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徳之島におけるさとうきび栽培の機械化の現状と課題

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最終更新日:2021年6月10日

徳之島におけるさとうきび栽培の機械化の現状と課題
〜特にスマート農業実証プロジェクトを中心にして〜

元鹿児島大学 農学部 教授 宮部 芳照
鹿児島大学 農学部 技術職員 柏木 純孝

【要約】

 現在、徳之島の有限会社南西サービスが実証代表になり実施中のスマート農業実証プロジェクトを中心にして、すでに公表されている本プロジェクトの初年度実証成果データなどをもとに分析を行った。加えてウェブ調査を実施し、さとうきび栽培におけるスマート農業の現状と課題について考察した。なお、本プロジェクトでは、クボタスマートアグリシステムの活用によって農作業と管理の効率化が実証された(初年度実証結果より)。

はじめに

 徳之島におけるさとうきび栽培の機械化の現状と課題を探るために、有限会社南西サービス(以下「南西サービス」という)が代表になり現在実施しているスマート農業技術を活用した農作業と管理の効率化およびドローンを利用した管理作業の効率化について、実証プロジェクトを中心にウェブ調査を行った。なお、今回実証中のスマート農業技術は、地理情報システム(GIS)や情報通信技術(ICT)を利用して圃場(ほじょう)・作業・作物情報などに対応した農機をシステム上でデータ連携する営農・サービス支援システムを活用したものである。

 近年、わが国のさとうきび農業は、他の農業分野と同様に農業従事者の減少と高齢化が急速に進んでいる。また一方で、ICTなどを活用した営農システムであるスマート農業が急速に進展しており、政府は成長戦略「未来投資戦略2018」の中で、「世界トップレベルのスマート農業の実現」を掲げ、令和7年までに「農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践」するとしている(平成30年6月15日閣議決定)。さらに、令和4年度までにさまざまな現場で導入可能なスマート農業技術が開発され、スマート農業の本格的現場実装が着実に進められる環境を整える施策として、「中山間地を含め、さまざまな地域、品目に対応したスマート農業技術を現場で導入可能な価格で提供できるよう、農業者のニーズを踏まえ、現場までの実装を視野に研究開発を行い、地域や品目の空白領域の研究開発を優先的に行う」としている(令和元年6月21日閣議決定)。しかし、これらの施策目標の実現には、今回現地調査した徳之島を含む鹿児島県南西諸島のさとうきび農業においては中山間地農業と同様に、スマート農業によるスケールメリットなどを生かすには地形的にかなり困難な圃場条件を有した地域が多い。従って、それぞれ各島の実態に合わせたスマート農業技術の導入が必要不可欠になる。そのためには、スマート農業に携わる技術開発者、研究者は個々の現場のニーズに合った、しかもできるだけ低コストのスマート農業技術の導入を目指す必要がある。また、農業者自身も低価格のオープンソースハードウェアなどを利用したマイコン関連技術を身につけ、自分なりの身の丈に合ったスマート農業技術体系を作り出す創意工夫もぜひ必要である。

 今回は、徳之島におけるスマート農業実証プロジェクトを中心にして、本プロジェクトの初年度実証成果のデータを分析し、加えてウェブ調査を行い、上述した観点も含めてできるだけ少ない労働力で規模拡大と生産性向上を図るためには、どのようにすれば地域の実態に合ったスマート農業技術を効率的に現場実装できるか、その現状と課題について考察した。

1.徳之島の農業

(1)概況

 徳之島は奄美群島のほぼ中央に位置し、総面積2万4785ヘクタール、耕地面積6880ヘクタール(耕地率約28%)で奄美大島に次ぐ大きさの島であり、徳之島町、天城町、伊仙町の3町からなっている。気候は亜熱帯海洋性気候であり、土壌は主に花こう岩、琉球石灰岩の風化土からなり粘土分も強い。農業はさとうきびを中心にばれいしょ、かぼちゃ、果樹などと畜産(肉用牛)を組み合わせた複合経営が行われている。農家1戸当たりの耕地面積は約260アールであり、総農家戸数2658戸、農業就業人口は5416人で総人口の約23%を占めている。また、就農者の約45%が65歳以上で高齢化が進んでいる(2015年農林業センサス)。また、国の直轄事業である徳之島ダムが建設され、その後、鹿児島県営畑地帯整備事業により、かんがい施設の整備や全面通水などが順調に進展すれば、干ばつなどが解消され、耕地の約50%が受益できる安定した畑地かんがい施設が整う(計画目標、令和5年度。出典:「令和2年度徳之島の農業農村整備概要書」鹿児島県大島支庁徳之島事務所)。

