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持続的発展に必要なサトウキビ栽培の具体的な在り方

沖縄県南西諸島におけるサトウキビ産業の
持続的発展に必要なサトウキビ栽培の具体的な在り方

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最終更新日:2023年6月9日

沖縄県南西諸島におけるサトウキビ産業の
持続的発展に必要なサトウキビ栽培の具体的な在り方

2023年6月

沖縄県農林水産部農業研究センター 作物班 班長 内藤 孝
サトウキビコンサルタント 杉本 明

【要約】

 沖縄県の分みつ糖生産地域を対象に、沖縄本島北部および中南部、伊是名(い ぜ な)島、久米島、南・北大東島、さらに宮古島地域、石垣島について、地域ごとに生産の現状と問題点、問題克服の基本的方向と栽培の要点、経営改善に向けた具体的な提案について述べた。さらに今後の方向を述べ、課題克服に向けた具体的な方法についてその概要を提案する。

はじめに

 鹿児島県の各島におけるサトウキビ生産については、『砂糖類・でん粉情報』2022年11・12月号で述べた。本稿では、沖縄県の生産地域について、地域ごとに(1)生産の現状と問題点(自然環境の概要、サトウキビ生産の概要)(2)問題克服の基本的方向と栽培の要点(3)具体的な提案(4)残された課題と今後の方向−について述べる。沖縄県には生産規模が比較的大きい分みつ糖生産地域と含みつ糖生産地域があり、今回は分みつ糖生産地域についての提案を行う。

1.沖縄県におけるサトウキビ生産の現状と産業の持続的発展に向けた対策の方向

(1)サトウキビ生産(栽培)の現状

 沖縄県のサトウキビ生産量は、全体としては減少傾向であるが、地域により、その変化には差がみられる。20年前と比較すると、沖縄本島での生産は漸減の傾向だが、伊是名村や大東地域ではやや生産量が伸びており、宮古島市、石垣市では、年次変動はあるが横ばいの状況となっている。図1〜20に各地の生産量、収穫面積、作型別単位収量(以下「単収」という)および栽培農家戸数の推移を示した。株出しの継続回数が少なく、単収も高くないこと、収穫の機械化が進む一方で、植え付けなど、作業の省力化・軽労化が進んでいないことなどが、生産の縮小や変動の主な理由として挙げられる。各地域でさまざまな対策が行われている一方で、ほ場から海への耕土流出や、地下水への硝酸態窒素の流亡など、サトウキビ生産が関係する環境汚染も長年にわたる懸念材料となっている。これらの問題や、ほ場の大小が収益に直結してしまうこと、生産者の高齢化と担い手の安定確保などの課題が重なり、生産の環境は一層厳しくなっている。

(2)サトウキビ産業の持続的発展に向けた栽培の要点

 沖縄県におけるサトウキビ産業の持続的発展の鍵は、本誌2021年10・11月号で述べた多回株出し安定多収栽培を、機械化一貫栽培体系による省力のもと、自然環境との調和を取りつつ実現することである。その最前線は、種苗用サトウキビのハーベスタによる採苗とビレットプランタを用いた植え付けによる、低単収ほ場の多回株出し多収化である。これを当面の目標として、沖縄の多様な地形、手刈りから機械収穫、手植えや各種プランタなど、自然環境と経営事情が異なる各地に適応する栽培上の提案をしたい。これまでの機械化に向けた取り組みでは、ハーベスタによる収穫が中心となるまでに30年以上、ビレットプランタ活用の試行錯誤にも20年以上かかっている。機器の導入がすなわち技術の普及とはいかないことを考慮しながら、今回の提案が地域の苦境克服への一助となり、将来の一層の軽労化と収益性の向上、サトウキビが地域の未来につながるものとして述べたい。

(3)課題とその克服の方向

 沖縄県の人口は、令和2年現在、微増で推移しており、ほとんどは本島中南部に集中している。観光業がさらに進展すれば、宮古島市や石垣市などでも今以上に都市化が進むことが予想される。一方で、令和12年以降(2030年代)には人口が減少に転じるとされている。離島を抱える沖縄県において重要な変換点である。これは県のサトウキビ生産においても同様であり、受委託体系の構築はその対策の中心になると考えているが、地域ごとに異なる背景を持つため、状況を以下の二つに整理したい(表)。

