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沖永良部島におけるさとうきびスマート農業と労働力の現状と課題

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最終更新日:2022年5月10日

沖永良部島におけるさとうきびスマート農業と労働力の現状と課題

元鹿児島大学 農学部 教授 宮部 芳照
鹿児島大学 農学部 技術職員 柏木 純孝

【要約】

 沖永良部島のさとうきび農業は、まだ深刻な労働力不足に直面している状況ではなく、慣行の機械化作業体系の中で省力化を図りつつさとうきび生産を続けている。しかし将来、労働力不足が確実に予測されるため、作業負荷軽減と高精度化を図るスマート農業の技術導入の必要性について述べた。また、導入に当たり必要な生産基盤の整備、人材育成、受委託作業組織のあり方、スマート農機の導入コストなどについて現状と課題を考察した。さらに、製糖工場でも労働力不足が予測される中で、老朽化した機械・設備の更新や自動化、コロナ禍に対応した作業の合理化および安全対策などの必要性について指摘した。

はじめに

 農林水産省は、令和3年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、令和4年度予算概算要求でその実現に向けて「同戦略実現技術開発・実証事業」と「同戦略推進総合対策」に約95億円を要求した。また、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すため、農業分野では、スマート農業などの技術革新(イノベーション)の生産現場への実装と導入促進およびグリーン栽培体系の普及と総合的病害虫管理(IPM)や有機農業などを推進させること、また、SDGsへの対応や環境負荷軽減を図りながら、農業生産力の向上と持続的発展の両立に向けた取り組みを本格化させようとしている。

 さとうきび農業においても、飛躍的な土地・労働生産性の向上と環境負荷軽減を両立させた持続的発展を目指すことが必要である。また、農業従事者の減少と高齢化が加速する中にあって、今後は、さとうきび生産現場にもスマート農業技術を導入することが必要になるであろう。

 今回は、沖永良部島のさとうきび農業を現地調査して、スマート農業技術の導入と労働力の現状および課題について考察した。

1.沖永良部島(奄美群島)農業 の概況

 沖永良部島は全島のほとんどが隆起さんご礁(琉球石灰岩)からなり、低平な段丘状の地形で砂浜、鍾乳洞も多いが、平坦な農耕地に恵まれている。年平均気温22.6度、年間降水量1856.7ミリメートル、年間日照時間1862時間の亜熱帯海洋性気候に水利用を生かした特色ある農業が行われている。島の東側が和泊(わどまり)町、西側が知名(ちな)町である。

 総面積9365ヘクタール、耕地面積4470ヘクタール(耕地率47.7%、畑地率99.8%)、1戸当たり平均耕地面積2.96ヘクタール(鹿児島県平均1.81ヘクタール)である(総面積は国土地理院調べ:令和2年10月、その他は農林水産省・面積調査:令和2年2月)。

 表1に、奄美群島全域(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島)の農家人口などの推移を示した。総人口、農家人口、農家1戸当たり世帯員数、農家人口率ともに減少し続けている。平成27年の農家人口は、1万4560人で総人口に占める農家人口の割合は13.2%である(平成27年農林業センサス)。これらの傾向は、今回の調査地の沖永良部島においても同様である(データなどは後述する)。



 作目はソリダゴ、スプレーギク、ゆり、グラジオラスなどの花きを中心にばれいしょ、さといも、いんげんなどの野菜、さとうきび、畜産との複合経営を確立しており、奄美群島で唯一葉たばこの栽培が行われている(現在、減反傾向)。また、近年、奄美群島ではコーヒー栽培が増えつつある。沖永良部島でも平成30年に2.4ヘクタール、令和元年に3.3ヘクタール栽培されている。

 なお、平成31年2月に沖永良部花き専門農業協同組合およびあまみ農業協同組合(和泊、知名事業本部)が「かごしまのゆり」団体に認定され、令和2年11月に両団体が出荷する「えらぶゆり」が地理的表示(GI)保護制度に登録された(令和2年度奄美農林水産業の動向、奄美群島農政推進協議会、奄美大島流域森林・林業活性化センター、鹿児島県大島支庁:令和3年3月)。