 主な年間農業産出額は、全島(3町)で肉用牛が最も多く約49億2000万円、次にさとうきび約39億3000万円、ばれいしょ約29億5000万円などである(図1)。また、あまみ農業協同組合(徳之島および天城事業本部)が、かごしまブランド「かごしまのばれいしょ」の団体に認定された(平成31年2月)。島内の認定農業者数は、複合(注1)196戸が最も多く、次に肉用牛52戸、さとうきび42戸などである(表1)。

(注1)農産物販売金額の1位部門の販売金額が農産物総販売金額の60%を満たない複合経営のこと。

 

 

(2)さとうきび生産の概況

 図2にさとうきび生産量と生産額の推移を示したが、生産量は平成28年産をピークに近年減少傾向にある。特に、30年産は9月から10月に連続して来襲した台風などの影響を受けて前年産比約23.4%減と大きく落ち込んだが、令和元年産では約15万8000トン(前年産比約7.5%増)とやや持ち直した。生産額も同様な傾向を示し、元年産で約34億5000万円(同約13.1%増)である。

 図3に栽培農家戸数と収穫面積の推移を示したが、栽培農家戸数は年々減少し、元年産で約2700戸であり、9年前(平成22年産)に比べて約800戸減少している(約22.8%減)。また、収穫面積も近年減少傾向にあり、令和元年産で約3200ヘクタール、これは平成22年産比で約19.5%減である。

 

 

 図4に農家1戸当たりの収穫面積と生産量の推移を示したが、収穫面積は26年産以来、ほぼ横ばいであり、令和元年産で約1.2ヘクタールである。生産量は平成28年産の約74トンをピークにその後減少したが、令和元年産でやや持ち直し約58トンである。

 図5に栽培規模別の農家戸数を示したが、0.7〜1.5ヘクタール規模の農家が全体の約34.2%(928戸)を占めている。一方で、0.5ヘクタール未満の小規模農家も全体の約30.5%(828戸)を占めており、10ヘクタール以上の農家は約0.3%(9戸)にすぎない。また、1筆当たりの圃場面積は約27アールで小区画圃場が多く、全筆数は約1万3000筆で狭隘(きょうあい)な圃場が多数存在している(元年産実績)。

 

 

 図6に10アール当たり収量の推移を示したが、28年産で約6.2トンを記録したものの、30年産は台風などの影響を受けて約4.4トン(前年産比約20.0%減)まで減少し、令和元年産も約5.0トンにとどまっている。

 図7に品種別収穫面積の構成比を示したが、徳之島ではNi23(農林23号)が最も多く作付けされており、元年産で27.0%を占めている。本品種は発芽、萌芽(ほうが)、茎伸長に優れ、多収であるが、風折損、黒穂病に弱く、脱葉性が中〜やや難である。しかし、耐干性に優れ、特に干ばつ被害を受けやすい地域を中心に普及し、株出し性に優れ、春植え、株出し2回体系を奄美地域で可能にした品種である。平成18年に鹿児島県の奨励品種に採用されている。一方、鹿児島県内で最も多く作付けられているNiF8(農林8号)は早熟、高糖性に優れ、黒穂病、さび病に強く、安定多収であり、平成3年に県の奨励品種に採用され、現在も県内の主力品種となっており、令和元年産で26.2%を占める。

 

 

