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〜宮古地域におけるサトウキビ作業受託の取り組み〜

安定したサトウキビ生産に向けてサポートする作業受託組織
〜宮古地域におけるサトウキビ作業受託の取り組み〜

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最終更新日:2023年2月10日

安定したサトウキビ生産に向けてサポートする作業受託組織
〜宮古地域におけるサトウキビ作業受託の取り組み〜

2023年2月

那覇事務所 室田 竜一

【要約】

 宮古地域では、高齢化により労働力不足が生じることで粗放的な()場が増え、サトウキビの生産基盤の弱体化が懸念される。地域の課題解決に向けて、農作業を受託する組織(以下「作業受託組織」という)は行政や宮古地区さとうきび管理組合などの関係機関の支援の下、機械による作業受託を行い、肥培管理の労力を補完することで、宮古地域におけるサトウキビ生産の安定化に寄与している。

はじめに

 生産者の高齢化や担い手不足が顕在化する中、サトウキビの栽培管理の機械化の先駆けとしてハーベスタによる収穫作業は浸透しつつあるが、その他の作業がいまだに手作業で行われている。

 その中、農林業センサスによると、宮古地域(注)の作業受託組織は、72者(平成27年)から104者(令和2年)に増えており、受託面積も1864ヘクタールから2449ヘクタールに拡大している。労働力不足を解消し、生産者が適期に農作業を行うためには、生産者をサポートする立場(受託者)において、作業の機械化は有効である。

 本稿では、関係機関による作業の機械化の支援の現状に加え、宮古地域における、サトウキビ生産の安定に向けて、将来を見据えて地域のサトウキビ産業を支えている農事組合法人豊農産(以下「豊農産」という)や農事組合法人城辺(ぐすくべ)町さとうきび生産組合(以下「城辺町生産組合」という)の取り組みを紹介する。

(注)本稿における宮古地域とは、宮古島本島およびその周辺離島の地域をいう。

1 地域の概況

 宮古地域は、沖縄本島から南西に約290キロメートル離れており、平坦な台地状の地形をした島々である(図1)。高温多湿な気候で亜熱帯地域に属し、台風シーズンの8月と9月に降水量が高くなる傾向にある。

 宮古地域の土壌は、ほとんどが島尻マージと呼ばれる赤土の琉球石灰岩で形成されていることから、風化しやすく保水力に乏しい(写真1)。雨水が地下へ浸透しそのまま海へ流れるため、河川や湖がほとんどない。このように、保水力の低い土壌で干ばつの被害を受けやすい地域であったが、地下水を利用した地下ダムを3基建設したことにより、農業用水を安定して確保できるようになった。今では、サトウキビやゴーヤ、マンゴーなど農作物の栽培に適した環境が整ってきている。

 また、宮古地域は台風の常襲地帯であり、もともと森林が少なく、台風による潮風害の影響を受けやすい。平成15年の台風14号により農作物が甚大な被害を受けたことをきっかけに、災害に強い農業経営を目指しており、宮古森林組合内にある緑化ボランティア団体の「()(すま)宮古(みゃーく)グリーンネット」と行政機関が連携して、イヌマキなどを植樹・維持管理することで防風林が整備されている。

 

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2 宮古地域のサトウキビ生産

 宮古地域は、総土地面積の過半を耕地が占めており、農業が主たる産業となっている。農家人口(年齢別の世帯員数)をみると、宮古地域の全体に占める60歳以上の割合は過半以上を占めており、沖縄県全体と比べると、高齢化がやや進んでいる状況である。また、宮古地域の農家人口は沖縄県全体で約3割を占めている(表)。

 令和2年の農業産出額では、サトウキビが過半を占めており、島の基幹産業となっている。

 沖縄県庁の「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」によると、3年産のサトウキビ農家戸数は平成22年産に比べると200戸ほど減少しており、約5000戸となっている。1ヘクタール未満の小規模農家は2割程減少し、新たに7ヘクタール以上の規模の農家が出現するなど1戸当たりの経営規模は少しずつ大きくなっている(図2)。

 サトウキビ生産量については、天候などの状況により変動はあるものの、令和2年産が約35.4トン、3年産が約36.3トンと県全体の4割以上を占めている。なお、平成22年産が約32万トンであり、やや増加傾向にある。

 しかし、作型別に見ると、収穫面積の作型別の内訳に変化があり、22年産では収穫面積全体に占める夏植えの割合が約83%を占めていたが、令和3年産では夏植えの割合が約38%まで減少し、株出し栽培の割合が55%を占めている。また、同年産の株出し回数別収穫面積では、1年次が最も多く、株出し面積全体に対して56%を占めている(図3)。

