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4. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2020年6月時点予測)

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最終更新日:2020年7月10日

4. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2020年6月時点予測)

2020年7月

 本稿中の為替レートは2020年6月末日TTS相場の値であり、1米ドル=109(108.74)円、1ユーロ=123(122.58)円である。
ブラジル
2020/21年度、砂糖生産量、輸出量ともに大幅に増加する見込み
 LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)の2020年7月時点の予測によると(以下、特段の断りがない限り同予測に基づく記述)、2020/21年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、原油の国際価格の動きに不安定さが見られ、バイオエタノール需要にも不透明感があるものの、バイオ燃料など再生可能エネルギーの生産・利用の促進を図るブラジルの国家政策「RenovaBio」の本格始動が生産意欲を後押しする可能性があることも踏まえ、860万ヘクタール(前年度同、6月予測よりわずかに増加)と横ばいで推移すると見込まれる(表2)。サトウキビ生産量は、生育期間を通じて天候がおおむね良好で生育が順調であることから、6億4200万トン(前年度同、6月予測よりわずかに減少)と横ばいで推移すると見込まれる。

 一方で砂糖生産量は、バイオエタノール需要の不透明感を背景に、多くの製糖業者が砂糖生産に回帰する動きが見られることから、4236万トン(粗糖換算〈以下、特段の断りがない限り砂糖に係る数量は粗糖換算〉、前年度比33.2%増、6月予測より減少)と大幅に増加すると見込まれる。この予測の下、ブラジル通貨レアルが米ドルに対して安値圏で推移することで輸出意欲が向上し、輸出量は3262万トン(同60.5%増、6月予測より減少)と大幅に増加すると見込まれる。

6月の砂糖輸出量、前年同月比95%増
 ブラジル経済省によると、同国の6月の砂糖輸出量(注)は300万トン(前年同月比95.0%増、前月比13.9%増)と前年同月から大幅に増加した。また、4月から始まった2020/21年度の累計輸出量を見ると、6月末時点で716万トン(前年同期比67.9%増)と前年同期から大幅に増加した。この背景には、国内のエタノール需要の低下やレアル安による収益の増加が、製糖業者の輸出意欲を高めていることがある。現地報道によると、同国最大の砂糖生産地サンパウロ州に位置するサントス港では、COVID-19感染者の発生による積荷作業の遅延に加え、5月以降の砂糖輸出量の増加を受けて荷役の滞留が発生し、それを補完すべく同州のサオセバスチャオ港では15年ぶりに砂糖の船積みが行われた。

(注)HSコード1701.14および1701.99の合計。
表2
(参考)ブラジル
インド
2019/20年度、砂糖生産量は減少するものの、輸出量は増加する見込み
 サトウキビの主産地であるマハラシュトラ州で発生した豪雨による大規模な()(じょう)の浸水被害などが影響し、2019/20年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は461万ヘクタール(前年度比10.4%減、6月予測よりわずかに増加)とかなりの程度減少し、サトウキビ生産量は3億5392万トン(同14.0%減、6月予測より増加)とかなり大きく減少すると見込まれる(表3)。

 サトウキビの減産や生育不良による糖度の低下を受け、砂糖生産量は2933万トン(同18.1%減、6月予測より変化なし)と大幅に減少すると見込まれる。輸出量は、インド通貨ルピーが米ドルに対し安値圏で推移していることや、インド政府による輸出促進政策(同政府は2019/20年度に「砂糖輸出量600万トン」の目標を設定)達成に向けた動きが加速すると見られることから、741万トン(同34.6%増、6月予測より増加)と大幅に増加すると見込まれている。

