3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2021年1月時点予測)
最終更新日:2021年2月10日
3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2021年1月時点予測)
2021年2月
本稿中の為替レートは2020年12月末日TTS相場の値であり、1インドルピー=1.57円である。
2020/21年度の砂糖生産量、輸出量は、ともに大幅増の見込み
LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)の2021年1月時点の予測によると(以下、特段の断りがない限り同予測に基づく記述)、2020/21年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、原油の国際価格の動きに不安定さが見られ、バイオエタノール需要にも不透明感があるものの、バイオ燃料など再生可能エネルギーの生産・利用の促進を図るブラジルの国家政策「RenovaBio」(注1)の本格始動が生産意欲を後押しする可能性があることも踏まえ、871万ヘクタール(前年度比1.2%増)とわずかに増加すると見込まれる(表2)。サトウキビ生産量は、生育期間を通じて天候がおおむね良好で生育が順調であることから、6億6000万トン(同2.7%増)とわずかに増加すると見込まれる。
一方、砂糖生産量は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるバイオエタノール需要の不透明感を背景に、多くの製糖業者が砂糖生産に回帰する動きが見られることから、4485万トン(粗糖換算〈以下、特段の断りがない限り砂糖に係る数量は粗糖換算〉、同41.0%増)と大幅な増産が見込まれる。この予測の下、ブラジルレアルが米ドルに対して安値圏で推移することで輸出意欲が向上し、輸出量は3395万トン(同67.1%増)と大幅に増加すると見込まれる。
バイオエタノール製造業者の65%が炭素排出権の認証を取得
ブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)は2020年12月15日、全国のバイオエタノール製造業者のうち65%(同国のバイオエタノール生産量の85%を占める)が、再生可能エネルギー政策「RenovaBio」に基づき、炭素排出権(以下「排出権」)の認証を受けていることを発表した(注2)。同政策では、石油会社などが石油を販売する際、その販売量を基に算出される二酸化炭素排出量に応じた排出権を、バイオ燃料製造業者から購入することが義務付けられており、排出権の販売は、ブラジル石油・天然ガス・バイオ燃料監督庁(ANP)の認証を受けたバイオ燃料製造業者に限定され、バイオ燃料の生産量に応じた排出権が付与されている。
2020年12月11日現在、既に1700万クレジットを超える排出権が付与され、そのうちの80%以上が石油会社などによって購入されているが、UNICAは、2020年12月末までに1800万クレジットの排出権が付与されると推計しており、2021年3月末までに2300万クレジットに達する可能性があるとしている(注3)。
(注1)温室効果ガス排出量の抑制などを目的として、2019年末に施行。
(注2)認証を取得しているバイオ燃料製造業者数は、バイオエタノール製造所:215事業所、バイオディーゼル製造所:22事業所、バイオメタン製造業者:1事業所となっている。
(注3)1クレジットは二酸化炭素換算で1トン相当の排出権となっている。2020年9月、COVID-19による燃料需要の減少を受けて、2020年における排出権の取引目標値は、1450万クレジットと、当初目標から50%引き下げられていた。
2020/21年度の砂糖生産量はかなり大きく、輸出量はやや増加する見込み
2020/21年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は、豪雨による大規模な圃場の浸水被害に見舞われた昨年度からの反動で、473万ヘクタール(前年度比6.5%増)とかなりの程度増加すると見込まれる(表3)。サトウキビの主産地であるマハラシュトラ州では、年間降雨量が集中するモンスーン期(6〜9月)における降雨が順調であることから、ダムの水位回復により、サトウキビ生産量は3億9338万トン(同13.6%増)、砂糖生産量も3375万トン(同14.7%増)といずれもかなり大きく増加すると見込まれる。輸出補助金の発表や粗糖の国際価格の堅調な推移、国内の砂糖価格の下落などを受けて、製糖業者は砂糖輸出を促進すると見られ、輸出量は842万トン(同4.2%増)とやや増加すると見込まれる。
輸出補助金と先物相場の高水準が、2021年1月〜3月の輸出を促進
インド政府は、砂糖の輸出奨励補助金の交付を2020年12月16日付けで閣議決定した。この決定により、10月1日から始まった2020/21年度においては、輸出量600万トンを上限に約3500万ルピー(5495万円)、1トン当たり5833ルピー(9158円)の補助金が交付されることとなった。インドの製糖業者は余剰在庫を抱える一方で、サトウキビ農家へのサトウキビ代金の支払遅延が発生するなど慢性的な資金不足に陥っている中、同国政府は輸出補助金の交付により、在庫圧縮と円滑な代金支払を促進するとしている。