     

 いずれの場合でも、農家戸数の減少により1戸当たりの栽培面積が増加傾向であることから、収穫以外の受託作業の重要性は今後さらに高まるであろう。その対応には受託できるオペレータの育成が要で、長期的視野に立った受託作業の充実が各地域共通の課題である。効率化、軽労化と合わせ、未経験者でも仕事に従事しながら技術習得ができる仕組みの構築と、安定的な収穫量を実現するための条件整備、地域的な支援が課題といえる。

 株出し栽培が盛んな地域では、その生産の拡大に、収穫後の速やかな肥培管理を可能にし、収穫作業と肥培管理作業を一体的に受委託できる仕組みが必要である。一方で、既存の収穫を行う受託組織は、年間のスケジュールや要員確保などの固定・定着が進んでおり、新たな作業への対応に向けた余力がない。そのため収穫だけでなく、株出し管理やビレットプランタ植え付けなども受託できる組織の拡充や新たな育成が、この先に必要であろう。上記を踏まえながら、沖縄県内の分みつ糖生産地域について地域ごとに述べる。

2.沖縄本島北部地域

(1)北部地域におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

ア.自然環境の概要
 沖縄本島北部、名護の年平均気温は22.8度程度である。月別では最高は7月で28.9度、最低は1月で16.5度である。降雨量は年間で2100ミリメートル程度、月間では夏季に多く6月が291ミリメートル、8月が265ミリメートルである。山がちな地域であり、土壌は国頭くに がみマージ(注1)が主体で、pHや肥沃ひよく度は低く、干ばつに見舞われることもある。国頭マージは分散性が高く、耕土が河川、海域に流出しやすい。その他、本部半島海岸地域などに比較的肥培管理のしやすい島尻マージ(注1)も分布する。
 
(注1)沖縄には主に、国頭マージ、島尻マージ、ジャーガルという3種類の土壌があり、国頭マージは酸性の赤黄色土、島尻マージは弱酸性からアルカリ性の暗赤色土、ジャーガルはアルカリ性の灰色台地土である。どの土壌も腐植含量が少ない。

イ.生産の概要
 令和元年の耕地面積は約2580ヘクタール、そのうちサトウキビほ場は令和2/3年期で約840ヘクタールである。約20年でサトウキビ栽培面積は4割程度減少している(図1)。経営規模は1ヘクタール以下の生産者が全体の70%程度を占める。この10年の単収は全作型平均で10アール当たり3.9トンと少ない。春植え株出し栽培体系が主であり、株出しの継続回数は2回程度が約60%である。作型別の平均単収は夏植えで同5.1トン、春植えで同3.6トン、株出しで同3.9トンと、どの作型も少ない(図2)。土壌やかん水などの条件によっては発芽が安定し難く、また、地域向けの奨励品種の数も少ない。栽培面積の拡大と収量安定のため、従来の春植え・株出し体系から夏植え・株出しへ体系の移行を進めようとしている。

 

 

 

(2)北部地域の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 この地域は先述した分類のうち、都市部以外の地域として考える。改善の方向は単収の向上と植え付け面積(=栽培面積)の拡大である。それには生産性の高い品種の導入と普及が重要となり、それを安定した発芽と生育をもって実現することが要点となる(写真1)。これにはビレットプランタの活用を進め、機械の効率的運用、採苗運搬の効率化、地域ごとの種苗生産ほ場の拠点的配置、採苗・植え付けの省力的な体系の構築などが含まれる。



(3)北部地域のサトウキビ経営・ほ場への具体的な提案

 
受託組織の効率化や安定経営を前提として、まず夏植え・株出しの体系化と、栽培環境に適合する品種への更新および肥培管理の適期実施が重要であり、そのために種苗生産ほ場を確保することや植え付け受託組織を広域展開できる体制の構築を提案する。また、発芽、生育の安定は最重要であるため、種苗の質に配慮し、植え付け後のかん水と雑草防除などで、ビレットプランタでの発芽・生育の安定性を実現するべきである。生産効率の向上とともに、生産者と受託組織の信頼関係を深めることが必要であり、これらを通してビレット体系の定着が期待できるだろう。

