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近年のてん菜品種の動向

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最終更新日:2023年11月10日

近年のてん菜品種の動向

2023年11月

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部
北見農業試験場 麦類畑作グループ 主査 池谷 聡

【要約】

 気象条件の悪化による病害の発生が、てん菜の安定生産に大きな影響を及ぼしており、温暖化が進行する中で、病害抵抗性はこれからもてん菜品種にとって重要な特性である。一方で、昨今のてん菜をめぐる情勢の変化により、省力化などコスト削減に向けた特性も重要となってきている。このようなてん菜品種の動向について解説しつつ、直近の北海道優良品種について紹介する。
 

1 てん菜の病害と安定生産

 病害の発生は、てん菜の安定生産に大きな影響を与える。以下では、平成20年産から令和4年産までの根重(菜根の重量)および根中糖分(菜根中に含まれる砂糖の割合)の全道平均の推移と、病害の全道被害面積率を比較しながら説明する。また、病害発生の条件についても考察する。

 まず、根重の推移を図1に示す。推移全体の傾向を示すために、近似直線も示した。近似直線が右肩上がりの傾向であることから明らかなように、根重は全体的に向上している。しかし、平成22年産、28年産は近似直線より大幅に低下した。次に、根中糖分の推移を図2に示す。こちらも推移全体の傾向を示すために近似直線を示した。近似直線は、ほぼ一定の値を維持しているものの、全道平均値は年次ごとのばらつきが大きい。特に、平成22年産から25年産、28年産、令和3年産および4年産については、近似直線よりかなり低くなった。






 

 これらの低収年あるいは低糖分年の要因の一つとして、病害の多発が考えられる。図3に根腐(ね ぐされ)症状、図4に褐斑(かっ ぱん)病の全道被害面積率を示した。根腐症状は、平成22年産と28年産で多発しており、これは、根重が低収の年と一致している。また褐斑病は、平成22年産から24年産にかけて多発、令和4年産でやや多発している。これはすべてではないが、低糖分の年と一致している。根腐症状には黒根(くろ ね)病と根腐病が含まれるが、両方とも症状が進行すると、てん菜の菜根を腐敗させ、根重を低下させる。また褐斑病は、成葉に病斑が発生し、進行すると病斑が拡大して成葉の枯死に至る。根中糖分が上昇していく生育後期に病気が進行することが多いため、褐斑病は根中糖分に影響を与えることが多い。このようなことから、上記に示した低収年や低糖分年には、褐斑病や根腐症状が影響を与えていると考えられる。






 

 褐斑病の発生については、7〜8月が高温多湿な年に発生が多いことが知られている。近年9月にかけても高温で推移することがあり、9月以降にまん延する事例も増えている1)。また根腐症状のうちかなりの部分は、面的に発生する黒根病だと考えられているが、黒根病の発生については、20度以上の比較的高温と土壌水分の高い条件において内部腐敗に至ることが知られている1)。根腐病も、高温多湿で病気の進展が早いことが知られている1)。以上のことから、夏期の気温が高く降水量が多い場合に、これらの病気が多発しやすいと考えられる。根重と根中糖分の推移を示した図1、2の平成20年から令和4年までの期間について、7月から9月の積算平均気温と積算降水量を示した(図5、6)。これらと図3、4を比較すると、褐斑病や根腐症状が多発した年は、おおむねこの時期の気温が高く、かつ降水量が多い傾向であった。これらのことから、夏期の高温多雨の気象が病害を多発させ、てん菜の収量性不安定化に影響を与えていると考えられる。






 

 今後も、地球温暖化によって、北海道の気候も気温の上昇と降水量の増大が予測されており2)、褐斑病や根腐症状などの病害が多発する年が多くなると考えられる。これまでも、てん菜品種では病害抵抗性が重視されてきたが、病害の発生しやすい環境に変化していく中で、今以上に病害の影響を受けにくい品種が必要とされる。

