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圃場の土壌調査およびバガス炭化物の利用可能性の評価

サトウキビの持続的生産技術の開発に向けた製糖副産物・堆肥連用農家
圃場の土壌調査およびバガス炭化物の利用可能性の評価

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最終更新日:2023年2月10日

サトウキビの持続的生産技術の開発に向けた製糖副産物・堆肥連用農家
圃場の土壌調査およびバガス炭化物の利用可能性の評価

2023年2月

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター 熱帯・島嶼研究拠点
寺島 義文、安西 俊彦、神田 隆志、安藤 象太郎
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門
江口 定夫、朝田 景、伊勢 裕太
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
中野 恵子、渕山 律子
石垣島製糖株式会社 入嵩西 敦

【要約】

 サトウキビ圃場(ほじょう)における有機資源(フィルターケーキ、バガス灰、牛ふん堆肥)の効果的な土壌還元技術の開発に向けて、(課題1)製糖副産物や牛ふん堆肥を施用している農家圃場の土壌理化学性、土壌物理性の評価(課題2)製糖副産物や牛ふん堆肥、バガス炭を施用して、施肥を30%削減した場合の夏植えサトウキビの生育に与える影響の評価−を実施した。(課題1)では、実際のサトウキビ農家圃場において、これら有機資源の施用により土壌の理化学性や物理性が改善されることを確認した。(課題2)では、有機資源を施用することで、施肥を30%削減しても生育の有意な低下が起こらないこと、また、フィルターケーキもしくはフィルターケーキとバガス灰を混合して施用することで、施肥を削減しつつ、生育を改善できる可能性を明らかにした。

はじめに

(1)サトウキビ生産の課題

 サトウキビは、わが国の食料自給率の維持とともに、南西諸島の地域経済の維持においても重要な作物であるが、台風や干ばつ、肥沃(ひよく)度の低い土壌、冬季の低温などの厳しい自然環境の影響から単位面積あたり収量は世界的にも低い。生産量や栽培面積の減少が続いているが、農家の高齢化などに起因する生産農家戸数の減少も顕著であり、産業の存続に向けて、増産や担い手の確保に向けた取り組みが行われている。一方で、サトウキビの生産では、圃場からの施肥窒素や赤土の流出などによる(とう)(しょ)環境への負荷が長年の課題となっている。農林水産省は、農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるため、令和3年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに(1)農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現(2)化学農薬の使用量50%低減(3)輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量30%低減(4)耕地面積に占める有機農業の面積割合を25%に拡大−などを目指すこととしている。そのため、南西諸島におけるサトウキビ産業の維持・発展にとっても、担い手の確保や増産に向けた取り組みと共に、環境と調和した持続的な生産を実現し、かけがえのない島嶼環境の保全や地球規模での環境問題にも積極的に貢献するための取り組みを並行して実施していく必要がある。

 有機資源の土壌還元技術は、化学肥料の削減とともに炭素の土壌への蓄積による二酸化炭素(CO2)排出量削減が期待できるため、「みどりの食料システム戦略」においても重要な課題として位置付けられている。特に、肥沃度の低い土壌が分布する南西諸島におけるサトウキビ栽培では、地域の有機資源を効果的に土壌還元する技術の開発は、環境調和型の持続的な生産の実現とともに、単収の向上による増産の実現にとっても重要な技術となる。

(2)有機資源施用の効果

 土壌に有機資源を施用する主な効果を、表1に示す。

 このように、有機資源の土壌還元は、土壌の化学性・物理性・生物性を改善し、作物の生育環境を良好に整える「土づくり」にとって重要となる。南西諸島は、多くの土壌で有機物含量が低く、また、高温多湿で土壌有機物の分解消耗が激しい気象条件下にあることから、サトウキビ圃場の地力の維持改善による、持続的な生産の実現には、有機資源の施用が不可欠である1)

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(3)南西諸島における堆肥、製糖副産物利用の現状

 南西諸島のサトウキビ生産で利用可能な有機資源としては、家畜ふん尿や製糖工場から発生する副産物(フィルターケーキ、バガス、バガス灰など)がある(写真1)。

 沖縄県の家畜ふん尿は、年間140万トン程度発生している2)。サトウキビ栽培への家畜ふん堆肥の施用効果については、島尻マージ(注1)において化学肥料とともに牛ふん堆肥を連用することでサトウキビの収量が増加し、土壌中の全窒素、可給態リン酸が増加することが報告されている3)。また、ジャーガル(注2)における10年間の牛ふん堆肥の連用試験から、土壌中の全炭素や全窒素が有意に増加することが報告されている4)。このため、沖縄県のサトウキビ栽培指針では、新植前に10アール当たり3〜4.5トン程度の施用が推奨されている。しかし、畜産を行っていないサトウキビ農家では、堆肥を利用していない農家が8割以上であることが報告されているように5)、堆肥を圃場に還元しているサトウキビ農家が少ないことが課題である。

