南大東村におけるサトウキビの増産要因について
最終更新日:2023年7月10日
南大東村におけるサトウキビの増産要因について
2023年7月
沖縄県農林水産部 中部農業改良普及センター 主任技師 外間 康洋
【要約】
南大東村では、受託作業の充実や早期株出し管理、製糖工場の副産物を活用した土づくり、かん水作業および新品種の導入による単収の向上が、大型機械化による技術・作業能率の向上と相まって現在のサトウキビ増産要因となっている。スマート農業の推進や水資源の確保およびかんがい施設などの基盤整備など、サトウキビ生産体制における省力化・安定生産技術のさらなる開発および普及により、今後もサトウキビ生産を続けていくことが可能となる。
はじめに
南大東村は沖縄本島から約360キロメートル東に位置し、大陸とはつながったことのない海洋島であり、土壌も「大東マージ」と呼ばれる特徴的な重粘土質の酸性土壌である。農業が行われている面積約1500ヘクタールのうち、9割以上でサトウキビが栽培されており、県内でもサトウキビ生産の盛んな地域となっている。一方で、周囲を20キロメートルほどの岩礁が連続する隆起珊瑚礁(環礁)の島であるが故に台風被害や干ばつの影響を受けやすく、平成17/18年期(10月〜翌9月)の生産量は本土復帰(1972年)後最低となる2万9000トンとなるなど、サトウキビの栽培環境としては厳しい環境である(図1)。また、サトウキビ農家戸数が約250戸であるのに対し1戸当たりの収穫面積は約5ヘクタール(沖縄県の平均は約1.1ヘクタール)で、作業の機械化や大型化が県内で最も進んだ地域となっている。近年は気象条件による変動はあるものの約40年ぶりに生産量が10万トンを超え、増産傾向にある。今回はこうした厳しい栽培環境にありながら増産を実現できているその要因と、現在の栽培状況、今後の課題について考察する。
1.増産要因について
南大東村のサトウキビ増産のポイントとしては、(1)南大東村さとうきび生産振興対策協議会の支援や法人・個人農家などによる受託作業の充実(2)ほ場1筆当たりの面積が大きいため、栽培管理や収穫機械の大型化による適期管理が可能(3)設置型農業用タンクや自然池などを利用した点滴かん水の普及(4)「Ni28」や「RK97-14」など南大東島に適した品種の普及(5)製糖工場の副産物を活用した土づくり(6)1戸当たり面積が大きいため単収の増加による所得へのインパクトが大きい―ということが挙げられると考えている。以下、これらのポイントについて解説を試みる。
(1)受託作業の充実
1戸当たりの収穫面積が大きい当地域では、農家の高齢化などの影響で受託組織などによる作業の重要性が高くなっている。そのため、平成初期頃から大型機械による組織的な受託作業が進められている。当初の組織の受託作業はハーベスタ収穫が中心であったため、その他の作業機械やオペレータが不足しており、ほ場管理には手が回っていない状況だったが、JAを中心に各種作業免許や農業機械士の認定取得などに取り組み、オペレータの育成を行ってきた。受託作業のシステムとしては他地域と大きくは変わらないと思われるが、長年培ってきたオペレータの育成や作業地域の割り振り、特に作業料金の回収などの受託体制の構築が実を結び、現在に至っていると考えられる。特に植え付けは三つの植え付け組合が大型ビレットプランタによる春植えと夏植えを合わせて年間200〜300ヘクタール実施しており、村内のほぼすべての植え付けを担っている(写真1、2)。苗の確保は南大東村でも難しい課題であるが、関係機関で苗圃の調整を行ったり、JAが一括して一時的に苗を買い取って管理・調整するなど、組織的に取り組むことで植え付けが可能となっている。植え付ける苗は10アール当たり800〜1000キログラムで、製糖工場で計量している。
植え付け前作業(土づくり、心土破砕(注1)、丁寧なロータリ整地など)を徹底することで発芽は良好であり、単収の維持・向上の基礎となっている。また、ここ数年はハーベスタ収穫後おおむね1週間以内に複合株出し管理機による受託作業(株そろえ、施肥、粒剤散布)を行うことが定着しており、早期(適期)管理による効果が単収の向上につながっている。植え付け前のロータリやプラウ、心土破砕、収穫後の複合株出し管理、ブームスプレイヤ散布などについては受託組織に登録された農家も含めた体制となっている。
(注1)ほ場の排水性などを改善するため、機械作業により踏圧され形成された耕盤にプラソイラなどで深い切れ込みを入れる作業。
(2)作業機械類の大型化