(4)北部地域のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 この地域では、新たな担い手類型の一つとされる「農外就業退職後、就農」1)の増加と育成に期待したい。この型では、就農者の意識は高く、地域の信頼が得やすいなどの利点があるが、受託者が比較的高齢で作業に慣れないなどの弱点もある。それらを補うためにも、技術面での他の受託組織や関係機関の支援が必要である。また、組織の維持に向け、構成員の加入促進を工夫するなど、支援を地域一体で考えることも重要である。今後は広域的な、ほ場管理システムやGPSによるハーベスタの稼働把握など、ICT技術の導入を検討すべきであろう。

 また、ビレットプランタの植え付け受託組織には、採苗に用いるハーベスタが必要となる。収穫用で導入された機体の場合、導入地域や収穫期以外の使用において、受益地域や損害保険などの制約があり、採苗用としての利用が難しいこともある。地域にはハーベスタの活用を広げ、収穫組織と連携する体系を構築すること、合わせて機械メーカーや研究機関には、ハーベスタ採苗における芽の損傷や種苗の長さに配慮し、茎数型多収サトウキビ品種に対応し得る、原料茎収穫と採苗の兼用が容易なハーベスタが新たに開発されることを期待しつつ、課題としておきたい。

3.沖縄本島中南部地域

 基本的に都市化が進むこの地域は、サトウキビ生産を行う上での問題が複雑な地域である。市街地に囲まれた入り組んだ地形、地権者の高齢化と相続によるほ場集積の困難性、ほ場の狭小性などに加え、この地であった沖縄戦の記憶など、ほ場の形状や地形変更への制約もある。また一方で、うるま市や南城市その他の町村でも、ところによっては先述した分類のうち、都市部以外の様相を呈する地区もある。

(1)中南部地域におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

ア.自然環境の概要
 本島北部と同様の気候で、那覇の年平均気温は23度程度である。月別の最高は7月で29.1度、最低は1月で17.3度である。平年の年間雨量は2100ミリメートル程度で、多い月は6月で284ミリメートル、9月が275ミリメートル程度ある。なだらかな丘陵地が多く、土壌は灰色でアルカリ性を示すジャーガルが特徴的である。排水性は悪いが保水性は高く肥沃である。また読谷よみ たん村一帯、糸満市などを中心に島尻マージの地域、沖縄市、うるま市などに国頭マージの地域がある。

イ.生産の概要
 およそ1800ヘクタールがサトウビほ場で、収穫面積、生産量、栽培農家戸数の減少が顕著である(図3、4)。経営規模は小さく、30アール以下の生産者が最も多い。都市近郊であり、小規模な複合経営、農外収入に頼る兼業農家も多い。春植えとそれに続く複数回の株出しが特徴である。この10年の単収は中部で10アール当たり4.9トン、南部では同5.6トンである。作型別の単収は中部、南部の順に、夏植えで同6.2トン、同7.3トン、春植えで同4.4トン、同5.0トン、株出しでは同4.6トン、同5.5トン程度と違いがある(図5、6)。この地域では手植えや全茎プランタでの植え付け、手刈り収穫も多く、この栽培体系はこの先も一定期間は続くと考えられる。ハーベスタ収穫は50%を超えた程度である(写真2)。
 

 

 

(2)中南部地域の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 人口が集中するこの地域については、都市部として述べたい。現在の面積の維持と栽培の効率化が要点である。それに加え作業受託組織を本島北部での事例1)を参考に考え方を二つに分類する。第一に、生産の主力となる最大収益を上げることを主要目的とした法人組織の経営の安定化・効率化である。第二には、やや条件が厳しい地理条件を含む小規模経営が作業を委託しやすい仕組みを作ることである。これには普及、営農組織などが委託作業のニーズを把握した上で、植え付けから収穫までを連携して受託できる組織の育成、確保を行うことが必要であろう。例えば、徳之島で行われている作業再委託先となる協力農家や、先述の「農外就業退職後の就農者」を人材センターのように組織化することで、兼業型生産者、製糖会社の子会社など2)が受け皿になることで生産の隙間を埋められないだろうか。

