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北海道てん菜・でん粉原料用ばれいしょ生産における臨時労働力調達 〜派遣労働力を例に〜

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最終更新日:2023年8月10日

北海道てん菜・でん粉原料用ばれいしょ生産における臨時労働力調達〜派遣労働力を例に〜

2023年8月

国立大学法人東京農工大学 大学院農学研究院 教授 新井 祥穂
富士大学 経済学部経済学科 准教授 高畑 裕樹

【要約】

 本稿は、てん菜やでん粉原料用ばれいしょ生産の存続を、労働力結合の面から議論すべく、農業派遣労働の事例を検討した。生産者は、青壮年家族労働力2人を核に、高度化した農業機械で経営を存続させており、機械に代替できない場面について、かつての近隣の臨時労働力に代わり都市派遣労働者が担う。非正規労働への就業が常態化する派遣労働者にとって、農業での就労は他の非正規職に見劣りせず位置付いている。人材派遣会社は両者を引き合わせるのみならず、労働力の編成にも積極的に関与している。
 

はじめに

 今日、農業生産に必要な労働力を農業部門や農村内のみから調達することは、もはや困難となり、これを外部に求める動きが広まっている。国産砂糖やでん粉の原料である、てん菜やでん粉原料用ばれいしょ(以下「ばれいしょ」という)の主要な生産地である北海道では、いち早く農業労働力不足が表面化し、その進行に応じて次々と対応を講じてきた。その今日的あり方を確認することは、国産砂糖・でん粉の安定供給を占う作業に直結する。

 本調査では、てん菜やばれいしょ生産の存続を、農業労働力の調達と農業場面での結合に注目しながら論じたい。より具体的には、農業労働力を必要とする(1)生産者(農業経営体)、生産者の要請に応える一つの形態として(注1)、農外からの(2)農業派遣労働者(以下「派遣労働者」という)、生産者と派遣労働者の間に介在する(3)人材派遣会社について素描を与え、彼らの置かれた状況や要望を整理する。(1)や、(1)への労働力供給を仲介する者((3)やJAなど)については、最近研究事例が蓄積されつつあるが1)、(2)のように農業に結びつく労働力の内実、とりわけ、農業生産の補助労働従事が、彼らの就業歴の中でどのような位置付けなのかに踏み込んだ研究は少なく、本稿の眼目でもある。

 調査は2022年8月に実施した。道内の労働力供給が、札幌周辺で格段に充実していることを踏まえて、調査対象地はJA苫小牧広域エリア、中でも厚真町と安平町を中心とした。具体的には、(1)生産者4経営体(派遣を利用するさまざまな経営規模の生産者を含むよう選定)に加え、(2)農業派遣労働者10人と、これらを仲介する(3)労働者派遣企業1社に、インタビューを行った。
 
(注1)農業に参入する臨時労働力としては派遣労働者以外にも、外国人労働者、障がい者、学生の存在が知られている。
 
 

1.生産者

 本調査で訪問した4生産者の概要を表1に示している。彼らの作物選択に<イモ、豆類、てん菜、麦>体系という基本線をみることができるのであるが、この構成は輪作=地力維持体系としてだけでなく、農業機械による生産力高度化追求を発揮しやすいものでもある。今回の調査の中では最も規模の小さい農家番号1でさえ経営耕地面積は22ヘクタールで、最大規模では農家番号4の140ヘクタールであるが、いずれも40〜50歳代の夫婦ないしは兄弟の2人を中核とした労働力構成である。常雇(じょう こ)を導入する意欲は、近い将来労働力の弱体化が予想される農家番号4を除き、弱い。各種の農業機械の導入が、この労働力の下での経営規模拡大を可能としてきたのであり、とりわけ、てん菜の移植栽培から直播(ちょく はん)栽培への転換、しかも収量減少を抑えつつ実現し得たこと(注2)は、彼らが経営規模を拡大する重要な契機となった(例えば農家番号2、3)。調査地域では、その他にも加工用かぼちゃやブロッコリーを組み入れる選択肢もあり得るが、それらに乗り出すと労力的に家族労働力の範囲を超え、常雇を導入することが前提となるという。