JAおきなわ南大東支店による受託作業は平成6年に開始され、この頃から一般農家や生産法人においても管理作業機械類の大型化が進められてきた(図2)。併せて大型ハーベスタに対応したほ場の大規模化も進んでおり、南大東村のサトウキビほ場はおおむね1筆1ヘクタール前後、最も大きなほ場は約9ヘクタールである。前述した通り重粘土質の硬い土壌であるため、機械類の大型化は必須であった。1筆当たりのほ場面積が大きいほど管理作業を効率的に行うことが可能となるため、スケールメリットがある。さらに、作業効率が上がるため植え付けの速度が上がり、これまで植え付けが間に合わないという理由で増えていた古株(多回数株出しほ場)を更新できるようになった。このことにより単収を下げる要因が一つ減ったといえる。高齢化などによる労働力不足の状況においては、植え付けと収穫作業が困難となってくることから、南大東村では他地域に先駆けてハーベスタの導入が昭和45年から開始され、苗取りから植え付けまですべての作業を機械で行うことができるビレットプランタの利用は、平成7年頃から行われている。また、作業機械類を大型化・効率化することにより少ない人数での受託作業も可能となっており、作業料金についても他地域よりはやや低い設定となっている。さらに、大型ハーベスタは中型や小型よりも収穫ロスが少なく、単収向上につながっていると思われる。
(3)点滴かん水の普及
南大東島の年間降水量の平年値は1639ミリメートルで、那覇の2161ミリメートルと比較して少なく、水源整備率や畑地かんがい整備率も県平均の半分以下となっている(表)。島の中央付近には大小の池が存在するが、地下では海とつながっているため、利用可能な水は限られている。貴重な水資源を有効に活用するため、島内のほ場には設置型農業用タンク(図3、70トンの養殖用マリンタンクを利用)を整備し、池の水をくみ上げて点滴かん水に使用している。設置型農業用タンクへの給水は島内に張り巡らされた導水パイプによるパイプラインによって行われている。南大東村役場で行ったかん水効果試験では村平均単収10アール当たり4.66トンに対し、かん水区は10アール当たり8.63トンであり、かん水の効果が高いことが示されている。
(4)南大東島に適した品種の普及
南大東村では「F161」が長い間多く栽培されていた(図4)。これは、発芽・萌芽が良好で機械植え付けに適していたためと思われるが、根が浅く台風や干ばつの影響を受けやすいため年次間の単収の変動が大きい。また、「F161」は晩生であることから収穫組合に3月中の収穫依頼が殺到するため、収穫組合は自分たちのほ場について収穫適期よりも早い12月〜翌2月に収穫作業を行わざるを得ないという状況にあった。近年は作業機械の大型化に伴い心土破砕などを行うことにより土壌中の根域が拡大し、高糖多収品種の特性を生かした栽培が行われるようになってきた。また特筆すべきこととして大東糖業株式会社は長年サトウキビ育種事業の現地選抜試験も行っており、そこで南大東島地域に適した品種として選抜された「Ni28」や「RK97-14」などが南大東村で多く栽培されるようになった。現在は「RK97-14」「Ni28」「Ni27」などが主力となっている。
(5)製糖工場の副産物を活用した土づくり
南大東村内の畜産農家は1戸のみで、島外からの堆肥などの導入は輸送コストが高いため、土づくりには島内の資材を有効に活用することが求められる。そのため、製糖工場の副産物である余剰バガス、糖蜜およびトラッシュ(注2)を用いた有機物のほ場への還元が平成17年頃から積極的に行われている。余剰バガスと糖蜜については、製糖工場に申し込むと運搬および散布まで行うシステムが確立されており、利用する農家は多い(写真3)。トラッシュについてはほ場までの運搬のみとなるため、農家個人で重機などを用いて散布およびすき込みが行われている。このように、工場から出るこれらの有機物はほとんどがほ場へと還元されている状況である。
また、島内で生産されている石灰岩砕石(10ミリメートルメッシュでふるいをかけた砂状)を用いた酸度矯正も一部農家で行われており、徐々に広がりをみせている。南大東村の「大東マージ」と呼ばれる土壌はpH4〜5の強酸性土壌であるため、10アール当たり2〜3トンの石灰岩砕石を施用することで比較的安価に酸度矯正を行うことが可能で、特に株出しの初期生育が良好になることが沖縄県農林水産部農業研究センターの調査で明らかとなっている。また、製糖工場では令和2/3年期にハーベスタ原料の前処理施設が新設され、トラッシュの細断が可能となっていることから、今後細断したトラッシュの活用が期待されている。
(注2)サトウキビ搬入原料に混入している梢頭部、葉(葉鞘、枯死茎を含む)、土石、雑草その他製糖原料として商品価値のないもの。
(6)単収向上による所得の向上
南大東村のサトウキビ農家1戸当たりの収穫面積は約5ヘクタールであり、令和2/3年期の実績では99戸が5ヘクタール以上となっている。スケールメリットによる単収の増加は農業所得額の増大に現れ、生産意欲は非常に高い。単純に10アール当たりの単収が1トン(約2万2000円)増加すると、10ヘクタールでは220万円の所得増となる。近年は新品種による単収の向上も顕著であり、「RK97-14」などの高単収品種への切り替えも進んでいることから、この傾向は続いていくものと思われる。
以上、六つの項目で説明してきたが、まとめると早期株出し管理や製糖工場の副産物を活用した土づくり、かん水作業および新品種の導入による単収の向上が、大型機械化による技術・作業能率の向上と相まって現在の増産傾向となっている。また、所得の向上には株出し単収の高位安定が不可欠であり、そのためにも大型ビレットプランタによる深植でより深い位置からの萌芽により株出しを安定させる技術や、多回数株出しが可能な新品種の導入など、さらなる安定・省力化技術の普及が望まれる。
