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沖縄県の農地における赤土等流出防止対策について

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最終更新日:2022年8月10日

沖縄県の農地における赤土等流出防止対策について

2022年8月

那覇事務所 大塚 健太郎

【要約】

 沖縄県では、赤土等の海への流出が水質汚濁を引き起こし、生態系や水産業、観光業などへの影響が長年にわたり問題視されている。同県は、海に囲まれた島しょ県であり、海は重要な資源であることから、沖縄県赤土等流出防止条例を制定し、沖縄県赤土等流出防止対策基本計画に基づいてさまざまな対策を実施している。しかしながら、赤土等流出の大部分は農地が発生源となっているため、農地における対策をより一層進めていく必要がある。一方、農地における赤土等流出防止対策は農家にとって負担となることから、赤土等流出防止対策の農家にとってのメリットをいかに周知・普及させていくかが課題となっている。

はじめに

 沖縄県は海に囲まれた島しょ県であることから、赤土等(南西諸島で見られる赤茶色の土〈国頭(くにがみ)マージ、島尻(しまじり)マージ〉や灰色の土〈ジャーガル、クチャ〉など、沖縄県のすべての土壌の総称をいう。以下同じ)の海や河川への流出が水質汚濁につながり、生態系への影響が長年にわたり問題視されている。また、海水の汚濁は水産業や観光業などにも影響を与えている。そのため、県は沖縄県赤土等流出防止条例(以下「条例」という)を制定し1)、さまざまな対策を講じているが、赤土等流出の84%は農地が発生源だとされていることから、農地における対策の実施が必要不可欠となっている。

 近年、SDGs(Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉)に対する関心が高まっている。SDGsにおける「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」にも関連する、沖縄県における赤土等流出防止対策とNPO法人おきなわグリーンネットワークの取り組みを中心に、サトウキビ生産農地における具体的な対策について報告する。
 

1 沖縄県における赤土等流出問題

(1)赤土等の流出要因

 赤土等の流出は、地表が侵食され、土壌が河川に流れ出し、河川から海に流出、堆積するという流れで発生する(写真1、2)。平成25年に策定された沖縄県赤土等流出防止対策基本計画2)(以下「基本計画」という)において、地表の侵食が起こる要因として、[1]降雨[2]地形[3]土壌[4]改変行為−の四つが挙げられている(図1)。

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[1]降雨

 沖縄県は亜熱帯特有のスコールのような強い雨の降り方が多いため、表土がむき出しの裸地に雨が当たると土の塊が分散し、赤土等が流出しやすい状態になる。沖縄県のホームページによると、沖縄県の雨の侵食性(土をえぐる力)の強さは、全国平均の3倍もの値を示すといわれる(那覇市観測)。

[2]地形

 一般的に、河川が長く、傾斜がなだらかな場合は、河川に流出した土砂は時間をかけて一定程度が河川に沈殿し、海への流出量は減少するが、沖縄県は海に囲まれている島しょ県であるため、河川が短く、短時間で海まで流出してしまう。また、地表の侵食は、流水の量と速度に大きく影響されるが、傾斜が急な地域では、流水の速度が速く、より侵食されやすい地形となっている。沖縄本島北部や八重山地方は、傾斜が急な山地・丘陵地が多い地域(県全体の山地・丘陵地の50%以上を占める)であるが、これらの地域では降った雨が土壌に浸透されずにそのまま流れやすく、赤土等の海への流出がより発生しやすい地形となっている。

[3]土壌

 日本の沖縄県より北の温帯性気候の地域では、土壌は落ち葉などの有機物を含んだ黒土層(腐植層)が地表に厚くあり、その下に赤土層がある。有機物を含む黒土層は粘り気が強く土壌がバラバラになりにくい性質がある。一方、赤土層は、土壌が団粒化せず、さらさらしているため流出しやすいという性質がある。亜熱帯の沖縄は年中気温が高く、降水量も多いため、微生物などの活動が活発で有機物の分解速度が速く、黒土層が薄い3)。また、沖縄県に分布する土壌は、国頭マージ、島尻マージ、ジャーガルの3種類で大部分を占めているが、いずれも粒子が細かい上に、崩れやすく、侵食されやすいという特徴を持っている(図2)。それらの土壌で人為的に表土を剥ぎ取られると赤土層が容易に露出し、雨などで侵食され、河川に流出しやすくなる。また、赤土等は粒子が小さいことから水中での浮遊時間が長く、海に一度流出すると海を長い時間濁らせる原因となる。
 