 図8に栽培型別作付面積の構成比を示したが、元年産の株出し面積は68.4%、春植え22.9%、夏植え8.7%の割合であり、前年比で株出しは6.6ポイント減(県全体で3.8ポイント減)、春植えは3.4ポイント増(同0.7ポイント増)、夏植えは3.1ポイント増(同3.1ポイント増)である。本島および県全体ともに株出し面積が減少し、春植え、夏植え面積がやや増加傾向にあるが、依然として株出し面積が6割以上を占めている。


 表2に元年産のさとうきび栽培農家戸数、収穫面積、産出額などの主な生産実績を示しておく。

 表3に株出し回数別作付面積の構成比(元年産)を示したが、株出し1回が最も多く、全株出し面積の40.2%(県全体で44.4%)を占め、2回以上は順次減少しているが、4回以上も7.3%(同6.2%)存在している。株出し回数の増加は管理作業の不徹底などによる単収減の原因になっている。

 

 

 図9にハーベスタによる収穫面積率の推移を示したが、収穫作業は補助事業などで導入されたハーベスタの利用が進んでおり、本島のハーベスタ収穫率(面積比)は元年産で98.0%である。これは県全体の平均93.8%を上回っており、機械収穫作業への関心の高さがうかがえる。


 表4に徳之島の製糖工場の操業実績(平成30/令和元年期)を示しておく。平成30/令和元年期の操業期間は平成30年12月末〜翌年4月初めまでの約3.5カ月間である。その間、収穫前の大型台風の直撃を受け、倒伏、折損などの被害によって原料処理量は前年比24.0%減の約14万4600トン、産糖量は同21.0%減の約1万7000トンとなり、前年産より大きく減少する結果になっている。また、歩留まり11.77%、平均買入れ糖度12.89度であり、利用率(歩留まり/平均買い入れ糖度)91.3%は鹿児島、沖縄両県の中で非常に高い値を示しており、原料品質や製糖効率など、各島ごとの違いに注目する必要がある。今後は気象災害を受けても安定的に約18万トンの生産量を確保することを目指しており、これは農水省が定めた生産規模に準じた生産量に当たる。


 
 なお、令和7/8年産の達成目標を収穫面積3805ヘクタール、単収5.74トン、生産量21万8000トンとしているが、今後、目標達成のためには、採苗作業の効率化、種苗用さとうきびの栽培技術の確立、適期植え付け・肥培管理、ビレットプランタの導入促進、夏植え面積の拡大、小型トラクタによる栽培管理技術の開発、土づくり、農作業受委託組織の確立など、官民挙げて多岐にわたる一層の取り組みが必要である。

 バガス(注2)などの利用状況(平成30/令和元年産)は、年間で排出される約3万8750トンのバガスのうち、製糖工場の燃料用として3万7640トン、堆肥原料用に1060トン、その他に50トンが利用されている。また、年間約7500トンのフィルターケーキ(注3)はすべて堆肥原料用に利用され、約4400トンの糖みつは商社へ引き渡し、畜産飼料材料、発酵材料などに有効利用されている。

 次に、人材確保などを含む働き方改革については、さとうきび生産現場と同様に工場の製造現場においても人手不足がひっ迫している状況にある。現在は、国庫事業などを活用し、各部署を統合して集中制御体制を年次的に構築しながら、少ない人員で操業できる体制へ移行しつつ、どうにか操業を継続しているが、将来はさらに厳しい人手不足への対応に迫られると予想される。この課題は、一企業だけの対応力を超えるものであり、さとうきび産業全体の維持発展のためには、関係機関のなお一層の理解と支援が不可欠である。

(注2)さとうきびの搾りかす。
(注3)さとうきびを絞った糖汁をろ過した後に残る沈殿物

 

2.さとうきびスマート農業実証プロジェクト

 本プロジェクトは、令和元年度から農林水産省がスマート農業の社会実装を加速化するために開始したスマート農業実証委託事業に採択されたものである。実証課題名は「クボタスマートアグリシステムを活用した農作業と管理の効率化ならびにドローンを活用した管理作業の効率化の実証」である。構成は、南西サービス、南西糖業株式会社(以下「南西糖業」という)、鹿児島県大島支庁徳之島事務所農業普及課、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場である。