(注1)赤褐色で透水性が良く、粘土質な土壌。
(注2)灰色で細粒質の重粘性土壌。


 製糖工場から発生する副産物であるフィルターケーキは、沖縄県では約4〜5万トン、鹿児島県では2〜3万トン発生しており、肥料成分を含むことから(表2)、肥料としてほぼ全量圃場に還元されている。
 

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 製糖工場から発生する副産物であるバガスは、原料サトウキビの25〜30%程度であり、沖縄県では20万トン程度、鹿児島県では14万トン程度産出されている。土壌に還元される堆肥用としての利用は、沖縄で10%程度、鹿児島で5%程度とわずかである6)、7)。バガスの圃場への還元では、徳之島において、化学肥料とともにバガス堆肥を長期連用した場合に、サトウキビの収量が増加し、土壌中の全炭素や全窒素、交換性カリウム含量が増加することが報告されている8)。発生するバガスの80〜90%は製糖工場のボイラー燃料として利用されているが、バガスを燃焼した後に残るバガス灰も肥料として利用可能である。バガス灰は、1トンのバガスから25〜40キログラム産出されるため9)、含水率を50%程度とした場合に沖縄県では1万〜1.5万トン、鹿児島では6000〜1万トン程度産出されていると考えられる。バガス灰は、ケイ酸を多く含み、五酸化リン(P2O5)や酸化カリウム(K2O)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)も含むことから(表2)、南西諸島においてもフィルターケーキと同様に肥料としてサトウキビ圃場に還元されている。

 バガスの圃場還元では、バガスを炭にしたバガス炭を圃場に施用することで、土壌改良とともに、農地土壌への炭素蓄積量の増加によるCO2排出量削減への貢献が期待できる。これまでに、サトウキビの増収効果や堆肥とバガス炭を同時に施用することでの相乗効果について報告がなされている10)。「みどりの食料システム戦略」においても、バイオ炭の土壌還元は農業分野からのCO2排出量削減に向けた重要な技術として位置付けられており、サトウキビ生産においても重要な技術となる可能性がある。

(4)本課題の目的

 このように、これまでも南西諸島のサトウキビ生産では、有機資源を利用した栽培技術開発が行われてきた。しかし、多くのサトウキビ圃場ではその利用は限定的であり、効果的に利用できているとは言い難い。その要因の一つとして、上述した有機資源利用の報告は試験圃場などでの試験の結果がほとんどであり、実際に有機資源を施用した農家圃場における土壌の理化学性や物理性に与える施用効果を示す報告が少ないことが上げられる。また、栽培基準では堆肥の投入が推奨されているが、堆肥を施用してもしなくても化学肥料の施用量は変わらない。多くの農家は堆肥投入経費に見合う増収が得られるかどうかで施用の判断をしており、堆肥施用による明らかな利益(増収や施肥量の削減など)が見込めなければ施用しない場合が多いことも大きな要因であると考えられる。そこで、本調査では、石垣島において、製糖工場で発生する副産物や牛ふん堆肥などの地域有機資源を効果的に利用した環境保全・資源循環型の持続的なサトウキビ生産の実現に資することを目的として、農家圃場の土壌調査によりフィルターケーキやバガス灰、牛ふん堆肥の施用が土壌の理化学性や物理性に与える効果を評価した(課題1)。また、「みどりの食料システム戦略」で求められている化学肥料使用量の30%削減に向けて、製糖副産物(フィルターケーキ、バガス灰)や牛ふん堆肥、バガス炭を施用して施肥を削減した場合の夏植えサトウキビの生育に与える影響を評価した(課題2)。

1.農家圃場における製糖副産物および堆肥施用が土壌に与える影響の評価(課題1)