国内最大のサトウキビ生産地にバッタの大群が襲来
 インド農業農家福祉省は国内最大のサトウキビ生産地であるウッタル・プラデーシュ州で5月16日から31日の間に、(こう)(がい)(注)をもたらすサバクトビバッタが今季初めて確認されたと発表した。同州のほか、ラジャスタン州やパンジャブ州などの北西部や、マハラシュトラ州やグジャラート州などの西部では、トラクターや消防車のほかドローンの活用により殺虫剤を散布して、虫害の抑制に取り組んでいる。これにより同省は、4月11日から6月26日までの約2カ月半に、12万7225ヘクタールで防除が行われたと発表している。また、7月5日には、インド空軍がラジャスタン州でヘリコプターを出動させ、上空からバッタに殺虫剤を噴霧するなどの追加の防除活動を行ったとのことである。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、アフリカ東部では、頻繁にサイクロンが発生したため、繁殖環境が良好となったことなどの諸条件が重なったことでおびただしい数のバッタが繁殖しており、過去最大規模ともいえるバッタの襲来が、インド農業に深刻な影響を与える恐れがあると警告している。

 同国においては、COVID-19感染者数が世界第3位となる70万人以上に達したほか(7月7日時点)、感染拡大回避策として実行された都市封鎖などによって数百万人もの人々が職を失い、貧困に追い込まれている。感染の広がりを封じ込め、インド経済への影響の軽減を図る同国の第2次モディ政権にとって、バッタの襲来は新たな課題となっている。

(注)相変異(さまざまな生活条件や群れの密度の変化によって、姿と行動が異なる個体を生じること)を起こす一部のバッタ類(トノサマバッタなど)の大量発生による災害のこと。今年に入り、アフリカや中東、インド、南米と世界各地で被害が報告されている。

エタノール生産によって砂糖80万トン分が削減される見込み
 インド製糖協会(ISMA)は6月29日、2019/20エタノール年度(12月〜翌11月)において、製糖業者とエタノール製造業者が燃料配給企業と締結したエタノールの売買契約に基づき(エタノール17億リットル)、そのうちの9億2500万リットルが燃料配給企業に納品されたことを公表した。これにより、同国のガソリンへのエタノール混合率は平均5.09%となり、一部の州では混合率が8〜9%台に達しているという。
 
 ISMAによると、既に糖みつ(Bモラセス)(注)およびサトウキビ由来のエタノール5億8000万リットルが納品されており、同年度末までに2億3000万リットルが新たに生産される見込みであることから、合計で砂糖生産量80万トン分の削減につながると見込んでいる。なお、インド政府は2022年までにガソリンへのエタノール混合率を10%に引き上げる目標を掲げており、来年度には30億〜35億リットル(ガソリンへのエタノール混合率7.5〜8.0%相当)のエタノール供給を目指している。

(注)砂糖の製造工程では、搾り汁を煮詰めて結晶化させ、これを遠心分離機で脱水し、砂糖と糖みつを分離する。このとき得られた糖みつをAモラセスと呼び、これにはまだ砂糖が残っているので再度煮詰め、脱水する作業を繰り返す。このとき脱水して取り出した糖みつをBモラセスと呼ぶ。インドでは2018年7月に、サトウキビの搾り汁およびBモラセスを直接バイオエタノール生産に仕向けることが認められた。
表3
(参考)インド
中国
2019/20年度、輸入量はかなり大きく増加する見込み
 2019/20年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は118万ヘクタール(前年度比3.5%減、6月予測より変化なし)とやや減少し、天候不順で停滞していたサトウキビの生育状況に回復の兆しが見られるものの、収穫面積の減少による影響を相殺しきれず、サトウキビ生産量は7769万トン(同1.1%減、6月予測より変化なし)とわずかに減少すると見込まれる(表4)。てん菜の主産地である内モンゴル自治区でヨトウムシなどによる害虫被害が発生したことから、てん菜の収穫面積は21万ヘクタール(同12.4%減、6月予測より変化なし)とかなり大きく減少すると見込まれる。生育期間を通じておおむね天候に恵まれ、てん菜の糖分は前年度を上回っているものの、収穫面積の減少分を補うに至らず、てん菜生産量は1090万トン(同6.6%減、6月予測より変化なし)とかなりの程度減少すると見込まれる。