 現在、南西サービスを主体にして、株式会社クボタが開発したKSAS(注4)を活用し、農作業と管理の効率化およびドローンを活用した管理作業の効率化について実証を続けている。

 本プロジェクトにかける想いは、徳之島の全担い手が相互協力し、さとうきびの効率的生産を行うために永続的な受託組織の構築と個々の担い手が最先端技術を標準装備して、一段とパワーアップした集団が躍動するさとうきび農業立国・徳之島を目指すことである。

 ここで、南西サービスの概要を簡単に紹介しておく。本会社は、平成19年に南西糖業の子会社から農業事業を引き継ぎ、自社農場経営(約30ヘクタール)、農作業受託、肥料・農薬などの販売を中心に事業を行ってきた。28年に農地所有適格法人になり経営的にも独立した。現在、構成員は役員5人、従業員10人、季節臨時雇用20人(管理、収穫作業に従事)であり、さとうきび栽培面積は約30〜40ヘクタールである。
 
(注4)圃場・作業・作物などの情報とKSAS対応農機をKSASシステム上でデータ連携して農業経営を見える化した営農・サービス支援システムのこと。

(1)KSASを活用した農作業と管理の効率化

 本島においても生産者の減少、高齢化の進行は著しく、管理作業不足などによる単収減少への対策が種々施行されて来ているが、あまり実効が上がっていないのが現状である。全島的な単収アップと効率的な生産管理体制を作り上げ、計画的・効率的な製糖操業につなげるためには、スマート農業による営農システムの再構築がぜひ必要である。

 スマート農業技術の現場実装には、諸課題の解決が残されている。例えば、農地の集積・集約化による規模拡大や圃場区画の整備、費用対効果、機器・機械類コストの低廉化、受委託作業組織の確立、散布薬剤登録の適応拡大、機械の操縦性・安全性、人材育成など多岐にわたっている。

 特に、スマート農業確立のためには、担い手への農地の集積・集約化による規模拡大が大前提である。本島は地形的にも多様な地域特性を有しているが、農地中間管理事業などを含む諸施策を活用して、近年横ばい傾向にある農地の流動化を積極的に進め、全島的な受委託作業組織の確立につなげる必要がある。

 また、さとうきび栽培において、スマート農業で超省力化、スケールメリットなどを生かすためには、大型スマート農機が効率的に稼働可能な農地の大区画化に向けた基盤整備はもちろん、一方で大型農機の運用が不利な農地でも、ドローンを含む無人航空機(UAV)などを利用したリモートセンシング技術を積極的に活用すると同時に、現在はさとうきび作への登録薬数は少ないが、UAVを利用した薬剤散布作業を並行して進めることがスマート農業化の歩みを早めることになる。これが、その後の全球測位衛星システム(GNSS)ガイダンス・オートステアリングトラクタやロボットトラクタ、中間管理作業ロボット、収穫作業ロボット農機などの導入へ必然的につながる。

 今回、南西サービスが代表で実証中の本プロジェクトにおいても、GIS、ICT技術を活用したシステムであるKSASによって、圃場・作業・作物情報などを効率的な作業計画の作成に生かし、耕うん、中間管理、収穫作業などの永続的な受委託組織の構築とドローンによる農作業管理の効率化を目指している。

 ここで、KSAS導入の経緯を紹介しておく。本システムは、南西サービス所有のトラクタ更新を契機に経営の効率化に向けて、28年に導入したものであり、まず圃場位置やさとうきび生育状況などのデータ入力から始めた。また、当初は自社農場の約30ヘクタール以外は農機を所有しない小規模農家が多く、しかも直前の作業委託が多かったため、その都度、調査員が現場に出向いて場所や生育状況などを確認し手書きの圃場管理台帳を作成していた(いわゆる担当員制度を採用)。その後、コスト削減のために担当員制度を廃止し、従来の圃場管理台帳に代わるものとして、ドローンによる空撮で得た位置情報などを地図に関連づけ、KSASと組み合わせて利用することにした。また、農機オペレーターは各自のスマートフォンをKSASのモバイルとして使用し、現場の状況確認と作業時間の確認などを行い、圃場管理の効率化を図っている。

