さとうきびスマート農業技術の鹿児島県南西諸島への導入について 〜南大東島スマート農業の事例を参考に〜
最終更新日:2023年9月11日
さとうきびスマート農業技術の鹿児島県南西諸島への導入について 〜南大東島スマート農業の事例を参考に〜
2023年9月
鹿児島大学農学部 技術職員 柏木 純孝
元鹿児島大学農学部 教授 宮部 芳照
【要約】
鹿児島県内の南西諸島(熊毛地域〈種子島〉および大島地域〈奄美大島以南の徳之島、喜界島、与論島など〉)におけるさとうきび栽培へのスマート農業の導入を促進するため、沖縄県南大東島で実証されてきたスマート農業技術の中で、南西諸島の栽培地域への技術移転が可能かどうか、各種スマート農業技術についてその可能性を検討した。
はじめに
今回調査した沖縄県南大東島は、鹿児島県薩摩半島から直線距離で約630キロメートル南東に位置し、人口約1200人、面積約31平方キロメートルと、沖縄県内で6番目に面積の大きい島である(図1)。周囲は、環状丘陵地を形成し、中央部はくぼんだ盆地状になった環状の
珊瑚礁である。年平均気温は約23度、年降水量は約1600ミリメートルの亜熱帯性気候であり、土壌は大東マージと言われる重粘土質の酸性土壌である。さとうきびの栽培面積は農業が行われている1500ヘクタールのうち9割以上を占め、さとうきび農家数は約250戸、1戸当たり平均収穫面積は約5ヘクタールで大型機械化が進み、さとうきび生産が島の中心産業になっている。
ここで、沖縄県と鹿児島県のさとうきびの栽培状況について簡単に触れておく。沖縄県は鹿児島県に比べて気象条件が厳しく、収穫後のさとうきびの品質劣化が進みやすい。土壌については、沖縄県と大島地域は主に非火山灰土、熊毛地域は主に火山灰土が広く分布している。また、各地域により土壌理化学性が異なり(沖縄県は粘土質に富む風化土や風化岩堆積土などの国頭マージ、島尻マージ、ジャーガルなど。大島地域は重粘土壌の暗赤色土や赤黄色土など、熊毛地域は黒色火山灰土や淡色黒ボク土など)、特に沖縄県および大島地域は機械化に不向きな粘土質土壌が多い。
令和3年産のさとうきびの栽培状況については、沖縄県の生産量は約82万トン、収穫面積は約1万3800ヘクタール、単収は10アール当たり約5900キログラム、さとうきび栽培経営体は約55%となっている。鹿児島県については、生産量は約54万トン、収穫面積は約9500ヘクタール、単収は10アール当たり約5700キログラムで、さとうきび栽培経営体は約62%である。ハーベスタなどによる機械収穫面積率は、沖縄県が約85%、鹿児島県が約96%となっており、鹿児島県の方が機械収穫はやや進んでいる。
このように、沖縄県は鹿児島県と比較して収穫面積などが大きく、大規模な機械化栽培地域も多い一方で、主に地形などの影響もあり機械化が進んでいない地域も点在する。農地の基盤整備と規模拡大をさらに図り、機械稼動面積を増大させる必要がある。また、両県ともにさとうきび栽培圃場の区画形状は一区画1ヘクタール以上の機械化しやすい圃場と、狭隘で機械化しにくい圃場が各離島の中で存在している。
生産者数については年々減少しており、生産者の高齢化が進み、労働力の確保とさらなる作業の効率化が求められているのは両県とも同様である。
今回は、令和元年度から2年間にわたり南大東島で実施されてきたスマート農業技術の開発・実証プロジェクト(以下「ウフスマ・プロジェクト」という)の現地調査を行った。現在、本プロジェクトで開発・改良されているスマート農業技術は多岐にわたっているが、その中からより参考になる農業生産法人アグリサポート南大東株式会社(以下「アグリサポート」という)と有限会社サザンドリーム(以下「サザンドリーム」という)の取り組みを紹介し、そこで実証されているスマート農業技術について、鹿児島県内のさとうきび栽培地域への技術移転が可能かどうかを検討した。その中で、技術移転が可能であると考えられる各種スマート農業技術について考察した。
1.アグリサポートの取り組み
(1)アグリサポートの概要
今回、アグリサポートの宮平常務、大東糖業株式会社南大東事業所の新盛課長代理に同社のこれまでの取り組みと大東糖業株式会社の製糖工場の現状と課題などについて伺った(写真1)。なお、アグリサポートは大東糖業株式会社によって設立された法人であり、事業所も同一の住所に所在している。