 農家圃場における製糖副産物や堆肥施用が土壌に与える影響を明らかにすることを目的として、石垣島にて、栽培基準に準じた化学肥料とともに、表3の通りに圃場を選定した。

 これらの圃場および近隣の化学肥料のみを栽培基準に準じて施用しているサトウキビ圃場について、表層土壌(0〜15センチメートル)の化学性(水素イオン指数<pH>、陽イオン交換容量<CEC>、可給態リン酸、交換性陽イオン、微量要素、全炭素・全窒素含量など)および物理性(仮比重)を評価した。また、選定した5圃場(フィルターケーキ2圃場、バガス灰2圃場、堆肥1圃場)および近隣の化学肥料のみを施用しているサトウキビ圃場について、作土層の物理性(透水性、通気性の目安となる気相率)を評価した。

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(1)製糖副産物や牛ふん堆肥の施用が土壌理化学性に与える影響

ア 土壌pH
 土壌pHは、作物の養分吸収や土壌微生物の活性などを通して作物の生育に大きな影響を与えることが分かっており、サトウキビではpH6〜8程度で根が正常に生育すると言われている。評価した農家圃場のpH(表4)は、フィルターケーキを施用した圃場(以下「フィルターケーキ圃場」という)や牛ふん堆肥を施用した圃場(以下「堆肥圃場」という)では、化学肥料を施用した圃場(以下「化肥圃場」という)と比べて差はなかったが、バガス灰を施用した圃場(以下「バガス灰圃場」という)では、有意差はないものの、化肥圃場よりやや高い傾向が確認された。バガス灰はアルカリ性であり、投入により土壌の酸度矯正に効果があることが海外で報告されている12)。南西諸島においても、バガス灰の施用により酸性土壌の矯正が行える可能性があると推察された。

 
イ CEC(陽イオン交換容量)
 土壌のCECは、値が高いほど養分保持能力が大きいことを示している。評価した農家圃場のCEC(表4)は、有意差はないが、フィルターケーキ圃場、バガス灰圃場、堆肥圃場ともに、化肥圃場と比べて高い傾向であった。フィルターケーキは30〜50%の全炭素(乾物中)を含んでおり、投入によりCECが向上し、30カ月後もその効果が持続することが報告されている13)。また、堆肥やバガス灰も投入によりCECが向上することが報告されていることから11)、14)、これら有機資源を圃場に還元することで、農家圃場におけるCECの改良が期待できると考えられた。

ウ 可給態リン酸
 可給態リン酸は、土壌中の作物が吸収できるリン酸含量の指標であり、値が大きいほどサトウキビがリン酸を吸収しやすい圃場であることを示す。評価圃場の可給態リン酸(表4)は、フィルターケーキ圃場、バガス灰圃場において有意差はないものの、化肥圃場より高い傾向であった。堆肥圃場は、化肥圃場と比べて10%水準で有意に高かった。フィルターケーキやバガス灰にはサトウキビが吸収したリン酸が含まれており、海外においても、これらの施用により、可給態リン酸が増加することが報告されている15)、16)。また、堆肥にもリン酸が含まれており、沖縄県において連用した場合に土壌中の可給態リン酸が増加することが示されている4)。そのため、これら有機資源を圃場還元することで、可給態リン酸の増加が期待できると考えられた。

エ 交換性陽イオン
 カルシウム(Ca)やカリウム(K)、マグネシウム(Mg)などの交換性陽イオンは作物の生育に欠くことのできない必須元素の中でも作物が比較的多く吸収する必須多量元素であり、これらの含量はサトウキビの生育にも重要である。CaOは有機資源施用圃場と化肥圃場の間に差は見られなかった(表4)。K2Oでは、有意差はないものの、すべての有機資源施用圃場で化肥圃場より高い傾向であった。MgOでは、フィルターケーキ圃場は化肥圃場と大きな差はなかったが、バガス灰圃場では、有意差はないものの化肥圃場より高い傾向であり、堆肥圃場では、化肥圃場と比べて10%水準で有意に高かった。

 フィルターケーキやバガス灰には、サトウキビが吸収したCaOやK2O、MgOが含まれており、海外においても、これらの施用により、これら交換性陽イオンの濃度が高まることが報告されている16)。また、沖縄県においても堆肥の連用により、K2OやMgOの濃度が高まることが報告されている4)。本調査においてもこれら有機資源を施用した農家圃場においてK2OやMgOの濃度が高かったことから、施用により圃場の交換性陽イオンの濃度を高めることができると考えられた。一方で、これら交換性陽イオンは濃度とともに、そのバランスも重要である。各要素が過剰に蓄積している圃場や塩基バランスが大きく崩れている圃場もあることから、これら有機資源を圃場に施用する場合には、圃場の状況に留意して施用する必要があると考えられる。