 次世代の農業を背負う担い手の確保・育成では、農業経営基盤強化促進法に基づく認定農業者数(経営改善計画認定数)は、表2に示すように、沖永良部島では令和元年度438人(うち法人19)で、和泊町、知名町それぞれが、関係機関と連携して経営意識の高い農業者の育成を目的にして「認定農業者連絡協議会」を設立し、認定農業者の組織化を図っている。



 また、U・Iターン者を含む就農者確保のための啓発活動を行い、令和元年度の新規就農者は11人(平成29年度9人、30年度8人)で微増している。さらに、男女が互いに個性と能力を発揮し、責任を分担して農業経営や地域づくりに参画できる「家族経営協定」締結の促進に力を入れており、実践力のある女性農業者の育成を図っている。

 土づくりでは、全島のほとんどが石灰岩などに由来する粘着性の強い土壌であり、四季を通じて温暖多雨なため、有機物の早期分解による地力の消耗も大きく、生産阻害の大きな要因になっている。しかし、依然として即効性や省力化から化学肥料への依存度も高く、生産力低下につながっている。このため、土壌診断の推進やさとうきびハカマ、家畜ふん尿などのバイオマス資源の有効利用を促進する耕畜連携への取り組み強化や地力増進に関する農家の意識高揚に努めている。

 畑地かんがい施設の整備では、国営や県営などの各種事業が着々と進められている。その中心になる国営かんがい排水事業が平成19年度に着工され、地下ダム(総貯水量108万5000立方メートル、提長2669メートル、提高51.1メートル)(写真1)を知名町余多に設置し、末端施設は県営畑地帯総合整備事業の導入によって、1497ヘクタールの畑地かんがいを整備中である(令和元年度末、進捗率85.8%)。奄美群島全体の畑地かんがい整備率は51.8%、沖永良部島は56.9%である(令和元年度末)。このように、畑地かんがい施設の整備を進めながら、農家の水利用意識を高め、農業の生産性と農業経営の安定化に取り組んでいる。

 近年の鳥獣作物被害については、イノシシやヒヨドリによる被害が多く、主に工芸作物(さとうきびなど)や果樹を対象にして、両鳥獣で総被害面積の約87%(83ヘクタール)、被害金額で工芸作物が約4200万円、果樹が約4000万円であり、総被害額の約84%を占めている(令和元年度)。
 

表1

2.さとうきび栽培の現状

 図1にさとうきび生産量と産出額の推移を示した。生産量は平成28年産から30年産にかけて、干ばつや台風被害により減少傾向を示した。30年産は約8万2000トンで28年産比約15%減であったが、令和2年産は約9万2000トンと持ち直した。産出額も同様の傾向を示し、2年産で約22億5000万円であった。
 

 図2に栽培農家戸数と収穫面積の推移を示した。農家戸数は平成27年産の約1150戸以来減少傾向を示していたが、令和2年産では前年比約1.5%増の約1080戸であった。収穫面積は平成29年産以来、約1600ヘクタール前後を維持し、令和2年産で約1680ヘクタールであった。このように、農家戸数の減少傾向に対して収穫面積は維持されており、農家1戸当たりの収穫面積が拡大していることを示した(このことは後述する)。
 

 図3に1戸当たりの収穫面積と生産量の推移を示した。収穫面積は平成30年産前後でやや減少したものの、25年産の約1.1ヘクタール以来やや拡大傾向にあり、令和2年産は前年比3.2%増の約1.6ヘクタールであった。生産量も同様に、平成30年産前後でやや減少したものの、25年産の約45トン以来増加傾向に転じ、令和2年産は前年比15.7%増の約90トン(平成25年産から倍増)を示した。
 

 なお、1筆当たりの平均栽培面積は17.1アールであり、県全体の19.0アールより狭小な圃場(ほじょう)が多く存在する。また、圃場筆数も1万1690筆(令和2/3年期)と多く、これらの圃場がビレットプランタやハーベスタなどの機械の圃場作業効率を低下させる大きな原因になっている。

