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人工甘味料の使用に関する WHO ガイドラインについて考える

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最終更新日:2023年12月11日

人工甘味料の使用に関するWHOガイドラインについて考える

2023年12月

金沢医科大学医学部 衛生学 特任教授 櫻井 勝

はじめに

 体重は、最も身近な健康指標の一つである。日本人の健康を考える際、中高年男性を中心とした肥満、若年女性を中心としたやせ、高齢者のやせなど、ライフステージに応じてさまざまな体重に関する課題が掲げられている。個人にとっても体重は大きな関心事の一つである。肥満者は特定保健指導で減量が求められ、非肥満者もメタボリックシンドロームが広く認知されたことで肥満防止に対する意識は向上し、個人の体重管理に対する意識が高まっている。また、若年女性を中心にスタイルや外見を意識するあまり誤った適正体重への認識に基づくダイエットが行われている。このような健康・ダイエット志向により、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品などの健康をうたった食品が増加する中、減量に関しては低カロリーやカロリーゼロといった食品が増え、これらの食品の多くに非糖質系甘味料(注)(いわゆる人工甘味料。以下「人工甘味料」という)が使用されている。

 2023年は人工甘味料に関して大きなニュースが立て続けに話題となった。5月には、世界保健機関(WHO)が公表した人工甘味料の使用に関するガイドラインにおいて、「減量や生活習慣病の予防のために非糖質系甘味料(NSS)を使用しないように」という提言が出された。また、7月には国際がん研究機関(IARC)から、人工甘味料の一つであるアスパルテームの発がん性の可能性について発表された。これらのニュースを聞いて、人工甘味料の使用に不安を持つ方も増えたのではないかと思われる。そこで今回は、これらのニュースの背景となった人工甘味料の健康への影響を解説するとともに、人工甘味料の適正使用について考えてみたい。

(注)非糖質系甘味料は、アスパルテームなど化学的に合成された甘味料と、ステビアなど天然由来の甘味料を指す。人工甘味料は、非糖質系甘味料のうち合成甘味料と、糖質系甘味料の糖アルコールを指す。

 

1 砂糖と人工甘味料

 砂糖は、サトウキビやてん菜などの植物から取り出されたショ糖(スクロース)を主成分とする甘味物質である。ショ糖はブドウ糖と果糖からなる。砂糖は1グラム当たり4キロカロリーの熱量を有する。料理において、砂糖は甘みを加える以外にも、防腐作用、抗酸化作用、食材をやわらかくする、食品に焼き色や照り・つやをつけるなどの効果もあり、広く使用されている。

 人工甘味料は砂糖のような自然に存在する物質と異なり、人工的に化学合成された甘味料のことで、糖アルコールと合成甘味料がこれに相当する。代表的なものとしてアスパルテーム、アセスルファムカリウム(アセスルファムK)、スクラロースなどがある。アスパルテームは砂糖と同じく1グラム当たり4キロカロリーの熱量があるが、砂糖の200倍の甘みがあるため、砂糖と比べて少量で甘みを実現できる。アセスルファムKやスクラロースは、ともに1グラム当たりの熱量は0キロカロリーで、それぞれ砂糖の200倍、600倍の甘さがある。これらの人工甘味料は熱に安定し、水に溶けやすいため、ダイエット清涼飲料水などの飲料や、ガムや錠菓などの菓子類によく使われている(写真)。
 
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 砂糖と人工甘味料について、摂取後のからだの反応には以下のような違いがある。砂糖を食べると、消化管でブドウ糖と果糖に分解されてから体内に吸収される。吸収されたブドウ糖は血管内に入り、血液中のブドウ糖が増える、すなわち血糖値が上昇する。すると、(すい)臓からインスリンが分泌され、インスリンの働きでブドウ糖は筋肉や脂肪に取り込まれるため、血液中のブドウ糖は減り空腹時の血糖値に戻る。脂肪に取り込まれたブドウ糖は、脂肪に変換され貯蔵されるため、砂糖を摂り過ぎると太る。一方で、人工甘味料にはブドウ糖は含まれないため、人工甘味料を摂取しても血糖値は上昇しない。血糖値が上昇しないため、インスリンも分泌されず、脂肪内にブドウ糖が取り込まれることもないので太らない。人工甘味料自体には体重を減らす効果はないが、砂糖の代わりに人工甘味料を使えば、摂取カロリーを抑えることができ減量につながる。
 

2 WHOの「人工甘味料の使用に関するガイドライン」

 2023年5月、WHOから「人工甘味料の使用に関するガイドライン」が公表された。このガイドラインでは、最近の人工甘味料の健康影響に関する研究成果をまとめ、人工甘味料の使用についての提言が出された。

 人工甘味料に関するこれまでの研究成果などについては、以下の通りである。

 (1)成人を対象とした数カ月の比較的短期間の研究では、人工甘味料の使用が多い方が減量効果を認めたが、年単位にわたる長期間の研究では、むしろ人工甘味料の使用が多い方が体重増加を認めた。

 (2)砂糖の代わりに人工甘味料を使用する場合にのみ減量効果が認められ、人工甘味料の使用による減量効果は摂取カロリーが減ったことによる影響が考えられた。

 (3)人工甘味料による年単位にわたる長期的な影響として、糖尿病、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患、また死亡の危険が高まることが報告されている。しかし、人工甘味料は糖尿病や心血管疾患の危険因子となる血糖値や血清脂質などへの直接の影響は認められていない。

 (4)人工甘味料の小児への影響について、減量やう歯の予防などが報告されている。また、妊婦においては、早産や出生児のアレルギー疾患との関連について報告されている。しかし、報告数は少なく、小児や妊婦・授乳婦への健康影響はまだ十分明らかではない。