 
(注2)北海道のてん菜生産は直播から始まったが、1970年代に紙筒を用いた育苗・移植技術が普及すると、移植栽培が席巻した。ピーク時の1995年には、移植栽培比率97.7%を記録するほどであった2)。これは、移植栽培が初期生育の不安定性を克服し収量の安定につながったことによるが、移植栽培は同時に、生産費の増加、長時間労働化、移植作業時期の集中をもたらした。その後、農業労働力の減少、農産物価格の低下、その対応としての経営規模拡大は、畑作物の中でも労働時間の長いてん菜に直播栽培への転換を迫ることとなる。1990年代以降、北海道立農業試験場(当時)による収量安定技術開発の成果もあり、直播栽培は拡大し、2021年産の直播比率は全道で35.5%に達した(面積ベース、北海道農政部生産振興局農産振興課資料)。なお直播の導入は道内でも地域によって差があり、本稿の舞台である厚真町では99.1%、安平町では71.3%である(同資料)。
 
1
 このような家族労働力プラス農業機械の組み合わせを基礎とし、それでも肥培管理過程に残る「手の労働」部分が、派遣を希求する場面である。具体的には以下の三つが代表的である。

 (A)収穫選別(ばれいしょ)

 出荷コンテナの組み立てや、収穫したばれいしょの選別。後者は、あらかじめ()場地面に掘り起こしておいたばれいしょを、すくい上げ収穫コンテナに入れる農機「ポテトピッカー」(乗用自走式)に、3〜4人の担当者が同乗し、混入物や腐敗したばれいしょを選別する作業。派遣労働者を含め担当する者が楽しみながら行う作業だという(写真1)。

 (B)除草(大豆、ばれいしょ、てん菜)

 畑の周囲の雑草に除草剤を追加散布する作業。あらかじめ生産者も除草剤散布を行っているが、ツユクサなどはその年の天候によっては除草剤の効果が左右され、効果が低い場合は労働者の派遣を依頼して除草するが、効果がある年は依頼をしないこともある。夏場に大規模な圃場を、かっぱを着用しながら歩行する作業であることから、担当する者の体力的負担が大きく、熱中症を招くこともある。特に、圃場が広大な農家番号4の場合は、体力の充実した者に限って派遣する必要が生じる。

 (C)「ビート拾い」

 てん菜機械収穫の「掘り残し」(圃場に残されているてん菜)を、手で収穫する。直播栽培は移植栽培に比べ根長が長くなるため、収穫機械のブレードですくい取れないてん菜も増えたという。担当者が用いる専用包丁にはかぎ状の尖端部がついており、これで、てん菜がまだ地面に埋まっている場合は掘り起こし、地面から出ていればひっかけて拾い、その後包丁部分で葉を落とす。
 
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 従来これらの作業を担っていた労働力は、家族(特に高齢者・女性など補助労働力)であるか、近隣の農家、「出面組(で めん ぐみ)」と呼ばれる生産を補助する組織、シルバー人材センター登録者など、地域の労働力であった。その欠如や弱体化をきっかけに、彼らは派遣労働力の利用を始めた。なお派遣労働力以外にも選択肢はあり、たとえば外国人研修生・技能実習生の利用について農家番号3は検討し(仲介するJAの対応が追いつかず断念)、農家番号4は実際に過去に利用したのであるが、言語および生活様式などの違いが、主に対応にあたっていた農家番号4の高齢の母の負担となり、利用を終了した経緯がある。

 とはいえ、生産者らにとって派遣労働力利用は、あくまで副次的な扱いである。第一に、農作業は経営体内部の青壮年2人(夫婦、兄弟)と高度化した農業機械装備の結合を基本とし−農業機械の更新を追求し、あるいは時間的余裕があれば派遣を要請する手作業を生産者内部で担当し(農家番号1)−、派遣労働者に頼る期間を短縮しようとしている。第二に、除草については除草剤の効果が高かったり、天候や薬剤の選択によって、派遣労働力に依頼したい作業自体が発生しないことがある。当然ではあるが生産者はそうした事態を目指している。第三に、臨時労働力需要は常に派遣労働力で満たすとは限らず、他の労働力が確保できればそれを用いる。日中の作業時間の確保(注3)や急な天候変化への対応などを考慮すれば、生産者としては、近隣での労働力確保が最善との考えが底流にはある。しかしながら近隣の労働力の弱体化を前に、やむを得ず都市の派遣労働力に依頼したという経緯であった。なお人材派遣会社に支払う派遣料金水準(多くは時給1400〜1500円)について生産者は、労働力調達の手間や各種保険を踏まえれば、妥当な水準だと認識している。

