砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 話題 > かりゆしウェアのシェアリングサービス
サトウキビの搾りかす「バガス」を使ったアップサイクルの取り組み

かりゆしウェアのシェアリングサービス
サトウキビの搾りかす「バガス」を使ったアップサイクルの取り組み

印刷ページ

最終更新日:2023年4月10日

かりゆしウェアのシェアリングサービス
サトウキビの搾りかす「バガス」を使ったアップサイクルの取り組み

2023年4月


株式会社BAGASSE UPCYCLE 代表取締役/CEO 小渡 晋治

1.バガス、その可能性について

 社名とサービス名に採用している「バガス」。バガスとは、サトウキビの搾りかすのことで、サトウキビの製糖工程から発生する副産物である(写真1)。サトウキビは、世界最大の生産量を誇る農作物であることをご存じだろうか。世界で年間約18億6000万トン生産されており、ブラジル、インド、中国、パキスタン、タイなどの生産大国をはじめとして、90カ国以上で生産されている。地域別にみるとアジアで、世界の4割程度を生産しており、世界の主要なサトウキビ生産地域となっている。日本においては、沖縄が最大の生産地であり、沖縄県の全農家の約7割が栽培している基幹農作物である。その大量に生産されているサトウキビから出る副産物がバガスであり、現在、製糖工場の焼却燃料、肥料などに利用されているが、すべては使い切れていないため、有効な活用方法が模索されている。

 株式会社BAGASSE UPCYCLEの事業は、アパレル業界の持続可能性を追求するソーシャルビジネスだが(詳細後述)、そのアパレルの観点で、バガスには大きなメリットがある。それは、製糖工場という決められた場所に、大量に発生する副産物であるという点である。天然繊維はさまざまな種類があるが、繊維を生産するためには、土地、水、肥料、労働力などさまざまな資源が必要だ。食物残渣(ざん さ)などその他の副産物は、さまざまな場所に分散されているケースが多い。バガスは、繊維として活用する上で、一カ所に大量にあるという点で好条件を有している。

 UPCYCLE–アップサイクルというのは、「高付加価値化」という意味である。似て非なる言葉に、「リサイクル」や「ダウンサイクル」などがあるが、これらは価値の維持や価値の劣化を伴いつつ、使用を継続させるという言葉であり、その持続性、循環性の観点で、アップサイクルと異なる。次に、BAGASSE UPCYCLEという事業をスタートさせた経緯について触れたい。
1

2.BAGASSE UPCYCLEとは?

 BAGASSE UPCYCLE(以下「BUC」という)は、2021年に創業した沖縄の正装でありリゾートウェアでもある「かりゆしウェア」のシェアリングサービスを提供するスタートアップである(写真2)。その名の通り、副産物である余剰バガスを繊維にアップサイクルし、エシカルな糸・生地を作り、その素材を活用し、かりゆしウェアを製造、所有権を移転させずProduct as a Service(モノのサービス化)、すなわちシェアリングサービスとして展開することで、製品寿命の最大化を目指している。さらには、製品の廃棄プロセスにおいても責任をもって回収・再資源化につなげる仕組みを構築している。BUCは、地元沖縄のIT企業である株式会社okicomと、地域創生のコンサルティング会社でサトウキビを活用した6次産業化プロジェクトを推進する株式会社Rinnovation(本社所在地:東京都)の合弁会社として設立され、システム開発・ビジネス開発をokicomが主導し、かりゆしウェアのOEM供給・産学連携・知財戦略をRinnovationが主導する形で事業構築が行われている。主たる流通拠点は県内ホテルであり、ターゲット顧客層は、サステナブルに関心のある男性の観光客・ビジネス客およびウェディングなどのイベント客である。

 BUCは、人々のアパレルの楽しみ方をよりサステナブルなものに変え、従来の服に対する消費行動を所有しない形に変えていくことをミッションとし、循環構造とテクノロジーを駆使して製品寿命の最大化、アパレル産業の環境負荷の低減、作り手と使い手のつながりを生みだし、豊かなコミュニティを作ることを目的として事業展開を進めている(写真3)。
2
3

3.事業背景

 事業をスタートした背景は三つある。(1)アパレル産業の環境負荷問題への対応(2)衰退する沖縄県内のサトウキビ産業の活性化(3)かりゆしウェアのリブランディング−である。事業の着眼点がグローバルであり同時にローカルでもある点が特徴だ。

 (1)について、国際連合貿易開発会議(UNCTAD)のレポートによるとアパレル業界は世界で第2位の環境汚染産業とされている。素材、製造、販売までのサプライチェーンが長い上に、業界のビジネスモデルに関し、大量生産・大量消費・大量廃棄のファストファッションの形態をとっているブランドが多いことがその背景だ。この産業課題に対し、サトウキビ産業に軸をおいたアパレル分野の循環構造を構築することで、環境負荷が低い、持続可能なビジネスモデルを提示したいと考えた。

 (2)について、沖縄の原風景ともいえるサトウキビ畑のある景色を次世代に残したいという経営メンバーの強い思いがある。平成元年以降、急速に生産量が低下し、その後は横ばいの推移となっているサトウキビ生産量だが、純粋な農業から6次産業化することで引き出せる付加価値が存在するとみている。また、サトウキビは世界中で生産されているため、沖縄県で構築したビジネスモデルを海外に向けて横展開する可能性も視野に入れている。

