日本で唯一の高校生和菓子コンテスト 「全国和菓子甲子園」
最終更新日:2023年5月10日
日本で唯一の高校生和菓子コンテスト 「全国和菓子甲子園」
2023年5月
全国菓子工業組合連合会青年部 第12期全国部長 岡本 伸治
1.大会の歩み
皆さんはご存じでしょうか?白球を追いかける甲子園だけではなく、高校生が砂糖や卵、小麦、米粉などの食材を駆使し、テーマに沿って和菓子を創作する「全国和菓子甲子園」という大会があることを。
全国和菓子甲子園は、和菓子に対する意識向上と文化の発信を兼ねて、高校生2人1組を1チームとして、創作的な和菓子を作り競う大会を行いたいと、2010年に大阪府生菓子協同組合の青年部である大阪府生菓子青年クラブが、50周年事業として第1回「和菓子甲子園」を開催したのが始まりでした。
当初は「高校」「短大・大学」「専門学校」の3部門で大阪府内の学校を中心に応募者を募り、書類選考の上で決勝大会を大阪市阿倍野にある辻製菓専門学校にて開催しました。翌11年の第2回大会からは「高校・大学」「専門学校」と2部門に絞り込み、それをさらに第3回大会である12年からは、「和菓子甲子園2012」と高校生だけの大会として、今に至っています(図)。
当初から「甲子園」と銘打っていましたが規模は小さく、また会員の会費で運営される状況でしたが、大阪府生菓子青年クラブの予算だけでは大会の規模拡大どころか継続すら難しいという状況だったので、14年の第5回大会にはクラウドファンディングを活用して募集範囲を全国へと拡大し、名前を「全国和菓子甲子園」と改めました。
そして18年の第9回大会からは主催を大阪府生菓子青年クラブから全国菓子工業組合連合会青年部に移し、全国六つのブロック(東北北海道ブロック・関東甲信越ブロック・中部ブロック・近畿ブロック・中四国ブロック・九州ブロック)に分けて予選会を行い、予選通過チーム(第9回大会は各ブロックより3組、第10回大会以降は各2組)による決勝大会を辻製菓専門学校で行う形式に変更となりました(写真1)。
2.コロナ禍での開催
このように運営の熱意から徐々に規模を拡大してきた大会でしたが、さまざまな困難もありました。皆さんの記憶にも新しい新型コロナウイルス感染症のまん延による影響で、通常は大阪の辻製菓専門学校に予選通過チームを集め行われていた決勝大会を、大会運営も含めてどうしようかと、大きな選択を迫られました。
行う意義と生徒の安全確保。中止でもいい、仕方ないじゃないかとの意見も多くあった中、高校生たちの時間や思い出はその機会を失うと2度と戻ってはこないと思い、日程や募集要項を変更し、2020年の第11回大会に関しては、作品は配送とし、制作過程とプレゼンテーションの写真および動画をもって審査するという方式をとり、なんとか開催ができました。しかし、今までの決勝会場に集まって行われていた時と比べるとライブ感や躍動感はいまひとつでした。
翌21年の第12回大会は、まだまだ新型コロナウイルス感染症の猛威が収まることなく、いつまで続くのという悲壮感が漂う、そんな時期に開催することとなりました。当初からその状況を予測していたわれわれ全国和菓子甲子園実行委員会は、何か新しいやり方、みんなの安全を確保した上で、ライブ感や躍動感のある大会にできないかと必死に知恵を出し合って一つの答えを出しました。
それは、その時期に多くの会社でも会議などで採用されていたZoomを活用してのオンライン開催という手法でした。Zoom配信などに明るい制作会社に依頼し、その会社のある愛知県名古屋市を決勝大会審査会場の場所として、決勝に進んだ全国12校の学校と審査会場をZoomでつなぎ、リアルタイムで各チームに和菓子を制作してもらいました。その制作過程とプレゼンテーションの審査を行いながら、事前に各学校から配送してもらった作品を食べて審査する食味審査も行い、一昨年までのライブ感、躍動感に近づけることができました(写真2)。
同時にクラウドファンディングも行い、返礼品として全国各ブロックの銘菓詰め合わせなどを送るなど、できることを最大限、できる範囲で行うことができた大会となりました。表彰式もZoomで行いましたが、後日、私と全国和菓子甲子園実行委員長である竹本氏で、兵庫県にある優勝校「神戸第一高等学校」に優勝旗を手渡しに行ったことも良い思い出となりました。