 宮古地域のサトウキビの品種は、沖縄県の他地域と同様に農林27号が多く栽培されているが、機械化収穫が増えたことで近年では茎数が比較的多い農林22号および28号が推奨されている。これらは他品種に比べると茎数が多く、台風にも強く、特に株出し管理で安定した収量が期待できる。


 

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3 関係機関の指導・支援体制

(1)行政

ア サトウキビ関係の補助事業による機械の導入実績
 沖縄県全体のサトウキビ生産における作業労働時間の推移を見ると、収穫の作業時間は、機械化作業により収穫の作業時間が大幅に減少しているものの、収穫はいまだに最も時間のかかる作業となっている。また、定植や管理作業の時間は機械化が一向に進まず、わずかな減少にとどまっている。

 これらの農作業の合理化に向けて、宮古地域では、沖縄県さとうきび安定生産確立対策事業などの補助事業を活用しながら、サトウキビの農業機械の導入を支援している。これまでの宮古地域(平成24年〜令和元年)における実績として、ハーベスタやプランターなどを中心に、約120台が導入されている。機械の導入地域に偏りはなく、地区ごとに農業機械の導入が進んでいる。

イ 作業受託のオペレーターの育成・確保などの取り組み
 農作業を受託できるオペレーターの育成・確保として、県は、地域のオペレーターの技量にあった技術講習会を実施している。また、全作型体系を含めた栽培管理指導は、サトウキビ栽培暦の作成や、年3回実施している栽培講習会を通して、適切な指導と情報提供を行っている(写真2)。

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(2)宮古地区さとうきび管理組合

 宮古地区さとうきび管理組合は機械の有効活用を図り、急増する株出し栽培に対応するため、平成25年に作業受託組織をとりまとめる団体として設立された。現在119者のオペレーターが所属しており、国のセーフティネット事業の実施主体としてオペレーターを支援している。地区ごとのオペレーターの数は、(ひら)()地区が32者、城辺地区が39者、(しも)()地区が15者、上野地区が14者、伊良部(いらぶ)地区が17者、多良間(たらま)地区が2者となっている。平均年齢が50歳から55歳であり、30代から40代の若い世代が10人ほど所属している。作業受託の傾向として、中耕や心土破砕の作業が増えている。

 オペレーターの裁量で、所有する機械に応じて作業の種類や作業料金が異なっている。株出し管理の時期は、天候に左右されるものの、できるだけ要望にこたえる形で、天候の良い日にまとめて作業をしている。また、繁忙期(1〜3月)には、オペレーター間で協力しながら、受託作業している。

 機械化による作業は時間との勝負であり、オペレーターの機械操作の技術向上は必要不可欠である。管理組合は不定期ではあるが、実演会を通して指導することで、オペレーターのスキル向上に貢献しているという。

(3)宮古地区ハーベスタ運営協議会

 平成10年に地区単位でハーベスタ収穫を行う部会があったが、17年の市町村合併を機に、ハーベスタによる収穫拡大を目的として、宮古地区ハーベスタ運営協議会が設立された。サトウキビの収穫機械は、小型機(約97キロワット未満)と中型機(約97キロワット以上約172キロワット未満)のハーベスタが主流となっている。適材適所で使い分けられており、小型機は春植えや株出し栽培、中型機は夏植えの圃場における収穫で主に利用されている。耐用年数が過ぎた小型機は、作業の効率化のため、中型機への更新が一部進んでいる。協議会に所属するオペレーターのうち、宮古地区さとうきび管理組合のオペレーターを兼務している者が50〜60者在籍しており、株出し作業と収穫作業をまとめて受託できる体制が整っている。

4 宮古地域の課題など

 高齢化が進む中、機械による作業の省力化から、安定した生産量を確保することが重要であり、前述の三つの関係機関の聞き取りから宮古地域の課題と課題へ対応するための取り組みとして以下の3点が挙げられた。なお、後述に集落地区別に事例を紹介する。

(1)急増した株出し栽培の管理不足により、生育不良につながるおそれがある。これを回避するため、収穫後1週間以内に株出し作業を行うこと。

(2)ハーベスタなどの収穫機械の普及を背景に、機械により踏み固められてできた土層は排水性が悪く、生育不良につながるおそれがある。これを回避するため、心土破砕などを徹底すること。

