沖縄本島北部地区における効率的なさとうきび作業受委託システムの構築に向けて
最終更新日:2021年2月10日
沖縄本島北部地区における効率的なさとうきび作業受委託システムの構築に向けて
〜さとうきびハーベスタ収穫の作業受委託への取り組みの調査から〜
沖縄県農林水産部 北部農林水産振興センター農業改良普及課 山城 梢
沖縄県農業研究センター 真武 信一
沖縄県農林水産部 南部農業改良普及センター 外間 康洋
沖縄県農業研究センター 名護支所 比屋根 真一
【要約】
沖縄本島北部地区のさとうきびハーベスタ収穫の作業受委託は、JA各支店(=さとうきび生産組合事務局)が調整機関として、さとうきび農家と機械を所有するオペレーターを仲介・斡旋し運営に地域性が見られた。今後、植え付けや肥培・株出し管理の作業受委託の必要性は増すと考えられ、既存のハーベスタ収穫の受委託体制を生かしつつ、支店間の連携や市町村を越えた広範な区域設定など、広域的な作業受委託体制および組織の構築を提案する。
はじめに
沖縄本島北部地区(注1)(以下「本島北部」という)では、県内の他地域にも増して、さとうきび生産者の高齢化、担い手不足が深刻化してきている。生産者の半数近くは70歳以上の高齢農家であるが、篤農家も多く本島北部のさとうきび生産を担っている。しかしながら、今後、生産者の高齢化が一層進行することは確実で、高齢農家の各種作業を補完あるいは支援していく体制づくりを急がなくてはならない状況にある。このような中、さとうきびの生産振興、生産効率化に向け、次世代や新たな受委託の体制も見据え、ビレットプランタ(注2)を導入した機械化一貫体系の構築、スマート農業の実証試験など、新しい取り組みが始まっている。今後さらに進む生産者の高齢化、その状況にも対応しながらの生産基盤の維持、新たな担い手も見据えた機械化一貫体系の推進に向け、機械作業を担う作業受託組織の育成・強化も強く求められているところである。
本島北部では、植え付けや管理作業を組織的に担う作業受託は少ないが、ハーベスタ収穫作業の受委託は、JA各支店(=さとうきび生産組合事務局、以下「組合事務局」という)を通して行われており、ハーベスタ収穫率は86%に達している。そこで、効率的なさとうきび作業受委託システムの構築に向けて、本島北部で進展しているハーベスタ収穫の作業受委託の状況について、令和元年5月から7月にかけて本島北部の組合事務局11カ所に聞き取り調査を行った。
なお、本調査は沖縄県の令和元年度持続可能なさとうきび経営構築事業の一環として実施したものである。
(注1)沖縄本島北部地区は、名護市、国頭村、大宜味村、東村、今帰仁村、本部町、恩納村、宜野座村、金武町の9市町村から成る(図1)。
(注2)さとうきびハーベスタを用いて採苗した細断茎を用い、施肥や農薬施用なども併せ、省力的かつ効率的に植え付けを行う作業機械。
1.本島北部のさとうきび生産
本島北部の大部分の土壌は、赤〜黄色の「国頭マージ」と呼ばれる酸性土壌で、肥沃度は低いが、酸性土壌を生かしパイナップル、かんきつ、茶が栽培できる地域である。本島北部の農業産出額は267億5000万円で、そのうち畜産が49%を占め、中でも養豚が盛んである。次いで、花き17%、野菜14%、果樹13%と園芸品目が続いている。さとうきびを含む工芸農作物は、全体の4%程度である(図2)。
2015年農林業センサスによると、本島北部の農家数2900戸のうち、さとうきび農家数は1481戸で51%を占める。生産者の高齢化や兼業化の進展による遊休地の増加や労働力不足による管理作業の遅れ、他品目への転作などの影響により、面積、生産量が減少傾向で推移している(図3)。作型別では、令和元年産の収穫面積のうち、株出しが82.8%、春植えが12.1%、夏植えが5.1%と株出し栽培が多い。品種は、NiF8が多く令和元年産の収穫面積のうち25.2%で作付けされており、本島中部(16.8%)、本島南部(14.3%)に比べ多い。最近では、Ni27、Ni28、Ni29が農家に好まれ、市町村の種苗圃でも導入が増えてきておりNiF8は減少傾向にある。単収は4トン前後で推移しており本島中南部に比べて低い(図4)。機械収穫率は85.7%で、本島中南部に比べて高く収穫作業の機械化が進んでいる(図5)。30アール未満の小規模農家は本島中南部は5割を越えているが、本島北部は32.6%、1戸当たりの収穫面積は72.6アールで、本島中部(35.3アール)、本島南部(42.8アール)よりも経営規模は大きいが1筆が小さく数カ所に点在している経営体が多い。
2.ハーベスタ収穫作業受委託の取り組み
(1)組織の概要
ハーベスタ収穫を受託している組合事務局は、本島北部9市町村におのおの設置され、作付面積・生産量の大きい名護市は羽地地区(屋我地地区含む)、名護地区、久志地区の3組合があり、北部には計11組合が存在する。また、JAおきなわ各支店で「さとうきび生産圃場植付調査(OCR調査)」を取りまとめており、JA職員が組合事務局担当を兼ねている。さとうきび生産組合は製糖工場へ出荷しているさとうきび農家が加入している組織であり、組合の活動で栽培講習会、視察研修などが行われている。国頭地区、羽地地区、名護地区の組合ではハーベスタ収穫以外に、トラクター作業も受託している。
