表7に示したように、平成12年から27年までの総人口は減少傾向を示し、27年は1万2996人(22年対比6.6%減)であった。27年の世帯数は5601戸、総農家戸数は1508戸、農家戸数率は26.9%であった。
表8に、28年から令和2年までの総人口、世帯数などを示した。さらに、図11には、特に高齢化率(総人口に対する65歳以上の人口割合)などの推移を示したが、本島においても高齢化が確実に進行していることが分かる。平成28年の高齢化率は31.8%であったが、5年経過後の令和2年では37.1%に上昇しており(5.3ポイント上昇)、これは鹿児島県全体の35.7%より1.4ポイント、隣島の徳之島の36.0%より1.1ポイント高い値を示した。
また、表9に示したように、農家人口(販売農家)3920人、総農家戸数1508戸、販売農家戸数1416戸(専業732戸、兼業684戸)、自給的農家92戸であった。
表10、表11に、年齢別農業従事者数と経営階層別農家戸数を示したが、60歳以上の農業従事者は全体の約52%を占め、その中で、特に75歳以上の高齢従事者が約27%を占めており、いかに高齢農業従事者が多いかが分かる(平成27年農林業センサス)。また、経営耕地面積は、1ヘクタール未満の農家が19.7%、1〜2ヘクタール未満が29.9%、2ヘクタール以上が50.4%であり、2ヘクタール未満の農家が約5割存在した。
このように、高齢化した小規模経営農家が多い現状において、土地・労働生産性の一層の向上を図るためには、基盤整備による規模拡大はもちろんのこと、高性能農業機械を利用した機械化一貫体系の確立と農作業受委託組織の法人化による受委託体制の強化が必要である。また同時に、機械化栽培体系のさらなる省力化のためには、ハーベスタ収穫を中心にして、ハーベスタ採苗による優良種苗の確保、ビレットプランタによる植え付けおよび多回株出し栽培を視野に入れた安定多収生産のための栽培技術の確立が必要である。多回株出しについては、沖永良部島で株出し7、8、9回の多回株出しで新植並みの安定生産を実現している農家がある(栽培技術をここで紹介しておくと、欠株対策として補植作業を徹底する、除草作業を丁寧に行う〈月1回程度〉、堆肥投入〈3年に1回、10アール当たり約3トン〉、管理作業を徹底する〈収穫後1週間以内に根切り、株揃え、施肥の実施〉、植え付け深さ約15センチメートル程度などが挙げられる)。
その他に、植え付け、収穫作業のみならず株出し管理作業についても自動走行可能なさとうきび栽培用スマート農機の開発と導入が望まれる。
さらに、スマート農業技術の導入のためには、集落や地域の資源(農地、機械、施設、労働力)を十分生かした集落営農組織が必要である。また、高齢化などにより離農する農家の受け皿になり、機械の稼働効率の高い作業を進めるためには、意欲ある中核的担い手の育成と担い手への農地集積・集約化が不可欠である。特に、さとうきび生産においては、農地の規模拡大が重要であり、農地中間管理事業などを活用した担い手への農地集積は、遊休農地、耕作放棄地の発生防止にもなり、これが、農業経営の規模拡大、効率的な機械利用、生産基盤の強化につながる。今後、地域農業の将来を見据えた農地の流動化が一層進むことを期待したい。また、本島においても労働力不足によって農作業の受委託が進むのは確実であり、農作業支援組織の必要性はますます増大するであろう。
一般に、農作業受託の担い手には、農作業仲介組織(マシーネンリング)と請負組織(コントラクター)がある。また、農作業受委託組織の運営形態には、行政主導型、農協主導型、地域リーダー主導型などが考えられる。
本島では、すでに集落活動に重きを置いた地域リーダー中心の運営形態を取り入れている地域もあるが、植え付け、管理、収穫作業の委託ニーズが増加する中にあって受託農家の負担が大きく、自らの圃場の収穫作業すら追われる状況にある。地域リーダー主体による受託作業のみでは、オペレータ不足と植え付け、管理作業などの遅れが危惧される。
今後、このように、ますます増加すると予測される委託ニーズに応え、効率的な受委託作業を進めるためには、コントラクターの仕組みを取り入れた機械稼働効率の高い作業組織を作る必要がある。これは、耕起、植え付けから管理、収穫に至るまでの全作業に対応できるものでなければならない。
一般に、コントラクターの経営形態には、株式会社、法人経営体、農業公社、農協直轄、営農集団などがある。コントラクター利用のメリットは、規模拡大が可能になり、機械稼働効率、農作業効率が高められ、スケールメリットが発揮されることである。また、農作業の一部を外注(アウトソーシング)することで、さとうきび栽培に要する時間に余裕ができ、適期を逃がさない各種作業が可能になることである。
本島のコントラクター組織の経営形態としては、各農家が有する経営形態からみて、本島全域のさとうきび農家を対象にした法人経営体が望ましい。その際に重要なことは、組織の財政健全化、農家の利用料金への理解、オペレータの確保・技術向上が挙げられる。その他に、委託者の農業に対する意識の希薄化防止、受託組織と委託者との良好な環境づくり、さらには非農家とのコミュニケーションに配慮した受委託組織として発展する必要がある。コントラクター事業の成否は農家、非農家の信頼をどう得られるかにあると言ってよい。また、このような受委託組織が確立出来れば、地域農業システムの構築とスマート農業技術の導入成果も最大限に生かされるであろう。
最後に、将来のさとうきび農業像を考えてみると、生産管理現場へのロボット技術の活用やICT、データセントリック技術
(注3)を活用したイノベーションが社会経済環境の変化と相まって農業経営構造にも大きな影響を及ぼしていることは確実であろう。
また、このような農業イノベーションが、飛躍的な経営規模拡大を実現し、生産コストの低減、高収益化につながり、経営主体は次世代型大規模農業生産法人へ移行していると考えられる。これらの生産法人化とスマート農業技術の導入が、農作業の受委託を一層加速させ、超省力化したさとうきび生産組織の誕生を促しているであろう。
(注3)大量のデータを収集して計算機などで解析・解明し、その結果を利活用することで新しい研究開発に生かす技術(データ中心技術)。
沖永良部島さとうきび農業の場合も、高齢化と農業従事者の減少が加速する中にあって、前述した農業イノベーションが超省力化と高収益化した生産組織の誕生につながることを期待したい。