 
(注3)派遣労働者は、札幌で人材派遣会社の用意する車に乗り合わせ移動してくることがほとんどで、農家番号1〜4の圃場に到着するのに、高速道路を利用しても片道1時間程度を要する。生産者にとって、派遣労働者は8時〜17時の間労働するとはいえ、近隣の者に作業を依頼する場合と比べての労働時間が短い(時間の延長が利かない)との認識が拭えない。なお派遣労働者は、住まい近辺では公共交通網が発達していることや所得の関係から、自家用車を持たない者が多い。

2.派遣労働者

 表2、3に、後述の人材派遣会社K社から、2022年8月にてん菜・ばれいしょ生産者へ派遣された労働者のうち10人について、その基礎的な情報や就業歴を記した。K社の登録者全体の構成、すなわち20歳代が若干多いものの20〜70歳代までの各年齢層に分布し、性別も後述のように男女一方に集中しないという特徴を反映して、この10人も年齢は20〜60歳代、性別も男女双方がみられる。彼らが受け取る賃金は時給1050円以上と、最低賃金(北海道889円、調査時点)より高く、フォークリフトの操作が可能な者、経歴の長い者はさらに加算がある(時給1400円〜)。彼らが単身者であるか、同居家族のいる場合も自身が扶養する者を持たない点は、既往研究とも共通する3)




 
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 次に彼らの農業派遣登録の契機をみよう。1番は、建設業での定年退職を機に勤務地の東京から札幌に戻り、「働けるうちは働く」意向でいたところ、受け入れ先はごく限られ、その中で農業への派遣の途は定年後も開かれていた。50歳代以下では、7、9、10番(男性)、3番(女性)のように、非正規職を繰り返す中で、それらと同等のものとして、農業派遣が視野に入ってきた、と理解するのが適切であろう。中には約10年農業派遣に関わり生産者からの評価も高い者も生まれつつある一方、2020年以降に農業派遣に登録した者もおり、たとえば9番は初就職から数カ月後に行った転職で、10番は労働市場に参入した時点から、非正規職に就いており、それらと「見劣りしない」就業先として、農業にも参入した。9、10番が農業派遣登録直前に経験していた建設業での派遣の収入は、農業派遣と同じく手取り1カ月当たり24万円程度で、就業条件面ではさほど変わらない、あえて違いを言えば農業では接する人物の態度がより穏やかである、と語る。農業派遣における労働者の就業条件の整備、そして若い層における非正規就業の浸透をうかがわせる。また新型コロナウィルス感染症(COVID-19)がもたらした労働市場の不安定化も観察された。2番(フリーランス)、6番(飲食店正規職)の現職での業務減少、あるいは8番の前職退社は、それぞれCOVID-19と関連したもので、彼らは収入の補填(ほ てん)を求めて農業派遣に向かっていた。

 ところで、農業派遣を、将来の就農を見据えた研修機会と位置付けていた例が一定数みられた点は興味深い(5、6、9、10番)。5番はさまざまな会社で社員・役員を経験した後に退任した際、農業の面白さを感じ、本格的な農業参入の前の技術習得の意味で派遣を選んだ。6番も飲食店に勤務しつつ農業参入にも関心があり、9、10番も就農を将来の選択肢の一つに位置付けている。無論、農業への新規参入に当たっては行政が提供する就農プログラムが代表的であるが、それらに備わる、(1)固定した指導役農家と一体的に活動するため、多様な経営を見学しづらい(2)終了後の就農が要件となっていることが、将来の進路変更の可能性を排除しており「重苦しい」ものと映る−などの点が、これらプログラムへの参加をためらわせている。農業派遣は、より多様な経営体からの就農に向けた学びが可能な、かつ気軽な機会として位置付く一方で、短所として、農家が要請するのは繁忙期のみであるため、農業のさまざまな作業工程や一年を通じた作業の流れが捉えにくい(6番)という点にも、彼らは気付いている(写真2)。
 
