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3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2020年8月時点予測)

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最終更新日:2020年9月10日

3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2020年8月時点予測)

2020年9月

 本稿中の為替レートは2020年7月末日TTS相場の値であり、1インド・ルピー=1.56円である。
ブラジル
2020/21年度、砂糖生産量、輸出量ともに大幅に増加する見込み
 LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)の2020年8月時点の予測によると(以下、特段の断りがない限り同予測に基づく記述)、2020/21年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、原油の国際価格の動きに不安定さが見られ、バイオエタノール需要にも不透明感があるものの、バイオ燃料など再生可能エネルギーの生産・利用の促進を図るブラジルの国家政策「RenovaBio」の本格始動が生産意欲を後押しする可能性があることも踏まえ、864万ヘクタール(前年度同、7月予測より増加)と横ばいで推移すると見込まれる(表2)。サトウキビ生産量は、生育期間を通じて天候がおおむね良好で生育が順調であることから、6億4600万トン(前年度比0.6%増、7月予測より増加)とわずかに増加すると見込まれる。

 一方で砂糖生産量は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるバイオエタノール需要の不透明感を背景に、多くの製糖業者が砂糖生産に回帰する動きが見られることから、4287万トン(粗糖換算〈以下、特段の断りがない限り砂糖に係る数量は粗糖換算〉、同34.8%増、7月予測より増加)と大幅に増加すると見込まれる。この予測の下、ブラジル通貨レアルが米ドルに対して安値圏で推移することで輸出意欲が向上し、輸出量は3310万トン(同62.9%増、7月予測より増加)と大幅に増加すると見込まれる。

エタノールの輸入関税をめぐりトランプ政権から圧力
 ブラジル政府は米国政府から、米国産エタノールの輸入関税を引き下げるよう強い要請を受けており、その対応を迫られていると現地の報道が伝えた。

 ブラジルでは現在、米国産エタノールについて、年間7億5000万リットルまでは無税で輸入できるが、この量を超える輸入には20%の関税がかかる仕組みになっている。この関税割当制度は8月末に終了するため、それまでに、ブラジル政府は米国産エタノールに係る関税をどのようにするかを決定しなければならない。

 報道によれば、米国のトランプ大統領が、ブラジルが米国産エタノールの輸入関税を引き下げない場合、報復関税を課す可能性があると示唆したのに対し、ブラジルの交渉担当者は、仮に米国が設定しているブラジル産砂糖の無税輸入枠を超えた部分について、貿易障壁を撤廃するのであれば、ブラジルも同様の対応が可能と話したとされる。
表2
(参考)ブラジル
インド
2019/20年度、砂糖生産量は大幅に減少するものの、輸出量は大幅に増加する見込み
 サトウキビの主産地であるマハラシュトラ州で発生した豪雨による大規模な()(じょう)の浸水被害などが影響し、2019/20年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は461万ヘクタール(前年度比10.4%減、7月予測より変化なし)とかなりの程度減少し、サトウキビ生産量は3億5262万トン(同14.3%減、7月予測より減少)とかなり大きく減少すると見込まれる(表3)。

 サトウキビの減産や生育不良による糖度の低下を受け、砂糖生産量は2944万トン(同17.8%減、7月予測より増加)と大幅に減少すると見込まれる。輸出量は、インド通貨ルピーが米ドルに対し安値圏で推移していることや、インド政府による輸出促進政策(同政府は2019/20年度に「砂糖輸出量600万トン」の目標を設定)達成に向けた動きが加速すると見られることから、749万トン(同36.1%増、7月予測より増加)と大幅に増加すると見込まれている。

コロナ禍による労働力不足が、収穫の機械化を後押しする可能性
 インドのサトウキビ主産地であるマハラシュトラ州では、毎年100万人近くの季節労働者がサトウキビの収穫作業に従事しているが、2020/21年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けて、州外からやってくる季節労働者の不足が懸念されている。これを受け、全国協同組合砂糖工場連盟(NFCSF)は7月28日、同年度は労働力不足を埋め合わせるために、州全体でハーベスタ200台の新規購入を見込んでいると言及した。現在の同州のハーベスタによる収穫は、全体の約5%にとどまっており、ハーベスタは1台当たり1000万ルピー(1560万円)を超えることから、補助金なしでは、農家にとっては利潤向上のための投資にならず、製糖工場もサトウキビの収穫が終了して6カ月以上使用しない機械への投資には及び腰であると現地専門家は述べている。

 インド製糖協会(ISMA)の予測では、同州では2019年以降、降雨量が平均以上で推移しており、2020/21年度のサトウキビ栽培面積は111万ヘクタール(前年度比43.3%増)と、大幅な増加が見込まれていることから、収穫の機械化を後押しする可能性もある。
表3
(参考)インド
中国
2019/20年度、輸入量はかなり大きく増加する見込み
 2019/20年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は118万ヘクタール(前年度比3.5%減、7月予測より変化なし)とやや減少し、天候不順で停滞していたサトウキビの生育状況に回復の兆しが見られるものの、収穫面積の減少による影響を相殺しきれず、サトウキビ生産量は7449万トン(同5.2%減、7月予測より減少)とやや減少すると見込まれる(表4)。