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[4]改変行為

 地表を植物などが覆っている場所は土壌の侵食が起こりにくいが、農地の開墾や開発工事により地表を覆う植物などが剥がされて裸地状態になると、雨が降った際などに赤土等が流出しやすい状態となる。経済発展や人口の増加などに伴いかつて森林だった場所が開拓され、農地、道路などになっているため、赤土等が流出しやすい場所が増えたことも要因となっている。

(2)赤土等流出の影響

 赤土等の流出は主に次のような影響を及ぼす。

ア 河川への影響

・河川に赤土等が堆積することで、流下能力の低下や自然の浄化機能の低下を招き、生活用水や工業用水の水質を悪化させる。
・水質の悪化が、在来の水中生物の生態系に影響を及ぼす。
・ダムに赤土等が堆積した場合、貯水量を減少させ、ダムの機能を低下させる。
・赤土等が河口を塞ぐように堆積してしまった場合、海と河川を行き来する魚類が生息できなくなる。

イ 海への影響

・沖縄県の沿岸にはサンゴ礁が発達しており、サンゴ礁と陸で囲まれた浅い海はイノー(礁池(しょうち))と呼ばれ、閉鎖的な地形になっている。そのため、海に流出した赤土等の大部分はイノーに堆積する。イノーに堆積した赤土等は、波風が強くなると海中で巻き上げられ、海が濁る原因となる(図3)。このため、赤土等がイノーに堆積すると、一時的でなく慢性的な海水の水質汚濁につながる。
・赤土等の堆積は、海中生物の生態系に影響し、魚介類の産卵場所の喪失、サンゴ礁の基盤となっているサンゴの減少などにつながる。


ウ 漁業への影響

・定置網などの漁場が赤土等で濁ると、魚が網に入らなくなる。
・沖縄県ではモズクやアーサ(あおさ)などの養殖が盛んだが、養殖が行われている海域に赤土等が流出すると、植物の光合成に影響を及ぼし、生育不良や商品価値の低下につながる(写真3、4)。

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エ 観光への影響

・沖縄県は、青く美しく、生態系豊かな海が貴重な観光資源となっている。しかし、赤土等が流出すると海が濁るため、海の美しさが損なわれる。
・海の美しさが損なわれることで、ダイビングなどマリンレジャーにも悪影響を及ぼす。

(3)赤土等の流出量

 沖縄県の「赤土等流出防止パンフレット 未来につなげよう(ちゅ)ら島・美ら海の恵み(以下「パンフレット」という)」によると、赤土等の流出量は、条例施行前の平成5年度では52万1000トン、施行後の13年度は38万2000トン、23年度は29万8000トン、28年度は27万1000トンと減少傾向にある(図4)。

 しかし、基本計画では年間の流出量を16万8000トンへ減らすことを目標としており、いまだ達成できていない状況にある。また、28年度では、流出量全体の84%を農地からの流出が占めており、県全体の赤土等流出量を減らすためには農地における対策が不可欠となっている(図5)。
 

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(4)行政の対策

 沖縄県では平成7年10月に施行した条例により、事業行為に伴って発生する赤土等の流出を規制するとともに、海や河川における水質汚濁の防止を図っている。この条例により、事業者は、切土、盛土または整地など、土地の区画形質を変更する工事を行う場合、事業現場からの赤土等の流出防止に必要な対策を行うよう義務付けられている。具体的には、裸地の表土を被覆して地表の侵食を防止する、水路を設け濁水の移動を制御する、沈殿槽を設け濁水を清浄化するなどの対策を求められる。また、濁水は、浮遊物質量1リットル当たり200ミリグラム以下で排出できる状態に達した時、速やかに排出し、その浮遊物質量を測定・記録しておくことが求められる。

 農地の管理者については、赤土等の流出防止対策を実施することを努力義務としている。

 この条例により事業行為に伴って発生する赤土等の流出は大幅に減少したものの、農地からの赤土等流出抑制のさらなる推進が必要であったことから、県は、25年に基本計画を策定した。