 図4に10アール当たり収量と1戸当たり産出額の推移を示した。10アール当たり収量は平成28年産の6.1トンをピークに減少したが、29年産の5.1トンから微増し、令和2年産で5.8トンまで回復した。1戸当たり産出額も同様に平成28年産の約203万円をピークに減少したが、令和2年産は約208万円と微増した。
 

 図5に品種別収穫面積の構成(令和2/3年期)を示した。Ni22(農林22号)とNiF8(農林8号)の2品種が全島の約5割余をほぼ2分して収穫されている。Ni22は発芽、萌芽(ほうが)、初期伸長に優れ、高糖、株出し栽培で多収であり、葉焼病に強く、黒穂病に中程度である。また、早期高糖性で収穫早期化に有用であり、平成18年に南西諸島全域を対象に鹿児島県の奨励品種として採用された。NiF8は県内で2割余りの広い面積で収穫されており、早熟、高糖、多収でさび病や黒穂病に強い。また、風折抵抗性があり、脱葉しやすく、平成3年に南西諸島全域を対象にして県の奨励品種に採用された。
 

 図6に栽培型別作付面積の構成(令和2/3年期)を示した。株出し面積割合が県全体と同様に最も高い割合を占め、令和2/3年期で65.5%であった。次に、夏植え21.6%、春植え12.9%であったが、前年期に比べて株出し面積割合がやや減少した分、春植え面積が2.3ポイント微増した。また、県全体に比べて夏植え面積割合が高く、春植え面積が低い構成であった。
 

 表3に株出し回数別作付面積の構成を示した。回数別の面積比では、令和元年産、2年産ともに株出し1、2回が全体の84%以上、県全体で約78%を占めた。また、2年産の株出し3回が約12%、4回以上が約4%で前年に比べていずれも増加した。特に、株出し3回が約5ポイント増加しており多回株出しの傾向が見られた。株出し全面積は2年産で前年比0.9%、県全体では5.6%増加した。
 

 図7にハーベスタによる収穫面積率の推移を示したが、収穫作業は補助事業などで導入したハーベスタの利用が進んでおり、過去10年間を見ても県全体より約2〜7%高い値を示した。令和2年産では約98%(県全体は平均96%)であり、ほとんどすべての地域でハーベスタ収穫が行われていることが分かる。
 

 

3.製糖工場の現状と課題

 南栄糖業株式会社の操業実績などは表4に示した通りである。原料処理量(分みつ糖用)は、過去5年間を見ても8万1000トン台から9万7000トン台で推移しており、現在のところ安定した生産を続けている。特に令和2/3年期は、大きな気象災害も無く、また春植え面積の拡大(前年期比+35%)などにより、4期ぶりに9万トン台を確保した。また、原料処理量のうち95%から98%がハーベスタ収穫によるものであった。1日当たりの原料処理量(年末年始、洗缶日などを含む)は、616トンから648トンであった(計画では約700トンを目指している)。受入れ甘しゃ糖度は13.6度から15.0度、歩留まりは11.7%から12.8%で推移した。また、圧搾工程で発生するバガス(さとうきびの搾りかす〈年期当たり約1900トン〉)は、その燃焼エネルギーを蒸気や電力に利用することにより製糖工程を完結している(写真2)。

 令和3/4年期の生育環境は、株出し管理の遅れ、夏場に日照不足・低温傾向があったが、9月以降は大きな気象災害の影響は見られなかった。原料処理量は、ばれいしょなどの他作物からの転作により増加を見込んだが、苗用として残される圃場も多く9万1429トン(今期実績値)で前期より6029トン減となった。7年連続で8万トン以上の生産量を維持している。受入れ甘しゃ糖度は、製糖開始前の気象被害が無く、登熟が順調に進み15.6度(実績値)で前期より0.7度高い値を示した。

 以上、操業状況などについて見てきたが、この中で特に取り上げたいことは、近年、原料処理量の約98%を占めるハーベスタ収穫茎によるトラッシュ(注1)の混入割合が高いことである。過去5年間のトラッシュ率を見ても平均11%〜13%台の高い値を示している。これは、本島だけに限られたことではないが、今後、ハーベスタのトラッシュ率低下に向けた努力がぜひ必要である。ある農家では、ハーベスタ風選別部を多収さとうきびに対応出来るように自ら改造してトラッシュ率低下を図っている。今後は、製造メーカーを含めてハーベスタトラッシュ風選別部の性能をさらに高める改良がぜひ必要である。

