種苗(2芽苗)の採取は脱葉、切断作業ともに、ほとんど人力で行うことが多い。特に、押し切り式カッターでの切断作業は、長時間(1人約200本で1時間)を要し、重労働で手間のかかる作業である。その解消のためには、ハーベスタによる良質な調製苗の確保が必要である。芽子の損傷を最小限に押さえるための脱葉チェーン、ロール材質、適正な周速度などの検討が必要。

(ウ)機構、構造が簡単な全茎式プランタを利用した場合の大規模機械化体系の実証および植え付け性能の検証が必要。写真17に全茎式プランタを示す。

(エ)半自動型2芽苗プランタの苗投入を機械化した全自動型2芽苗プランタの開発。

(オ)30〜40馬力級トラクター装着用で1人作業が可能な小型プランタの開発。

(カ)高性能な1芽ポット苗用の自動補植機の開発。

(キ)既存の株出し管理機の株揃え・根切り・施肥・施薬作業を一工程で作業可能なコンパクトな汎用管理作業機の開発。

(ク)半履帯トラクター装着用で精度の高い株揃え作業が可能な株出し管理機の開発。

(ケ)中耕・培土、除草、防除作業の中間管理作業を複合化した作業機の開発。

(コ)単収10トン程度の刈り取りに対応可能な高性能ハーベスタの開発。

(サ)導入後10年以上経過したハーベスタが多く、更新費用の準備が必要。

(シ)情報通信技術(ICT)、ロボット技術などの先端技術を取り入れた農機の開発と導入。

 


イ.機械・施設の共同利用

 農業機械は重労働からの解放と労働時間の大幅な削減、適期作業の実施および作業精度の向上に大きく貢献してきた。また、近年の急速な高齢化などによる労働力不足は、ますます農業機械の果たす役割を大きなものにしているが、一方で農業機械コストの高さも見逃せない課題である。

 本島のさとうきび栽培を中心にした経営形態でも、高齢化(65歳以上の農業就業者が約62%を占めている〈平成27年農林業センサス〉)が進み、しかも小規模経営農家が多い(耕地面積0.3〜1ヘクタールが約46%〈平成30年版与論町勢要覧〉)。これらの地域では、個々の農家が機械・施設を各自保有したままの営農では経営の合理化につながらない。

 農業機械コスト削減の3要素は利用面積の拡大、使用年数の長期化、機械価格の低廉化であるが、個人所有中心の機械利用では1台当たりの利用面積は小さくなる傾向があり、コスト高の大きな要因になる。個人所有から共同利用へ転換することは機械・施設の保守管理にかかる経費負担と更新に伴う機械投資の低減、経営規模の拡大、複合経営の促進のみならず耕作放棄の防止と新規就農の促進につながる。また、相互に支え合う意識の共有は集落営農の組織化に重要である。

 集落全体で支える農作業の共同化を推進するにはまず、基幹作業に係る農機の共同利用(例えば、トラクターなどを利用した耕地の土壌改良、耕うん・整地作業および防除機利用による病害虫防除作業など)や農地環境整備(例えば、農道・水路などの共同施設の維持管理、周辺農地の草刈りなど)の農作業を先行して共同化することである。その際に重要なことは、農家間の十分な話し合いのみならず非農家との連携が重要であり、集落全体で支える農作業という意識の醸成が必要である。また、作業競合の多い機械利用の場合は、特に機械稼働効率をできるだけ低下させない綿密な機械運用計画のもとでの共同作業が必要である。一方で、作業適期の長い品種開発も望まれる。

 これらの機械・施設の共同利用の取り組みをさとうきび育苗作業(施設を含む)から植え付け、収穫運搬作業まで拡大させ、近隣集落との連携や意欲ある担い手を中心にした作業受委託組織の確立へとつなげることが重要である。

ウ.受委託作業

 高齢化などによる労働力の不足地域においては、上述の機械・施設の共同利用とも関連するが、各種機械を効率的に利用するために、農作業受委託組織の存在が不可欠である。将来、本島でも農作業の委託が進むのは確実であり、農作業受委託組織の必要性はますます増大する。