 基本計画では、県内海域における監視海域として76海域を設定し、海域ごとに赤土等の流出削減目標を設定した。また、76海域のうち重要なサンゴ礁があるなどの基準で22海域を重点監視海域に指定した。目標の達成状況を把握するため、重点監視海域は毎年、その他の監視海域については、基本計画の中間年度である28年度と最終年度の令和3年度にモニタリング調査を実施することとしている。

 平成28年度の中間評価5)では、76海域における23年度から28年度の赤土等の流出削減量は、2万7400トンと、基本計画における流出削減目標の9万3200トンに対して29.4%の達成にとどまっており、農地における流出防止対策のさらなる推進が必要であるとしている。

 また、県では、モニタリング調査のほかに、赤土等流出防止対策に取り組んでいる地域協議会の支援、グリーンベルトの設置、農地の勾配抑制、排水路・沈砂池整備の土木対策の事業などを実施し、赤土等の流出防止対策を行っている(表)。

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2 NPO法人おきなわグリーンネットワークの取り組み

 NPO法人おきなわグリーンネットワーク(以下「グリーンネットワーク」という)は、沖縄県内の農地における赤土等流出防止対策および学生向けの環境学習を実施している団体である。ここでは、グリーンネットワークの事業概要と農地における具体的な対策を紹介する。

(1)法人の設立経緯

 グリーンネットワークの理事長である西原隆氏は、平成23年時点では沖縄県農林水産部水産課の事業「新しい公共による海の再生協働モデル事業」を受託した企業にて、この事業の契約チームリーダーとしてグリーンベルトの植栽活動を地域と協働で取り組む活動を行っていた。

 しかし、このような環境保全活動を行政が中心となり継続するには予算とボランティア活動人員の確保などに限界があり、NPO法人などの組織を核とした持続的な活動が必要であると考えたことから、25年8月、西原氏が中心となってNPO法人を設立した。

(2)グリーンネットワークの主な取り組み

 グリーンネットワークの主な活動は、沖縄県の補助事業と委託事業を活用した、グリーンベルトの植栽活動と環境学習である。

ア グリーンベルトの植栽活動  

 沖縄県のパンフレットでは、農地における赤土等流出防止対策において効果が見込まれるものとして、[1]土層および土壌の改良[2]土壌面保護[3]表流水コントロール−を挙げている。

[1]土層および土壌の改良

 土層内に硬盤があると、農地の排水性が悪くなり、雨によって地表を水が流れることで、赤土等が流出しやすくなる。そのため、サブソイラーなどを使い心土破砕(農地に切り込みを入れて排水性と保水性に優れた土壌を作ること)することで、雨水の地下浸透を促す。

[2]土壌面保護

 農地では土地を耕す時期や農作物の収穫後、更新時、播種(はしゅ)時など、畑が裸地状態のときに赤土等の流出が起こりやすい。そのため、農作物を植えない時期に農地で草花を栽培して地表を覆うことで、雨による赤土等の流出を防ぐことができる。また、ヒマワリやクロタラリアなどの栽培は、緑肥としての役割があり雑草抑制や土づくりの面でもメリットがある。

[3]表流水コントロールの事例

 裸地、農地の周辺、斜面の下側などに樹木や草木などの植物を帯状に植えることにより、水の流れを弱め、濁水中の土壌粒子を補足し、赤土等の流出を防ぐことができる。これはグリーンベルトと呼ばれている。

 グリーンネットワークでは、このうちグリーンベルトの植栽活動による表流水コントロールの対策を主に行っている。平成25年度〜令和2年度累計でのグリーンベルトの植栽活動の実績は、延べ参加人数3984人、ベチバー(写真5)などの植栽束数9万1191束、植栽した距離は延べ1万5041メートルである。

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 グリーンネットワークによると、グリーンベルトは、赤土等の流出を抑えるとともに農地の土が側溝に落ちるのを防ぎ、赤土等流出量を50〜60%程度に軽減する効果があるとしている。