 以下では、近年の病害抵抗性新品種の例として「ソラーレ」と「プロテウス」について紹介する。
 

2 多収で褐斑病抵抗性が改良された「ソラーレ」

(1)育成の背景
 
平成22年に北海道優良品種に認定された「パピリカ」は、認定当時から近年まで最も糖量の多い品種であったため、主力品種として1万ヘクタールを超える大面積で栽培されてきた。しかし褐斑病に弱く、上記のように夏期の気温が高い年には、褐斑病が広がりやすく、多発年には大きな被害が発生することが問題となってきた。このことから、「パピリカ」の多収性を維持しつつ、褐斑病抵抗性を向上させた品種が必要とされてきた。

(2)育成経過
 
「ソラーレ」は、ベルギーのセスバンデルハーベ社が育成した。平成29年にホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という)が輸入し、平成30年から令和3年にかけて、地方独立行政法人北海道立総合研究機構(以下「道総研」という)および一般社団法人北海道農産協会(以下「農産協会」という)において生産力検定、各種病害抵抗性検定などを行い、令和4年に北海道優良品種に認定された。

(3)特性の概要
 
「ソラーレ」の置き換え対象品種は、ホクレンの主力品種の「パピリカ」である。以下、「パピリカ」と比較した特性を説明する。

ア 収量性
 全道5カ所の生産力検定では、「ソラーレ」の根重、根中糖分、糖量は、いずれもほぼ「パピリカ」並であった(表1)。

 



 

イ 病害抵抗性など
 
「ソラーレ」の病害抵抗性(表2)は、褐斑病抵抗性が「パピリカ」の“やや弱”に対して“中”、根腐病抵抗性は「パピリカ」並の“やや弱”、黒根病抵抗性は「パピリカ」並の“中”である。さらに、もう一つの重要病害であるそう根病抵抗性も、「パピリカ」と同様の“強”である。そう根病は、ポリミキサ菌によって媒介される土壌伝染性ウイルス病で、感染すると根重や根中糖分の低下をもたらす。ひとたび汚染圃場(ほ じょう)になると防除が極めて難しく、抵抗性品種が最も効果的である1)

 抽苔耐性は、「パピリカ」並の“強”である。てん菜は、生育初期に低温にさらされると花茎が形成されることがあるが、これが抽苔である。抽苔すると、薬剤防除や収穫作業の障害となるので、抽苔しにくい品種が望ましい。抽苔耐性が強いほど抽苔しにくい。





 

(4)期待される効果
 
「ソラーレ」は、「パピリカ」並に多収で、褐斑病抵抗性は「パピリカ」の“やや弱”に対して“中”に向上している。このため、褐斑病の発生が「パピリカ」より拡大しにくく、天候不良年などの褐斑病多発時の被害が軽減されることが期待される。また、「パピリカ」同様にそう根病に抵抗性を持ち、その他の耐病性も「パピリカ」並である。

(5)普及見込みと栽培上の注意点
 
「ソラーレ」を「パピリカ」に置き換えて普及させる。普及見込み面積は1万4000ヘクタールである。なお、根腐病抵抗性が“やや弱”なので、特に本病の発生しやすい圃場では、殺菌剤による防除が必要となる。
 

3 四つの病害抵抗性を持つ多収の「プロテウス」

(1)育成の背景
 
平成22年に北海道優良品種に認定された「リボルタ」は、褐斑病、黒根病、根腐病に強い抵抗性があり、上記の褐斑病や根腐症状の対策として大きな役割を果たしてきた。また、もう一つの重要な土壌病害であるそう根病にも抵抗性がある。しかし、収量性が「ライエン」などの主力品種に比べて低いことが問題点であった。また令和2年に北海道優良品種に認定された「バラトン」は、上記の4病害に抵抗性を持ち、収量性が「リボルタ」よりも向上しているものの、褐斑病と根腐病の抵抗性が「リボルタ」に及ばない欠点があった。以上から、「リボルタ」並の優れた耐病性と「バラトン」並の収量性を兼ね備えた品種が必要とされてきた。

(2)育成経過
 
「プロテウス」は、DLFビート種子株式会社(DLF Beet Seed ApS)のスウェーデンの研究開発拠点で育成された。令和元年に北海道糖業株式会社(以下「北糖」という)が輸入し、2年から道総研および農産協会において生産力検定、各種病害抵抗性検定などを行い、5年3月に北海道優良品種に認定された。