 次に、製糖工場の労働力の問題について述べる。

 労働力は、現在のところ、特にコロナ禍においても困窮している状況にあるとは言えない。従業員はすべて島内で賄っており、3交替制(週に1回、2交代制)を採用している状況である。しかし、将来、労働力不足が到来するのは確実であろう。また、現在は技能実習生などの外国人労働者にも頼っていない状況であるが、労働力の確保が深刻ではない今こそ、半世紀以上も稼働している老朽化した機械・施設などの更新や自動化・集中制御化と作業の合理化および安全対策をコロナ禍への対応も含めて着実に進めておく必要がある。これは、中長期的な課題として一企業だけでは対応し難い設備投資もあり、関係機関の理解と支援が不可欠である。また同時に従業員の技能向上に取り組むことが必要である。

 その他、製糖工場へ聞き取りした事項に対する回答を図8に紹介しておく。

(注1)搬入された原料用さとうきびの梢頭しょうとう部や葉、土砂など、明らかに原料とならないもの。夾雑きょうざつ物。

表4

写真2

図8

4.さとうきび農業の機械化とスマート農業化

(1)導入の際に重要なこと

 さとうきび栽培の農業従事者の減少、高齢化への対応や農作業技術の継承のためには、機械化やスマート農業化が必要であることは言うまでもない。

 Society 5.0(注2)と言われるスマート農業は、情報通信技術(ICT)やロボット技術などの先端技術を利用し、データを活用した精密農業や自動化・無人化による超省力技術を取り込み、次世代農業のあり方を変えようとするものである。ここで、スマート農業技術の開発要素の主なものを挙げると、(1)作物生育管理システム(2)土壌管理支援システム(3)病害虫診断・発生予測システム(4)スマート農機(5)データ連携基盤−などがある。これらの各分野をそれぞれ組み合わせたスマート農業技術の実装は、食料の持続的生産と供給および環境保全の両立につながるものにならなければならない。

 また、スマート農業の背景には、高齢化、後継者不足への対応や土地利用型農業の推進、技術継承などが考えられるが、すでに高齢者は減少し始め、担い手も高齢化が進んでいる状況である。その中で、先端技術を取り入れたスマート農業技術の導入は、さとうきび生産現場においてもぜひ必要である。

 ここで、導入の際に重要なことは、農地の集積・集約化による規模拡大による生産基盤の整備が前提になる。本来、スマート農業の狙いの一つであるスケールメリットを生かした農業は小区画、小規模圃場では達成できない。このことは、特にさとうきび農業へのスマート農業技術の導入の際には必須である。区画整備と規模拡大が促進されなければイニシャル・ランニングコストの回収もおぼつかなくなるであろう。さとうきびスマート農業の成否は、農地の大区画化と規模拡大の他にないと言っても過言ではない。

 また、その他に各地域が有する地形の特徴、農家経営の実態を十分に把握して技術導入を進めることが重要である。

 さらに普及上の課題として、現在、他の農業分野では従事者間のスマート農業技術に対するリテラシーに差があり、特に若い従事者に過重な負担を強いている状況がある。さとうきび農業においても、各年代層にも受け入れやすいスマート農業利用技術の開発がさらに必要であろう。

(注2)サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立させる人間中心の新たな未来社会の姿。

(2)永野生産組合の事例

 次に、今回調査した沖永良部島のさとうきびスマート農業の実態について述べる。

 本島のさとうきび栽培では、スマート農業技術を導入する段階にまだ至っていないのが現状である。むしろ、慣行の機械化一貫作業体系の中で採・調苗作業や植え付け作業の高精度化・省力化と基本的な管理作業を徹底することで十分に安定生産が可能な状況にある。また現在、高齢化と農業従事者の減少が確実に進んでいる状況ではあるが、まだ労働力はひっ迫状況にあるとは言えない。