 また、グリーンベルトに適した草種として、ベチバー、月桃(げっとう)、ヤブラン、リュウノヒゲを挙げている。

 基本計画に基づき、重点監視海域に指定された海域を有する10市町村では、行政が中心となって赤土等流出防止対策地域協議会(以下「地域協議会」という)を設置しており、農業者へ農地での流出防止対策を支援する現場指導員として農業環境コーディネーターを設置している(図6)。グリーンネットワークでは、植栽活動の計画策定に当たり、各地域の農業環境コーディネーターと相談しながら植栽活動を行う農地の選定を行っている。また、植栽活動は主に学生を対象に実施しているが(写真6)、参加する学校の選定や日程調整は、地域協議会と相談しながらグリーンネットワークで行っている。

 植栽活動では、農地の外周にベチバーなどの植物を植えていくが、傾斜のある農地では、赤土等の流出が発生しやすい斜面の下側の端に重点的に植える。その際、直線上に植えるのが一般的だが、より効果を高めるため、千鳥状に植えるほか、T字に植えるなどの植え方もある(図7)。しかし、その分グリーンベルトが農地に占める面積が増えるため、農家の同意を得る必要がある。

 なお、ベチバーなどの植物は本部町にある福祉施設から購入している。

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イ 環境学習
 

 グリーンネットワークでは、赤土等流出問題に関する普及啓発を行うため、県の委託事業を通して小学生を対象に環境学習の出前講座を実施している。県の委託事業では対象が小学生に限られているが、県の補助事業や企業からの寄付金などを活用し、植栽活動の実施と合わせて高校生にも環境学習を行っている。平成25年度〜令和2年度累計では、環境学習(主に出前講座)を延べ98回実施した。

 環境学習では、沖縄県における赤土等流出問題についてパワーポイントを使って説明し、その他映像教材の視聴や、模型を使って実際に赤土等流出の工程とグリーンベルトの効果を実験するなど、理解しやすいように工夫を凝らしている(写真7)。



 西原氏は、「赤土等流出問題を学んだ学生がいずれ大人になって農家または消費者になった際、赤土等流出問題を意識した農業生産または消費活動につなげるためにも、将来への投資という意味で環境学習は重要だ」と話す。また、西原氏が高校で環境学習を行った際に、一人の生徒から「以前、小学生の時に出前講座を受けたことがある。出前講座を受けるまでは、雨の後に川が赤く濁るのは当たり前だと思っていた。しかし、出前講座を受けて、それが当たり前ではないこと、環境を守るために自分たちにも出来ることがあることを知った。出前講座は今後も続けてほしい」と言われ、出前講座の重要性を改めて感じたと話している。

(3)サトウキビ生産農地における対策

 サトウキビは沖縄県の基幹作物であり、県内の耕地総面積の約5割を占めていることから、サトウキビ生産農地における赤土等流出防止対策実施の有無が、赤土等流出量に与える影響は大きい。

 西原氏によると、サトウキビ生産農地における赤土等流出防止対策として主に実施されているものは、[1]グリーンベルトの植栽[2]緑肥栽培[3]敷き草によるマルチング[4]株出し栽培−の四つがある。

[1]グリーンベルトの植栽

 グリーンベルトの植栽は、前述の通り、ベチバーなどの植物を農地の端に植えることで、赤土等の流出を抑制する(写真8)。赤土等流出防止対策は、単に河川や海への流出を防止するだけでなく、サトウキビ生産の基盤となる土壌の流出防止となるため、農家にとってもメリットがある。



[2]緑肥栽培

 緑肥は、もともと雑草対策や肥料として土づくりにつながることで知られているが、赤土等流出防止効果もある。これは、サトウキビの収穫後、通常、夏植えまで農地が裸地になる期間に、ヒマワリやクロタラリアなどを植えて緑肥とすることで、降雨時の土壌侵食を抑制し、赤土等の流出防止につながるからである(写真9)。



[3]敷き草によるマルチング

 サトウキビ収穫の際に出る葉などを、収穫後の農地の裸地部分に敷くことで、降雨時に雨が直接土壌に当たるのを防ぎ、赤土等の流出防止になるとともに、雑草対策や土壌水分の蒸発抑制などの効果がある。