(3)特性の概要
 
「プロテウス」の置き換え対象品種は、北糖の「リボルタ」「バラトン」である。以下は、「プロテウス」の特性を「リボルタ」「バラトン」と比較しながら説明する。

ア 収量性
 
「プロテウス」の全道3カ年延べ15カ所の生産力試験の平均収量を表3に示す。「リボルタ」対比では、根中糖分は並だが、根重と糖量はともに4ポイント多く多収傾向であった。一方、「バラトン」との対比では、根重は3ポイント少ないものの、根中糖分は4ポイント高く、糖量はほぼ並であった。また試験期間中は、「ライエン」などの主力品種に近い糖量であった。





 

イ 病害抵抗性など
 
「プロテウス」は4病害抵抗性(表4)で、褐斑病と根腐病の抵抗性が「バラトン」より1ランク高く、褐斑病の抵抗性は「リボルタ」並の“かなり強”である。そう根病と黒根病の抵抗性は、「リボルタ」および「バラトン」並の“強”と“やや強”である。根腐病抵抗性については、検定試験の結果、発病程度が令和2年と3年は「リボルタ」より低く、“中”品種の腐敗が多かった2年には、腐敗根率が「リボルタ」より低かったので、根腐病抵抗性は“強”品種の中でも優れると考えられる(表5)。抽苔耐性は、「リボルタ」、「バラトン」と同等の“やや強”である。

 





 


(4)期待される効果
 
以上のように「プロテウス」は、「リボルタ」並の優れた耐病性と「バラトン」並の収量性を兼ね備えており、これまで「リボルタ」や「バラトン」が栽培されてきた病害の発生しやすい圃場で、病害対策だけでなく主力品種に近い糖量を得ることが可能となる。

(5)普及見込みと栽培上の注意点
 
「プロテウス」を「リボルタ」および「バラトン」に置き換えて普及させる。普及見込み面積は6000ヘクタールである。なお、抽苔耐性が“やや強”であるため、早期播種(は しゅ)や、移植栽培における育苗時の過度の低温による馴化(じゅん か)を避ける。
 

4 てん菜をめぐる情勢の変化と必要とされる品種特性

 国内の砂糖需要が長期的に低下し続けている中で、近年、国産糖の供給割合が相対的に上昇し、輸入糖の供給量が徐々に減少している。この輸入糖の供給量の減少や砂糖の国際価格の上昇により、糖価調整制度を支える調整金の収支の悪化3)が懸念されていることから、てん菜糖は国内産糖交付金の交付対象数量の調整が行われることとなった。今後は2026年までに交付対象数量を1割程度減らすこととされており4)、このような情勢から、てん菜品種は今後、収量性の向上よりも省力化などコスト削減につながる特性が必要とされている。

 省力化につながる品種特性としては、(1)病害抵抗性の強化(2)除草剤耐性品種(3)高糖分品種(4)直播(ちょく はん)栽培への品種からの貢献―などが考えられる。

(1)病害抵抗性の強化については、前半に記載した病害抵抗性の重要性に重なる部分もあるが、減農薬ができる高いレベルの病害抵抗性の導入で、薬剤散布の回数や費用が削減されることも狙いとする。

(2)除草剤耐性品種については、除草効果が高い特定の除草剤と、その除草剤に耐性を持つてん菜品種を組み合わせて栽培することで、除草作業の手間を省き、てん菜栽培の大幅な省力化につながる可能性がある。

(3)高糖分品種については、一般的なてん菜品種よりも糖分が高く、より少ない根重で同程度の糖量を得ることが可能である。そのため、製糖工場へのてん菜の輸送時の省力化が望める。

(4)直播栽培への品種からの貢献については、大幅な省力化が望める直播栽培が、近年大幅に増加してきており、令和4年産ではてん菜栽培面積の40%を超えている。その中で、直播に向く品種選定の可能性を検討していくというものである。

 これらの中から、すでに(1)と(2)の特性を持つものが、北海道優良品種として認定されている。以下では、(1)病害抵抗性の強化に当たる「カーベ8K839K」と(2)除草剤耐性品種に当たる「カーベ8K879C」の2品種を紹介する。
 