 一般的に、農作業受託の担い手としては、農作業仲介組織(マシーネンリング)と請負組織(コントラクター)が存在する。また、農作業受委託組織の運営形態には、大きく分けて行政主導型(第3セクター〈農業公社型〉)、農協主導型(農協直営型、農協管理型)および地域リーダー主導型(地域営農集団型、生産組合型)がある。

 本島では、既に集落活動に重きを置いた地域リーダー主体による地域営農集団型が存在している地域もある。耕起、整地などを含むさとうきびのハーベスタ収穫を中心にした受託作業を行っており、オペレーターの人材育成、補助作業員の確保にも取り組んでいる。現在、既にさとうきびの植え付け、株出し管理作業を含む委託ニーズが増加しており、受託農家の負担は大きく、自らの圃場の収穫作業にも追われる状況であり、管理作業などの遅れが危惧されている。また、オペレーター不足による受託作業の遅れも出ている。

 今後、委託ニーズに応え、効率的な受託作業を行い、適期作業を進めるためには、深耕、育苗、植え付け、中耕培土、株出し管理、収穫・運搬などの各種作業を組み合わせて作業を分担する、いわゆる受託作業の分業化が必要である。特に、収穫、株出し管理、植え付け作業の分業化は、管理作業の遅れを防ぎ、機械の稼働効率を高めることにつながる。また、オペレーターの育成、補助作業員の確保(特に作業員コスト)や受託作業料金の検討も急務である。

 さらに、今後の受委託組織としては、さとうきびを中心に野菜、花きなどを含む耕種農家と畜産農家が連携した、いわゆる耕畜連携農業を推進するために、現在の堆肥センターを活用した行政主導型(農業公社型)による農作業受委託組織の確立を強く望みたい。その際、委託者の農業そのものに対する意識の希薄化の防止や受託組織と委託者との良好な環境づくり、さらには非農家とのコミュニケーションに配慮した受委託組織として発展することを願っている。

エ.機械化体系

(ア)機械化全般

 前述したように、本島のさとうきび農家はほとんどが小規模経営である。しかも、栽培農家戸数の減少に伴い、全ての作型で栽培面積および生産量が減少傾向にある。1戸当たりの栽培面積はほぼ横ばいであるが、1筆当たりの圃場面積は0.1ヘクタール程度で非常に狭く、圃場筆数は約3865筆と多い。さらに、単収は高齢化などによる管理作業の遅れや気象、土壌条件も関与して安定していない。このような状況の下で、人力刈り取りおよび人力脱葉作業面積がそれぞれ全収穫面積の約28%、約24%と多く、機械化が遅れている。

 例えば、ハーベスタ収穫でも100馬力未満の小型ハーベスタ使用による作業(作業面積は県内最低の約72%)であり、脱葉作業ではベビー脱葉機と脱葉搬出機などの小型機械による作業面積が約4%を占めている。また、植え付け、株出し管理作業においてもビレットプランタや株出し管理機の導入は進んでいない。これは1戸当たり栽培面積の狭さ(1戸当たり平均約67アール)と小区画圃場の多さが、人力作業と小型機械による作業に頼り、規模拡大による効率的な機械化一貫体系の確立を妨げる結果になっている。さらに、株出し面積が多いにもかかわらず、株出し管理機械の導入が少ない。導入台数をさらに増やして株出し管理作業の徹底を図るべきである。

 また、比較的に規模の大きい担い手とされる農家においても小区画圃場が多いために、機械作業効率のアップが難しい。ハーベスタ所有農家(現在11戸)の栽培面積は最大で1戸当たり7ヘクタール程度であり、他島に比較して狭い。また、借地料が高いこともあり(10アール当たり2万円)、規模拡大が厳しく、高齢化によるリタイア農家の受け皿になるのを難しくしている状況でもある。このように、本島において植え付けから収穫作業までの機械化一貫体系を確立させるためには、基盤整備の推進と担い手への農地の集積・集約による規模拡大が不可欠である。

 次に、受託組織については、個人受託が実態であり、糖業振興会でも作業は個人雇用で対応している。受託組織の確立が強く望まれる中にあって、現在ハーベスタ収穫を委託している農家の抱える大きな問題は実収入の少なさである(例えば、10アール当たり6トンのさとうきびを収穫したとして、さとうきび代金約12万円のうちで肥料代約1万5000円、除草剤代約1万円、ハーベスタ委託料約3万5000円、借地となると2万円の経費が必要となり、10アール当たりで約4万円の収入である)。これが畜産分野にかじを切る農家が出る大きな原因でもある。その他、ハーベスタの収穫作業補助員の確保と経費の問題や委託作業料金についても検討が急がれる。