[4]株出し栽培

 サトウキビの栽培方法では一般的である株出し栽培だが、収穫後のサトウキビの株をそのまま残して栽培するため、裸地となる期間が短く、赤土等の流出防止効果がある。

 なお、収穫から2カ月ほどで次期作の苗の植え付けを行う春植えも裸地となる期間が短いため、梅雨時期の赤土等流出防止に効果がある。

 これらの対策のうちグリーンネットワークがサトウキビ生産農地で実施している対策はグリーンベルトの植栽であり、その他の対策は農家自身が実施する必要がある。
 

(4)課題および今後の展望

 西原氏によると、グリーンネットワークの赤土等流出防止対策における課題や今後の展望は次の通り。

ア 持続的な活動を行うための資金確保

 グリーンネットワークの収入の大部分を県の補助金と委託費が占めているが、県の補助事業は人件費が補助の対象とならないため、人件費の捻出が難しいという。そのため、今後、継続的に組織を維持していくためには、人件費を捻出できる新たな収入源の確保が必要になる。現時点では、野菜やサトウキビの生産に乗り出せるよう検討している。野菜やサトウキビの生産を自ら行うことで、植栽活動に収穫体験を組み合わせるなど、現在の活動の幅が広がるというメリットもあると考えている。

イ 企業との連携

 収入源が限られているグリーンネットワークにとって、企業からの寄付金などは活動の重要な原資となっている。これまでに、株式会社ゆうちょ銀行からは毎年50万円の寄付金があり、株式会社かんぽ生命保険、NPO法人東村観光推進協議会、イオン琉球株式会社などからも寄付金があった。そのほか、トヨタ自動車株式会社が実施している「トヨタ環境活動助成プログラム」に応募し、令和3、4年の2年間で226万円の助成を受けることができた。
 
 株式会社沖縄タイムス社が主催しているクラウドファンディングでは、40万5300円の寄付が集まるなど、新しい資金源の確保にも取り組んでいる。

 また、寄付金だけでなく、グリーンネットワークは企業と連携した植栽活動も行っているが、想定よりも多くの参加があったことから、農業と関連がない企業においても赤土等流出問題に対する関心は高いと西原氏は感じたという。

 グリーンネットワークが直接的に関わってはいないが、沖縄を代表するビールメーカーであるオリオンビール株式会社は、3年5月、沖縄県の実施している赤土流出防止プロジェクトに賛同し、「赤土流出防止デザイン缶」の発泡酒を発売した(注)(写真10)。同社は、このデザイン缶の売り上げの一部で対策資材を購入し、赤土流出防止プロジェクトに寄付するなど、企業からの赤土流出防止に関する支援の輪が広がっている。

(注)数量限定販売。

       



ウ 赤土等流出防止対策と農家のメリットの両立

 農地における赤土等流出防止対策を進めるためには、農家自身が対策を実施することが一番の近道であるが、それには農家の負担が大きいことが課題となっている。作業に要する身体的な負担だけでなく、グリーンベルトのために植物を購入する経費の増加や、農地の外周にグリーンベルトを設置することで作付け可能な面積が減少することなども、農家自身が取り組みにくい原因となっている。

 このため、対策の実施によりメリットがあることを農家に理解してもらう必要がある。前述の通り、緑肥栽培や敷き草によるマルチングは雑草抑制、地力増進などの効果があり、株出し栽培は一般的な栽培方法であることから、普段の肥培管理を少し工夫することで、生産性を向上しながら赤土等流出防止対策を両立させることは可能である。また、土壌は農産物を生産する基盤であることから、赤土等が農地から流出することは耕土流出と同じであり、赤土等流出防止対策を行うことが農家にとってもメリットとなることを理解してもらい、普及させていきたいとしている。

エ 農業協同組合との連携

 農地における対策を実施するためには農家への赤土等流出防止対策の普及が欠かせないが、グリーンネットワークの活動の多くは学生を対象としたものが多いことに加え、農地の選定などは地域の環境コーディネーターを通じて行っているため、農家との接点が少ないという課題がある。そこで、西原氏は、植栽活動を実施する農地の選定を沖縄県農業協同組合糸満支店に依頼し、地域の生産部会などで希望者を募っている。これにより、植栽活動に関わる農家だけでなく、それ以外の農家にも赤土等流出防止対策に関する話題提供の機会となり、間接的に農家への赤土等流出防止対策の普及啓発にもつながることから、西原氏は、この取り組みを糸満市以外にも広げていきたいと考えている。

