最近の菓子業界では、古典的なお菓子やデザートを見直して、今の時代に合わせてアレンジする「温故知新」の考え方が評価されている。「メレンゲ」を使ったクラシックなお菓子やデザートが復権しているのもその一例だ。フランス菓子では、卵白と砂糖を泡立てたメレンゲを、ムースや生地、デコレーションにも使い、そのものを乾燥するまで低温で焼いて単体のお菓子としても楽しむ。かつて日本では、「メレンゲは甘くて苦手」という人も多かった。最近は、メレンゲの砂糖の一部を、グラニュー糖よりも甘味度の低い糖に置き換え、必要な糖度を保ちつつ甘いと感じさせにくくするといった技法も見られる。
例えば、2枚のメレンゲの間に生クリームを絞った「ムラングシャンティ」を販売する専門店も増えた(写真1)。いちごなどのベリー類、
柑橘類、トロピカルフルーツなどと合わせて色味や酸味を加え、より愛らしく華やかに仕上げたものが人気だ。
「ヴァシュラン」は、メレンゲを器のような形に絞って焼き上げ、その中にアイスクリームなどの氷菓を詰めたデザートだ(写真2)。人気のフレンチレストランやデザート専門店が、球体状のメレンゲの器で目を引くデザインにするなど、面白い提案をしている。
和菓子界でも、伝統的な製法を生かして、新たな形で表現する取り組みが増えている。最近、「琥珀糖」がブームだが、その背景には、この10年ほどの間に、「ネオ和菓子」と呼ばれる新感覚の和菓子が注目されるようになったことが挙げられる。
老舗の跡継ぎたちが、代々受け継いできた銘菓を大切にしつつ、新しい挑戦を始めた。中でも、カラフルでキラキラと輝く宝石のような琥珀糖(写真3)は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で話題となり、さらにコロナ禍における「家で手作り」ブームの中で、自宅で手軽に作れる可愛らしいお菓子としても注目された。
従来は、色粉で着色したのみという琥珀糖も多かったが、最近はフルーツピューレ、ハーブティーやリキュールなどで、自然な色彩や風味をつけたものが増えた(写真4)。人気の品は、オンライン販売でも入手困難で、争奪戦となるほどだ。琥珀糖や和三盆糖などの干菓子(ひがし、水分の少ない和菓子の総称)をコーヒーやお酒に合わせるなど、楽しみ方も自由になり、若い世代が親しみやすくなっている。
もう一つ最近のトレンドとして挙げたいのが、さまざまな種類を詰め合せた「クッキー缶」だ。多彩なバリエーションで飽きが来ないように、甘い味だけでなく塩味のものが入っていたり、両方の味を備えた“甘じょっぱい”味のクッキーが入っていたりもする(写真5)。
「甘じょっぱい」というのは、「みたらし団子」に見られるように、日本にも昔からあった味覚で、どこか懐かしさも感じさせる。近頃は、あめ色玉ねぎ入り、カレー味、ピザ味、みそ味といった個性的なフレーバーのクッキーも登場している。お酒にも合い、辛党の方にも楽しんでもらえると、父の日ギフトなどにもよく登場する。