(3)多回株出し栽培により、生育不良につながるおそれがある。これを回避するため、新植への移行を指導すること。

5 宮古地域における作業受託組織の取り組み

(1)農事組合法人豊農産(島尻地区)

ア 設立の背景と経営の概況
 平成13年に辺土名(へんとな)忠志氏の父である豊一氏が豊農産を設立した。豊一氏は、土地改良整備事業の旗振り役として尽力し、その後、集落営農組織を目指して、サトウキビ作業受託を始めた。生産者から土地を借りるのではなく、植え付けから収穫までの作業を受託していることが特徴である。土地を所有する生産者の生きがいを奪うことなく、一緒にサトウキビを作っているという精神に基づいており、今でも忠志氏がその意思を引き継いでいる(写真3)。

 当初は、豊農産は約7ヘクタールの圃場を作業受託していたが、現在は60件の農家と契約し、約20年間で60ヘクタールまで規模を拡大した。作業受託が拡大するに至るまでさまざまな苦労があったという。設立当初は、手刈りで収穫作業を行っていた時代であり、機械による収穫が浸透しない中、機械化収穫の受託作業を続けることで、島尻地区の生産者から徐々に信頼を得ることにつながり、作業の幅が広がった。

 今では、豊農産は常勤6人を雇用し、適正に応じて受託作業を割り振ることで、オペレーターが活躍している。一部はリースで導入した機械もあるが、ハーベスタ4台(小型機2台、中型機2台)、植え付け機3台、トラクタ8台、株出し管理機1台などを自己資金で購入し、所有している。
 

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イ 受託内容
 採苗や植え付けの作業は収穫作業の次に、負担となっていることや、新植への移行が進むことを見越して植え付け作業に力を入れている。新植では採苗が手作業によるところが多いが、ビレットプランターによる植え付けは、ハーベスタにより採取した苗を使えることから、作業の大幅な省力化を図ることができる。辺土名氏は、採苗から植え付け作業を機械化することで、作業時間を減らし、適期作業が実現できると利点を強調する。

 また、オペレーターとして圃場を見て、単収が低いと判断した場合は、新植するよう助言、指導をしている。作業を委託した農家の声として、多数回の株出しにより単収が減少傾向にあったが、植え替えが進み単収を向上できたという。依頼する生産者とオペレーターとの間で信頼関係が築かれ、サトウキビ生産意欲の向上につながっている。

 一連の工程としては、ハーベスタでサトウキビを収穫し、トラクターに苗を積んだ後、クレーンでビレットプランターのホッパーに移して、植え付けを行う(写真4)。機械で圃場に苗を落とすと、苗が重なることが多いので、手植えでは10アール当たり300キロの苗が必要なところ、ビレットプランターでは800キロほどの苗が必要となる。安全に効率よく作業を行うため、3人で作業を行うことが多いという。

 豊農産では毎年、農家や関係機関の関係者を集めて、受託作業報告会を行っており、作業受託の実績の報告を行うとともに、作業料金の設定への理解に向けた説明などを行っている。
 
ウ 人材の育成
 豊農産が所属する農業機械の所有者12人で構成された組合では、情報収集交換会や勉強会の場として、毎月25日に定例会を行っている。定例会では、「模合(もやい)」という沖縄の伝統的習慣に従い、友人や知人などでお互いに助け合い、支えあう精神で交流を図っているという。また、海外や他県からの研修生を積極的に受け入れ、若い世代にサトウキビの大切さを伝えている。

 豊農産が所属する人材の活用の観点から、女性や若者の労働力を活用している。昨年から、ドローンによる防除に関して試験的運用をはじめ、女性従業員1人が免許を取得し作業を行っている。また、豊農産は、若い世代によって構成された合同会社宮島と協力しながら、地域に密着した作業受託を推進している。

 

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コラム1 豊農産におけるドローン活用事例


 令和3年に農業用ドローンの免許を取得し、施肥の受託も行う。はじめは固形の緩効性肥料による散布を試験的に行ったが、均一的に散布できず、慣行で行う場合と比較して多くの肥料が必要だった。そのことから、液肥の散布に変えて、施肥を行っている(コラム1−写真)。ドローンによる作業は、必ずしも体力のある男性が行う作業と思っておらず、女性も積極的に起用し、受託作業をしている。防除作業時間を短縮することができ、肥料を無駄にせず適肥できるという。


 

(2)農事組合法人城辺町さとうきび生産組合(城辺地区)