オ 新たな視点によるモデル的な事業の検討

 西原氏は、既存の活動だけでなく、国や民間が公募している事業などを活用し、グリーンベルトに使う植物の新たな活用方法や、赤土等流出防止対策が生産性の向上などにもつながることを実証していきたいと考えている。

 すでに取り組んでいるものとして、公益社団法人沖縄県地域振興協会の地域づくりイノベーション事業を活用し、沖縄県南部の農家、コンサルタント企業および地域の小売店と連携し、赤土等流出防止対策支援商品を開発した。これは、野菜のパッケージに「赤土等流出防止対策支援商品」と書かれたシールを貼り、売り上げの一部が赤土等流出防止対策の財源としてグリーンネットワークに寄付される仕組みとなっている(写真11、12)。農家の野菜をブランド化して販路を確保するとともに、環境問題に意識の高い消費者などの購買を促し、新たな財源の確保にもつながっている。

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 その他にも、グリーンネットワークのオリジナル商品として、琉球大学と連携し、グリーンベルトで使用するベチバー、レモングラス、ローズゼラニウム、ミントなどからオイルを抽出し、アロマ製品の開発を行い、商品化および販売に向けて研究を行っている。

 さらに、今後の取り組みとして、令和元年に沖縄県が作成した赤土等マスコットキャラクター「もっちん」とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用した普及活動を検討している。高校生と連携し、「もっちん」をSNSのスタンプにして、スタンプの販売で得られる収益を赤土等流出防止対策に充てるなど、若者の柔軟な発想を取り入れながら赤土等流出問題の情報発信や、新たな収益モデルの構築などを検討している(図8)。

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おわりに

 海が重要な資源となっている沖縄県では、赤土等の海への流出は大きな問題となっている。県は条例の制定や基本計画の策定、さまざまな事業の実施により対策を進めており、グリーンネットワークのような組織が赤土等流出防止対策の実施、普及活動の一翼を担っている。

 沖縄県における赤土等流出原因の大部分を農地が占めることから、農地における対策は重要であるものの、農家自身が対策を行うにはコストや労力が必要になるため、なかなか対策が進まないのが現実である。今後は、いかに赤土等流出防止対策が農家にとってもメリットがあるものかを実証していくとともに、それらを農家に周知・普及させていくことが重要である。

 グリーンネットワークは、継続的なグリーンベルトの植栽活動と環境学習の実施により未来への投資を着実に行うほか、赤土等流出防止対策支援商品の開発、マスコットキャラクターとSNSを活用した普及活動など、新たな手法での普及活動や資金の確保を図っており、赤土等流出防止対策のさらなる普及につながることを期待する。

 また、令和3年度が基本計画の最終年度であったことから、これまでの対策がどのように評価され、次の計画がどのようなものになっていくかが注目される。

参考文献
1)沖縄県ホームページ
「沖縄県赤土等流出防止条例」
https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/hozen/mizu_tsuchi/redclay/documents/akatuti_jyourei.pdf〉(2022/03/28アクセス)
2)沖縄県ホームページ
「沖縄県赤土等流出防止対策基本計画」
https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/hozen/documents/01kihonkeikaku131213.pdf〉(2022/03/28アクセス)
3)沖縄県ホームページ
「赤土汚染の話」
https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/hoken/eiken/kankyo/mizu_hp/akatsuchiosennohanashi.html〉(2022/03/28アクセス)
4)沖縄県ホームページ
「赤土等流出防止パンフレット 未来につなげよう美ら島・美ら海の恵み」
https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/hozen/mizu_tsuchi/redclay/documents/panhuretto_otona.pdf〉(2022/03/28アクセス)
5)沖縄県ホームページ
「沖縄県赤土等流出防止対策基本計画 中間評価」
https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/hozen/documents/kihonnkeikakutyuukannhyouka.pdf〉(2022/03/28アクセス)
6)NPO法人おきなわグリーンネットワークホームページ
http://okinawagreen.net/akatsuchi/index.html〉(2022/03/28アクセス)
7)赤土流出防止プロジェクトホームページ
https://redsoilproject.jp/〉(2022/03/28アクセス)

 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272