 次に、本プロジェクトの具体的な目標を挙げると、KSASを活用することによって農作業受託事業部門の収支を10%アップすること、トラクタ作業受託の売り上げを50%アップすることである。さらに、ドローンの運用と農機の効率的稼働により自社農場の単収を島内平均より5%以上アップすることである。

(2)初年度の実証成果

 初年度の主な実証成果の概要は次の通りである。

 ア.KSASの運用で受託作業の受付、作業管理業務の効率化と再委託先となる協力農家数の増加によって受託作業量が拡大したこと。

(ア)受託作業の管理業務(作業受付→作業指示→作業実施→作業完了報告)の効率化、作業指示側がパソコンを使用し、作業者側がスマートフォンを使用することでリモート化が図られた。
(イ)再委託先になる協力農家数が増加した(令和2年3月末時点、協力農家37件)。
(ウ)受託作業量の増加により、受託費が増加した(平成29年9月〜30年8月:約4831万円、平成30年9月〜令和元年8月:約6951万円、令和元年9月〜2年8月:約8819万円)。

 イ.KSASの実用性が確認され、2年度に設立される「徳之島さとうきび農作業受委託調整センター」の調整業務を受託できることになり、農作業受委託業務の効率化が図られた。

 ウ.協力農家数の増加が作業再委託面積の拡大につながり、自社農場の適期管理作業が容易になったことで、自社農場の単収を島内平均より5%以上アップすることができた(令和元/2年期実績)。

 エ.KSASによる受託圃場データの蓄積が進んだ。

 オ.KSASの面積測定技術の活用によって面積当たり前払い作業料金の導入が可能になった。

―ことなどである。

 このように初年度の実証では、KSASの導入技術がさとうきび農作業の受委託と作業実施の効率化に貢献することが明らかになった(図10、図11)。

 

(3)ドローンを活用した管理作業の効率化

 ドローンの導入と運用によって病害虫防除作業を適期に実施し、防除コストの低減と単収アップを図ることなどを目標に現在実証中である。今後、公表される実証成果を期待したい。

3.今後の課題

 本島を含む奄美群島は東西約162キロメートル、南北約168キロメートルの範囲内に飛び石状に連なり、古生層とこれを貫く火成岩からなる山稜性の地形や琉球石灰岩が広く分布する低平な段丘状の地形を有する。このような多種多様な地形と小規模で小区画圃場の多い地域において、スマート農業化を推進するためには、それぞれの地域の実態に合った、しかも現場のニーズに沿ったスマート農業技術の導入が必要になる。

(1)本プロジェクトの今後に向けて

 本プロジェクトでは、個々の現場の圃場情報や作物情報などを確認し、栽培履歴を蓄積しながら、適正な営農管理のもとで島内平均単収の向上を目指した。その実現のためには、まず島内全体の植え付けから中間・株出し管理、収穫に至る受委託作業組織の確立こそが急務である。

 さらに、今後解決が必要な課題を挙げると、

 ア.圃場管理の簡略化とコストダウンを目指し、委託協力農家との情報共有を強化すること。

 イ.KSAS農機の稼働状況のシェアとメンテナンスの管理を容易にすること。

 ウ.各圃場の栽培履歴を蓄積し、栽培管理をさらに見える化して詳細な作物情報のもとで適正な施肥・防除設計を行い、島内全体の収量アップにつなげること。

 エ.ドローンによる空撮によって、特に春・夏・台風来襲時および収穫時の詳細な生育情報を把握すること。

 オ.ケーンハーベスタに収量センサーを設置し、各圃場ごとの収量把握を行い、適正な肥培管理に役立てること。

 カ.農家経営の合理化、コスト意識の高揚をさらに図り、安定的な経営規模拡大につなげること。

―などが必要である。

 また将来、超省力化による効率的なさとうきび生産を基幹とした農業立国・徳之島を目指すためには、島内全域をカバーしたGNSS基地局を複数基設置して、スマート農機が島内全域で通年稼働できる情報通信環境の整備がぜひ必要である。