22年の第13回大会は、新型コロナウイルス感染症の影響もかなり薄れてきている時期で、全国和菓子甲子園実行委員会の中でも、以前のように一つの会場で皆さんを集めて決勝大会を行う、そんな形を復活してはどうかとの意見をいただき、安全を確保しながらではありますが、リアル開催に向けて全員で動き、以前のように各ブロックから選考されてきた12校が辻製菓専門学校に集まり決勝大会を開催することができました(写真3)。
久しぶりのリアル開催であったこの13回大会の優勝校は岐阜県にある「城南高等学校」で優勝後は各種メディアに取り上げられ、岐阜県知事にも報告会が行われるなど、一時は継続も危ぶまれてきたこの全国和菓子甲子園もある程度の形になってきていることを実感しました(写真4)。
3.作品テーマ
この大会、毎回募集作品のテーマの選定には苦慮しています。第1回目からのテーマを挙げると、「うさぎ」「大阪を元気にする大福」「巳」「地産食材を使った夏のスイーツ」「お米と豆を使った和菓子」「日本のお土産」「笑顔」「食べておいしい健康和菓子」「わがまち自慢の創作和菓子」「令和」「青春」「まめ」そして第13回大会の「SDGs」です。どのような和菓子があるか気になる方は「全国和菓子甲子園」で検索いただきホームページ(注)をぜひご覧ください(写真5)。
(注)現在ホームページには第9回大会以降の受賞作品一覧やプロモーションビデオが掲載されています。
どれも、プロの和菓子職人でもなかなか難しいテーマですが、高校生のピュアな心とプロ顔負けの創作力やたくさん練習してきたことがわかる技術力で挑んできてくれます。われわれはそんな姿に感動をいただき、またその先にある和菓子業界の未来を感じることができます。
今年度第14回大会の開催も決まっていまして、テーマは「日本のお米」。国内で生産されている「うるち米」「もち米」や「赤米」などさまざまな日本の米をそのままなのか、加工して粉末状なのか、またはパフ状のものなのか「道明寺」のように加工しているものなのか、調べればどんどん深掘りできるテーマにしてみました。日本におけるご飯の需要低下などが叫ばれていますがいま一度、若い世代に呼びかけていきたいという思いが今回のテーマとなりました。
6月16日の「和菓子の日」が募集締め切りになり、決勝は8月26日で会場は初めてになりますが、東京にある東京製菓学校をお借りして行うことになりました。今回も全国各地、多くの高校生が興味を持って参加してくれると期待しています。
4.和菓子文化の継承
和菓子はこの国のお菓子として、多くの国民の方が見たことや食べたことがあると思います。その一方、作ったことはあるかどうか聞くと、ほとんどの方が作る経験をしたことがないと答える不思議なお菓子です。
文化というものは、いろいろな要素はあると思いますが多くの方の認知度によって継承されるかどうかが決まると思います。昔はその時代を反映した文化でも、知らない人が圧倒的に多くなったものは自然と淘汰されていることを見ましても歴史がそれを物語っています。われわれは和菓子を製造販売するだけが主な業務ではなく、和菓子をこの国が誇る文化だと位置付けて発信していくことも大事な仕事だと考えています。
2022年11月14日、文化庁より「菓銘を持つ生菓子」が登録無形文化財に指定されました。「和菓子」として登録するには和菓子のジャンルがあまりにも膨大な情報量なので、まずはこういう形になったと説明を受けています。
全国和菓子甲子園はこういったものを背景に今後も和菓子文化の継承を行い、人材の育成においても力を入れていく事業だと考えています。多くの方のご支援で次回第14回大会も無事行われることを願い、より多くの方にこのような甲子園もあることを知っていただけると幸いです(写真6)。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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