(5)さとうきび栽培の機械化について
ア.機械の改良および開発
機械の改良および開発について、農家からの要望と課題は以下の通りである。
(ア)軽量化した全天候型ハーベスタの開発。
土壌踏圧、株出し茎の踏みつけを軽減した重量2トン程度までの軽量化した機種の開発。
(イ)採苗用小型ハーベスタの開発。
種苗(2芽苗)の採取は脱葉、切断作業ともに、ほとんど人力で行うことが多い。特に、押し切り式カッターでの切断作業は、長時間(1人約200本で1時間)を要し、重労働で手間のかかる作業である。その解消のためには、ハーベスタによる良質な調製苗の確保が必要である。芽子の損傷を最小限に押さえるための脱葉チェーン、ロール材質、適正な周速度などの検討が必要。
(ウ)機構、構造が簡単な全茎式プランタを利用した場合の大規模機械化体系の実証および植え付け性能の検証が必要。写真17に全茎式プランタを示す。
(エ)半自動型2芽苗プランタの苗投入を機械化した全自動型2芽苗プランタの開発。
(オ)30〜40馬力級トラクター装着用で1人作業が可能な小型プランタの開発。
(カ)高性能な1芽ポット苗用の自動補植機の開発。
(キ)既存の株出し管理機の株揃え・根切り・施肥・施薬作業を一工程で作業可能なコンパクトな汎用管理作業機の開発。
(ク)半履帯トラクター装着用で精度の高い株揃え作業が可能な株出し管理機の開発。
(ケ)中耕・培土、除草、防除作業の中間管理作業を複合化した作業機の開発。
(コ)単収10トン程度の刈り取りに対応可能な高性能ハーベスタの開発。
(サ)導入後10年以上経過したハーベスタが多く、更新費用の準備が必要。
(シ)情報通信技術(ICT)、ロボット技術などの先端技術を取り入れた農機の開発と導入。
イ.機械・施設の共同利用
農業機械は重労働からの解放と労働時間の大幅な削減、適期作業の実施および作業精度の向上に大きく貢献してきた。また、近年の急速な高齢化などによる労働力不足は、ますます農業機械の果たす役割を大きなものにしているが、一方で農業機械コストの高さも見逃せない課題である。
本島のさとうきび栽培を中心にした経営形態でも、高齢化(65歳以上の農業就業者が約62%を占めている〈平成27年農林業センサス〉)が進み、しかも小規模経営農家が多い(耕地面積0.3〜1ヘクタールが約46%〈平成30年版与論町勢要覧〉)。これらの地域では、個々の農家が機械・施設を各自保有したままの営農では経営の合理化につながらない。
農業機械コスト削減の3要素は利用面積の拡大、使用年数の長期化、機械価格の低廉化であるが、個人所有中心の機械利用では1台当たりの利用面積は小さくなる傾向があり、コスト高の大きな要因になる。個人所有から共同利用へ転換することは機械・施設の保守管理にかかる経費負担と更新に伴う機械投資の低減、経営規模の拡大、複合経営の促進のみならず耕作放棄の防止と新規就農の促進につながる。また、相互に支え合う意識の共有は集落営農の組織化に重要である。
集落全体で支える農作業の共同化を推進するにはまず、基幹作業に係る農機の共同利用(例えば、トラクターなどを利用した耕地の土壌改良、耕うん・整地作業および防除機利用による病害虫防除作業など)や農地環境整備(例えば、農道・水路などの共同施設の維持管理、周辺農地の草刈りなど)の農作業を先行して共同化することである。その際に重要なことは、農家間の十分な話し合いのみならず非農家との連携が重要であり、集落全体で支える農作業という意識の醸成が必要である。また、作業競合の多い機械利用の場合は、特に機械稼働効率をできるだけ低下させない綿密な機械運用計画のもとでの共同作業が必要である。一方で、作業適期の長い品種開発も望まれる。
これらの機械・施設の共同利用の取り組みをさとうきび育苗作業(施設を含む)から植え付け、収穫運搬作業まで拡大させ、近隣集落との連携や意欲ある担い手を中心にした作業受委託組織の確立へとつなげることが重要である。
ウ.受委託作業
高齢化などによる労働力の不足地域においては、上述の機械・施設の共同利用とも関連するが、各種機械を効率的に利用するために、農作業受委託組織の存在が不可欠である。将来、本島でも農作業の委託が進むのは確実であり、農作業受委託組織の必要性はますます増大する。