(3)中南部地域のサトウキビ経営・ほ場への具体的な提案

 上記の要点を踏まえ、引き続き土地基盤整備などによる耕作条件の改善を進め、生産を行う農業生産法人が、農地中間管理機構などの協力を受け、機械運用への条件が良い土地の集約を今まで以上に進めること、そして非効率となりやすい小規模な農地に向けた受託組織の確保、育成を重要事項として提案する。これによってさまざまな栽培条件においても、収穫後早期の肥培管理と除草剤散布の実施を促すことができる。また、近々育成される手刈りにも向く株出し多収品種や、黒穂病に強く機械化一貫体系向けの茎数型株出し多収品種などを取り入れることで、さらに効率的な体系が構築されると考えている(写真3)。



(4)中南部地域のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

  都市化、社会情勢の変化へ対応した受託組織をどのように地域にマッチさせていくかが今後の持続的な生産への課題である。それは現在の植え付けや収穫体系の維持、またはビレットプランタの導入、土地所有者、栽培管理者の関係など、効率のみでは予測が難しい多くの選択肢の中から合わせることである。地域ニーズの把握などには集落営農展開の手法が参考となるのではないだろうか。また、管理面積の大規模化への対応として、ほ場管理システムなどICT技術の導入も検討すべきである。

4.伊是名島

(1)伊是名島におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

ア.自然環境の概要
 沖縄本島北部の西に位置し、年平均気温は22.7度程度、最高は7-8月で28.6度、最低は1月で16.6度である。降雨量は年間で1850ミリメートル程度、6月が多く300ミリメートル程度である。干ばつに見舞われることも多い。なだらかな丘陵と台地からなる島で、機械収穫率も高くほ場整備やかんがい施設の整備も進んでいることから、機械化一貫栽培体系を整えやすい地域である。
 
イ.サトウキビ生産の概要
 サトウキビほ場は約430ヘクタールで、生産者はやや減少気味だが栽培面積は大きく減ってはいない(図7)。経営規模は小さく30アール以下の生産者が全体の85%を占める。春植え、夏植えの面積がそれぞれ40〜70ヘクタール程度あり、収穫面積の2〜3割が新植である。この10年の夏植えの単収は10アール当たり6.3トン、春植えが同4.4トン、株出しが同5.1トンである(図8)。メイ虫害(注2)対策や糖業振興会が種苗生産ほ場を確保して植え付けを受託するなど、さまざまな努力によって生産量はやや伸びている(写真4)。
 
(注2)芯枯れや茎の折損被害が生じるサトウキビの害虫。一般的にイネヨトウとカンシャシンクイハマキの2種を指す。
 

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(2)伊是名島の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 ほ場の整備とハーベスタ収穫が比較的進んでいるこの地域の生産安定には、労働力の年間を通じた安定的な分配が要点である。そのため、収穫や株出し管理作業と重なる春植えから夏植えへの移行が有効であろう。また、種苗のハーベスタ採苗とビレットプランタの活用による植え付けを中心とする機械化一貫栽培体系と、株出しの多回化を目指すことも要点といえる。

(3)伊是名島のサトウキビ経営・ほ場への具体的な提案

 (1)株出し収量を安定多収化して新植面積を減少させること(2)株出し多収に向けて、収穫と並行した施肥、株出し管理、病害虫防除、除草を可能にすること(3)種苗生産ほ場の安定確保(4)夏植えを主体として品種別の適期植え付けを実施すること−以上を限られた労力を分散して実施することを提案する。この体系が実現して、株出し収量を安定化できれば、縮小した植え付けにおいて、早生品種や、中晩生品種を計画的に植え付け、品種の整理と収穫の効率化を図ることも可能になるのではないだろうか。
 
(4)伊是名島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 上記提案の体系はビレットプランタによる植え付けが前提となっている。前項で挙げた品種別種苗生産ほ場と、品種特性に沿った植え付けによる安定的な発芽数や茎数確保、株出し多収に向け、深植えや収穫直後からの施肥管理、害虫防除や雑草防除を実施できる体制の構築のため、どこから始めるかが課題だが、実現を期待している。
 