アグリサポートでは、さとうきび生産者の高齢化や担い手不足が深刻化する中で、機械化一貫体系や作業受託組織の確立によって生産者の営農活動をサポートする事業を行っている。平成17年3月に「アグリサポート南大東株式会社」を設立し、20年9月に社名を「農業生産法人アグリサポート南大東株式会社」に変更した。従業員は男性のみ19人で、年齢別の構成は60歳代4人、50歳代1人、40歳代4人、30歳代4人、20歳代6人となっている。
収穫面積および所有機械は表1の通りである。
(2)取り組み内容
これまでに実施してきた主な取り組みは以下の通りとなっている。
ア 自動化および人材の育成
GNSS(全球測位衛星システム)自動操舵システムトラクターによる線引き作業、その後の耕起、大型ビレットプランターによる植え付け作業、防除、株出し管理、収穫・運搬作業の自動運転による省力化に関して、研究機関や行政、メーカーと連携して実証を進めてきた。特に、オペレーターの育成に力を注いだ。また、ハーベスタ収穫後、通常1カ月以内に行う株出し管理作業(株揃え、施肥)を約1週間以内に行うことで、さとうきび育種事業を進めながら単収向上を図ってきた。
イ 株出し管理
植え付け前の心土破砕、プラウ耕、ブームスプレイヤー防除、収穫後の株出し管理の受託作業にも力を注いできた。中でも、収穫後約1週間以内の株出し管理は重要な作業として実施した。
ウ 自動点滴かん水の普及および微気象観測
かん水装置の整備では、地上かん水チューブの設置による点滴かん水を普及させ、単収向上を図った。また、詳細な気象データを観測する微気象観測では、降水量、発散量、日射量、地温、土壌水分量などを測定し、遠隔・自動かん水装置の稼動用基礎データとしても採用することによりかん水効果を高めた。
エ ドローンなどの活用
ドローンによる防除作業とハリガネムシ共同防除に用いるフェロモンチューブ設置の実証作業を行った。その他には、ドローンモニタリングによる生育情報の取得やGIS(地理情報システム)による営農管理支援などに取り組んできた。
なお、実証プロジェクト終了後もGNSS自動操舵による高精度・超省力化栽培体系の確立や経営情報の高度活用に取り組んでいる。
以上のように、アグリサポートではスマート農業技術の現場実装に向けて数々の実証を行ってきた。その他、スマート農業技術以外の取り組みとして特に注目すべきなのは、南大東島に適した品種の開発・普及を行ってきたことである。主に製糖会社が育種事業に取り組み、現地に適した品種であるNi28やRK97-14を選抜し、普及することによって、単収の向上につなげてきた。
各品種の特徴について簡単に触れておくと、Ni28は株出し多収性、発芽性に優れ、早期高糖で黒穂病に強く、脱葉性はやや難である。RK97-14は発芽性、茎の伸長性に優れ、茎重型で早期高糖かつ安定多収であり、黒穂病抵抗性は中、耐倒伏性はやや弱い。
これらの取り組みは鹿児島県内のさとうきび栽培地域では少ない。今後は鹿児島県内でもこれらの取り組みを参考にして、スマート農業技術の導入促進と農家の生産意欲の高揚に努めるべきである。
(3)大東糖業株式会社南大東事業所の製糖の現状と課題
大東糖業株式会社は、南大東島で唯一の製糖会社である。当社の製糖工場の操業実績および今回新盛課長代理に伺った製糖工場における課題は以下の通りである。
ア 操業実績
表2に当事業所の過去10年間の操業状況を示す。
トラッシュ率
(注1)については、平成28/29年期以来、約10〜13%前後で推移している。一般に、トラッシュは、除去に要する費用対効果も考慮することが必要である。また、バガスは約50%が燃料として利用され、残りは有機肥料として
圃場に還元している。また、糖
蜜もバガスの分解促進用として圃場への還元を行っている(写真2、3)。
(注1)トラッシュとは、原料に混ざっている夾雑物 (梢頭部、枯葉、土砂など)のこと。トラッシュ率とは、これらが原料にどれだけ含まれているかを示す割合。
イ 製糖工場における課題
