カオバン省のサトウキビ産業の現状を把握するため、2019年9月に同省フックホア(復和)県で農家と製糖工場に対して聞き取り調査を実施した(写真2、3)。フックホア県はカオバン省の中でサトウキビ栽培が最も盛んな地域であり、カオバン製糖工場が立地している県である。聞き取り調査は19戸の農家を対象に行ったが、個別農家から得られたデータは必ずしも正確でない面もあるため、ここでは調査対象農家の平均的な数値で概要説明を行うこととする(数値はあくまでも参考データであることをご理解いただきたい)。
調査対象農家の平均経営面積は1.57ヘクタール、サトウキビの平均生産量は88.2トンであった。また19戸のうち6戸(32%)が臨時農作業員を雇用している。調査対象農家の収入はサトウキビ販売から得られるものが79%を占め、次いでスイカが12%、キャッサバが8%、その他が1%となっている。
調査対象農家の平均年齢は39.2歳と比較的若いが、サトウキビの栽培経験は平均15年に及んでいる。ほとんどの農家が製糖工場の設立以来継続的にサトウキビを生産している。農家の農業従事者数は平均2.1人で、ほぼ夫婦2人の働き手による家族農業である。サトウキビの単収は1ヘクタール当たり平均58.1トンとかなり低い。手作業で収穫しているため、前述のように6戸の農家は臨時作業員を雇用している。他の農家は費用を節約するため近くの農家とグループを作って助け合っている。
調査対象農家を経営面積規模別に大中小三つのグループに分け、各グループの平均単収、平均費用、平均利潤を示すと表2の通りである。サトウキビの平均単収は規模の大きい農家グループ(グループ3)が最も低くなっており、1ヘクタール当たり生産費用はグループ1からグループ3にいくに従って低下している。また1ヘクタール当たり平均利潤は規模の小さいグループ1でもっとも高くなっている。いずれも家族経営の形態をとっており機械化が進んでいないため、このような現象が生じているのではないかと推察される。
表3は調査対象農家の平均的な収支と純所得を示している。農家は1ヘクタール当たり55.5トンのサトウキビを収穫し、それをトン当たり80万ドンで製糖工場に販売する。したがって1ヘクタール当たり4440万ドンの収入となる。そこから栽培費用(1411万ドン)を控除すると、農家は1ヘクタール当たり3030万ドン(約15万円
(注))の純所得を得られる。調査対象農家の平均経営面積が1.57ヘクタールだったので、サトウキビ栽培から得られる農家1戸当たりの平均所得は4760万ドンとなる。これにサトウキビ以外の所得を加えると農家の全所得は6000万ドン程度であり、農家の労働力1人当たりでは約3000万ドンとなる。ちなみに、2017年のカオバン省の平均所得は1人1年当たり2700万ドン(約13万円)である。
(注)1ドン=0.004937円で換算(2017年平均レート)。
表4はサトウキビ1トン当たりの農家の生産効率を示している。この表から農家はサトウキビ1トン当たり54万8000ドン(約2700円)の純利益を得ていることになる。中間費用の大部分を占めるのが肥料代(約7割)であり、苗木代や除草剤費がこれに続いている。