2.スマート農業の推進
南大東村では琉球大学を中心にサトウキビ栽培のスマート農業実証事業が行われている。当事業で導入したGNSS(全地球航法衛星システム〈Global Navigation Satellite System〉の略で、アメリカのGPS以外の衛星測位システムも利用している)を利用した植え付け作業は実際の受託作業でも活用されていて、農家からの評判も高い。具体的には植え付け前に等間隔で線引きを行う作業に多く用いられている(写真4)。100メートル以上の畦を等間隔で植え付けるには相当な熟練技術が必要であり、なおかつ長時間細かい調整が必要な重労働となっていたが、GNSSを用いることで植え付け作業の負担軽減が可能となった。これはその後の管理作業にも影響するため、重要な作業となっている。
また、ハリガネムシの共同防除で行われているフェロモンチューブの設置も、海岸部のススキ原では有人ヘリコプターにより行われていたが、当事業でドローンによる散布技術が開発され、一部で実証試験が行われている。令和4年11月にはブームスプレイヤで防除が困難な時期(10〜11月)に問題となっているノアサガオなどの雑草に対して、南大東村さとうきび生産組合の主催および株式会社南九州沖縄クボタの協賛で農業用ドローンによる2,4-D塩化アミン塩(濃度200倍、水量10アール当たり100リットル)散布の実証試験が行われた。2,4-D塩化アミン塩は現時点でドローン散布に適した農薬としての登録はないが、スポット的に分布するノアサガオなどの雑草を事前に空撮用ドローンでマッピングしておくことで、登録された濃度・希釈水量による農業用ドローンでのスポット散布を行うことができた。今回の事例では散布後約1カ月でノアサガオの枯死が確認され、その後のハーベスタ収穫も問題なく行うことができた。ドローンのバッテリー充電方法や事前のマッピング、受託作業を行う際の農家との事前調整など課題は多いが、ドローン防除業者への委託による一斉防除も含めた実用化の可能性を示すことができた。
今後は生育状況や土壌水分などもリモートで測定することにより自動的にかん水を行う技術やドローンによる殺虫剤散布など、持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも労働力不足を補う技術開発が進んでいくことが期待される。
3.今後の課題
南大東村では表に示したように、村全体としてのほ場整備が進んでおらず、水資源も乏しいことから、かん水を行うための基盤整備が一番の課題である。設置型農業用タンクも整備してから約20年が経過しており、老朽化も進んでいる。また、かん水チューブの撤去作業はサトウキビが倒伏すると機械による巻き取りが困難であり、大変な労力をかけて手作業で回収しなければならない。地中埋設型のかん水チューブの検討も今後必要となるだろう。担い手については現時点では大きな問題とはなっていないが、人・農地プランを通して希望する担い手への農地の集積および集約化についても計画的に行う必要がある。また、複合株出し管理機や大型ハーベスタなどの大型機械類は高機能な開発が行われている反面、以前と比べると高価格になっており、作業機械類の更新も重要な課題である。スマート農業の推進にも高額な機械システムが必要であり、導入できる農家が限られているため、スケールメリットを生かした計画的な導入を今後考えていく必要がある。
おわりに
SDGsの観点から、持続可能なサトウキビ生産体制の構築が求められている。南大東村ではこれまで農家および関係機関などの連携や努力により、単収の向上、農業機械の大型化および作業受託が進められ、現在の増産につながっていると考えられる。しかし、現在もなお台風や干ばつによる単収の減少は課題であり、補助事業や基盤整備などによる支援および気象災害に強いサトウキビ生産技術の確立は必須である。現在までは安定した担い手の確保に成功している南大東村ではあるが、今後もさらなるサトウキビ生産体制における省力化・安定生産技術の開発および普及により、サトウキビ生産を続けていくことが可能になると考えられる。
なお、この記事は、日本作物学会九州支部会の第88号(2022年)に掲載の記事に若干の加筆・修正をしたものである。
参考文献
・梁ら(2015)「島嶼地域における地下水位の時系列解析及び電気伝導度を用いた淡水レンズ形状の評価−沖縄県南大東島の例−」『地下水学会誌』第57巻2号.pp.187-205. 公益社団法人日本地下水学会
・宮丸直子(2013)「沖縄県の低生産性土壌改良における土壌微生物性の評価」『沖縄県農業研究センター研究報告』7号.pp.1-44. 沖縄県農業研究センター
・上野正実、川満芳信、渡邉健太(2021)「ウフスマ・プロジェクトで見えてきたさとうきびスマ−ト農業の課題と普及に向けた対応策」『砂糖類・でん粉情報』(2021年9月号).pp.45-59. 独立行政法人農畜産業振興機構
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