てん菜の栽培は、移植栽培が主流で、前述のとおり労働力不足による省力化や経営面積の規模拡大などの生産体制の変化によって、年々直播栽培が増加している。
直播栽培のメリットは、春先の育苗作業を必要としないため、圃場への苗の運搬も不要であることなど複合的な事由が挙げられるが、最大のメリットは移植作業に係る作業時間を削減し、移植機など機械の導入や管理費用への投資を抑えることを可能にしていることである。これらが結果として労働力の確保や生産費の削減につながり、気候の条件などによる地域間での適性有無はありつつも、令和2年の全道の直播栽培面積は1万7725ヘクタール(直播率31.2%)を記録した(図4)。
移植栽培で必要となる3月頃からの育苗作業は、てん菜生産の中でも最も労働時間を要するが、自動散水機などの機械化に加えて、近年では播種作業を複数人で行うなど共同化の流れが進み、育苗作業の投下労働時間は、平成28年の10アール当たり3.02時間から30年には同2.58時間まで減少している。
また、移植作業の投下労働時間も同様に、全自動移植機などの普及が要因となり28年の同2.51時間から30年には同2.25時間まで減少している。
一方、収穫作業にかかる労働時間は横ばいで推移しており、1戸当たりの経営面積が増加している中で、受委託制度を活用した多畦収穫機の普及が期待されている(表6)。
直播栽培は、北海道全域で増加しているが、主産地であるオホーツク地域および十勝地域では、浸透度合いが異なり、その他の地域では急速に普及拡大している現状にある。
十勝地域は、道内でも大規模経営体がより多く存在する地帯であり、小麦、豆類、ばれいしょ、てん菜の4作物が基本輪作体系にあることから、豆類を除いた3作物での輪作体系を基本としているオホーツク地域に比べて輪作作物が多い。そのため、個々の作物に合わせた作業がより多く求められ、限られた労働力で適期の作業を行う必要がある。とりわけ、てん菜の直播栽培の播種作業は、ばれいしょの作付け前の4月中下旬から5月上旬にかけて行えることから、作業重複を避けられる点で大きな省力化につながる。
そのため、十勝地域の平成22年と令和2年の直播栽培面積を比較すると、2518ヘクタール(直播率9.4%)から8828ヘクタール(同35.6%)と3倍以上に拡大している(図5)。
一方、直播栽培は、移植栽培と比較して1〜2割程度の根重および糖量減や風害による苗の損傷を受けやすいことがデメリットとして挙げられることから、導入に際して圃場適性を考慮する必要がある。
オホーツク地域は、特に春先に同地域特有の南西風が吹き風害の恐れがあることから、地区によっては慎重な見極めが必要である。このような気候的条件の制約や3輪作が基本のオホーツク地域では、令和2年の直播栽培の作付面積は4076ヘクタール(同17.6%)にとどまっている。
空知地方を含む道央地域および渡島・胆振地方を含む道南地域では、令和2年の作付面積はそれぞれ4439ヘクタール、4386ヘクタールである。過去10年では、両地域とも多少の増減はありながらも4000〜5000ヘクタールの作付面積の規模を維持しているが、直播栽培の作付面積の割合は増加しており、2年は道央地域が2527ヘクタール(同56.9%)、道南地域が2294ヘクタール(同52.3%)となり、直播栽培が拡大している。
道南地域や道央地域は、米や野菜を主体とした農業が展開され、水稲の転作作物として、てん菜の作付けに取り組んでいる。比較的中規模の経営体が多く点在し多品目の農作物を作付けしていることから、移植栽培に費やす時間的制約および専用機械などの投資を抑えるために直播栽培が浸透していると考えられる。
このように地域ごとの特性はあるにせよ、てん菜の移植栽培から直播栽培への転換は、労働負担の軽減が背景にある。前述で述べたとおり、移植栽培に比べて収量の低下や自然災害などに弱いことが直播栽培の課題として挙げられているが、それ以上に労働力の確保が課題となっているてん菜生産においては、今後さらに増加していくものと考えられる。