オ 微量要素
 微量要素は、作物が極わずかしか必要としないが、作物体の構成元素や酵素の活性化因子などとして重要で、その過不足は生育に影響を与える。マンガン(Mn)は、すべての有機資源施用圃場において化肥圃場と大きな差はなかった(表4)。ホウ素(B)は、堆肥圃場において、化肥圃場と比べて10%水準で有意に高かった。亜鉛(Zn)は、フィルターケーキ圃場、バガス灰圃場、堆肥圃場において、有意差はないが化肥圃場と比べて高い傾向であった。銅(Cu)は、すべての有機資源施用圃場において、有意差はないが化肥圃場と比べて高い傾向であった。これらの結果から、農家圃場において有機資源を施用することで、BやZn、Cuなどの微量要素が増加する可能性を確認した。一方で、一部圃場では、過剰に微量要素が蓄積している可能性があることから、有機資源を圃場に施用する場合には、過剰障害が出ないように圃場の状況に留意して施用する必要があると考えられた。

カ 全窒素・熱水抽出性窒素
 窒素は作物の収量や品質に最も大きく影響する栄養素である。調査圃場における土壌中の全窒素含量(表4)は、フィルターケーキ圃場、堆肥圃場では、有意ではないが化肥圃場より高い傾向であった。熱水抽出性窒素は、土壌の可給態窒素(作物が利用できる窒素)の簡易指標として利用されている。熱水抽出性窒素では、全窒素含量と同様に、フィルターケーキ圃場では、有意ではないが化肥圃場より高い傾向であり、堆肥圃場では、10%水準で有意に化肥圃場より高かった(表4)。これらの結果から、フィルターケーキや堆肥のように窒素を多く含む有機資源を投入することで、農家圃場における土壌中の全窒素含量や可給態窒素含量が高まる可能性を確認した。一方で、バガス灰は、他の有機資源と比較して全窒素含量が低いことから(表2)、窒素供給の面からは効果が低いと考えられた。海外や南西諸島においてもフィルターケーキや牛ふん堆肥を施用することにより土壌中の全窒素や可給態窒素含量が高まることが報告されている4)、15)。沖縄県の土壌は、県外土壌と比較して全窒素含量が低いことから7)、これら有機資源の施用は、サトウキビ圃場の地力窒素向上の面からも重要になると考えられた。

キ 全炭素
 土壌の全炭素含量は、一般には土壌の有機物含量の指標であり、腐植などの形成を通して土壌理化学性に大きな影響を及ぼすため、作物の生産性にとって重要である。調査圃場における全炭素含量(表4)は、全窒素含量と同様に、フィルターケーキ圃場、堆肥圃場において、有意ではないが化肥圃場より増加する傾向であった。この結果は、農家圃場においても、フィルターケーキや堆肥を施用することで、土壌の全炭素含量の増加が期待できる可能性を示すものである。海外や沖縄県においてもフィルターケーキや堆肥を施用することで、土壌中の全炭素含量が増加することが報告されていることから4)、18)、土壌の全炭素含量が低い南西諸島において、フィルターケーキや堆肥を施用することで、農家圃場における土壌の全炭素含量の増加による地力の向上や炭素貯留によるCO2排出量削減が期待できると考えられる。一方で、バガス灰は、フィルターケーキや堆肥と比べると全炭素含量は低いため、土壌の全炭素含量の向上効果は大きくはないと考えられた。

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(2)製糖副産物や牛ふん堆肥施用が土壌物理性に与える影響

ア 土壌の仮比重
 一定体積当たりの土壌の乾燥重量を表す仮比重は、土の硬さや通気性などの土の物理的な性質を表す指標の一つであり、一般に、砂質土壌や重粘土壌のような土壌構造が発達していない土壌では値が大きく、有機質土壌では値が小さくなる。調査圃場における土壌の仮比重(表4)は、フィルターケーキ圃場、堆肥圃場では化肥圃場と有意差はなかったが、バガス灰圃場では有意に化肥圃場より仮比重が小さかった。海外においてもバガス灰を施用することで仮比重が低下することが報告されており14)、南西諸島の農家圃場においても、バガス灰の施用により土壌の仮比重を低くできると考えられた。本調査結果では、フィルターケーキや堆肥を施用した圃場では、仮比重の低下は見られなかったが、海外や沖縄県において、フィルターケーキや堆肥施用により仮比重が低下する報告があることから4)、15)、これら有機資源の投入によっても仮比重を低下できる可能性はあると考えられた。