2021年1月8日付けの報道によると、この輸出補助金に加え粗糖先物相場が3年半ぶりの高水準に達していることから、インドの製糖業者は積極的に砂糖の輸出契約を締結しており、関係者の話として、2021年1月から3月までの出荷分として、主にインドネシア、スリランカ、アフガニスタン、アフリカ諸国へ合計150万トンの砂糖を輸出する契約に合意している、と伝えている。従来、インドネシアでは輸入品の過半をタイ産が占めていたが、インド産の輸入に当たり、2019年7月にASEAN・インド自由貿易協定に基づき、インドネシア産パーム油の市場アクセス改善と引き換えに、インド産砂糖の関税率を5%に引き下げた他、2020年初頭から輸入糖度基準を緩和し、タイ産砂糖と競争条件を同一にしていた。
この積極的な輸出契約により、世界第2位の砂糖生産量を誇るインドが、国内在庫量を減らし、なおかつ、供給過剰によって下落してきた国内の砂糖価格を押し上げると言われている。
2020/21年度の輸入量は、わずかに増加する見込み
2020/21年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は、雲南省では面積の増加がみられるものの、広西チワン族自治区と広東省での面積減少を受けて、116万ヘクタール(前年度比1.6%減)とわずかに減少すると見込まれ、サトウキビ生産量も、7360万トン(同3.5%減)とやや減少すると見込まれる(表4)。
また、同年度のてん菜の収穫面積は、内モンゴル自治区において、てん菜の買い取り価格が引き上げられたことから、生産者は作付面積を拡大し、収穫面積は23万ヘクタール(同8.8%増)とかなりの程度増加すると見込まれ、てん菜生産量も、単収の増加に伴い、1238万トン(同13.6%増)とかなり大きく増加すると見込まれる。
砂糖生産量は、1135万トン(同0.9%増)とわずかに増加すると見込まれる。輸入量は、ブラジル産砂糖の輸入量が11月から12月にかけて減少したものの、依然として高水準にあることなどから、677万トン(同1.5%増)とわずかに増加すると見込まれる。
2020年の液糖輸入量、前年から大幅に増加
2021年1月4日付けの現地報道によれば、2020年1月〜11月の液糖の輸入量は97万1600トンとなり、前年の年間輸入量の5.8倍に達した。液糖は主にタイ、マレーシア、ベトナムから輸入されており、これら3カ国はASEAN加盟国であるため、中国ASEAN自由貿易協定に基づいて、2019年から液糖を無税で中国に輸出することが可能となっている。この状況に対し中国糖業協会は、無関税で安価な液糖の輸入量の急増は、国内の砂糖産業に悪影響を及ぼすとして、2020年12月1日、「本協会の傘下企業の一部に、砂糖の輸入関税(注1)を回避するために、海外の工場で生産した液糖を輸入している者がいる」と指摘した上で、液糖の海外での生産、輸入、流通および使用を行わないよう要請していた。また、中国国務院関税税則委員会は2020年12月23日に発表した「2021年輸入暫定税率等の調整案」の中で、既存のHSコード(1702.90(注2))を細分化し、新たに1702.90-11の関税分類コードを液糖に割り当て、30%または80%の輸入関税を2021年1月1日から賦課するとした。しかし、現時点(2021年1月20日現在)において、2021年におけるASEAN加盟国原産の液糖の関税率は変更されておらず、今後の動向が注目される。
(注1)中国における砂糖の輸入関税は、50%(HSコード:1701.14、1701.99など)。なお、モーリシャス産砂糖の輸入関税のみ、15%。
(注2)香料または着色料が添加されていない糖水のほか、人造はちみつ(天然はちみつを混合してあるかないかを問わない)、カラメルなどが分類される。
2020/21年度の輸出量は、砂糖減産を受けかなりの程度減少する見込み
2020/21年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は147万ヘクタール(前年度比2.8%減)とわずかに減少すると見込まれる(表5)。てん菜生産量は、EU最大のてん菜生産国であるフランスで感染が広がる萎黄病の被害を受けて、前月予測からは上方修正されたものの、9976万トン(同9.1%減)とかなりの程度減少すると見込まれる。
てん菜生産量の落ち込みを受け、砂糖生産量は1527万トン(同9.9%減)とかなりの程度減少すると見込まれる。輸出量は砂糖の減産に伴い、134万トン(同6.6%減)とかなりの程度減少すると見込まれる。
欧州委員会、砂糖の中期的需給見通しを発表
欧州委員会は2020年12月16日、砂糖を含む農畜産物の中期的需給見通しを公表した。これによると、てん菜の単収は1ヘクタール当たり72トン(2018〜2020年の平均値)から、2030年には同75トンまで増加すると見込まれている。てん菜農家の経営状況は、単収の増加と砂糖価格のわずかな上昇によって改善が見込まれ、今後のてん菜栽培面積は140万ヘクタール程度で安定的に推移すると予測されている。また、安定的な栽培面積と単収増加の見通しを受けて、2030年の砂糖生産量は1620万トン(精製糖換算。2020年:1590万トン、同年対比1.9%増)と見込まれている。一方で砂糖消費量は、健康志向の持続などを背景に平均年率0.4%で減少し、2030年には1600万トンまで減少すると見込まれている。
短期的には、EU域内の生産量では同地域の砂糖需要量を賄えないことから、EUは引き続き純輸入国にとどまると見込まれるが、中期的には、砂糖生産量の増加と消費量の減少により、域内で砂糖需要量を賄えるようになり、砂糖の純輸出国になる可能性もあるとしている。
異性化糖については、代替需要を誘発するほどの砂糖価格の上昇は見込まれず、ゼロカロリー甘味料との競合の激化も予想されるため、生産量は今後緩やかに増加し、2030年には80万トン(2020年:60万トン、同年対比33.3%増)に達すると見込まれる。
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