新盛課長代理によると、やはり人手不足が課題であり、その背景には働き方改革がある。確かに働き方改革は必要な施策であるが、かつては機械化によって12時間労働・2交代制の必要最低人員で、ある程度目標を達成してきたのも事実である。これを3交代制にして新たに人員を増やそうとしても、離島には住む場所が少ない。製糖期に数カ月だけ島外から来て働く人たちを受け入れるにしても、離島では社宅が主流であり、新たに社宅を建てるなどの住環境の整備が必要である。今後、待遇面を含めた人材確保の問題は製糖工場にとって大きな課題の一つになる。これは、鹿児島県内の離島においても同様な状況の地域が多い。
2.サザンドリームの取り組み
(1)サザンドリームの概要
今回、サザンドリーム代表取締役である金川均氏に同社の取り組みについて伺った(写真4)。
会社設立は平成11年8月で、設立当初は沖縄県にさとうきび生産法人がなく、個人経営には不安もあったが、現在は各種補助事業を受けて大型機械による定期的な管理作業などで増産につなげている。資本金は400万円、役員は男性のみ4人で年代は60歳代、従業員は1人で年代は40歳代となっている。
収穫面積および所有機械は表3の通りである。
(2)取り組み内容
これまでに実施してきた主な取り組みは以下の通りとなっている
ア 遠隔・自動かん水装置の導入実証
現在、遠隔・自動かん水装置の導入実証では、蒸散ロスの多い地上かん水方式から、地下チューブを埋設した蒸散量の少ない地下かん水方式への移行に力を入れている。また、両方式による生育調査では比較試験を継続して行い、装置の耐久性、生分解性素材の採用、費用対効果などを含む基礎データの蓄積に取り組んでいる。特に、さとうきびの場合は、他の作物と違い、株出し栽培があるので長期間のデータ取得が必要である。
イ 現場実装および普及
これまでに本実証プロジェクトで開発・改良してきたスマート農業技術について、研究機関やメーカーなどから得られた各種有益データの現場実装に力を入れている。今後は、さらに行政機関とも連携して、農業機械の操作、利用研修などを含めたスマート農業技術を各農家へ普及させる仲介的な役割を果たしていく。
特に、イの取り組みは、鹿児島県内のさとうきび栽培地域では遅れている。今後は、鹿児島県内においても研究機関、メーカーなどが有する各種データを分析し、農家に分かりやすく、機械の利用研修などを通じて提供し、スマート技術の現場実装を加速すべきである。
以上、今回の現地調査で強く感じたことは、かん水装置の整備や早期の株出し管理作業に加えて、新品種の導入による単収向上と大型スマート農機による省力化および作業能率の向上が相まって、農家の生産意欲が非常に高くなってきたことである。このことは、南大東島のみならず、今後の鹿児島県内の栽培地域を含めて、さとうきびの増産に大いにつながるものと期待される。
3.スマート農業についての現地の声
ここでスマート農業について、現地の声を紹介しておく。
(1)スマート農業とはいうものの、農家にできることは少ない。スマート農業を取り入れるとしても、最先端技術(データベースの構築やアプリケーションの開発など)を含んだスマート農業技術は農家にとって扱いが難しく、現場実装できる技術があまりない。また、スマート農業技術で発生する農作業以外のインフラの整備やアフターケアが重要である。例えば、自動操舵におけるインフラ整備は、人工衛星を含む自動操舵に必要な装置の設置、アフターケアはデータの解析、バックアップなどが挙げられる。微気象装置では、インフラ整備については装置の電源(ソーラー発電を含む)の整備で、アフターケアは停電時の対応、装置の日常点検、データの解析、バックアップなど。自動かん水では、インフラ整備については水源およびポンプ燃料の供給、アフターケアはアプリケーションのプログラミングおよびデータ解析が挙げられる。ドローンにおいては、インフラ整備は農薬の供給、アフターケアはデータの解析、データベースの構築、バックアップなどで、営農支援データについては、インフラ整備はインターネット環境の整備、アフターケアは日報の管理、データベースの構築、解析およびバックアップなどが考えられる。このようにスマート農業は畑以外で行われる仕事が多く、人手不足の現状では畑仕事以外に労力を割くことができない。