イ 土壌の貫入抵抗、作土層の水の浸入速度、飽和透水係数、間隙率、気相率など
 有機資源施用圃場のうち14圃場とそれに隣接する化肥圃場(14圃場)において、土壌の貫入抵抗(同一圃場内5地点を調査)を調査した(写真2)。その結果、圃場間のバラツキは大きいものの、有機資源施用圃場は化肥圃場より貫入抵抗が小さい傾向が見られた。そこで、土壌の貫入抵抗を調査した農家圃場のうち、有機資源施用によって貫入抵抗が低下したと考えられる5圃場(バガス灰:2、フィルターケーキ:2、牛ふん堆肥:1)とそれに隣接する化肥圃場5圃場を対象に、負圧浸入計を用いて、作土層における水の浸入速度を測定すると共に、0〜5センチメートルの土壌を採取し、飽和透水係数、間隙率、気相率、飽和近傍における気相率(粗大間隙率)などを測定した。その結果、(1)負圧0センチメートルにおける水の浸入速度は、化肥圃場よりも有機資源施用圃場で1.6〜4.3倍高い(2)飽和透水係数は、化肥圃場よりも有機資源施用圃場で1.1〜71倍高い(3)有機資源施用圃場の間隙率および気相率は、それぞれ、化肥圃場の0.9〜1.4倍および0.6〜2.2倍を示し、とくに粗大間隙率は、化肥圃場の1.4〜3.0倍という大きな値を示す−ことを確認した。これらの結果から、有機資源施用は、特に粗大間隙率を増大させることで作土層の透水性および通気性といった土壌の物理性を改善できる可能性が示唆された。

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2.製糖副産物や牛ふん堆肥、バガス炭の施用が夏植えサトウキビの生育に与える影響の評価(課題2)

 有機資源施用による化学肥料使用量の削減可能性を評価するために、国際農研圃場(以下「JIRCAS圃場」という)および石垣島製糖内の圃場(以下「石糖圃場」という)において、条件の異なる八つの処理区を設定し、それらの処理が夏植えサトウキビ(品種:Ni27)の発芽や生育(茎数、茎長)に与える影響を評価した(表5)。化学肥料100%区は、年間の施肥量を栽培指針の夏植え、熟畑(N:一平方メートル当たり27キログラム、P2O5:同110.5キログラム、K2O:同10.5キログラム)とし、それを3回(植え付け時、令和4年3月および5月)に分けて施肥した。化学肥料70%区および有機資源施用区は化学肥料100%区の70%の化学肥料を3回に分けて施肥した。植え付けは令和3年11月8日に実施し、生育調査を令和4年2月10日および8月31日に実施した。

 発芽率は、化学肥料100%区と比較して有意に低下する処理区はなく、有意ではないもののフィルターケーキ区でやや高い傾向であった。生育初期の株あたり茎数、仮茎長は、化学肥料100%区と比較して有意に小さい処理区はなく、フィルターケーキ区とフィルターケーキ+バガス灰区において有意に大きかった(表6、写真3)。

 8月時点での仮茎長は、化学肥料100%区と比較して有意に低下する処理区はなく、JIRCAS圃場では、フィルターケーキ+バガス灰区およびバガス灰区で有意に仮茎長が大きかった。茎数は、両圃場ともに、化学肥料100%区と比較して、堆肥やフィルターケーキを施用した区で多い傾向が見られ、JIRCAS圃場のフィルターケーキ区で有意に多かった(図)。

 以上の結果から、夏植え栽培では、有機資源を施用することで、施肥を慣行の70%に減らしても化学肥料100%区と同程度の生育を維持できることを確認した。特に、フィルターケーキを施用した場合には、生育初期から化学肥料100%区より生育が優れたことから、施肥量の削減と生産性の向上を同時に実現できる可能性が示唆された。

