ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > 交配記録を用いた石垣島におけるサトウキビの出穂条件に関する考察
最終更新日:2022年9月12日
(注1)日長を人為的に変えて植物の生長をコントロールすること。例えば、植物体を長日条件下または短日条件下に置くことで、花芽形成を促進または抑制させることを指す。
国内のサトウキビの出穂に関する論文は1980年代までさかのぼる。宮里氏は総説「サトウキビとその栽培」4)においてこれらの論文を次のようにまとめている。
『サトウキビは特殊な日長反応を示し、ある範囲内の日長下においてのみ開花する定日性植物に属する。すなわち、サトウキビの開花可能な日長は、12時間から12時間45分の範囲にある。(中略)一般に北半球では9月の日長に感応して10月、11月以降に出穂し、南半球では3月の日長に感応して4月、5月以降に出穂する。出穂歩合は一般に低緯度の高温地域で高く、高緯度の冷涼地域に移るにつれて低下する。また、熱帯・亜熱帯地域での出穂は平地よりもやや冷涼な高地に多い。出穂はまた、ある時期の降雨量によって左右される。北半球では前述のように花成の誘導と幼穂の分化開始期は9月であるが、この時期の降雨は出穂を促進し、逆に乾燥は出穂を抑制または遅延させる。』
宮里氏の総説は一般的なサトウキビの生理生態を知る上で極めて有用であるが、引用文献の多くがオンライン公開されていないために閲覧困難であることが難点である。近年では、沖縄農研の伊禮氏が、日長処理施設を用いた広範な遺伝資源の交配利用に取り組み、交配技術の高度化が図られている5)6)。
研究勢力が大きい海外の育種機関や研究機関においては、交配技術の高度化から基礎研究までさまざまなレベルでの取り組みが行われている。USDA-ARSのMooreと豪州サトウキビ試験場事務局(BESE、SRAの前身機関)のBerdingによる総説7)においては、サトウキビは中性植物もしくは量的短日植物に分類され、2〜3節の成熟した茎が形成されてから、短日条件を未成熟葉で感受することで花成が誘導されること、日長処理は明期を12時間55分から1日当たり30〜45秒ずつ減らしていくのが最適であり、日長処理期間中の32度以上の高温は出穂を遅らせること、などが多数の論文を引用しながら詳細に述べられている。近年では、USDA-ARSにおいて、20度以下の低温が出穂を遅らせることや、継続的な施肥が出穂を促進させることが報告されているほか8)9)、豪州科学産業研究機構(CSIRO)のGlassopとRaeによって、サトウキビの出穂関連遺伝子の発現パターンの多くが短日植物と同一であることが報告10)されている。
このように、長大型作物であるためにモデル作物であるイネ程とはいかないが、国内外でサトウキビの出穂に関する研究が行われ、交配技術の向上に資する知見が得られている。一方で、九沖研においては自然任せ、かつ出張作業という制限のある中での交配を実施しており、年によっては目的とする交配を実施できないことが育種上の重大な課題となっている。そこで、本調査では交配記録と気象データを比較することで、石垣島におけるサトウキビの出穂に影響する気象条件を明らかにし、交配技術の向上に資する知見を得ることを試みた。
(注2)交配は雌しべを使用する「母本」と雄しべを使用する「父本」の二つの植物体を用いて行う。九沖研では花粉を多く作る植物体を父本として、花粉をほとんど作らない植物体を母本として区別している。
(注3)要因によるデータのバラつきの大きさ(分散)を比較することで、その効果を評価する統計的手法を分散分析という。また、二つの要因がある場合の分散分析を二元配置分散分析という。