(2)さとうきびスマート農機(システム)の今後の展開

 今後は、耕起、砕土整地、(うね)立て、施肥、植え付け、中耕除草、病害虫防除、株出し管理、収穫作業に対応可能なRTK–GNSS自動操舵システム農機の導入を図る必要がある(農林水産省の農業機械安全性確保の自動化レベル1に相当)。

 まず、トラクタやケーンハーベスタなどにRTK–GNSS自動操舵システムを装着し、耕起から収穫までの精密・超省力栽培技術体系の確立を目指すことである。本自動操舵システムはトラクタなどに後付け可能であり、一度記憶した走行ラインを使用することで次年以降の作業にも利用可能で省力化につながる。畦立て作業の場合で、作業軌跡の精度は行程の80%以上で±5センチメートル程度であり、初心者にも慣行作業が可能である。また、1台の機器で他の農機にも互用可能であることからコスト低減になる。

 次に、さとうきびスマート農機(システム)の具体例を挙げる。

 ア.さとうきび生産用機械

(ア)RTK–GNSS自動操舵システムトラクタ装着型
 圃場線引き機、サブソイラ(心土破砕)プラウ・ロータリ、ハロー(砕土・整地)、畦立て機、施肥機、ビレットプランタ、全茎式プランタ、中耕除草機、防除機、株出し管理機
(イ)RTK-GNSS自動操舵システムケーンハーベスタ
(ウ)RTK-GNSS自動操舵システムを利用しないロボット農機

 自走式農機の場合はGNSSを利用せず、農機本体に取り付けたセンサー(例えば、レーザーセンサーなど)で畦や対象作物列を検出し(旋回時は方位センサーなど使用)、制御装置PLC(Programmable Logic Controller)で制御しながら無人自動走行が可能なロボット農機も存在している(目視監視型ロボット農機、自動化レベル2に相当)。

 一般に、ロボット農機はロボット技術によって、無人状態でハンドル操作、発進・停止、作業機の制御を自動化し、作業者は自動走行する農機を圃場内や圃場周辺から常時監視して危険の判断や非常時の緊急操作をリモコン操縦などで行う。また、安全確保のために、農機本体の前後にIPカメラ(ネットワークカメラ)や左右に接触カメラなどを取り付け、リモコン操作で衝突回避する方法もある。

 さらに、今後はローカル5G(L5G)のメリットである大容量・超低遅延・多端末を生かして、圃場から離れた管制室(通信距離は理論的には制限はないが、現状では約10キロメートル程度)からロボット周辺モニターで遠隔監視を行い、もし危険を察知した場合は管制室からの停止指令が出された時点で農機を停止させ、安全確保を図ることができる。例えば、ロボット茶摘採機の場合、L5G採用、作業速度0.4メートル毎秒で停止指令後、約0.5メートルで停止可能である。なお、ロボット周辺モニターには、ロボット農機周辺の画像・映像が映し出されており、作業中の安全確認と作物や雑草、土壌状態などの圃場環境の画像データが伝送され、それに合わせて管制室から制御を行うことができる。

 また、GISベースモニター(注5)の併用によって、管制室からロボット農機の圃場間移動(分散圃場の効率的な利用が可能)を含む遠隔監視による無人自動走行への展開も期待できる(遠隔監視型ロボット農機、自動化レベル3に相当)。そのためには、L5Gの電波網(周波数4.7ギガヘルツ帯)の情報通信環境の整備や農道整備による走行の安全性確保が重要課題になる。

 以上、ロボット農機の走行に関しては、特に安全性の確保に十分な注意を払わなければならないが、農林水産省においても、平成29年にロボット農機の安全性確保のために、メーカーや使用者が順守すべき事項などを定めた「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」を策定している。令和2年の一部改正では、使用者が圃場内や圃場周辺から監視しながら無人自動走行させるロボット農機に衛星測位情報を利用して自動走行するロボットトラクタ、茶園管理用ロボットの他にロボット田植え機およびロボット草刈機を追加してメーカー、導入主体、使用者ごとに順守すべき事項や主な役割などを定めている。主な内容は、▽作業領域内に第三者を立ち入らせないこと▽視界不良などで監視が難しい環境では自動走行させないこと▽第三者の接近、圃場外への飛び出しなど危険性が生じた場合は、直ちに停止させる措置を講じていること▽ロボット農機の安全使用訓練を行うこと―などを定めており、ロボット農機の安全性確保が今後のスマート農業の進展に大きく影響するといっても過言ではない。