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3.人材派遣会社

 生産者と派遣労働者を取り結ぶ人材派遣会社K社は、札幌に拠点をおき、役員1人、通年従業員3人を抱え、登録する派遣労働者は男614人(うち調査時点前1年間で実際に派遣されたのは195人)、女554人(同232人)に達する。2021年の売り上げは約1億3600万円を記録している。

 K社は2020年の創業であるが、K社代表の農業派遣との関わりは、2013年に別会社にて農業派遣部門のマネージャーとして従事していた時点にさかのぼる。当時の勤務先の買収(M&A)後も、引き続き農業関連派遣を担当し、その後2018年に新会社(建設業請負)創業、続いて2020年に農業関連の人材派遣会社K社を立ち上げた。これらの経験をもとに代表は、現在の派遣先である農業生産者や農産物集出荷施設、彼らと派遣労働者の間への介在に当たって、以下のような点を意識している。

 まず生産者に対しては、契約が適正に履行されているかを入念に確認している。かつて生産者の中には、契約時間より延長して作業させる、農業経験の浅い派遣労働者を使用するに当たっての危険性認識が甘い、あらかじめ申請していた内容と異なる作業を実際には担当させる(契約と異なる工程の担当や追加、機械操作)など、派遣労働者に危険や不利益を及ぼしかねない事態がままあった。その他、過去には生産者による優秀な派遣労働者の引き抜き行為、あるいは派遣労働者が不快に感じる言動などがあったという。派遣労働者からの訴えや、K社代表自らが頻繁に作業現場を見回る中での気付きをもとに、苦情・要望を生産者に申し入れて対応を求め、改善が見込めない場合は派遣を打ち切ってきた。その結果、最大17〜18件あった生産者への派遣を、10件に絞り込んだ。一方で、天候などの事情で派遣依頼が直前になることは、農業生産の特性上仕方ないと認識している。K社の側でも作業時期が近くなると派遣依頼がないか生産者に確認するが、生産者に対して発注の期限を厳しく設けようとはしない。そのため、生産者からの派遣依頼およびその後のK社の調整は派遣時期直前にまでおよび、農繁期=派遣の集中する時期には、K社も調整のため多忙を極める。

 派遣労働者に対しては、作業班やシフトの編成の工夫が必要となる。一つの作業班は、経験の長い者1〜2人と未経験者、計4人程度で構成されることが多い。一つの班に経験者が多いと「船頭が多すぎ」(K社代表)て非効率になるという。シフトは、生産者や集出荷施設からの派遣要請時期・期間を基礎に、個々の派遣労働者の顔ぶれ(彼らの経験、生産者や他の労働者との人間関係、居住地や現場への移動手段の有無)を考慮しつつ、都度計画する。その調整が複雑でかつ作業日直前にまで続くのは、上述の通りである。

 K社は、単に労働力を調達しマッチングするだけでなく、実際の作業場面においても一定程度関与する。これに当たり、生産者・派遣労働者双方から互いの評価を細やかに聞き取り、あるいは作業を目視するなど、現場での状況把握に務めていることは、K社が両者からの信頼を得る鍵となっている。K社代表が、点在する現場に頻繁に足を運ぶのもそのためである。

 一方で、K社では派遣労働者の新規登録時の「敷居」は下げており、登録応募要件や提出書類はごく簡易となるよう目指している(注4)。かつて農業派遣労働者には、作業中に逃走するといった、勤労意欲や契約履行への意識の欠如が懸念される状況もあったが、今日では、労働者として一定程度陶冶(とう や)された者が農業に参入する例が増え、その心配は軽減されたという。同時にこれは、日本経済に派遣労働という雇用形態が一般化したこと、彼らが農業にも深く入り込むことなったことの、現れでもあるだろう。

 
(注4)ただし派遣登録希望者が70歳以上の場合、十分な面接によって体力や人物を確認し、登録を判断している。逆に、それより若い希望者については、基本的には登録段階で断ることはなく、派遣先での作業実践に基づき継続可能かを判断する。
 