 機械の共同利用についは、製糖会社製の簡易かん水車を共同利用している地域もあるが、その他に共同利用はほとんど行われていない。これは受委託組織の育成と関連するが、まず営農集団を育て農作業の共同化を図ることが先決である。

 さらに、干ばつ時の水対策については、区画整理された地域には、ため池を設置した水利用組合(11組合)があり、移動式スプリンクラー(一部は固定式)が設置されている。しかし、水利用の意識の低さや設置の煩雑さ、水利用価格の問題もあり、利用度が低い。かん水施設のない地域では糖業振興会がかん水車によるかん水受託を行っているが、さらにかん水効果を高める必要がある。

 このように、種々の問題を含めて機械化の遅れが、農家のさとうきび離れ、畜産への転換に進み、さとうきび栽培面積の減少につながっている。かん水対策も含めて、規模拡大を図りながら機械化体系を確立していくことは待ったなしである。
 
(イ)小型機械化体系

 ここで、現存する小型機械化体系について触れておく。

 ベビー脱葉機を中心にした家族労働(夫婦2人)による収穫作業体系では、脱葉機の作業能率は1日当たり約2〜3トンであるが、小規模な家族経営においては、小型機械化体系として十分対応している。

 また、脱葉搬出機を中心にした収穫作業体系では、夫婦2人で製糖期間中に約100トンのさとうきびを刈り取り、脱葉搬出している農家もある。脱葉搬出機の作業能率は同約3〜4トンであるが、小規模な家族経営では、小型機械化体系として十分対応できている。しかし、問題は両体系ともに労働強度の高い人力による刈り倒し作業が残されていることである。小型刈り倒し機械の開発が強く望まれる。

 現状では、ハーベスタによる収穫作業体系とベビー脱葉機や脱葉搬出機による収穫作業体系が併存することになるが、将来は規模拡大や営農集団の育成、受委託作業の組織化などにより、ハーベスタ収穫作業体系へと移行していくものと考えられる。

オ.原料確保

 製糖工場への原料搬入については、年々ハーベスタ原料が増加している(ハーベスタ収穫7:人力収穫3の割合)。現在計画されている1日当たりの原料の圧搾量380トン(実績平均同315トン、能力は同430トン)からすると、ハーベスタによる収穫原料が約266トン必要になるが、コンスタントに計画通りの搬入量が確保されていない状況にある。

 現在の小型ハーベスタでは、個人の受託農家所有のもので、好天候時で1台1日当たり最高約20トンの収穫が可能であるが、1日当たりの原料圧搾量380トン、工場の損益分岐点を約2万6000トンとして算出すると、受託量が増加していることや天候不順時を想定した場合、現在の導入台数13台では少ない。現在のハーベスタの必要受託収穫量は、年間1台当たり約2000トンであるとされているが(現状は1200トン程度で問題があるが)、現導入台数より2台増の15台(最高20トン×15台で1日当たり300トンが収穫可能)のハーベスタが必要になる。これが、また本島の機械収穫率の向上にもつながることになる。もし、生産者側でハーベスタの導入が困難であるとすれば製糖会社独自の導入があってもよいと思われる。

 しかし、ここで大きな問題としては、工場の原料圧搾量に見合うだけのハーベスタ台数を増やしても、現状ではさとうきび栽培を行おうと手を挙げる意欲ある農家がいないのも一方で事実である。このようなさとうきび栽培に対する農家のネガティブな意識を払拭するには、まずコスト削減による経営的有利性を追求した、いわゆる「もうかるさとうきび作」の実現に向け、産官関係者一体となって危機感を共有し、圃場整備、規模拡大、機械化および組織化に向けた全島挙げてのさとうきびに対する具体的支援が急務である。

カ.その他

 土づくりについては、さとうきび圃場への堆肥投入量を増大させるために、堆肥製造コスト、植え付けと堆肥散布時期の競合および散布方法についての課題解決が必要である。また、本島は夏植えが少なく緑肥利用がほとんど行われていないが、堆肥を介した畜産農家との積極的な連携をもとに土づくりを進める必要がある。