5.久米島

(1)久米島におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

ア.自然環境の概要
 沖縄本島の西にあり、年平均気温は23.2度程度である。最高は7月で29度、最低は1月で17度程度である。台風の襲来が多い年もある。降雨量は那覇よりやや多く年間で2240ミリメートル程度、6月は300ミリメートル程度の降水があるが、干ばつ害の発生もある。中央付近に山地があり、土壌は強酸性の国頭マージと島尻マージが主体で、一部に沖積土壌が混在する。
 
イ.生産の概要
 耕地面積は1230ヘクタール、そのうち約1100ヘクタールがサトウキビほ場である。農家戸数は減少傾向だが、1ヘクタール以下の生産者が全体の55%を占め、平均的な経営規模は本島地域より大きい(図9)。夏植えが多く、春植えを加えると約30%で、それに続き2〜3回の株出しを実施している。台風被害に苦慮してきた地域であり、「Ni17」や「Ni21」など耐風性の品種づくりに協力してきた(写真5)。近年では「Ni27」「Ni21」の栽培が多く、機械収穫率は6割以上である。この10年平均の単収は10アール当たり5.2トン程度、夏植えで同6.7トン、春植えが同4.7トン、株出しが同4.8トン程度である。生産量はこの10年の推移ではやや増加傾向である(図10)。

 

 

(2)久米島の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 地域の方向としては、大東地域に次いでビレットプランタの利用が進んでおり、植え付け組織の運用も行われているため、さらなる生産効率と単収の向上、地域への適応性が高い複数品種の利用、収穫直後からの株出し管理の体系化などが要点である。また、受託組織の経営安定と効率化に向け、収穫や栽培管理の受託増加によって多数(複雑)となるほ場の作業履歴を把握、管理する位置情報を利用したシステムなどの導入も考慮すべき事項であろう。
 
(3)久米島のサトウキビ経営への具体的な提案

 上記の実現には、まず受託組織の維持、経営安定が重要である。また栽培管理の受託組織の育成や前述の例(徳之島)などを参考に体系構築すること、現在の主力品種「Ni21」「Ni27」と早期高糖品種である「Ni22」「Ni29」などの計画的な植え付けと収穫時期の拡張を提案する。これに登熟の異なる品種別の種苗生産ほ場の確保をすることで、植え付けの効率化が図れ、収量、糖度の安定化に向かうのではないだろうか。また、夏植えの植え付け直後のかん水、収穫直後からの株出し管理および梅雨明け直後からのかん水が、収量の安定確保には有効である。
 
(4)久米島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 過去に台風で大きな被害を受けてきたこの地域では、選択できる品種を増やすため、台風による被害が少なく地域に適応性の高い品種を選抜することも今後の課題である。また、一層の機械化の推進に向けて、手刈り収穫を前提としていた(うね)幅を変更していくといったことも挙げられる。そのためにも、新たな品種の導入の際には、ビレットプランタで新植するなど、徐々に機械化一貫体系にフィットさせる方法もあるだろう。さらには機械稼働やオペレータ作業の効率化などに向けたICTの利用が進むことも期待している。
 

6.南・北大東島

(1)南・北大東島におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

 南・北大東島は、この数年単収の向上が顕著である。令和元/2年期の平均単収は南大東島で10アール当たり8.1トン、北大東島では同7.4トンと県内随一であった。気象の影響も大きいが、それに加え、長年にわたる主要導入品種「F161」から多収性品種「RK97-14」などへの品種切り替えと、ビレットプランタによる植え付け、土壌への有機物還元も要因である。
 
ア.自然環境の概要
 那覇の東方約400キロメートルに位置し、年平均気温は23.5度、最高は7月で28.7度、最低は1月で18度である。降雨量は梅雨時期に多く5月が222ミリメートル、6月が199ミリメートルである。台風の来襲が多い。離水環礁で海岸全周に台地、段丘と中心部に池や低湿地がある独特のカルスト地形である。土壌は島尻マージより強い酸性で大東マージと呼ばれる。年間の降水量が那覇と比較して500ミリメートルほど少なく、干ばつ被害の多発地域で台風被害も受けやすい。
 