 ここで、令和元年度さとうきび生産改善共励会の最優秀賞を受賞した永野生産組合を紹介しておく。

 本組合は、大型ハーベスタを中心にした慣行の機械化作業体系を忠実に実践することによって十分に増収・安定生産を可能にしている。令和元年時点の概要は以下の通り(表5)。収穫期の作業量軽減のために夏植え、株出しを主体にしており、単収、甘しゃ糖度ともに町平均を上回っている。

 本組合が栽培管理作業などの中で、特に力を入れているのが、(1)土づくり(2)苗づくり(3)植え付け(4)入念な圃場観察による中耕・培土・施肥・かん水などの適期管理(5)徹底した雑草対策−である。その他に機械整備作業に力を入れている。

 土づくりは、プラソイラーによる深耕、堆肥投入(牛ふん堆肥10アール当たり3トンを散布)を徹底させている。植え付けは、2(うね)プランタでの人力による苗投入を行っているが、現在はビレットプランタに移行してきている。雑草対策では、動力噴霧機、ブームスプレイヤによる徹底した防除草作業を行っている。特に、ノアサガオの繁茂が著しい機械防除が困難な圃場やギニアグラス類の除草には手抜きによる人力作業を実施している。また、ドローンによる薬剤・肥料散布については、強風と近隣農家への影響を考慮して現在のところ考えていない。収穫作業後は、株揃えなどを早期に実施して管理作業の徹底を図っている。さらに、農機の修理・整備は、自家整備庫を持ち、改造を含めて自ら行っている(写真3)。特に、機械の保守点検は入念に実施しており、ハーベスタ収穫作業中の故障(例えば、ベアリング類の損傷など)は半日で修理する体制を整えている。

 これらの各種作業の中で、特に注目しておきたい作業が苗づくり作業である。約40アールの種苗生産圃場を確保し、近隣の畜産農家と協力しながらハカマと牛ふん堆肥を毎年交換して土づくりを徹底した圃場で健全な苗づくりに力を入れている(いわゆる理想的な耕畜連携の実践)。また、種苗用蔗茎(しょけい)は手刈りで行い、苗切断機による2芽苗切断と丁寧な調苗・選別および石灰浸漬を行って健全種苗の確保に努めている(さとうきび作においても苗半作と言ってもよい)。

 さらに、規模拡大のために借り受けた農地は、自ら整地用重機を稼働して基盤整備を行っている。生産基盤の整備は、特に区画面積や形状の悪い圃場を借用する際に欠かせない重要な作業の一つになる。

 現在、本組合の大きな悩みは、保有ハーベスタ2台のうち、リース以外の1台が13年間稼働して故障が多いことである。補助事業での更新を希望しているが、なかなか望みがかなわないのが現状のようである。ハーベスタはさとうきび栽培の命であり、その更新は必要不可欠である。大型農業機械更新の補助事業は、スマート農業に係る予算を含めて再考する必要がある。

 以上、基本作業の徹底した実践と将来を担う若者たちにさとうきび農業の魅力を伝えながら、「やる気・根性・愛」を合言葉にして、懸命に農作業に取り組む本生産組合はまさに頼もしい存在であった(写真4)。

 その他、今回の調査で取り上げたいことは、町の農業委員会を通して農地を借り受けて規模拡大を図ろうとする農家の中には、貸主に支払う土地借用料金が高いため(条件の悪い圃場で10アール当たり1.5〜2.5万円、良い圃場で10アール当たり2.5万円)、これが規模拡大を阻む大きな要因になっていることである。借り上げ料金の負担軽減を望む声が強い。これは、仮にスマート農業技術を導入しようとする場合にも考慮すべき課題の一つになる。さらに、多くの農家の中には、さとうきび買い取り価格の値上げを要望する声も強い。

 ドローンによる薬剤散布については、受託団体へ依頼したり、個人所有を検討している農家も出てきているが、初期コスト、維持費の面から導入を諦めている農家が多い。

 また、近年話題である有機農業に取り組んでいる農家は現在のところ少なく、本島のさとうきび栽培では約1.2ヘクタール程度に過ぎない。さとうきび栽培においても、循環型農業を持続させるために有機農業の面積拡大がぜひ必要である。以上が実態であるが、前述のように、慣行の機械化営農体系がいつまでも続く状況にあるとは言えない。今後は、本島においても高齢化と農業従事者の減少が確実に到来し、スマート農業技術の導入が必要になることは間違いないと考える。