(2)スマート農業技術は、農家以外の企業、行政、研究者などの先端技術を持った個人、団体が必要になる。例えば、スマートフォンさえあれば・・・と言ってみてもスマートフォンの電波が届かない地域があるのが農村の現状であり、これは農家の力ではどうにも改善できない。同様に、自動操舵のアンテナを設置しさえすれば、どこでも使えるという保証はなく、また受信できないと知っても農家にはどうにもできない。
(3)スマート農業技術は、少子高齢化と担い手不足により1から0へと近づいている。また、仮に先端技術を農家に委ねてしまうと、やはり1から0へと近づき、スマート農業は持続不可能になるのが現状である。まず、優秀な担い手を育てることが先決で、そのためのスマート農業でなければ先が見えない。
(4)今まで農業の担い手は、農家が育てるイメージが強かったが、先端技術の担い手は農家では育てきれない。したがって、担い手の育成は農家だけでなく、企業、行政、研究者に協力してもらわなければならない。そうすることでスマート農業(農業技術×先端技術)は1×1=1以上になると思う。
(5)主なスマート農業技術は、鹿児島内の栽培地域にも導入できると思うが、農家にはその技術がないため、農家だけでは不可能。
(6)スマート農業が南大東島ではうまく行ったが、他の地域ではスマート農業技術で発生する作業(例えば、インフラ整備やアフターケアなど)の担い手がいないため、スマート農業は持続できなくなる。
以上、現地の意見を聞き取ると、スマート農業に関して厳しい意見も多いが、スマート農業技術の導入によって作業の省力化、軽労化が図られ、今後はより一層生産性の向上につなげたいとの意見もあった。スマート農業を普及させるためには、まず、スマート農業に興味を持ち、スマート農業技術に精通した担い手を育てることが先決である。そのためには、農家はもちろん企業、行政、研究者などの協力なくしては不可能である。また、スマート農業の導入に当たっては、インフラの整備やアフターケアの重要性を再認識した。スマート農業による超省力化、高精度化、高品質化の達成には、これらの課題解決がその一歩になると考える。
4.鹿児島県内のさとうきび栽培地域へ導入可能なスマート農業技術について
今回調査した各種スマート農業技術の中で、(1)GNSS自動操舵システム(2)遠隔・自動かん水装置(3)微気象観測装置(4)ドローンによる防除とモニタリングによる生育情報の取得(5)GIS利用による営農支援システム(6)モバイルNIR(近赤外分光光度計)による甘しゃ糖度の取得−の各種スマート農業技術が、鹿児島県内のさとうきび栽培地域への技術移転が可能である。
また、スマート農機の導入に当たっては、大規模区画でのスケールメリットを生かすことが必要であるが、鹿児島県内に多く存在する狭い区画圃場でも自動操舵技術によって後退時の直進走行ができるため、スマート農機の導入は可能である。しかし、効率的な機械稼動率とコスト低減を得るためには、一筆当たり区画面積ができれば0.5ヘクタール以上あることが望ましい。農機の導入と並行して圃場の区画整備が必要である。
さらに、個々の農家間の農地共有意識を高め、借地交換や合筆を行うことで効率的な農地の集約化を図ること、GNSSやGIS技術を活用して既存の圃場区画にとらわれない新たな区画を再設定することで農地の集約化を図り、スマート農機類の効率的運用とコスト低減を目指す、トランスボーダーファーミング
(注2)的な考え方が必要である。
以下に、具体的に鹿児島県内へ導入可能なスマート農業技術について述べる。
(注2)2000年に南ドイツの畑作地域で始まったICTを活用し農機の稼動効率などを高める手法。栽培効率や農機の稼働効率を高めるため、隣接する複数の地権者の圃場を一つの大きな圃場とみなして管理する効率的な管理運用法。
(1)GNSS自動操舵システムの導入
ア 情報通信環境の整備
(ア)固定基地局の設置
まず、情報通信インフラを整備すること、GNSS衛星からの電波を受ける固定基地局の設置が必要である(写真5)。衛星からの電波は直進性が強く、RTK(Real Time Kinematic、相対測位)による補正信号を確実に受信する基地局の設置は、防風林などを含む障害物の有無などの導入地域の圃場環境条件を十分に考慮してアンテナの設置位置やアンテナの数を決める必要がある。また、可搬式基地局を設置する場合は、変化する補正衛星数の影響により補正信号が不安定になることにも注意が必要である。