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おわりに

 南西諸島のサトウキビ産業は存続に向けて厳しい状況にあるが、環境負荷を低減し、環境調和型の持続的な生産を実現することは、わが国が推進する「みどりの食料システム戦略」に貢献しつつ、地域の経済や社会、環境により貢献できる魅力的な産業に発展するために、避けては通れない課題である。また、ウクライナ情勢などの影響により肥料価格が高騰している。わが国は肥料のほとんどを輸入に頼っているため、世界情勢の影響を大きく受けることから、輸入した安価な肥料を多投入して安定生産を目指す現在の栽培体系を今後も継続することは困難である。そのため、地域に存在する有機資源を利用して化学肥料の削減を実現することは重要な課題となる。本課題では、サトウキビ圃場における有機資源の効果的な土壌還元技術の開発に向けて、有機資源の施用が農家圃場の土壌理化学性や土壌物理性の改善に効果があること、フィルターケーキやバガス灰、牛ふん堆肥を施用することで、夏植えサトウキビの化学肥料施肥量を栽培基準より30%削減できる可能性があることを明らかにした。

 本課題で調査した農家圃場では、フィルターケーキやバガス灰は、10アール当たり20トン程度施用されていたが、海外では、同7トン程度の投入でもサトウキビの生産性向上効果があったことが報告されている19)。フィルターケーキやバガス灰の発生量は限られることから、より多くの圃場に施用するための最適な施用技術(全層か筋まきかといった施用方法や施用量)の検討を行う必要がある。また、サトウキビでは、植え付け後、複数年にわたり株出し栽培を継続するが、近年、その継続回数が増加しており、株出し回数の増加による単収の低下が問題となっている。植え付け前に有機資源を全層で施用するだけでなく、株出し栽培時における筋まきでの施用が実現すれば、株出し栽培での持続的な単収向上も期待できると考えられる。製糖関係者からの聞き取りでは、堆肥や製糖副産物の効率的な散布方法が確立していないことが利用拡大に向けた課題の一つであるとの指摘がある。今後の利用拡大に向けて、含水率が高いフィルターケーキやバガス灰を効率的に圃場に散布するための機械や株出し栽培圃場への効率的な散布を実現する機械などの開発も今後の有機資源の利用拡大に向けた重要な課題になると考えられる。

 また、本課題では、土壌改良と土壌への炭素蓄積の効果が期待できるバガス炭にも注目し、施用試験を実施した。バガスは、製糖産業から排出される最も量の多い副産物であるが、これまではボイラー燃料として9割程度が消費されており、有効利用されているとは言いがたい。一方で、今後の製糖工場の更新に伴うボイラーの効率化などにより、今より多くのバガスをボイラー燃料以外の用途に利用することが可能になると考えられる。また、最近品種登録されたサトウキビ新品種「はるのおうぎ」のように20)、既存の品種より繊維分が高く、バガスが多く発生する品種も利用が開始されており、意図的にバガスをより多く生産して利用していくことも今後可能になる。世界的には、余剰のバガスは電力生産などに利用される場合が多いが、土壌肥沃度の低い南西諸島では、サトウキビの持続的な環境調和型生産に向けてバガスについても効果的に土壌還元できる技術開発も必要ではないかと考えられる。バガスはC/N比が高いため、堆肥化せずに直接圃場に還元すると窒素飢餓により生産に悪影響が出る。バガス炭にして圃場に還元することで土壌改良と土壌への炭素固定が期待できるが、せっかくバガスに含まれていた窒素分などを肥料として利用することができない。一方で、バガスを完全に炭化せずに半炭化して土壌に還元することで、炭による土壌改良と土壌への炭素固定を実現しつつ、半炭化によって窒素飢餓を抑えながらバガスに含まれている有機物を肥料成分として利用できる可能性がある。国際農林水産業研究センターでは、持続的な環境調和型サトウキビ生産の実現に向け、バガスなどの副産物を既存品種より多く生産できる品種の開発とともに、フィルターケーキやバガス灰、堆肥などの有機資源の効果的な施用技術開発やバガス半炭化物の圃場還元技術の開発に取り組んでいる。南西諸島の持続的なサトウキビ生産の実現に向けて、本課題で得られた成果も利用しつつ、今後も研究を実施していきたい。

 なお、本研究は独立行政法人農畜産業振興機構の令和3年度砂糖関係研究委託調査により実施したものである。
【引用文献】
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19)Prado et al. 2013. Filter Cake and Vinasse as Fertilizers Contributing to Conservation Agriculture. Applied and Environmental Soil Science. Article ID 581984. <doi.org/10.1155/2013/581984>(2023/1/18アクセス)
20)服部他編(2019)「サトウキビ野生種と製糖用品種との種間雑種を利用して作出した熊毛地域向け株出し多収品種「はるのおうぎ」」.『農研機構研究報告』2巻 pp.21-44.
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