表5

写真3

写真4

(3)沖永良部農業開発組合の事例

 このような状況下で、一方では、将来を見据えたスマート農業技術導入への環境整備も着実に進みつつある。その一例として、公益財団法人沖永良部農業開発組合が集中脱葉事業、農作業受委託事業、堆肥事業などを中心にして活発に活動を行っている。

 そこで、本組合の概要を紹介しておく。

 本組合は、沖永良部島農業の振興と農村の活性化を図り、農業者の経済的・社会的地位の向上と活力ある地域社会の維持・発展を目的として、昭和46年1月、日本で最初に農業公社として設立され、平成24年5月に公益財団法人へ移行した。構成は、和泊町、知名町、あまみ農業協同組合(和泊事業本部、知名事業本部)、南栄糖業株式会社、和泊町・知名町商工会、永良部百合生産出荷組合である。主な事業内容は、集中脱葉、農作業受委託、種苗供給、堆肥製造、機械貸付である。主な保有機械は、トラクタ6台、タイヤショベル5台、マニュアスプレッダ2台、堆肥運搬車、ビレットプランタ、フォークリフト、クレーン車、ロールベーラ各1台である。

 集中脱葉施設は、平成4年に精脱葉運転開始、1時間当たりの処理能力35トン、製糖期間は24時間稼働、3交替制(1勤務5人体制)である。なお、令和3年度より無脱簡易切断機による処理に移行予定である。

 堆肥センターは、平成9年に建設され、年間の処理能力3000トン、牛ふん堆肥、ハカマ堆肥、エコ堆肥(汚泥発酵肥料)をそれぞれ製造販売している。

 種苗供給は、春植え(苗約35ヘクタール分)、夏植え(苗約30ヘクタール分)を植え付け時期に合わせて2芽苗を出荷している。

 受託農作業などの内容は、表6に示した通りである。

 なお、ドローンによる薬剤、肥料散布は、令和3年1月より農家と受託者とのマッチングを行い、現在試行中である。散布薬剤(資材)は殺虫、除草、疫病などのドローン用登録薬剤と肥料である。さらに、近隣地への影響を避けるために飛散、ドラフト防止、風のある時は散布作業を中止している。株出し管理は、株揃え+サブソイラ深耕+中耕・培土のセット作業を実施している。植え付け作業は、ビレットプランタによる作業を3年春植えより実施している。

 図9に、本組合の農作業受託実績(令和3年10月)を示したが、平成28年度から令和2年度の受託面積は120ヘクタールから139ヘクタール(約16%増)、受託件数は275件から356件(約29%増)へと増加傾向にあった。

 今後は、担い手農家への規模拡大に関する調査や基盤整備地区への作付面積の拡大、管理作業を行う営農集団の育成などにさらに取り組む予定である。また、本組合は、現在試行中のドローンによる薬剤、肥料散布の窓口になっているが、現在、徳之島で実証されているICTを利用した圃場位置・管理情報をスマートフォンなどで確認するシステムの導入以外、農作業と管理の効率化を図る営農・サービス支援システムの導入などは今のところ考えていない。

 次に、本島へのスマート農業技術導入についての問題点を指摘しておく(図10)。いずれにしても地域の実態に合った選択的な導入が必要である。
 

表6

図9

図10

5.農業労働力の現状と課題

 表7に示したように、平成12年から27年までの総人口は減少傾向を示し、27年は1万2996人(22年対比6.6%減)であった。27年の世帯数は5601戸、総農家戸数は1508戸、農家戸数率は26.9%であった。
 

 表8に、28年から令和2年までの総人口、世帯数などを示した。さらに、図11には、特に高齢化率(総人口に対する65歳以上の人口割合)などの推移を示したが、本島においても高齢化が確実に進行していることが分かる。平成28年の高齢化率は31.8%であったが、5年経過後の令和2年では37.1%に上昇しており(5.3ポイント上昇)、これは鹿児島県全体の35.7%より1.4ポイント、隣島の徳之島の36.0%より1.1ポイント高い値を示した。
 