 このように人工甘味料の健康影響はまだ不明な点も多く、特に長期的な使用による健康影響については悪影響も考えられることから、WHOは人工甘味料の使用に関して「減量や生活習慣病の予防のために人工甘味料を使用しないように」と提言している。

 なお、このガイドラインは、一般の方向けのものであり、糖尿病で治療中の者については対象外としている。人工甘味料は血糖値やインスリン分泌に直接の影響を与えないため、糖尿病の食事療法において人工甘味料を使用することは有用と考えられる。米国糖尿病学会の報告で、糖尿病の治療において積極的に人工甘味料を使用することを推奨してはいないが、「肥満や糖尿病のある人がどうしても甘い物が欲しくなった時に、砂糖の代わりに人工甘味料を使用することは問題ない」とされている。
 

3 アスパルテームの発がん性についての評価

 2023年7月、人工甘味料のアスパルテームについて、WHO傘下にある国際がん研究機関(IARC)が発がん性を、国連食糧農業機関(FAO)とWHOの合同食品添加物専門家会議(JECFA)が摂取した際の健康への影響を評価し、その結果を公表した。

 国際がん研究機関は、さまざまな要因の発がん性の可能性につき、「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」「グループ2A:おそらくヒトに対して発がん性がある」「グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある」「グループ3:ヒトに対する発がん性について分類できない」の4段階に分類している(表)。これまで1045の要因について発がん性が評価されている。アスパルテームは、これまでの疫学研究の結果から、肝臓がんや乳がん、血液のがん(悪性リンパ腫や多発性骨髄腫)と関連している可能性が報告されており、グループ2Bに分類された。
 
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 一方で、食品添加物専門家会議では、アスパルテームの許容一日摂取量(ADI:ヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと考えられる1日当たりの摂取量)については1日当たり・体重1キログラム当たり40ミリグラムと、これまで通りの値が適切であることを確認した。また、世界各国におけるアスパルテームの1日当たりの経口摂取量を推定したところ、摂取量は許容一日摂取量より低かったことから、アスパルテームの摂取により健康への悪影響が生じる懸念はないと述べている。アスパルテームの許容一日摂取量は、アスパルテームが200〜300ミリグラム入っているダイエット清涼飲料水500ミリリットルボトルであれば、1日に8〜12本に該当する。また、令和4年度の厚生労働科学研究「生産量統計調査を基にした食品添加物摂取量の推定に関わる研究」では、日本人のアスパルテームの一日摂取量は6.58ミリグラムと推計され、ADIの許容一日摂取量のわずか0.3%程度であることが報告されている。

 ちなみに、発がんの可能性のある物質については、肉や漬け物、わらびなど、日常よく口にする食品も含まれているが、これらをすべて避けるべき、という訳ではない。例えば、グループ2Aに含まれるレッドミート(牛肉や豚肉などのほ乳類の肉)に関しては、WHOは2023年7月に情報冊子を公表した。この中では、レッドミートにはビタミンやミネラル(特に鉄とビタミンB12)、その他の成長や発達、健康に不可欠な化合物が豊富に含まれていること、妊産婦や乳幼児においても必要な栄養素の供給に役立つことなどの利点も挙げ、必要以上に避ける必要はなく、国ごとに定められている推奨量などの食事ガイドラインに沿って制限あるいは適量摂取することを推奨している。
 

4 「人工甘味料を使用しないように」の背景を考える

 人工甘味料を長期的に使うことの安全性については、まだ明確になっていないことも多く、WHOのいう通り「減量や生活習慣病の予防」のために漠然と人工甘味料を使い続けることは適切ではない。一方で、甘みを補う手段として「砂糖の代わりに人工甘味料を使用すること」については、血糖を上げず、摂取カロリーの低減にもつながるなどの利点があることもWHOは認めている。アスパルテームの発がん性の可能性についても、過剰に摂取しなければ問題はないとされている。そう考えると、極端に人工甘味料を避ける必要はないと思われる。

 WHOが「人工甘味料を使用しないように」と言っているが、食事に甘さを求めるのではなく、甘くない食事や飲み物を積極的に摂ることや、甘さについては果物のような自然の甘さを楽しむなど、自然で健康的な食事について考えることが大切なのではないかと考える。味覚には、「甘味(あまみ)」のほかにも、「塩味(えんみ)」「酸味(さんみ)」「苦味(にがみ)」「うま味(み)」といった五つの基本味「五味(ごみ)」があり、ほかにも「辛味(からみ)」や「渋味(しぶみ)」がある。食事において、これらの幅広い味覚を求めて多くの食品を摂取することは、食の多様性、食材豊かなバランスの良い食事につながる。日常の食生活の中では、甘みだけに偏らず、もっと自然で幅広い味覚を楽しむことが推奨される。そんな中で、もう少し甘みが欲しいときには、砂糖や人工甘味料の利点や欠点を考えた上で、上手にこれらを活用するのが良いであろう。


【参考文献】
1.脇谷和彦ほか(2007)「砂糖以外の甘味料について」『砂糖類情報(2007年7月号)』独立行政法人農畜産業振興機構
2.櫻井勝(2017)「人工甘味料と糖代謝」『砂糖類・でん粉情報(2017年6月号)』独立行政法人農畜産業振興機構pp.48-51.<https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001494.html>
3.World Health Organization. Use of non-sugar sweeteners. WHO guideline. Geneva, World Health Organization, 2023.
4.「国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について」農林水産省<https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html>
5.IARC Monographs on the identification carcinogenic hazards to humans. IARC, WHO. <https://monographs.iarc.who.int/agents-classified-by-the-iarc/>

 
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