さらに、近年は補正信号をインターネットを介して携帯の無線局から送信するネット方式がある。これによると、補正信号は地域に一台の基地局アンテナ(ネット対応型基地、ラジオステーション)とパソコンによってほぼ地域全域に送信することが出来る。しかし、まだ本方式への運用は試験段階であり、衛星受信データの不安定さを解消するためにも上述の固定基地局の設置が必須である。
(イ)移動局
移動局(トラクター、ハーベスタなどの各種作業機)には、受信アンテナ、自動操舵コンソール、自動操舵ハンドルを含む自動操舵システムを設置する。本システムはトラクターなどに後付け可能であり、1台の機器で他の作業機にも互用できるためコスト低減につながる。
また、本システムで得られた走行データから作業時間や面積、作業能率などを知ることが可能であり、作業計画・作業管理にぜひ利用すべきである。
イ 自動操舵による各種作業
耕起(プラウ耕など)(写真6)、耕うん整地、植え付け(写真7)、中耕・培土、防除、株出し管理(写真8)、収穫(写真9)などの各種作業にGNSS自動操舵システムが対応可能である。ただし、起伏の多い圃場や軟弱圃場、傾斜地などでは走行不安定になる傾向がある。平坦で、しかも一区画面積ができれば0.5ヘクタール以上あること(長辺が長い方が効率的)が望ましい。特に、鹿児島県内に多く見られる面積の狭い地域では、区画整備を行うことで自動操舵システムの効率的運用を図ることが望まれる。
また、線引き時や植え付け時に記憶した自動操舵走行の基準データは、次の株出し時までの各種作業に利用可能であり、省力化のみならず初心者にも容易に作業できる。
以上、鹿児島県内においても各種作業にGNSS自動操舵システムを導入して、耕起から株出し管理、収穫作業まで精密・超省力スマート農業技術体系の確立が可能である。
なお、今回の調査において撮影した収穫作業直後に新植準備作業を実施している様子、および作業機械について参考に示しておく(写真10〜12)。これらの作業機械はすべてGNSS自動操舵が搭載されており、自動操舵の現場実装が進んでいる様子を確認できた。
(2)遠隔・自動かん水装置の導入
かん水装置の遠隔・自動操作を行うことで、圃場への往復やかん水ポンプのオン・オフ操作の省力化が可能になる。そのためには、微気象観測装置(後述する)を設置し、かん水情報を得ることが必要である。特に、本装置は、鹿児島県内の干ばつ被害を受けやすい地域では早急に技術移転すべき装置である。
なお、今後は地表面や葉面などからの蒸散ロスが多く、機械作業時や台風前後のホースの移動や撤去、特に倒伏した後の撤去に労力と時間を要する地上かん水方式(写真13)から、かん水チューブを土中へ埋設した地下かん水方式(写真14)への移行が進むと考えられる。特に、地下かん水方式はかんがい水の地表面蒸散が少ないため、株出し茎根圏に十分な水分供給が可能であることから、株出し栽培において有利である。
(3)微気象観測装置の導入
乏しい水資源の有効利用を図るために精密かん水技術を確立する必要がある。そのためには、かん水に必要な基礎データを得る必要があり、温湿度、風向・風速、降水量、蒸発散量、日射量、地温、土壌水分量などを観測する微気象観測装置(写真15)の設置が必要である。また、収量や病害虫発生データなどを含む作物生育情報の分析にも必要であり、遠隔・自動かん水装置の設置とともに鹿児島県内のさとうきび栽培地域へ早急に導入すべき装置である。
(4)ドローンの導入
すでに鹿児島県内においても、ドローンによる薬剤散布作業(写真16)を実施している地域が多い。例えば、熊毛地域の公益社団法人西之表市農業振興公社では、水稲約80ヘクタール、さつまいも約2ヘクタール、さとうきび約2ヘクタール、さらに大島地域では、ばれいしょ約139ヘクタール、さとうきび約135ヘクタールで実施されている(令和3年度実績、鹿児島県熊毛支庁、大島支庁農政普及課)。今後は、さとうきび栽培地域への散布面積の拡大がさらに必要になる。
また、ドローン空撮によるリモートセンシングによって栽培地域の地形や土壌肥沃度、土壌水分、作物生育状況、病虫害発生状況などの圃場や作物の診断情報を収集・解析できる。空撮画像より植生指数(NDVI)を算出してさとうきびの生育状況を分析し、精密な生育状況診断による適切な栽培管理を行い、単収アップと品質向上につなげる必要がある。