イ.生産の概要
 耕地面積は南大東島で約1800ヘクタール、北大東島では約540ヘクタールであり、耕地の大部分がサトウキビほ場である(図11、12)。農家戸数は維持〜漸減傾向で、経営規模は3ヘクタール以上が全体の70%、さらに5ヘクタール以上が36%で県内最大である。主に春植えに続き2〜3回の株出しを実施しており、8割が株出しである。この10年の南・北大東島の平均単収は、南大東島、北大東島の順に、夏植えで10アール当たり8.5トン、同8.4トン、春植えが同5.8トン、同4.8トン、株出しが同5.9トン、同4.9トンだが、直近5年での平均単収は沖縄県下で最も高い(図13、14)。この地域はハーベスタ、ビレットプランタ利用の先駆者で、1970年代のハーベスタ導入に始まり、80年代後半からグリーンタイプ導入と機械銀行の設立、またビレットプランタは95年頃から検討を始め試行錯誤を経て、現在の形に至っている。このように機械化サトウキビ栽培を先導してきたこの地域は、機械化一貫栽培体系を効率的な体制で運用することができており、ここ数年は単収の高位安定が続いている。収穫後の速やかな株出し管理の実施や多収品種への更新、継続的な有機物施用など、参考とすべき事例が多く見られる。一方で、一戸当たり面積が比較的大きいことから必要となる大型機械類の種類も多くなり、経営への機械・設備費の負担が大きく、気象災害などによる不作を機に経営を圧迫する危険がある。

 

(2)南・北大東島の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 この地域は、国内の他地域と比較して10数年以上も前に機械化一貫栽培体系に取り組み、受託組織の体制が整備され、効率的な運用、運営が続けられている。その継続と発展、経営面での効率向上と、栽培面での干ばつ対策による収量の安定確保が要点である。そのため現在の機械化一貫栽培体系における単収維持と、株出し継続回数の増加は必須である。また、有機物還元による地力の維持やICT利用によるさらなるほ場管理、機械・オペレータの稼働の効率化に向けた体制の構築も重要である。
 
(3)南・北大東島のサトウキビ経営・ほ場への具体的な提案

 10アール当たり8トン程度ある現状の高単収維持のため、現在の管理体系の着実な実施と、春の晩植を回避すること、また大型機械の償却に対応し、収益の安定化に向けた経営の点検、また、新品種として検討が進んでいる機械作業向け茎数型多収品種の利用などを提案したい。

 北大東島への提案は南大東島とほぼ同様であるが、中型ハーベスタが中心であるなど、南大東島との違いがあるため、品種選択は中型ハーベスタで効率的に収穫できる「NiN30」などに加え、先述の茎数型の連続した株出しに適応する品種なども提案したい。また、土作りの継続と合わせ早期の株出し管理の着実な実施も必要である(写真6)。
 
 

(4)南・北大東島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 多収の継続と株出し回数の増加に加え、収穫期の前進も検討すべきである。連続した株出しに適応性の高い複数品種の選定、さらには早期のかん水開始による干ばつ被害の抑制、多回株出しに対応する深植え型ビレットプランタによる多回株出し安定多収技術の定着、さらには機械・労働力・ほ場の高度利用に向けたICTの利用も課題であり、今後も製糖工場・JA・地元自治体が一体となって検討を進めることが重要である。また、島の中心部である幕下と呼ばれる地域の低湿地に向けた新たな品種の育成も課題である。
 

7.宮古島地域

(1)宮古島地域におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

ア.自然環境の概要
 宮古島の平均気温は23.5度程度である。月別の最高は7月で28.9度、最低は1月で18.3度である。降雨量は夏季に多く9月が259ミリメートル、8月が257ミリメートルである。台風の襲来も多い。冬期の降雨日は那覇より多い。土壌は島尻マージが主体であり、石灰岩台地、段丘のため排水は良好で、干ばつの発生は多いが、降雨後に機械作業ができるようになるまでの期間は短い。
 