 (3)について、かりゆしウェアの消費行動に関し、県外のビジネスマンが、県内で商談をするために購入、その後は着用しないケースは多いと聞く。また、観光客が沖縄にいる時だけ、その雰囲気を楽しむためにかりゆしウェアを購入し、その後はタンスの肥やしとなるなどのケースも散見される。いわゆる、かりゆしウェアの“one time use”の常態化である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大前の沖縄は、年間1000万人以上の観光客が訪れており、少なくない割合が、滞在期間中だけ着て地元に帰れば無駄になってしまうかりゆしウェアそのの購入をしていたことが想定される。BUCでは、必要な時に、必要な分だけシェアリング形式でウェアを利用してもらうことで、アパレルの無駄を排除し、エシカルで持続可能な消費行動の提案に加えて、かりゆしウェアを着ることを通して、素材となっているサトウキビ産業やデザインとして採用される地元の伝統工芸など、もっと沖縄の深い部分を知る仕組みを作ることでかりゆしウェアをリブランディングしたいと考えた(図)。
1

4.製造工程とバガス生地の特徴

 バガス生地の製造は、連携企業であるCurelabo株式会社(本社所在地:沖縄県)より供給を受けている。まず、沖縄県内で取れるサトウキビの搾りかす=バガスをパウダー化し、その後、岐阜県の美濃市で和紙へ、続いて広島県福山市にてコットンと双糸して和紙糸を作り、織布を行う。そして縫製工程を沖縄県内の認定工場で行うことで、かりゆしウェアの認定(製品タグ)を取得している。

 バガス生地には以下の特徴がある。

・重さが綿の2分の1〜3分の1程度で、軽い仕上がり
・高い吸水速乾性・保温性
・起毛がなく、さらっとした肌触り
・和紙特有の高い消臭効果を持つ
・バガス和紙糸の紫外線吸収による独特の経年変化
・高い抗菌効果(SEK(注)の抗菌活性値2.0を超える数値)

(注)一般社団法人繊維評価技術協議会による認証基準。抗菌活性値が2.0を超えると抗菌効果が認められる。

5.循環構造の構築〜炭化技術の活用〜

 製造されたウェアは、所有権を移転させない形(シェアリングやサブスクリプションなど)で提供される。そうすることで適切なタイミングでリペアや染め直しなどを行い、製品寿命の最大化につなげる。着用ができなくなったウェアは、回収し、製炭炉で炭化を行う(写真4)。燃焼や埋め立てなど、現在のわが国における主流の処理をせずに炭化という手法を取ることで、炭素を空気中に排出せずに炭として固定化することができ、結果としてCO2の排出量を燃焼時と比べて大幅に削減することができる。バガス由来のウェアを炭化し、土壌改良材として再びサトウキビ畑に循環させ、次のサトウキビの生育につなげる仕組みを構築している。

 循環構築する上での重要なポイントの一つがトレーサビリティ(追跡可能性)の確保である。トレーサビリティの確保をBUCでは、IoT技術を活用して実現している。ウェア1着1着に洗濯可能な非接触型のICタグ(NFCタグ)を縫い込むことで個体管理を行い、オペレーションの効率化を図るとともに、サプライチェーンの情報および利用状況、さらには製品寿命を終え、炭化されるまでの情報をプロダクトパスポートというコンセプトを用いて見える化している。サービス利用者は、手持ちのスマートフォンをICタグにかざすことで個別のウェアのプロダクトパスポートにアクセスできる。
4

6.事業構築の難しさと今後の展望

 2021年4月からサービス提供を開始しているBUCだが、最大の事業課題は売上の確保が十分でない点である。2021年8〜9月および2022年1月の沖縄は、COVID-19の感染状況がわが国で最も悪い状態にあるなど、観光業を中心に甚大なコロナの影響を受けている。現在のBUCのビジネスは、観光業の景況に大きく影響を受けるモデルとなっていることから、そこからの脱却をするべく、提供する商材をかりゆしウェアのみでなくデニムに広げ、サービス提供方法についても、県内シェアリングだけでなく、サブスクリプション形式で県外に対してもサービス提供を検討するなど、事業モデルの軌道修正を行っている。

 また、ウェアのシェアリングサービスは、参入障壁が低いビジネスモデルであることから、2021年9月にビジネスモデル特許の申請を行っており、競争優位性の確保に努めている。その他、ユーザーに提供するトレーサビリティ情報に関しても、産学連携を行い、商品・サービスの原材料調達から、循環させるプロセスまでのライフサイクルにおける環境負荷を定量的に算定し、その代替製品との環境負荷を比較することで、より環境負荷の少ない製品・サービスの開発につなげるべく、ライフサイクルアセスメントに取り組んでいる。また、その内容をBUCで提供するシステムに反映する準備も同時に進めている。環境に配慮しているように見せかける「グリーンウォッシュ」の事例が散見される中、BUCではサステナブルであることにコミットし事業展開を進めていくことで、企業のブランディングにもつなげていく戦略を取っている。

 最後に事業展開を進めていく中での難しさについて触れたい。足元、日本の消費者の多くが、アパレル産業はリニアエコノミーをベースとする大量生産・大量消費・大量廃棄が当たり前というマインドセットを持っており、BUCのようなサーキュラーエコノミー(循環型経済)の発想を体現したサステナブルファッションのブランドには、関心が薄いのが現状だ。アパレル業界におけるサステナブルな取り組みは、2021年以降、一層活発になっており、規模の大小に関わらず、さまざまな企業が持続可能な社会実現に向けてアクションをおこしている。

 BUCとしてもサービスの認知度向上に努め、消費者行動を変えられるほどの影響力を発揮できるようなブランドに育てていくとともに、1グラムでも多くのバガスをアップサイクルし、循環構造を回すことで、サトウキビ産業の活性化に寄与することを目指していきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272