さらに、薬剤散布などを受託法人で請け負う体制作りや利用に係る規制緩和、農薬登録の適用拡大、散布精度の向上、コスト低減、操作技術の向上、安全性確保などに取り組む必要がある。
(5)GISによる営農支援システムの導入
GISの利用により各圃場の作業データや品種、作型、単収、糖度などの生産実績データと自動操舵作業データ、NIRデータ、ドローンによる生育情報データなどを位置データに統合してデータベース化した情報を適切な作業計画、営農計画の策定に活用する必要がある。
今後、データ蓄積がさらに必要になるが、鹿児島県内のさとうきび栽培地域へもぜひ導入すべき営農支援システムである。
(6)モバイルNIRによる甘しゃ糖度の取得
本装置は、さとうきびの立毛状態で甘しゃ糖度の測定が可能である(写真17)。小型、可搬式で原料茎を非破壊法で測定できる利点があり、茎内の糖度分布や位置データと併用して圃場全域の糖度推定も可能になる。今後は、低価格化、精度アップも必要であるが、適切な生育管理による品質向上につながる利便な装置の一つである。
(7)その他
最後に、鹿児島県内の農業機械のダウンサイジングについて触れる。大規模でしかも一筆当たりの受託面積が1ヘクタール以上ある受託法人などの場合は、大型農機の導入により機械稼動率を高め、コスト低減を図ることができる。しかし、鹿児島県内に多く見られる小規模、小区画圃場での機械化作業では、単収や作業人員、運搬体系に見合った稼働効率や導入コスト、作業経費、さらには土壌踏圧や原料茎の引き抜き、製糖工場の原料処理量などを考慮した中・小型機械化体系を組む、いわゆるダウンサイジングが必要な地域も多く存在しており、十分に地域特性を踏まえた機械化体系の確立が重要である。
以上、(1)から(6)に取り上げたスマート農業技術(装置)は鹿児島県内のすべての離島に導入可能であり、早急に導入すべきである。これらの技術導入は作業能率の向上のみならず軽労化、適期の株出し管理作業による単収向上および品質向上につながる。そのためには、新技術を生かせる担い手の育成と圃場環境の整備および早急な技術実証の取り組みが必要である。
おわりに
今回、南大東島のウフスマ・プロジェクトで実証されたGNSS自動操舵システムによる各種スマート農機や遠隔・自動かん水装置、微気象観測装置、GISによる営農支援システムなどは、鹿児島県内の熊毛地域(種子島)および大島地域(奄美大島以南の徳之島、喜界島、与論島など)に導入可能である。しかし、技術移転に際しては、各地域特性に合ったスマート農業技術の導入と技術に関する創意工夫が必要である。さらに、新技術を生かせる担い手の育成と技術研修が不可欠である。
また、さとうきび栽培においても生物多様性の保全との関わりを忘れてはならない。スマート農業技術がそれぞれの地勢に応じた既存技術の展開につながり、その普及に関わる人的支援も必要である。今後さらに南西諸島全域の農業を活性化させるためには、さとうきび栽培を中心にして畜産や園芸作物を組み合わせた、かつ有機農業技術を積極的に取り入れた持続可能な循環型の農業ビジネスモデルを構築することも急務である。
謝辞
今回の現地調査にあたり、NPO法人亜熱帯バイオマス利用研究センター 上野正実氏、NPO法人亜熱帯総合研究センター 赤地徹氏、赤嶺了正氏、琉球大学農学部 川満芳信氏、農業生産法人アグリサポート南大東株式会社 宮平靖氏、大東糖業株式会社南大東事業所 新盛康典氏、有限会社サザンドリーム 金川均氏に多大なご協力を得た。ここに記して皆さま方に深く感謝申し上げます。
【参考文献】
・井上健一(2017)「期待されるサトウキビ単収改善に向けた取り組み−鹿児島県における対応ー」『日本土壌肥料学雑誌』第88巻第2号
・沖縄農業技術開発株式会社「沖縄の土壌」
〈http://www.okinawa-nougyou.net/OkinawaSoils.html〉(2023年8月20日アクセス)
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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