おわりに

 本稿は、てん菜やでん粉原料用ばれいしょ生産の今後を左右する、労働力面の実態を捉えるため、生産者、派遣労働者、人材派遣会社の結合をみた。生産者は、青壮年家族員2人程度を核とし、農業機械の高度化・経営規模拡大を追求する過程で、巨大な機械に代替できないスポット的な作業について、臨時の労働力を(その過程を縮小する努力を払いながらも)求めていた。具体的には圃場の除草、ばれいしょ収穫時の選別、てん菜掘り起こしのような手作業の場面である。このような労働力は、生産者の近隣で調達することが困難となり、都市に生活基盤のある派遣労働者がこれを補完していた。

 派遣労働者の多くは、農外の非正規職を連続させ、その一端に農業派遣も位置付けている。彼らにとって農業派遣は、特殊な技能の要請や労働者に特徴付けられる労働市場ではなくなっている。背景には、農外の就業機会において、不安定な雇用形態が常態化している事態があるだろう。併せて、新規就農を意識する者にとって農業への派遣が非公的な研修機会としても位置付いていたことは注目される。

 人材派遣会社は、生産者と派遣労働者を媒介しつつ、両者によって新しく作られる労働力編成の、調整の一部を担っている。生産者に対しては、契約の履行・法令遵守といった、家族農業や地域で完結していた時期には意識が弱かった諸項目について注意を促し、派遣労働者に対しては、一般的な労務管理のほか、個々の人格を捉えた上での作業班・シフト調整など、生産者が行う労働力編成の一端を担う。

 これら三者の結びつきにより、当面この労働力調達機構は維持されていくと予想される。最後に、その存続を不安定ならしめる要素を挙げておきたい。まずこの結合に内在する点としては、人材派遣会社の調整にかかる負荷の大きさを指摘できよう。現在の仕組みは、人材派遣会社の構成員が、生産者・派遣労働者双方の経営内容から人格まで、頻繁なコンタクトを通じて熟知し、調整する上に成立している。本事例の場合それがK社への高い信頼と、結果としてK社代表の長時間の労働として現れている。てん菜やばれいしょの安定的な生産を目指す中で、仮に農業労働派遣の導入活用をより広範な地域・主体で行おうというのならば、この負荷を分散・軽減する仕組みの構築が、長期的には重要であろう。

 次に彼らを取り巻く環境に関連して、将来を不透明にしている点も挙げておこう。第一に、作業ピークが短期間という農業の本質と関わって、農業の臨時労働活用は短期間とならざるを得ないが、この性格が労働者の「保護」と抵触し、農業派遣そのものの否定につながることである。この懸念が現実化したのが、2012年労働者派遣法改正による日雇い派遣の禁止(30日以内の雇用契約を原則禁止)であって、これに農業人材派遣会社は、長期間作業が発生する生産者を派遣先に組み入れることで対応した4)。とはいえ今後「日雇い」の定義に、より長い数値基準が設けられた場合、現行の対応で乗り切れるとは断言できない。第二に、調査地域が水田地域であることと関連して、水田活用の直接支払交付金の見直し=支払条件厳格化がもたらす動揺である。農林水産省は2022年、5年間に一度も水稲の作付けが行われない農地を、交付金の対象としないこととした。畑作物を転作作物として固定的に作付けてきた本稿の生産者の場合、経営収支の悪化につながりかねず、そのことは派遣労働を一要素としながら営まれる生産の継続に、否定的に作用するであろう。その懸念には、てん菜・ばれいしょの安定的な生産への懸念も、含まれてくるのである。

 
 付記 インタビューにご協力いただいた農家・法人の皆さま、ご紹介の労をとっていただいた関係各位に深謝いたします。また現地調査では、富士大学経済学部4年 立花千春氏、同大学院経済・経営システム研究科研究生 小田嶋和希氏に、ご助力いただきました(いずれも所属は調査当時)。
 
【参考文献】
1)堀口健治・澤田守編著(2023)『増加する雇用労働と日本農業の構造』筑波書房.
2)稲野一郎(2018)「てん菜直播栽培の安定化技術と海外最新技術」『砂糖類・でん粉情報』2018年10月号 pp.47-53.
3)新井祥穂・観山恵理子・永田淳嗣(2023)「農業労働市場に参入する都市労働力の存在形態に関する一考察─製糖工場の季節工を事例に─」『農業市場研究』第31巻4号 pp.1-11.
4)高畑裕樹(2014)「人材派遣会社による農作業労働者の派遣対応」『北海道大学農經論叢』第69集 pp.77-85.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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