(注5)地理的情報や作業経路・時間、農機の位置・速度などの走行情報の表示、作業開始・停止位置の操作など行うことができる。
 イ.UAVによる圃場センシングおよび薬剤散布作業

 センシング用ドローン(スペクトルカメラなどでの空撮)を利用したリモートセンシング(低層リモートセンシング)は、地域の地形や土壌肥沃度、土壌水分量、作物生育(品質を含む)状況、作物倒伏状態、病虫害状況など、圃場や作物の診断情報を収集し、人工衛星よりも局所的なデータを解析することによって精密な状況診断を下すことができる。

 さらに、これら作物情報などの一定範囲内の空間情報はGISを介してロボット農機に伝送し、スマート施肥(可変施肥など)や農家の技術力アップ、作物品質、収穫量の高位安定化につなげることができる。また、各農家が得た空間情報は地域全体でシェアリングすることによって地域全体の作物の品質向上や収量アップのみならず、システム導入コストの抑制につなげることもできる。さらに、将来はさとうきび生産現場においても、ドローン、LPWA(Low Power Wide Area)(注6)による画像収集・解析やAI(人工知能)、BI(Business Intelligence)(注7)など最先端のICTを経営戦略の観点から有効に取り込むことが必要になるであろう。

(注6)低消費電力で広域をカバーする通信システム。
(注7)蓄積された多くのデータを分析し、その分析結果を経営意思決定などに活用すること。


 次に、農業用ドローンなどのUAVによる薬剤散布は、鹿児島県内においても農薬散布を中心に拡大してきている。特に、水稲作において拡大しているが、畑作においてもかんしょを中心にばれいしょ、さとうきび、茶などにも実施されつつある。本県のドローンを利用した令和2年の防除件数(農林水産航空協会登録機)は年間65件(元年では43件)で年々増加傾向にある(2年5月時点、鹿児島農政部経営技術課調べ)。

 従来、農薬の空中散布は、主に無人ヘリコプターにより実施されてきたが、近年は無人ヘリと比較して、機体が小型で廉価なマルチローター型の小型無人航空機の利用が増加している(ドローンは一般名称であり、主としてマルチローター型の小型無人航空機をドローンあるいは農業用ドローンと称していることが多い)。

 本県でも、マルチローターによる散布精度と防除効果などの実証がすでに行なわれている(鹿児島県農業開発総合センター農機研究室、平成30年)。実証結果によると、マルチローターの方が無人ヘリよりダウンウオッシュが弱く茎葉の損傷が少ない上にブームスプレーヤでは難しかった降雨直後での防除も可能であり、また委託散布の多い無人ヘリより適期防除に有利で畑作物への薬剤散布にも期待できるとしている。さらに、マルチローターの機動性を生かすことで小区画圃場や中山間地での利用など、無人ヘリとのすみ分けの必要性を指摘している。

 現在では機体性能も向上し、機体の飛行状況の把握や非常事態に対応した機能など、操縦者の役割補助的機能が急速に進歩している。また、GNSSなどを活用した自動操縦や飛行経路逸脱防止機能なども充実してきているが、さらに散布作業にあたっては、散布区域周辺への周知や風向き、散布方向など考慮した飛散防止対策を講じながら農薬の安全、適切な使用に努める必要がある。

 今後は、さらにドローン利用に係る規制緩和を図りつつ、散布精度の向上やコスト低減、農薬登録の適応拡大、安全性確保などの課題解決を図り、さとうきびを含む農業現場への利用拡大につながる取り組みを進める必要がある。
 ウ.水管理遠隔制御システムの導入

 さとうきび生産地には、生育期間中に水不足に見舞われる地域が多く存在する。これらの地域の希少な水資源をいかに有効に利用するかが、さとうきびの品質、収量に大きく影響する。