 また、表9に示したように、農家人口(販売農家)3920人、総農家戸数1508戸、販売農家戸数1416戸(専業732戸、兼業684戸)、自給的農家92戸であった。
 

 表10、表11に、年齢別農業従事者数と経営階層別農家戸数を示したが、60歳以上の農業従事者は全体の約52%を占め、その中で、特に75歳以上の高齢従事者が約27%を占めており、いかに高齢農業従事者が多いかが分かる(平成27年農林業センサス)。また、経営耕地面積は、1ヘクタール未満の農家が19.7%、1〜2ヘクタール未満が29.9%、2ヘクタール以上が50.4%であり、2ヘクタール未満の農家が約5割存在した。
 


 このように、高齢化した小規模経営農家が多い現状において、土地・労働生産性の一層の向上を図るためには、基盤整備による規模拡大はもちろんのこと、高性能農業機械を利用した機械化一貫体系の確立と農作業受委託組織の法人化による受委託体制の強化が必要である。また同時に、機械化栽培体系のさらなる省力化のためには、ハーベスタ収穫を中心にして、ハーベスタ採苗による優良種苗の確保、ビレットプランタによる植え付けおよび多回株出し栽培を視野に入れた安定多収生産のための栽培技術の確立が必要である。多回株出しについては、沖永良部島で株出し7、8、9回の多回株出しで新植並みの安定生産を実現している農家がある(栽培技術をここで紹介しておくと、欠株対策として補植作業を徹底する、除草作業を丁寧に行う〈月1回程度〉、堆肥投入〈3年に1回、10アール当たり約3トン〉、管理作業を徹底する〈収穫後1週間以内に根切り、株揃え、施肥の実施〉、植え付け深さ約15センチメートル程度などが挙げられる)。

 その他に、植え付け、収穫作業のみならず株出し管理作業についても自動走行可能なさとうきび栽培用スマート農機の開発と導入が望まれる。

 さらに、スマート農業技術の導入のためには、集落や地域の資源(農地、機械、施設、労働力)を十分生かした集落営農組織が必要である。また、高齢化などにより離農する農家の受け皿になり、機械の稼働効率の高い作業を進めるためには、意欲ある中核的担い手の育成と担い手への農地集積・集約化が不可欠である。特に、さとうきび生産においては、農地の規模拡大が重要であり、農地中間管理事業などを活用した担い手への農地集積は、遊休農地、耕作放棄地の発生防止にもなり、これが、農業経営の規模拡大、効率的な機械利用、生産基盤の強化につながる。今後、地域農業の将来を見据えた農地の流動化が一層進むことを期待したい。また、本島においても労働力不足によって農作業の受委託が進むのは確実であり、農作業支援組織の必要性はますます増大するであろう。

 一般に、農作業受託の担い手には、農作業仲介組織(マシーネンリング)と請負組織(コントラクター)がある。また、農作業受委託組織の運営形態には、行政主導型、農協主導型、地域リーダー主導型などが考えられる。

 本島では、すでに集落活動に重きを置いた地域リーダー中心の運営形態を取り入れている地域もあるが、植え付け、管理、収穫作業の委託ニーズが増加する中にあって受託農家の負担が大きく、自らの圃場の収穫作業すら追われる状況にある。地域リーダー主体による受託作業のみでは、オペレータ不足と植え付け、管理作業などの遅れが危惧される。

 今後、このように、ますます増加すると予測される委託ニーズに応え、効率的な受委託作業を進めるためには、コントラクターの仕組みを取り入れた機械稼働効率の高い作業組織を作る必要がある。これは、耕起、植え付けから管理、収穫に至るまでの全作業に対応できるものでなければならない。

 一般に、コントラクターの経営形態には、株式会社、法人経営体、農業公社、農協直轄、営農集団などがある。コントラクター利用のメリットは、規模拡大が可能になり、機械稼働効率、農作業効率が高められ、スケールメリットが発揮されることである。また、農作業の一部を外注(アウトソーシング)することで、さとうきび栽培に要する時間に余裕ができ、適期を逃がさない各種作業が可能になることである。