 機械類の取り扱いについては、日頃の機械類のメンテナンスが長寿命化を図るうえで最も大切であり、機械の始業点検、終業点検の励行の重要性を再確認すべきである。また、機械による適期作業を行うためには、交換部品の迅速な供給体制の整備も必要である。
(6)大島地区のさとうきび栽培技術と機械化の課題について

 与論島を含む大島地区のさとうきびの栽培管理技術と機械化について、各島の実態に違いがあるが、共通的な課題を列挙しておく。

ア.採苗・植え付け、管理作業から収穫までのハーベスタ収穫を前提とした機械化一貫体系の確立と普及

 ビレットプランタからハーベスタ収穫までの農作業100%の機械化が必要である。しかし、植え付け、株出し管理を含む機械化が過度な装備化によるコストアップにつながることは厳に避けねばならない。写真18にビレットプランタ、写真19にハーベスタ収穫作業を示す。

イ.ビレットプランタによる植え付けを前提とした栽培管理技術(ハーベスタ採苗+ビレットプランタ体系)の確立

 ビレットプランタによる植え付けの際、問題はハーベスタ採苗と株出し時の萌芽数の増加である。現在、ハーベスタ採苗による苗は無選別の場合、硬化芽子や1芽茎などの不良苗の混入があり、慣行の人力採苗に比べて2倍程度の苗の確保が必要である。また、株出し時に萌芽数の増加傾向が見られ、新植時の栽植密度の検討が必要である。さらに、慣行畝幅(畝幅115〜120センチメートル×株間30センチメートル)に対する機械適応性および収量の関係について検討が必要である。

ウ.高性能な小型採苗ハーベスタの開発
 
 鹿児島県のハーベスタ収穫率が約94%に達した現在、機械化の焦点は採苗作業と植え付け作業である。採苗ハーベスタ、ミニプランタの開発は不可欠であり、この2作業の機械化なくして機械化一貫体系の確立はないと言える。

エ.採苗圃場の確保と補植作業の徹底

オ.夏植え、株出し体系の推進

 大規模経営体の育成には、特に労働力不足による製糖期の株出し管理不足、春植え作業との競合を避けることが必要である。

カ.夏植え体系に対応したハーベスタの適応能力のアップ
 
 夏植え収量8〜10トン程度に対応可能なハーベスタ収穫能力のアップが必要である。

キ.半履帯トラクターを利用した栽培管理技術の確立

 特に、重粘土地帯に対応可能な半履帯トラクター(小・中型)を利用した、例えば、サブソイラによる中耕(15センチメートル程度)および心土破砕や株出し管理、防除作業などへの畝幅(130〜140センチメートル必要)を含む機械適応性や栽培管理技術の検討が必要である。写真20に半履帯トラクター、写真21にサブソイラ、プラソイラによる作業を示す。

ク.メリクロン苗(茎頂培養によって作り出された苗)の安定供給による新植用、補植用苗への活用と採苗体系の確立

ケ.病害虫被害、鳥獣被害に対する徹底した総合的対策の継続

コ.かんがい用水の多目的な有効利用

 例えば、スプリンクラーによる肥料、薬剤散布技術の検討

サ.土づくりに対する農家の意識向上

 試験研究・行政機関を含む関係者一体となった集落単位の土壌診断分析の実施と適正な施肥設計に基づく土づくりによる単収アップを図る。

シ.生産農家の大きな経営負担になっている燃料、肥料、農薬などの農業資材の価格高騰への支援

ス.ドローンなどを利用した薬剤散布や各種センシング技術を利用した作物生育、土壌モニタリング技術の応用

 

 

 

 

(7)野菜、花き、果樹栽培の機械化について

 野菜類(サトイモ、サヤインゲン、ニガウリ、オクラなど)栽培の機械化には、耕うん、中耕培土、育苗、施肥・播種、間引き、移植、ネット・マルチ張り、除草・防除、かん水、収穫、調製、運搬作業などに関する機械が品目に合わせて必要である。現在、サトイモの選果は共同選果(機械選果)が約80%、個人選果(手選果)が約20%であるが、さらに手選果作業の省力化・機械化が必要である。特に、サヤインゲンは防風、防鳥・防虫対策のために、トンネル栽培が行われており、ネット掛けの省力化が必要である。また、有機栽培の拡大による安心・安全な生産が求められる。