ア 設立の背景、経営の概況
 平成13年に宮國明雄氏が城辺町生産組合を設立した。設立当時、複数の生産者が共同してサトウキビ生産法人を設立し、生産コストの低減や作業の効率化を図るため、ハーベスタなどの機械が導入される時期であり、宮國氏は、もともとサトウキビの積み込みや運搬作業を生業としていたが、ハーベスタの導入を背景にサトウキビ作業受託を開始した。城辺町生産組合のオペレーターの3者がそれぞれ城辺地区の作業受託を行っている。宮國氏は3.5ヘクタールの圃場を所有し、サトウキビ生産を行う一方で、受託作業も行っていることが特徴である。宮國氏は、「自分の圃場を作業していると思えば、自ずと丁寧な作業になる」という信念のもと、オペレーターの指導をしている。また、22年に沖縄県から指導農業士に認定されており、農業経験が豊かで地域の発展にも貢献している。

 当初は、約5ヘクタールを作業受託していたが、現在は150ヘクタールまで規模を拡大した。最初はハーベスタによる収穫作業やマニアスプレッダーによるたい肥散布をしていたが、作業の機械化が進むにつれて、作業受託の幅が広がった。作業を受託した生産者からは「肥培管理がうまくできており、単収を下げずにサトウキビを栽培できている」と喜びの声を受け取っている。

 宮國氏は、機械化が進むにつれて、植え付けや管理作業の作業受託も行うようになった。株出し管理機1台などを自己資金で購入し、所有している。また、所有するハーベスタのモーターを改良して、袋詰め前のサトウキビを通常より短めにカットし、トラッシュを減らす取り組みを行っている。

イ 受託内容
 宮國氏は、株出し栽培において管理作業を重要視している。圃場の状態を見極めたうえで、株出し管理機により株揃えや根切りの作業を行っている(写真5)。これにより生産者にとって萌芽数が増えるというメリットがある。

 近年の品種改良などにより茎径が大きくなってきており、小型ハーベスタでは切れない場合があり、繰り返し圃場を行き来することで、地面が固くなっている。硬くなった土壌を柔らかくし、根の張りを良くするため、心土破砕も行っている。

 株出し管理作業が収穫作業や春植えと競合する状況下で、できるだけ作業負担をなくすため、株出し管理作業においては収穫後1週間以内に行うことを心掛けている。それにより、取り組み前と比べて萌芽率が上がっている。また、台風による多雨への対応としては、天候の良い日にオペレーターが協力して集中して作業を行っている。

 株出し栽培が増加する一方で、城辺町生産組合のアイディアにより、安定して肥培管理できる体制を整えている。しかし、宮國氏は、「株出し栽培の増加により、適期に肥培管理ができていない状態では、単収の減少のおそれがあり、宮古地区さとうきび管理組合と連携して、生産者をサポートする必要がある」と強調する。また、「(うね)幅がハーベスタや株出しに適していない圃場に対しては、オペレーターが畝幅を140センチメートル以上にするよう、農家に指導をしている」という。
 

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コラム2 城辺町生産組合におけるマニアスプレッダー活用事例


 県の補助事業で、緑肥の()き込みに対する助成があったことから、マニアスプレッダーによるたい肥散布の取り組みを開始した(コラム2−写真)。牛ふんとバガスを混ぜて作ったたい肥は、基本的にはカボチャなどの野菜農家を中心に散布しているが、牛ふんを用いず、葉殻やバカスを混合した堆肥はサトウキビ圃場へ年間2000トンほど散布している。農家は土づくりをするにあたって、即効性のある化学肥料を使用することが多いが、近年の肥料価格の高騰によりたい肥の需要増加も見込まれるという。「みどりの食料システム戦略」では、化石燃料を原料とした化学肥料の使用の低減を推進しており、耕畜連携の取り組みとして注目されている。


 

おわりに

 作業受託組織と関係機関がサトウキビの生産に携わることによって、肥培管理が進んでいない圃場があっても、収穫をはじめ、植え付けや株出し管理作業を効率よく行っている。一方で、更なる高齢化により、受託件数が増え、作業受託組織の負担や責任が増えることが予見される。また、宮古地域は、農業用機械の普及が進んでいるものの、収穫面積が広大である。これらのことを踏まえると、今後、関係機関のより一層の支援はもちろんのこと、集落単位に活動する作業受託組織の育成・オペレーターの確保が必要になると思われる。

 最後にお忙しい中、取材や資料提供にご協力いただいた農事組合法人豊農産の辺土名忠志さま、農事組合法人城辺町さとうきび生産組合の宮國明雄さまをはじめ、関係者の皆さまにこの場を借りて深く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:036-3583-9272