イ.生産の概要
 この地域の栽培農家戸数は平成23/24年期の5071戸から令和2/3年期までの10年間で4695戸に減少し、1経営体当たりの規模は1.38ヘクタールから1.48ヘクタールに微増している(図15、16)。全収穫面積のおよそ3分の1(約1300ヘクタール:令和2/3年期)が夏植えだが、植え付け時期の酷暑は、身体的負担も大きく、労働力の十分な確保が困難になってきている。小規模の生産者が多い本島中南部地域と異なり、年間50トン〜200トンを生産する中間層の生産者が全体の半分以上を占めており3)、この層の株出し回数の増加は、夏植えの植え付け労力の確保にも影響する。夏植え・株出しが中心で、株出しは2-3回程度である。ここ10年の単収は、宮古島、伊良部の順に、夏植えで10アール当たり7.6トン、同7.2トン、春植えが同5.0トン、同4.8トン、株出しが同5.3トン、同5.1トンで高くはない(図17、18)。この地域では地下ダムに水源を頼ることが多く、サトウキビほ場からの余剰窒素が硝酸態窒素として地下水を汚染する危険性が指摘されている。
 
(2)宮古島地域の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 この地域は、急激な収穫機械化により増加したハーベスタ組織などの維持発展も考慮すると、都市部として考えていく方が適当である。今後の高齢化や担い手の不足も見据えた生産の持続的発展に向けて、省力的な安定多収と栽培面積の維持が要点であろう。その要点は、島の平坦なほ場特性を利用した機械化一貫栽培体系による、収益性の高い株出し多収の実現である。これにより地域全体としてはかなりの面積となる夏植えの負担軽減を進めることも必要である。近年では「Ni27」が全体の6割程度の栽培面積を占めているが、収穫時期の分散や台風被害の回避、株出しほ場での黒穂病発生のリスク分散のためにも、耐病性・耐乾性・耐風性と株出し多収性を兼ね備える品種の積極的育成と導入、利用も考慮すべきである(写真7)。

 

 

(3)宮古島地域のサトウキビ経営・ほ場への具体的な提案

 本稿で述べる他の地域と比較して栽培農家の数が多い宮古島においても、労働力は不足気味である。そのため植え付けや株出し管理を受託する組織には、さらなる効率化を目指すためにも、全茎式プランタに加え、ビレットプランタの活用も視野に入れ、現状のハーベスタ組合との協力も踏まえた組織の拡充や、作業料金回収体制の構築、種苗ほの確保を推進することを提案する。全県的な事項とも重なるが、この提案の方向に動くことで、株出し収量の高位安定化に向けた、夏植えの植え付け直後のかん水と雑草対策や、収穫後の速やかな株出し管理、梅雨明け直後からのかん水などを推進できる受委託体制が進んでいくものと考えている。

(4)宮古島地域のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 今後については、地区によって重点とする部分が異なるが、適切な栽培技術の実施と組織の安定運営に向けて、例えば干ばつ被害の最小化と、多回株出しに有効な心土破砕と深植え、収穫後の早期株出し管理、現行の品種に加え、災害や病気に強く株出し適性の高い品種の利用、また、現状の植え付け組織の維持発展、種苗生産ほ場の設置と、ビレットプランタ植え付け体系の構築など、多数の課題がある。また、多数あるほ場の管理、そしてハーベスタの効率的運用と作業受委託管理のためにもICTや位置情報システムの導入が必要であるほか、人材の育成、確保も課題である。
 

8.石垣島

(1)石垣島におけるサトウキビ生産(栽培)の現状と問題点

ア.自然環境の概要
 石垣島は年平均気温で24.5度程度と那覇より1度高い。月別の最高は7月で29.6度、最低は1月で18.9度である。年間の降水量は那覇とほぼ同じであり、月別では10月に259ミリメートル、9月で249ミリメートルあるが、干ばつに見舞われることも多い。冬期1月の降雨日は那覇より多い。台風の襲来が多い島でもある。土壌は、島中央の山地の斜面と北西側が国頭マージ、南西の海岸近くは島尻マージである。一部には沖積土壌も混在する。
 
