(1)農業機械、圃場、労働力高度利用の実現に向けて
いずれの地域でも共通の事項であるが、資金を投入して農業機械を導入するためには、投資を上回る効果を得ることが必須の事項である。機械導入の目的は、(1)機械の強い力を用いることによって、人力や畜力のみではできなかった圃場の土壌条件を改善することによって作物の安定多収化、すなわち土地生産性の向上を図ること(2)労働強度の高い作業を機械で実施することで軽労化を図り、従事者の健康維持と労働の快適性向上を図ること(3)作業効率を高め、労働生産性を向上させること(4)それらのことにより次世代の参入を促進すること−である。(1)〜(4)を目的とする機械の導入は、経営としてのサトウキビ作の効率性(収益性向上)が保証されて初めて定着する。そのために必要な事項は、(ア)サトウキビの単位収量の向上(イ)機械自体の高い稼働性の実現(ウ)機械導入によって可能になる圃場の高度な利用および(エ)労働力の高度な活用−である。(ア)〜(エ)の実現には、第一に現状の解析と、解析に基づく利用高度化に向けたシナリオの構築が必要である。構築に向けては、IoTの利用による実態の可視化と関係者間での共有、問題点の摘出と解析が効果的である。
すでに開発されているIoTを使用したシステムの実例としては、現在社会実装への道を歩んでいる「収穫機稼働管理システム」が挙げられる。「収穫機稼働管理システム」は、ケーンハーベスタの稼働状況やトラクタによる作業の進捗状況などを可視化できるシステムで、今後の利用が期待される(図1)。
(2)製糖工場の稼働性向上に向けて
製糖工場の稼働性向上は(1)一日当たり価値創出量の増大と(2)稼働期間の長期化によってもたらされる。(1)一日当たり価値創出量の増大は原料となるサトウキビの糖度を中心とする高価値物質含有率の高低、工場設備・操業技術の優劣によって決まる。(2)稼働期間の長期化は収穫期間の長期化と連動する。原料の成熟に季節性が高く、製糖工場は多くの場合、作物成熟後の限られた稼働期間に多くの原料を処理することで多量の製品を生産する必要があるために、原料総量の割には設備が大きく、設備過剰となることが多いが、操業期間を長期化し得れば設備の縮小が可能になり、設備過剰の回避につながる。原料生産の面では、ケーンハーベスタの稼働率が向上するために、導入台数を節約でき、イニシャルコスト(初期費用)の縮減につながる。また、労働の平準化が可能になることによって、職能集団の養成、生活の安定化につながり、経営規模拡大の技術的基礎ともなる。一方で、工場稼働期間の長期化は、工場操業に携わる季節雇用労働の雇用期間拡張により製糖会社に賃金支出の増加を強いることになる。しかしこのことは、地域経済の視点では、雇用労働の一層の安定化(究極的には常勤労働化)につながる。
(1)一日当たり価値創出量の増大を図るために、第一に考えられるのが工場の製品歩留まりを下げる要因の排除である。そのためには第一に、原料と共に持ち込まれる土砂や非原料部位であるトラッシュの最小化が求められる(写真1)。
一方、製品歩留まりを上げるためのサトウキビ側の要因である成分特性の向上は、品種改良と栽培法、とりわけ施肥の内容によってもたらされる。具体的には、高糖性品種を用いて窒素施肥を早い段階で終了させることで、サトウキビ個体の増体が鈍化しその分の光合成産物がショ糖として茎中に蓄積され、ショ糖含有率が高まる。
ただ良好な
萌芽にはエネルギー源となるショ糖とともに、それを成長に転化させるための窒素分が必要である。同一品種の場合、糖度と株出しの萌芽との間には基本的に弱い反比例の関係が認められるため、高糖に隔たり過ぎると萌芽が悪くなる。糖度の高い原料の供給と株出し多収の基礎となる適切な萌芽の維持には、蓄積されたショ糖と還元糖
(注)・窒素分などのバランスが取れていることが重要である。ちなみに萌芽の良否は体内養分のほか、温度、土壌水分の影響も受けるため、総合的な選択を要するところである。
ケーンハーベスタ稼働期間の長期化は原料サトウキビの糖蓄積の早期化と晩期化が基本条件となる。また、南西諸島のように降雨日の多い季節に収穫を実施している地域では、土壌水分の高い圃場でも稼働可能でかつ作物を損傷しない収穫・運搬機械の利用が必要である。糖蓄積の早期化・晩期化は品種特性の改変と窒素施肥の工夫によって達成される。生産者は製糖操業期間・収穫期間の長期化に伴って、収穫計画を立てることが必要であり、実施しようとする収穫時期に適した複数の品種を用いることが必要である。
(注)還元糖はショ糖の晶析阻害物質であるとともに成長のために必要な物質である。
(3)作物の高度利用に向けて
サトウキビ産業の持続的な発展は、地球環境の保全に沿った形での人類に必要な物資(食料・エネルギー・繊維質製品など)の継続的な安定供給の確保、および他産業と比べて遜色のない収益性・快適性の確保によって安堵される。それを満足するために必要な事項は、これまでに述べたように、高度な機械化一貫サトウキビ生産体系の確立である。
地球環境保全の目標に沿った物資の継続的な供給に向けてはこれまで述べてきたことに加え、作物の高度利用が必要である。作物の高度利用に向けて考えられることは、砂糖生産および(バガスを用いた)蒸気・電力生産、加工燃料生産に加え、茎中に蓄積された還元糖を中心とする未利用成分を原料としたエタノール生産、繊維質を利用した繊維質製品(バイオプラスティック、布製品、紙製品)、糖蜜やワックス成分を用いた化学製品(薬品を含む)の生産である。また、梢頭部など、非原料部位の利用も重要である。究極の施設・機械・作物の高度利用は周年収穫・周年操業に基づくサトウキビの多段階利用である。
一年を通して温暖で比較的雨量が多く、かつ生産規模が比較的小規模な南西諸島のような生産地域では、土壌水分の多い圃場での円滑な稼働を保証しうる農業機械が導入されれば、品種の改良は可能であると思われるため、究極の高付加価値生産である周年収穫・多段階利用によるサトウキビ総合産業が創出される可能性が高い。これについてはまた、別の機会に述べようと思う。