 花き栽培では、耕うん、中耕培土、育苗、施肥・播種、移植、マルチ、除草・防除、かん水、収穫、調製、包装、ベンチ作業などに関する機械類の導入が必要である。

 果樹栽培では、中耕、施肥、草刈り、除草・防除、かん水、整枝、剪定(せんてい)、収穫(作業台車)、選果作業などに関する機械類を導入する必要がある。

 また、施設園芸(野菜、花き、果樹など)では、温度、湿度、照度・日照、かん水、地温、CO2、飽差、EC、DIF(昼夜温差)などに関して、必要に応じた複合的環境データの収集と自動管理のできるハウス化により、収量アップと品質向上を図る必要がある。

(8)畜産部門の課題

ア.堆肥センターについて

 堆肥センターの課題としては、飼育舎内の敷料不足もあり、水分含量の多い(含水率約70〜80%以上が多い)原料が搬入され、堆肥化に日数(6カ月程度)を要することが挙げられる。今後、製造法の改善策として、発酵促進のために、スクリュー式攪拌装置やエアレーションシステム(大型ブロアー)の導入も是非検討すべき課題である。また、センターは稼働以来14年が経過し、施設・機械類の老朽化がかなり進んでいる。堆肥集積場周辺の排水対策、特に堆肥舎の壁・床面の不浸透性材料を使用した改修や施設周辺環境の整備が必要である。さらにマニュアスプレッダの更新は急務である。

イ.畜産業について

 畜産業の課題としては、まず優良種雄牛の活用や高齢母牛の更新などにより、子牛の品質向上を図ることや牛の病気予防、早期発見・治療に努めることが必要である。また、本島では肉用牛の飼養頭数が年々増加する中にあって、島内の粗飼料生産だけでは今後ますます供給が不足する状況にある。畜産業の維持発展のためには、粗飼料の効率的な生産拡大が欠かせない。

 粗飼料生産の主体は大きく分けて、個別経営型、営農組織型、コントラクター(農作業の請負組織)型がある。飼養頭数の増大に伴う自給粗飼料の生産拡大のためには、飼料生産基盤の拡大と効率的な機械化によるスケールメリットを生かした生産体制の構築が必要である。

 現在、本島における粗飼料生産は、ほとんどが小規模な個別経営型であり、飼料生産用機械の導入も少ない。個別経営のままで作付面積の拡大を図ろうとすると絶対的な労働力不足が生じる。仮に、積極的に機械導入を図ったとしても過剰投資につながりかねない。また、作付面積の拡大を図るためには、農地購入か借地を求めるかあるいは他の耕種農家(さとうきび農家と堆肥利用などの仲介)に粗飼料生産を依頼せざるを得ない。農地流動化が進まない現状では集落営農組織を育成し、粗飼料生産量の増大と機械の稼働率を高めることが必要である。また、機械の稼働率を高めるためには、営農組織に属する農家以外の農作業も請け負うことが必要になり、これがコントラクター化の方向へ進むことにつながる。

 いずれにしても、本島の畜産業の現状から見て、畜産経営の基本といえる粗飼料生産は、さとうきび栽培と同様に農地の集積・集約化を行い、限られた面積の中でいかに農地の有効利用を図るかが重要である。そのためには、農作業(耕うん整地、播種、中間管理、収穫調製作業まで)の機械化体系の確立が不可欠である。

 例を挙げれば、トラクター、ロータリ、ブロードキャスタ、ローラ、マニュアスプレッダ、ヘイモアー、ヘイレーキ、テッダ、ロールベーラ、ラッピングマシン類の機械を必要に応じて導入し、また多頭化した場合の飼養関連機械類として、個体行動監視用カメラ、発情・分娩検知用機器(例えば、牛温恵、牛歩など)や給餌機の導入も必要になる。

 以上、畜産業の発展に向けて粗飼料生産の拡大を図るためには、個別経営の枠を超えた機械化体系の確立と効率的な飼養管理システムの構築が必要である。

 

 

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