 てん菜の主産地である内モンゴル自治区でヨトウムシなどによる虫害が発生したことから、てん菜の収穫面積は21万ヘクタール(同12.4%減、7月予測より変化なし)とかなり大きく減少すると見込まれる。生育期間を通じておおむね天候に恵まれ、てん菜の糖分は前年度を上回っているものの、収穫面積の減少分を補うに至らず、てん菜生産量は1090万トン(同6.6%減、7月予測より変化なし)とかなりの程度減少すると見込まれる。

 原料の減産に伴い、砂糖生産量は1125万トン(同3.4%減、7月予測より変化なし)とやや減少すると見込まれる。中央政府による国内の砂糖在庫の増加方針を受け、輸入量は574万トン(同14.0%増、7月予測より増加)とかなり大きく増加すると見込まれる。

台風が広西チワン族自治区における干ばつの影響を緩和
 中国最大のサトウキビ生産地である中国南部の広西チワン族自治区では、2020年の5月末以降、ほとんどの地域で平年に比べて気温が高くなるとともに、降雨量が減少し、深刻な干ばつが発生していた。しかし、8月1日から2日にかけて、隣接する海南島からベトナム北部にかけて接近した台風により、同自治区の南部と西部のサトウキビ生産地域に降水がもたらされたと現地の報道が伝えている。

 サトウキビが最も多くの水を必要とする茎の伸長期である7月末までの約2カ月間、同自治区では降雨がほとんどない中、地域の生産者と製糖業者は干ばつの被害による損失を最小限に抑えるため、取水ポンプの増設、新たな井戸の掘削、スプリンクラーの設置、灌漑(かんがい)用水路の整備などのさまざまな対策を取っていた。しかし、長期の干ばつによりサトウキビの葉が黄変するなど、生育が大きな影響を受けたため、同自治区における2020/21年度のサトウキビの収穫量は、前年度比で減少すると予想されている。
表4
(参考)中国
EU
2019/20年度の輸出量は、大幅に減少する見込み
 2019/20年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は162万ヘクタール(前年度比5.5%減、7月予測より変化なし)とやや減少すると見込まれる(表5)。てん菜生産量は、深刻な干ばつに見舞われた前年度からの反動で1億1474万トン(同3.3%増、7月予測より変化なし)とやや増加すると見込まれる。

 平年より高温・乾燥した状況が続いたEU最大の砂糖生産国フランスにおけるてん菜の糖分低下などが響き、砂糖生産量は1816万トン(同0.5%減、7月予測より変化なし)とわずかに減少すると見込まれる。輸出量は、生産量が消費量を下回ると予想されることから、130万トン(同31.2%減、7月予測より変化なし)と大幅に減少すると見込まれる。

フランス、ネオニコチノイド系農薬の緊急使用を認める方向
 EU最大のてん菜生産国フランスのてん菜生産者組合(CGB)は7月31日、現在国内にまん延している()(おう)病の撲滅に向け迅速な対応を取るよう、首相に要請した。萎黄病は、アブラムシによって媒介されるウイルス性の病気で、てん菜の単収を最大30〜50%減少させるとされている。現地報道によると、同国では4月以降、萎黄病が国内五つの地域圏で発生し、中でもサントル=ヴァル・ド・ロワール地域圏では、てん菜圃場の約半分が被害を受けている(図3)。なお、萎黄病への防除にはネオニコチノイド系農薬が効果的であるが、同国では2018年以降、その散布がミツバチなどの生態系に影響を及ぼすとして、同農薬の使用が禁止されている。同国農業・食料省は8月6日、萎黄病の有効な防除方法がない現状を危機的状況と判断し、同農薬の緊急使用を含めた砂糖産業の支援計画を実施すると発表した(注)

(注)種子表面へのコーティングのみを認め、噴霧による使用は引き続き禁止する。また、同農薬の緊急使用については、法律の改正作業を今秋に行うとしている。


英国、肥満対策として砂糖などを多く含む食品の販売促進や広告への規制を計画
 英国政府は7月27日、脂質・砂糖・塩分を多く含む食品(HFSS)を対象に、購入量の増加を促す販売方法(「buy one get one free(1つ買ったらもう1つは無料)」など)や、午後9時までテレビやインターネットでの広告配信を禁止し、肥満人口の削減に取り組む方針を明らかにした。このほかにも、大手のレストランやカフェ、食事のテイクアウトサービスを対象に、取扱商品のエネルギー量表示の義務付けや、現行の栄養表示制度の見直しなども実施する予定としている。同政府によると、これらの政策は、人々がより健康的な食生活を選択できる環境づくりのほか、肥満との関係が指摘されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者の削減にも寄与するとしている。

 一方、同国の業界団体である英国食品・飲料連盟(Food and Drink Federation)は、本政策は肥満対策としての根拠に乏しく、COVID-19の影響による不安定な経済状況下において、食品などの安売りを禁止し、家計により一層の負担をもたらすのはおかしいと批判した。
表5
(参考)EU
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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