5 褐斑病への抵抗性が極めて強いてん菜新品種「カーベ8K839K」の特性

(1)育成の背景
 
褐斑病多発年であった令和4年は、各地で褐斑病がまん延し、褐斑病抵抗性“強”品種であっても被害が多発した。今後も、このような褐斑病多発年が多くなる可能性があり、安定的に効果のある防除薬剤が少ないことも相まって、抵抗性が“強”の品種では褐斑病を抑えていくことが難しくなると予想される。そのため、より強い褐斑病抵抗性を持つ品種が必要である。

(2)育成経過
「カーベ8K839K」は、ドイツのKWS種子株式会社(KWS SAAT SE & Co. KGaA)が育成した。令和元年に日本甜菜製糖株式会社(以下「日甜」という)が輸入し、2年から4年にかけて、道総研および農産協会において生産力検定、各種病害抵抗性検定などを行い、5年に北海道優良品種に認定された。

(3)特性の概要
 
以下は、「カーベ8K839K」の特性を、置き換え対象である日甜の主力品種「カーベ2K314」と比較しながら説明する。

ア 褐斑病抵抗性
 
褐斑病抵抗性検定試験(表6)では、「カーベ8K839K」の発病程度は、“かなり強”基準品種の「リボルタ」より著しく低く、これまで最も褐斑病抵抗性が強かった「リボルタ」などの“かなり強”品種を超える抵抗性を持つと考えられた。そのため、褐斑病抵抗性は、「カーベ2K314」の“強”より2ランク優れる“極強”である(表7)。
 







イ その他の病害抵抗性など
 
そう根病抵抗性と根腐病抵抗性は、「カーベ2K314」と同等の“強”および“中”で、黒根病抵抗性は、「カーベ2K314」より1ランク低い“中”である。抽苔耐性は、「カーベ2K314」と同等の“強”である。

ウ 収量性
 
研究機関で行われた全道平均(表8)では、「カーベ2K314」対比で、「カーベ8K839K」の根重は7ポイント多く、根中糖分は並で、糖量は6ポイント多かったことから、収量性は「カーベ2K314」より優れると考えられる。





(4)期待される効果
 
「カーベ8K839K」は、極めて強い褐斑病抵抗性を持ち、収量性が「カーベ2K314」より優れるため、褐斑病がまん延しやすい条件下においても、安定した収量を確保することができると考えられる。また、褐斑病は2週間おきに5回以上薬剤を散布しなければならず、防除にかなり手間がかかる。しかし、「カーベ8K839K」を栽培することで、散布回数が削減できる可能性がある。このことに関しては、現在、道総研で検討中である。

(5)普及見込みと栽培上の注意点
 
「カーベ8K839K」は、「カーベ2K314」栽培地域の一部の褐斑病がまん延しやすい地域で、褐斑病対策として置き換える。普及見込み面積は2000ヘクタールである。なお、黒根病抵抗性が“中”であるため、黒根病が発生しやすい圃場では、抵抗性がより優れる品種を栽培する。
 

6 てん菜新品種「カーベ8K879C」と新しい除草体系

(1)育成の背景
 
てん菜の直播栽培は、省力化が望めることから、近年大きく増加している。一方で、雑草管理が移植栽培より難しいため、より多くの労力を要する傾向がある。特に、雑草が多発する圃場では、その管理が困難となることが多い。そのため、雑草管理を省力化できる新しい除草体系が望まれてきた。

(2)育成経過と対象除草剤について
 
「カーベ8K879C」は、ドイツのKWS種子株式会社が育成し、日甜が輸入した品種で、ドイツのバイエルクロップサイエンス株式会社が新たに開発した除草剤「チエンカルバゾンメチル・ホラムスルフロン水和剤(農薬名:コンビソOD)」(以下「コンビソOD」という)に耐性を持つ。平成29年に日甜が輸入し、30年から令和3年まで、道総研および農産協会で各種試験を行い、4年3月に北海道優良品種に認定された。

 「カーベ8K879C」の除草剤耐性は、遺伝子組み換えではなく、細胞培養技術によって作出された。このような細胞培養技術を用いて育成された品種は、遺伝子組み換え作物のような法律上の各種手続きの規定はなく、一般的な交雑育種法で育成された作物と同様に栽培できる。