(2)ハーベスタ収穫作業の受委託の流れ
ハーベスタ収穫作業の受委託の流れを図6に示す。まずさとうきび農家は6〜8月に実施されるOCR調査の実施時に、ハーベスタ収穫作業を申し込む。圃場場所、面積、作型も報告し、組合事務局で取りまとめる。オペレーターは組合事務局で登録されており、ハーベスタを所有する生産組合所在地の地域在住者で、さとうきび農家が多い。また、収穫作業の調整は組合事務局担当者と共に製糖工場から委託された督励員(注)が担っており、オペレーター同様に地域在住者で、地域の区長やさとうきび農家が担っている場合が多い。OCR調査時に申し込まれた情報を基に、組合事務局、督励員、JA・製糖工場指導員などで製糖期間中の収穫スケジュールが集落単位でおおまかに設定される。製糖開始前の12月に、生産組合単位で行われる製糖説明会やオペレーター会議で収穫作業が割り振られる。ハーベスタは補助事業で購入されたものが多く、事業の受益地区との関係で作業を受け持つ圃場のエリアや委託側のさとうきび農家はほぼ固定されている。
(注)令和元年調査時点では金武町および東村に督励員の配置はなかった。
(3)ハーベスタ収穫作業の実施
ハーベスタ収穫方法は、地区によって異なる(表)。オペレーターが1人のみの大宜味地区、東地区では、作業はオペレーターに一任されている。国頭地区では、エリアが三つに分かれ、各エリアの収穫を1人のオペレーターが受け持ち、作業はオペレーターに任されている。本島で最も北に位置する国頭地区では、効率的なハーベスタの移動や収穫物の運搬のため、年によって異なるが例えば北側の圃場から収穫を始め、南側の圃場へと移動して収穫を行っている。羽地・屋我地地区も同様であるが、新植への更新予定のある圃場から収穫を行い、その後はオペレーターに任されている。名護地区では収穫順は集落で固定され、喜瀬区→幸喜区・許田区・数久田区→大北区→屋部区→為又区の順で毎年、ハーベスタ収穫が行われている。喜瀬区は、水稲作地域であり、2月中旬から始まる一期米の植え付け準備のため、最初にさとうきびの収穫を実施している。また、生育量の多い順に夏植え→株出し→春植えの収穫、さらには、更新予定のある古株の圃場から先に行うなど、さとうきびの生育や圃場更新の有無で収穫順番を決めている地区もある。金武地区、久志地区、恩納地区では、今年はA区→B区→C区→D区、翌年はB区→C区→D区→A区、というように、地域内で1年ごとに輪番制を取っている。
作業料金の精算は、組合事務局を兼ねているJAが生産者へ入金される原料代から作業料金を差し引いて、オペレーターへ振り込む体制ができている。
本島北部では、平成30年産の収穫は計40台の小型ハーベスタ(100馬力未満)で収穫が行われている。ハーベスタの台数は、生産農家・生産量が多い地区(宜野座、今帰仁、羽地、屋我地)では、4〜7台(1地区当たり5.3台)、それ以外の地区では1〜4台(同2.4台)となっている(表、図7)。ハーベスタ1台当たりの収穫量は地区ごとの平均で323〜1230トンで、東村や大宜味村のように生産量が少ない地域もあれば、機械の老朽化などによりフル稼働できないため、受託はせず自作地のみの収穫で稼働している機械もある。オペレーターは担当地区の収穫終了後、依頼があれば沖縄本島内の他地区へ収穫作業の支援に出向くこともある。
課題として、管理不足などで著しく低単収の圃場については、委託農家へハーベスタ収穫を断念させる場合があり、農家への説得に苦慮する状況が多く挙げられていた。
3.まとめ 〜効率的なさとうきび作業受委託システムの構築に向けて〜
本島北部のハーベスタ収穫での作業受委託は、組合事務局を中心に体制が整備され、運営に地域性が見られる。高齢化や担い手の減少が進む中、植え付けや肥培管理、株出し管理まで作業委託のニーズも高まってきており、今後さらに必要性を増すと考えられる。しかし、生産量、作付面積は地域ごとに差があり機械の稼働が十分でなかったり、ハーベスタオペレーターの多くがさとうきび農家であるなど、労働力確保の課題もある。
効率的な作業受委託システム構築に向けて、既存のハーベスタ作業の受委託体制は生かしつつ、植え付けやトラクター作業などでは、組合事務局間の連携や市町村を越えた広範な区域設定など、広域的な作業受委託体制および組織の構築を提案する。広域的な体制により、他品目・他業種からのオペレーターの確保、作業機械の稼働率向上、技術力や苗の融通が行え、本島北部のさとうきび生産の維持・発展にもつながると考える。
今回は組合事務局に聞き取り調査を行ったが、作業を実施するオペレーターや作業を委託する農家の意向も把握する必要がある。これらについては、今後の課題としたい。
付記 お忙しい中、調査にご協力いただいた本島北部地区のJAおきなわさとうきび生産組合事務局担当者さま、関係各位にこの場を借りて心より感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272