土づくりと施肥設計の重要性〜農産物生産性向上に向けた地域の取り組みについて〜
最終更新日:2020年12月10日
土づくりと施肥設計の重要性〜農産物生産性向上に向けた地域の取り組みについて〜
2020年12月
【要約】
北海道の畑作農業は経営面積の増加による労働力確保の問題、機械や資材費の物価上昇による生産コストの増加などの問題により、未来は決して明るいとは言えない。特にてん菜はその傾向が強く、北海道全体の作付面積は減少傾向である。永続的な経営を実現するためには輪作体系の維持は必須であると考えており、私の実践している土づくりとそれに伴う施肥コストの削減方法を紹介したい。
はじめに
私の住む北海道斜里郡小清水町はオホーツク海に面しており、年間降水量は少なく日照率も高い地域である(図1)。夏は小清水原生花園にて約200種類の花をその時々で楽しめ、冬は雪が少なく2月から3月には流氷が接岸するなど、年間を通じて観光客が多い地域となっている。
小清水町農業は主要畑作物のてん菜・小麦・ばれいしょの3品目を中心に大豆も栽培し、その他に青果物(にんじん、たまねぎ、ごぼう、アスパラガス、ブロッコリーなど)の栽培も行っている。畜産については、酪農が専業または畑作と複合、肉用牛生産が畑作と複合で行われているという特徴がある。
当農場においてはてん菜(11ヘクタール)、ばれいしょ(6ヘクタール)、小麦(9ヘクタール)、大豆(2ヘクタール)、青果物(たまねぎ3ヘクタール)を栽培している。
作物を栽培するに当たり、当農場では土づくりと施肥設計に重点をおいて営農をしているのでここに紹介する。
1.土づくり
現在、北海道の畑の有機物は減少傾向にあり、各農作物の増収や気温の上昇、畑づくりにおいての深耕などが要因ではないかと考えている(図2)。
畑へ有機物を補給しなければ腐植が減少して土が硬くなり水持ちが悪くなることはもちろんであるが、加えて土壌病害やセンチュウの被害、作物によっては地力窒素の減耗や養分の偏重などが重なり作物の減収につながっていく。
当農場においては父の代から牛ふん堆肥を使った土づくりを行っている。小麦収穫時に出る麦稈を酪農家に譲り、酪農家はそれを牛の敷料として使う。使用後は牛ふんと混ぜ、発酵を促す。私はそれを自ら運び、夏季に5回程度切り返しをして堆肥化し、これをてん菜やたまねぎの作付けの前年の秋に10アール当たり4〜5トン散布している。切り返しを夏季に実施することにより発酵温度を上げて、病原菌の繁殖を防いでいる。このような循環型農業を行うことにより、持続可能な農業経営を目指している。
また、堆肥以外にも緑肥の播種やばれいしょ作付け前の米ぬかの散布など、畑にできるだけ有機物を取り込めるように心掛けている。
先代から続いているこのような土づくりがあり、現在の地力の維持につながっている。経営が安定し豊かな営農を実現させるためには土づくりは一番重要な事と考えている。
2.施肥設計について
施肥については毎年、全圃場の土壌診断を行い、上述の土づくりを基にした施肥設計を組んでいる(表1)。当農場のある地域は黒ボク土壌でCEC(陽イオン交換容量。土壌の保肥力の目安となる指標)は17〜20、リン酸吸収係数は1500程度であり、潜在的に石灰や苦土が不足気味の傾向である。当農場においても例外ではなく、さらに堆肥施用によるカリ過剰も合わさって以前は塩基バランスが崩れているという状況であった。
「肥料を変える」ということはなかなか勇気のいることである。なぜなら高い肥料に変えたり施肥量を増やしたりしても収穫量が増えるとは限らないからである。施肥した肥料が土の中でどのような化学変化をし、作物に吸収されていくか。また、それが多いか少ないかというのは目で見えるものではなく、作物の生育との時間差もあるため判断がとても難しい。そのため生育不良が起きた時にはどうしても「天気のせい」にしてしまいがちである。