一般的に、農作業受託の担い手としては、農作業仲介組織(マシーネンリング)と請負組織(コントラクター)が存在する。また、農作業受委託組織の運営形態には、大きく分けて行政主導型(第3セクター〈農業公社型〉)、農協主導型(農協直営型、農協管理型)および地域リーダー主導型(地域営農集団型、生産組合型)がある。
本島では、既に集落活動に重きを置いた地域リーダー主体による地域営農集団型が存在している地域もある。耕起、整地などを含むさとうきびのハーベスタ収穫を中心にした受託作業を行っており、オペレーターの人材育成、補助作業員の確保にも取り組んでいる。現在、既にさとうきびの植え付け、株出し管理作業を含む委託ニーズが増加しており、受託農家の負担は大きく、自らの圃場の収穫作業にも追われる状況であり、管理作業などの遅れが危惧されている。また、オペレーター不足による受託作業の遅れも出ている。
今後、委託ニーズに応え、効率的な受託作業を行い、適期作業を進めるためには、深耕、育苗、植え付け、中耕培土、株出し管理、収穫・運搬などの各種作業を組み合わせて作業を分担する、いわゆる受託作業の分業化が必要である。特に、収穫、株出し管理、植え付け作業の分業化は、管理作業の遅れを防ぎ、機械の稼働効率を高めることにつながる。また、オペレーターの育成、補助作業員の確保(特に作業員コスト)や受託作業料金の検討も急務である。
さらに、今後の受委託組織としては、さとうきびを中心に野菜、花きなどを含む耕種農家と畜産農家が連携した、いわゆる耕畜連携農業を推進するために、現在の堆肥センターを活用した行政主導型(農業公社型)による農作業受委託組織の確立を強く望みたい。その際、委託者の農業そのものに対する意識の希薄化の防止や受託組織と委託者との良好な環境づくり、さらには非農家とのコミュニケーションに配慮した受委託組織として発展することを願っている。
エ.機械化体系
(ア)機械化全般
前述したように、本島のさとうきび農家はほとんどが小規模経営である。しかも、栽培農家戸数の減少に伴い、全ての作型で栽培面積および生産量が減少傾向にある。1戸当たりの栽培面積はほぼ横ばいであるが、1筆当たりの圃場面積は0.1ヘクタール程度で非常に狭く、圃場筆数は約3865筆と多い。さらに、単収は高齢化などによる管理作業の遅れや気象、土壌条件も関与して安定していない。このような状況の下で、人力刈り取りおよび人力脱葉作業面積がそれぞれ全収穫面積の約28%、約24%と多く、機械化が遅れている。
例えば、ハーベスタ収穫でも100馬力未満の小型ハーベスタ使用による作業(作業面積は県内最低の約72%)であり、脱葉作業ではベビー脱葉機と脱葉搬出機などの小型機械による作業面積が約4%を占めている。また、植え付け、株出し管理作業においてもビレットプランタや株出し管理機の導入は進んでいない。これは1戸当たり栽培面積の狭さ(1戸当たり平均約67アール)と小区画圃場の多さが、人力作業と小型機械による作業に頼り、規模拡大による効率的な機械化一貫体系の確立を妨げる結果になっている。さらに、株出し面積が多いにもかかわらず、株出し管理機械の導入が少ない。導入台数をさらに増やして株出し管理作業の徹底を図るべきである。
また、比較的に規模の大きい担い手とされる農家においても小区画圃場が多いために、機械作業効率のアップが難しい。ハーベスタ所有農家(現在11戸)の栽培面積は最大で1戸当たり7ヘクタール程度であり、他島に比較して狭い。また、借地料が高いこともあり(10アール当たり2万円)、規模拡大が厳しく、高齢化によるリタイア農家の受け皿になるのを難しくしている状況でもある。このように、本島において植え付けから収穫作業までの機械化一貫体系を確立させるためには、基盤整備の推進と担い手への農地の集積・集約による規模拡大が不可欠である。
次に、受託組織については、個人受託が実態であり、糖業振興会でも作業は個人雇用で対応している。受託組織の確立が強く望まれる中にあって、現在ハーベスタ収穫を委託している農家の抱える大きな問題は実収入の少なさである(例えば、10アール当たり6トンのさとうきびを収穫したとして、さとうきび代金約12万円のうちで肥料代約1万5000円、除草剤代約1万円、ハーベスタ委託料約3万5000円、借地となると2万円の経費が必要となり、10アール当たりで約4万円の収入である)。これが畜産分野にかじを切る農家が出る大きな原因でもある。その他、ハーベスタの収穫作業補助員の確保と経費の問題や委託作業料金についても検討が急がれる。