 本島のコントラクター組織の経営形態としては、各農家が有する経営形態からみて、本島全域のさとうきび農家を対象にした法人経営体が望ましい。その際に重要なことは、組織の財政健全化、農家の利用料金への理解、オペレータの確保・技術向上が挙げられる。その他に、委託者の農業に対する意識の希薄化防止、受託組織と委託者との良好な環境づくり、さらには非農家とのコミュニケーションに配慮した受委託組織として発展する必要がある。コントラクター事業の成否は農家、非農家の信頼をどう得られるかにあると言ってよい。また、このような受委託組織が確立出来れば、地域農業システムの構築とスマート農業技術の導入成果も最大限に生かされるであろう。

 最後に、将来のさとうきび農業像を考えてみると、生産管理現場へのロボット技術の活用やICT、データセントリック技術(注3)を活用したイノベーションが社会経済環境の変化と相まって農業経営構造にも大きな影響を及ぼしていることは確実であろう。

 また、このような農業イノベーションが、飛躍的な経営規模拡大を実現し、生産コストの低減、高収益化につながり、経営主体は次世代型大規模農業生産法人へ移行していると考えられる。これらの生産法人化とスマート農業技術の導入が、農作業の受委託を一層加速させ、超省力化したさとうきび生産組織の誕生を促しているであろう。

(注3)大量のデータを収集して計算機などで解析・解明し、その結果を利活用することで新しい研究開発に生かす技術(データ中心技術)。

 沖永良部島さとうきび農業の場合も、高齢化と農業従事者の減少が加速する中にあって、前述した農業イノベーションが超省力化と高収益化した生産組織の誕生につながることを期待したい。
 

おわりに

 沖永良部島のさとうきび農業は、現在のところ、労働力不足に直面した状況にあるとは言えず、慣行の機械化作業体系の中で省力化を図りながら、さとうきび生産を進めている状況である。しかし、将来、労働力不足が確実に予測され、労働力確保への努力とスマート農業技術の導入が必要になる。高齢農家などの受け皿になる担い手の育成、基盤整備はもちろんのこと、本島全域のさとうきび農家を対象にした効率的な農作業受委託組織の確立を目指さなければならない。

 また、生産現場へのスマート農業技術の導入の際は、初期投資やランニングコストを含む費用対効果を最重要視した検討が必要である。スマート農業技術の導入が過度な装備化につながり、コスト高の原因になるのは避けなければならない。スマート農機の導入コストの低減のためには、農機のシェアリング(共同利用)とその支援体制の確立も重要である。経済性の評価はスマート農業の普及性を左右する最大の要素であることを強調しておきたい。

 次に、製糖工場の労働力についても、現在のところ困窮状態までに至っておらず、コロナ禍における外国人労働者も雇用していない。しかし、将来、労働力不足は間違いなく到来する。人材確保が深刻にならない今こそ、半世紀以上も稼働している老朽化した機械・施設などの更新や自動化・集中制御化と作業の合理化および安全対策をコロナ禍への対応も含めて着実に進めておく必要がある。これは、中長期的な課題として一企業だけでは対応し難い設備投資もあり、関係機関の理解と支援が不可欠である。また同時に従業員の技能向上に取り組むことが必要である。

 以上、労働力不足に対応したスマート農業技術の導入が、地域農業システムの発展をけん引し、さとうきび農業への男女共同参画を促すとともに次世代を担う若者たちに魅力ある農業として提供されることにつながらねばならない。

 今後、広く一般国民にさとうきび農業への理解を得るためには、例えば、体験型農場、農村交流施設を有する観光農園などを開設して生産地の魅力発信に努力してほしい。

 奄美群島のさとうきび産業は、地域農業・社会的基盤を支えているのみならず、近年のわが国を取り巻く厳しい安全保障環境下において、南西諸島周辺の国防上からも重要な産業であることを忘れてはならない。


謝辞

 今回の調査に当たり、ご多忙の中、ご協力いただいた鹿児島県大島支庁沖永良部事務所、沖永良部さとうきび生産対策本部、公益財団法人沖永良部農業開発組合、南栄糖業株式会社の皆さまおよび生産者の永野育八氏にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272