 原料の減産に伴い、砂糖生産量は1125万トン(同3.4%減、6月予測より増加)とやや減少すると見込まれる。中央政府による国内の砂糖在庫の増加方針を受け、輸入量は561万トン(同11.3%増、6月予測より減少)とかなり大きく増加すると見込まれる。

関税割当枠外で輸入される砂糖について、輸入報告を義務付け
 中国商務部は6月29日、輸入報告の管理対象品目に関税割当枠外で輸入される砂糖を7月1日から追加することを発表した。対象となる砂糖は、粗糖、精製糖、香料または着色料が添加された砂糖などである。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、「対外貿易経営者は、[1]契約締結後、 [2]貨物が出港後、[3]貨物の港への到着後、[4]報告事項に変更があった後、それぞれについて要求された期間内に輸入報告が義務付けられている」(注1)。商務部は、収集した砂糖の輸入関連情報を半月に1回の頻度でホームページ上に公開するとしている。

 現在中国では、砂糖輸入において195万トンの関税割当数量(枠内税率15%)が定められている。関税割当枠外の砂糖については、5月21日まで85%の関税が賦課されていたが、22日から50%に引き下げられ(注2)、今回の措置はこれに続くものである。

(注1)出所:日本貿易振興機構(ジェトロ)ウェブサイト「中国ー貿易管理制度ー輸入品目規制」
(注2)詳細は、2020年6月12日付海外情報「関税割当枠外の砂糖への追加関税を撤廃(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002725.html)を参照されたい。
表4
(参考)中国
EU
2019/20年度、輸出量は大幅に減少する見込み
 2019/20年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は162万ヘクタール(前年度比5.5%減、6月予測よりわずかに増加)とやや減少すると見込まれる(表5)。てん菜生産量は、深刻な干ばつに見舞われた前年度からの反動で1億1474万トン(同3.3%増、6月予測より増加)とやや増加すると見込まれる。

 平年より高温・乾燥した状況が続いたEU最大の砂糖生産国フランスにおけるてん菜の糖分低下などが響き、砂糖生産量は1816万トン(同0.5%減、6月予測より増加)と横ばいで推移すると見込まれる。輸出量は、生産量が消費量を下回ると予想されることから、130万トン(同31.2%減、6月予測より増加)と大幅に減少すると見込まれる。

欧州てん菜生産者連盟、砂糖産業への救済措置を要請
 欧州てん菜生産者連盟(CIBE)は6月29日、短期的な砂糖の需給動向を発表した。これによると、COVID-19の拡大抑制を目的とした都市封鎖の実施によって家庭での砂糖消費量が増加傾向にあるものの、外食産業での砂糖需要が減少することで、EUの砂糖消費量は減少すると見込まれる。また、EU域内の砂糖価格は、2020年初の予測に反して参考価格(注)(1トン当たり404.4ユーロ〈4万9741円〉)付近まで下落しており、専門家の間では今後参考価格を下回る可能性も示唆されている。砂糖価格の下落によって、EUの砂糖産業は2020/21年度に約16億ユーロ(1968億円)の損失を受けると見込まれる。

 2019年10月〜翌5月末時点の砂糖輸入量は前年同期と比べて8.4%増加し、輸出量は、主要輸出先国のエジプトが砂糖の輸入を禁止したことから同57%減少した。また、無税枠で輸入した砂糖価格は、国際価格の下落と連動して同350ユーロ(4万3050円)まで下落し、参考価格を下回っている状況にある。

 CIBEは、EUの砂糖産業は危機に直面しているため、EU域内の砂糖価格を注視し、参考価格を下回った場合は砂糖産業の保護措置が必要であると訴えた。

(注)域内の需給均衡の維持を目的に2006/07年度から導入された。市場価格が参考価格を一定期間下回った場合、セーフティネットとして民間在庫補助が実施される。
表5
(参考)EU
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272