しかしせっかく施した肥料をできるだけ無駄なく、効率よく効かせ、収穫量を最大限に増やそうとするならばやはりpHや塩基飽和度、塩基バランスの適正化が重要であると考える。ましてや近年の異常気象や自然災害の多い中で毎年安定した作物生産を維持していくにはなおさらである。
実際のところ、明らかに不足していると分かる養分については追加することができるが、過剰な養分に対して減肥することは決断しづらいものである。しかし過剰な肥料を減らす勇気を持つことができればコストを増やすことなく作物生産に必要な土台ができるのではないだろうか。
ここで当農場におけるてん菜とばれいしょにおける施肥の概要について紹介する。
(1)てん菜
以前は町内で最も普及している方法(肥料銘柄Aを10アール当たり160キログラム施用)だったが平成21年の肥料高騰を機に同130キログラムに、28年からは低カリ銘柄のCに変更、さらに30年からは単肥配合に取り組んでいる(表2)。結果は表の通り確実に肥料費を減らすことができ、30年の肥料費は小清水町平均の10アール当たり1万8040円に対し同9144円と町平均比51%の削減となった(図3)。土壌分析結果から牛ふん堆肥の定期的な施用によって蓄積しているリン酸やカリを減肥し、逆に塩基バランスを整えるため苦土を増肥しているが、それでもトータルで肥料コストを削減することが可能となった。
一方、収量は北海道の糖量(収穫量×根中糖分)平均に対し120%以上を維持しており、肥料コストを抑えても収量を確保できることを実証することができた(表3)。要因としては塩基バランスを整えることの重要性が大きく、リン酸が蓄積している圃場では減肥しても生育に影響はなく、むしろ病害抵抗性が高まったためと考える。また、29年と令和元年には春先の強風により移植したばかりの苗に甚大な被害を受けたが、最終的には一定量の収量を得ることができた。これも日頃の土づくりが功を奏したのだと考える。
管理作業などについては特筆するようなことは行っていないが、地域の農業者と共同で育苗ハウスを建て、播種作業や温度、水管理を共有することで安定した苗を作れるよう努めている。また、収穫作業も共同で行うことで機械に掛かる経費の削減も図っている。
(2)ばれいしょ
当農場では主にでん粉原料用種子と生食用ばれいしょを生産しており、前作や品種による違いはあるが基本的に施肥窒素量は10アール当たり5〜6キログラムとしている(町平均同10キログラム)。それにばれいしょ作付け前に施用する米ぬか、作付け後の生育を見て追肥する窒素やカルシウム資材によって調整している。ただ、前作がてん菜になることが多く、土壌pHのコントロール(てん菜の好適pHは6〜6.5、ばれいしょは5〜5.5程度)が課題である。
3.土づくりにおける地域の活動について
私が営農している小清水町水上地区では平成22年より自主的に土壌診断を実施して施肥設計を基にした生産力向上を目指す取り組みが年に一回行われている。
生産者が土を持ち寄り、土壌分析検定機を使用してpH、アンモニア態窒素、硝酸態窒素リン酸、カリ、苦土、石灰などを測定し施肥設計まで実施している(写真1)。
現在は水上地区の方を中心に「オホーツク土壌医の会」を結成し、土づくりの重要性を広く伝えるために、JAこしみず青年部への講習会や土壌医検定の勉強会を開催、土壌医検定の勉強会については年に4〜5回開催しているが、小清水町全域の農家の若い方が中心に興味を持ち、毎回15人前後が参加している(写真2)。私も土壌医の会の一員として講師で参加しているが、就農してすぐの若い方も勉強会に参加して、勉強している姿を見ると本当にうれしく感じている。
営農する上でより多くの農家が土づくりの重要性に興味を持ち、実践する事が小清水町農業の将来の発展へつながると考えているので、今後も「オホーツク土壌医の会」の仲間と共により良い活動を展開できるように努めていきたいと思っている。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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