 除草剤「コンビソOD」は、ヨーロッパで行われた試験では、すべてのイネ科と広葉の雑草種に極めて高い除草効果を持つことが示されている。

 以下は「カーベ8K879C」と「コンビソOD」を組み合わせた新しい除草体系の効果を中心に説明する。

(3)特性の概要
ア 新しい除草体系の効果
 
写真に、雑草多発の直播圃場での除草剤処理後の様子を示した。「コンビソOD」区では6月初めに処理した後、7月中旬になっても全く残草が認められなかったのに対して、除草剤処理3回の慣行区では、かなり残草が認められた。このように「コンビソOD」は、除草効果が高いだけでなく残効が極めて長いので、1回処理のみで、十分な除草効果を上げることが可能になる。なお、「カーベ8K879C」は「コンビソOD」に耐性であり、薬害は発生しない。





イ 収量性
 
慣行法による除草条件下で、全道5カ所平均で「カーベ8K879C」を「カーベ2K314」と比較すると、根中糖分はほぼ並だが、根重は12ポイント、糖量は13ポイント少なく、低収傾向であった(表9)。
 



 

ウ 病害抵抗性など
 
「カーベ8K879C」の病害抵抗性を「カーベ2K314」と比較すると、褐斑病および根腐病抵抗性がやや劣るものの、現状の一般品種の病害抵抗性とほぼ同等なレベルにあると考えられる(表2)。抽苔耐性は、「カーベ2K314」並の“強”である(表10)。





(4)期待される効果
 
「カーベ8K879C」と「コンビソOD」を用いた新しい除草体系は、1回処理のみで、十分な除草効果を上げることが可能になるので、慣行の除草剤複数回処理や、処理後の手取り除草を省略できる。また、雑草多発圃場でも十分な効果を発揮する。これらのことから、除草作業を大幅に省力化できる可能性がある。除草作業において労力がかさむ直播栽培では、特に有意義であると考えられる。

 一方で「カーベ8K879C」は、慣行法による除草条件下の糖量が「カーベ2K314」よりかなり低い。しかし、雑草が多発する直播栽培圃場であれば、慣行体系では雑草害による減収が大きいと想定されることから、十分な導入効果があると考えられる。

(5)普及見込みと栽培上の注意点
 
「カーベ8K879C」は、雑草管理が困難な直播栽培地域を中心に、800ヘクタールの普及を見込んでいる。

 なお、「カーベ8K879C」は、根腐病抵抗性が“やや弱”なので、本病が特に発生しやすい圃場では、殺菌剤による防除が必要である。

 対象除草剤「コンビソOD」は、処理時期が遅れたり、乾燥時に処理したりすると除草効果が十分に発揮されない。そのため、除草剤の処理時期や注意事項などを十分に遵守することが重要である。さらに、一般の感受性てん菜に飛散すると枯死させてしまうので、十分な注意が必要であり、また「コンビソOD」は耐性雑草が発生しやすいので、使用回数は年1回を厳守する。
 

おわりに

 病害抵抗性や除草剤耐性の品種などを紹介したが、さらに病害抵抗性が向上したものや、除草剤耐性を持ち収量性も一般品種に匹敵するものなどについて現在試験中である。将来的には、今回紹介した特性が組み合わされた品種も登場してくると予想される。

 てん菜は、上記のような情勢の変化はあるものの、北海道の畑輪作の中心的な作物としての重要性は、今後も変わらないと考えられる。今回紹介した新しい特性を持つ品種が、てん菜作の安定化や省力化に寄与していくことを期待している。


【参考文献】
1)一般社団法人北海道植物防疫協会(2014)『北海道病害虫防除提要』

2)北海道立総合研究機構農業研究本部中央農業試験場(2011)『戦略研究「地球温暖化と生産構造の変化に対応できる北海道農林業の構築 −気象変動が道内主要作物に及ぼす影響の予測−」成果集』北海道立総合研究機構農業試験場資料第39号
3)農林水産省(2022)「てん菜をめぐる状況について」

4)農林水産省(2022)「持続的なてん菜生産に向けた今後の対応について」
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272