機械の共同利用についは、製糖会社製の簡易かん水車を共同利用している地域もあるが、その他に共同利用はほとんど行われていない。これは受委託組織の育成と関連するが、まず営農集団を育て農作業の共同化を図ることが先決である。
さらに、干ばつ時の水対策については、区画整理された地域には、ため池を設置した水利用組合(11組合)があり、移動式スプリンクラー(一部は固定式)が設置されている。しかし、水利用の意識の低さや設置の煩雑さ、水利用価格の問題もあり、利用度が低い。かん水施設のない地域では糖業振興会がかん水車によるかん水受託を行っているが、さらにかん水効果を高める必要がある。
このように、種々の問題を含めて機械化の遅れが、農家のさとうきび離れ、畜産への転換に進み、さとうきび栽培面積の減少につながっている。かん水対策も含めて、規模拡大を図りながら機械化体系を確立していくことは待ったなしである。
(イ)小型機械化体系
ここで、現存する小型機械化体系について触れておく。
ベビー脱葉機を中心にした家族労働(夫婦2人)による収穫作業体系では、脱葉機の作業能率は1日当たり約2〜3トンであるが、小規模な家族経営においては、小型機械化体系として十分対応している。
また、脱葉搬出機を中心にした収穫作業体系では、夫婦2人で製糖期間中に約100トンのさとうきびを刈り取り、脱葉搬出している農家もある。脱葉搬出機の作業能率は同約3〜4トンであるが、小規模な家族経営では、小型機械化体系として十分対応できている。しかし、問題は両体系ともに労働強度の高い人力による刈り倒し作業が残されていることである。小型刈り倒し機械の開発が強く望まれる。
現状では、ハーベスタによる収穫作業体系とベビー脱葉機や脱葉搬出機による収穫作業体系が併存することになるが、将来は規模拡大や営農集団の育成、受委託作業の組織化などにより、ハーベスタ収穫作業体系へと移行していくものと考えられる。
オ.原料確保
製糖工場への原料搬入については、年々ハーベスタ原料が増加している(ハーベスタ収穫7:人力収穫3の割合)。現在計画されている1日当たりの原料の圧搾量380トン(実績平均同315トン、能力は同430トン)からすると、ハーベスタによる収穫原料が約266トン必要になるが、コンスタントに計画通りの搬入量が確保されていない状況にある。
現在の小型ハーベスタでは、個人の受託農家所有のもので、好天候時で1台1日当たり最高約20トンの収穫が可能であるが、1日当たりの原料圧搾量380トン、工場の損益分岐点を約2万6000トンとして算出すると、受託量が増加していることや天候不順時を想定した場合、現在の導入台数13台では少ない。現在のハーベスタの必要受託収穫量は、年間1台当たり約2000トンであるとされているが(現状は1200トン程度で問題があるが)、現導入台数より2台増の15台(最高20トン×15台で1日当たり300トンが収穫可能)のハーベスタが必要になる。これが、また本島の機械収穫率の向上にもつながることになる。もし、生産者側でハーベスタの導入が困難であるとすれば製糖会社独自の導入があってもよいと思われる。
しかし、ここで大きな問題としては、工場の原料圧搾量に見合うだけのハーベスタ台数を増やしても、現状ではさとうきび栽培を行おうと手を挙げる意欲ある農家がいないのも一方で事実である。このようなさとうきび栽培に対する農家のネガティブな意識を払拭するには、まずコスト削減による経営的有利性を追求した、いわゆる「もうかるさとうきび作」の実現に向け、産官関係者一体となって危機感を共有し、圃場整備、規模拡大、機械化および組織化に向けた全島挙げてのさとうきびに対する具体的支援が急務である。
カ.その他
土づくりについては、さとうきび圃場への堆肥投入量を増大させるために、堆肥製造コスト、植え付けと堆肥散布時期の競合および散布方法についての課題解決が必要である。また、本島は夏植えが少なく緑肥利用がほとんど行われていないが、堆肥を介した畜産農家との積極的な連携をもとに土づくりを進める必要がある。
機械類の取り扱いについては、日頃の機械類のメンテナンスが長寿命化を図るうえで最も大切であり、機械の始業点検、終業点検の励行の重要性を再確認すべきである。また、機械による適期作業を行うためには、交換部品の迅速な供給体制の整備も必要である。