4. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2021年3月時点予測)
最終更新日:2021年4月9日
4. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2021年3月時点予測)
2021年4月
2020/21年度の砂糖生産量、輸出量ともに大幅増の見込み
2020/21年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、原油の国際価格の動きに不安定さが見られ、バイオエタノール需要にも不透明感があるものの、バイオ燃料など再生可能エネルギーの生産・利用の促進を図るブラジルの国家政策「RenovaBio」の本格始動が生産意欲を後押しする可能性があることも踏まえ、865万ヘクタール(前年度比0.6%増)とわずかに増加すると見込まれる(表2)。サトウキビ生産量は、生育期間を通じて天候がおおむね良好で生育が順調であることから、6億5600万トン(同2.1%増)とわずかに増加すると見込まれる。一方、砂糖生産量は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるバイオエタノール需要の不透明感を背景に、多くの製糖業者が砂糖生産に回帰する動きが見られることから、4463万トン(同40.3%増)と大幅な増産が見込まれる。この予測の下、ブラジルレアルが米ドルに対して安値圏で推移することで輸出意欲が向上し、輸出量は3374万トン(同66.0%増)と大幅に増加すると見込まれる。
エタノール業界、米国の政権交代によるビジネスチャンスに期待
3月5日付の現地報道は、バイデン新政権による米国の環境問題に対する方針転換により、同国におけるバイオエタノール需要の大幅増が見込まれることで、ブラジルのエタノール業界にとって大きな商機が期待されると報じた。これは、バイデン米大統領が、ドナルド・トランプ前米大統領が策定したエネルギー政策の見直しを公約に掲げるなか、重要課題に位置付ける地球温暖化対策をめぐり、2021年に気候変動サミットを主催する計画が浮上しているためである。同会議では、新たなCO2の削減目標が打ち出されるものと予想されており、これを受け、米国政府によるエタノール混入割合を増やすための投資が行われることが期待されている。
米国はトウモロコシ由来バイオエタノールの世界最大の生産国であり、国内には大量の余剰在庫があるものの、ブラジルのエタノール業界は新政権下において混合比が高まることで、米国は需要の一部を国際市場から調達しなければならなくなると考えている。ブラジルは米国に次ぐ世界第2位のバイオエタノール生産国で、この2カ国で、世界の生産量の約8割を占めている。
2020/21年度の砂糖生産量はかなり大きく増加するものの、輸出量はかなり大きく減少する見込み
2020/21年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は、豪雨による大規模な圃場の浸水被害に見舞われた前年度からの反動で、473万ヘクタール(前年度比6.5%増)とかなりの程度増加すると見込まれる(表3)。サトウキビの主産地であるマハラシュトラ州では、年間降雨量が集中するモンスーン期(6〜9月)における降雨が順調であることから、ダムの水位回復により、サトウキビ生産量は3億9338万トン(同13.6%増)、砂糖生産量も3289万トン(同11.7%増)といずれもかなり大きく増加すると見込まれる。輸出補助金の発表や砂糖の国際価格の堅調な推移などを受けて、製糖業者は砂糖輸出を促進すると見られるものの、コロナ禍における物流の混乱(コンテナ不足など)の影響で砂糖の輸出ペースが鈍化しており、輸出量は730万トン(同11.6%減)とかなり大きく減少すると見込まれる。
一酸化炭素排出量削減に向け、自動車燃料としてE20燃料の利用を承認
インド道路交通・高速道路省(MoRTH)は3月 8日、E20燃料(エタノール20%とガソリン80%の混合燃料)を、自動車(二輪車および四輪車)用燃料として使用することを承認した。
MoRTHは、今回の承認は、E20燃料の自動車への利用において、一酸化炭素と炭化水素の排出量がガソリン利用に比べて大幅に減少することが確認されたためであるとし、E20燃料の普及により、石油輸入量の削減が進み、外貨節約やエネルギー安全保障の向上などが期待されるとしている。
現在同国では、ガソリンにエタノール10%の混合が認められているが、エタノールの調達が難しいことから、国内で流通するガソリンにおけるエタノール含有割合は6%未満にとどまっているものと推定され、今後は、同国内におけるE20燃料対応の自動車の開発が加速するとみられている。また、同国政府は、「バイオ燃料に関する国家政策2018」の中で、2030年までにエタノールの混合率を20%にするという目標を掲げているが、今般の動きは、目標達成の前倒しを狙っているのではないかと現地紙は報じている。
2020/21年度の輸入量は、かなりの程度増加する見込み