 今後、さとうきび生産において、水資源を有効活用する省力的かつ精密なかん水作業(スマートかんがいと称してよい)を行うためには、ICTを活用した水管理遠隔制御システムの導入が必要である。本システムの概要は、まずかん水ポンプの操作や微気象予報、水管理制御ソフトなどのアプリケーションソフトを取り込んだサーバーがある。圃場にはメイン基地局を設置し、一方、サブ局に各圃場ごとの土壌水分量や地温、微気象予報データなどが集められ、これらのセンシングデータは基地局を通してサーバーに送られ、そこで情報化される。また、作業者の端末(スマートフォンなど)にはクラウドから情報が伝達される。

 現在、さとうきび圃場の水管理制御システムとして、作業者のスマートフォンから遠隔操作でかん水ポンプ(エンジンや電動機駆動)のオン・オフを行うことが可能なスプリンクラーかん水あるいは点滴かん水システムが実証されている。

 以上、さとうきび栽培にこれらの水資源の効率的利用を目的としたかん水システムを導入することは、農家のかん水意識を高め、さとうきびの単収アップにつながる。

おわりに

 徳之島を含む奄美群島は、広範囲で飛び石状に連なっており、山稜性地形や琉球石灰岩が広く発達した低平な段丘状地形など、多様な地形を有している。加えて、小規模で小区画圃場が多い。従って、これらの地域のスマート農業に携わる技術開発者や研究者はそれぞれの地域特性に合った、かつ現場のニーズに沿った低価格なスマート農業技術の実装を目指すべきである。一方で、農業者自身も低価格なマイコン関連技術を身につけ、自分なりの身の丈に合ったスマート農業技術の創意工夫が必要である。

 また、さとうきびスマート農機の効率的運用を図るためには、担い手への農地集積・集約化による規模拡大と圃場の大区画化に向けた基盤整備が必要不可欠であり、効率的な生産管理体制による生産性向上を図るには、スマート農業技術を導入した営農システムの再構築が必要になる。これが計画的、効率的な製糖操業にもつながる。

 今後は、植え付けから収穫作業までの全島的な受委託作業組織の確立、初期投資の影響軽減のためのスマート農機の共同利用、作物生育・圃場・気象情報などの利活用の促進、効率的水資源管理の確立、L5G採用などを含む情報通信環境の整備、人材育成などを加速させる必要がある。特に、さとうきびスマート農機の安全性確保は重要である。

 さらに、奄美群島農業の振興のためには、次世代を担う農業者のために農業高校、農業大学校などでスマート農業を学ぶ通年のカリキュラムを取り入れる必要がある。これは若者に魅力ある農業を提供するためにも待ったなしである。さらに、スマート農業技術推進のためには、行政、農業者、企業、研究機関がコンソーシアムを組み、生産から調製・出荷に至るまでのデータを見える化した体系的実証研究が必要である。

 最後に、近年の地球温暖化による自然災害の多発と世界的なコロナ禍の中で、スマート農業の進展が農畜産物の生産性向上とわが国の自給率アップに大きく貢献し、食料安保の確立に寄与することを期待したい。

 今回の現地調査は、コロナ禍の影響を受け、徳之島スマート農業実証事業の初年度実証成果を中心にウェブ調査を余儀なくされた。今後、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見え、実証事業の最終成果が明らかにされた時期にさらに詳細な現地調査を行う予定である。

 謝辞
 
 今回、ウェブ調査を行うにあたり、有限会社南西サービスの久保茂氏、鹿児島県大島支庁徳之島事務所の福山祐二氏、南西糖業株式会社の廣敬造氏、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場の黒木栄一氏の他、関係各位にご協力いただいた。ここに記して感謝申し上げます。

【参考資料】
一般社団法人全国農業改良普及支援協会、水越園子(2017)「魅力あるサトウキビ農業のためKSAS導入により経営の効率化をめざす〜(有)南西サービスの新たな取り組み〜」〈https://www.jeinou.com/manager/2017/11/15/090700.html〉(2021年5月10日アクセス
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