イ.生産の概要
 石垣島のほ場は、水稲、果樹、採草地など多様である。耕地面積は5300ヘクタール、うち1815ヘクタールがサトウキビほ場である(図19)。30アール以下の経営体が全体の92%を占める。栽培農家戸数が減少傾向のこともあり、1経営体当たりの規模は1.73ヘクタールに微増している。株出し面積が多く、ハーベスタによる収穫比率が高い地域である。作型別の栽培面積は夏植えが約500ヘクタール、春植えは約200ヘクタールであり、株出し回数は多くが1〜2回である。この10年の単収は夏植えで10アール当たり7.3トン、春植えが同5.3トン、株出しが同5.0トンだが、台風被害が少なかった令和3/4年期は春植えと株出しの単収がともに同5.9トンを超え比較的に多収となった(図20)。生産量や単収は上下しながらも維持されている。冬に降雨日が多い場合、円滑な機械収穫に支障が生じ、工場がしばしば操業休止となるため製糖の終了が遅くなってしまう。品種は「Ni27」に次いで「NiH25」「Ni22」の栽培が多い。地域によってはイノシシ被害もあり、品種選びの制限にもなっている。

 

(2)石垣島の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 この地域は都市部とそれ以外両方の考え方を適応した。収穫に運用されているハーベスタは、ほとんどが一つの組織に所属する。そこに栽培管理組織を育成し活用する。つまり、収穫後の連携で速やかな栽培管理を実施し、安定多収を実現することが要点である。また、それによる多回株出しによる多収の実現や、降雨による収穫遅延の克服も要点といえる。
 
(3)石垣島のサトウキビ経営・ほ場への具体的な提案

 他の地域同様に、植え付けや株出し管理を行う受託組織のさらなる育成が必須である。そこでまず、収穫と並行した早期の株出し管理と、多回株出しに向けた肥培管理体系の構築を提案する(写真8)。加えて、雨天などによる収穫期間の遅延的拡張を回避するため、収穫の早進化も提案したい。それには今以上の早期高糖性品種の利用が必要だと考えている。また、株出し多収性を備える品種の積極的導入と利用、労働時期の分散により、収穫後の速やかな株出し管理作業を実施するため、春植え新植面積の縮小と多収を維持した株出し回数の増加を提案したい。
 
(4)石垣島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 現在、この地域ではICTを利用してハーベスタを始めとする農業機械の効率的運用に向けた試みが進められている。安定的な収穫と製糖工場の稼働で、省エネや製糖ロスの低減も期待できる。一方、ハーベスタによる収穫率が高いこの地域で、ビレットプランタ植え付けによる株出し多収の実現は、今後目指す体系の一つではあるが、全茎式プランタの普及が進んでいる中、積み込み作業にオペレータが必要とされるビレットプランタ体系への移行は難しく、今少し工夫が要りそうである。ただ将来の植え付け体系に向かい、今は全茎式プランタを中心としながらも、課題解決のために、南大東でも利用されているバケットダンプ方式の検討をすることも一案である。

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おわりに

 既報の鹿児島県下の地域に引き続き、本稿では沖縄県下の分みつ糖生産地域について提案した。栽培上の技術的な提案に加え、作業受託組織に関する提案が多くなったと思う。沖縄県下のサトウキビ生産事情に社会科学的環境の影響が大きいことを示唆しているものと考えている。読者諸兄の率直なご批判を願いたい。

 なお、本文中の写真の多くは沖縄県農林水産部営農支援課川之上昭彦氏と沖縄県農林水産部農業研究センター儀間靖氏よりご提供いただいたものである。記して感謝申し上げる。

【共著者】
・鹿児島県農業開発総合センター 徳之島支場 支場長 末川修
・国立研究開発法人国際農林水産業研究センター熱帯島嶼研究拠点 主任研究員 寺島義文

【参考文献】
1)新井祥穂、永田淳嗣(2019)「沖縄本島北部におけるサトウキビ生産の新たな担い手の類型とその性格」『砂糖類・でん粉情報』(2019年3月号)pp.48-55. 独立行政法人農畜産業振興機構
2)宮部芳照、柏木純孝(2021)「徳之島におけるさとうきび栽培の機械化の現状と課題〜特にスマート農業実証プロジェクトを中心にして〜」『砂糖類・でん粉情報』(2021年6月号)pp.45-56. 独立行政法人農畜産業振興機構
3)永田淳嗣(2016)「沖縄県のさとうきび農業の構造変化への展望」『砂糖類・でん粉情報』(2016年1月号)pp.40
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