2020/21年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は、雲南省では面積の増加が見られるものの、広西チワン族自治区と広東省での面積減少を受けて、116万ヘクタール(前年度比1.6%減)とわずかに減少すると見込まれ、サトウキビ生産量も、 7360万トン(同3.5%減)とやや減少すると見込まれる(表4)。また、同年度のてん菜の収穫面積は、内モンゴル自治区において、てん菜の買い取り価格が引き上げられたことから、生産者は作付面積を拡大し、収穫面積は23万ヘクタール(同8.8%増)とかなりの程度増加すると見込まれ、てん菜生産量も、単収の増加に伴い、1238万トン(同13.6%増)とかなり大きく増加すると見込まれる。
砂糖生産量は、1137万トン(同1.0%増)とわずかに増加すると見込まれる。輸入量は、2月中旬から始まる旧正月が明けるまでは沈静化するとみられるものの、ブラジル産砂糖の輸入量が2020年末にかけて急増したことなどから、711万トン(同6.5%増)とかなりの程度増加すると見込まれる。
内モンゴル自治区のてん菜糖生産量、過去11年間で最多を記録
3月3日付の現地報道は、中国の主要なてん菜糖生産地である内モンゴル自治区では、2月末時点で自治区内の13製糖工場のすべてが操業を終了し、 2020/21年度のてん菜処理量は695万トンとなったと報じた。また、てん菜糖生産量は89万1000トン(前年度比22.9%増)と過去11年間で最多を記録し、てん菜糖生産で近年首位を争う新疆ウイグル自治区の生産量を上回った前々年度および前年度に引き続き、3年連続で同国最大のてん菜糖生産地となった。2月末現在のてん菜糖出荷量は57万3000トン、在庫量は31万8000トンと前年同期より9万8000トン(前年同期比44.5%増)増加した。
一方、同国最大の甘しゃ糖生産地である広西チワン族自治区では、2月末時点で同自治区内の24の製糖工場が操業中であるが(注)、2月末までに4418万トンのサトウキビが圧搾され、甘しゃ糖生産量は555万8800トン(同3.2%減)とやや減少し、ショ糖の平均回収率も12.58%と前年度の13.01%から0.43ポイント低下した。
(注)LMC Internationalによると、2019/20年度における広西チワン族自治区内の製糖工場数は91。
2020/21年度の輸出量は、かなりの程度増加する見込み
2020/21年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は147万ヘクタール(前年度比2.9%減)とわずかに減少すると見込まれる(表5)。てん菜生産量は、EUの主要てん菜生産国であるフランスで感染が広がる萎黄病の被害を受けて、前月予測から下方修正され、9916万トン(同9.9%減)とかなりの程度減少すると見込まれる。てん菜生産量の落ち込みを受け、砂糖生産量は1516万トン(同10.6%減)とかなりの程度減少すると見込まれる。輸出量については、砂糖の国際価格の上昇によって2020年10月〜翌1月の輸出ペースが加速したことを受けて、前月予測から上方修正され155万トン(同8.0%増)とかなりの程度増加すると見込まれる。
砂糖業界団体、メルコスールとのFTAに引き続き反対すると表明
欧州てん菜生産者連盟(CIBE)、欧州砂糖製造者協会(CEFS)および欧州食品 ・農業・旅行労働組合連合(EFFAT)は2月24日、EUの貿易協定に関する共同声明において、EUとメルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)間の自由貿易協定(FTA)への反対姿勢を改めて示した。同FTAは2019年6月、政治合意に達したものの、批准には至っていない。
上記3団体は欧州委員会の共同研究センター(JRC)が2021年1月に公表した、「通商協定がEUの農業へ累積的に及ぼす経済的影響」の調査結果について、砂糖は既存の通商協定において悪影響を受けている数少ない品目の一つであると考察されたことを指摘し、この傾向を変えるためには、(1)公平な競争条件に基づく貿易の実施、(2)自然環境や労働環境などの観点で持続可能な貿易の実施、(3)他国の不当な政策に対する反対意思の主張—の3点について取り組む必要があると主張した。3団体は、メルコスールとのFTAはこれら3点の必要不可欠な事項を満たしていないと述べ、同協定に引き続き反対する姿勢を示した
(注)。
(注)3団体は、2019年7月にも、メルコスール通商協定に反対する声明を発表している。詳細は、『砂糖類・でん粉情報』2019年8月号「砂糖の国際需給 3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年7月時点予測)」のEUの項(https://www.alic. go.jp/joho-s/joho07_002012.html)を参照されたい。
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