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でん粉から作られる糖化製品の現状と将来

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最終更新日:2023年12月11日

でん粉から作られる糖化製品の現状と将来

2023年12月

静岡大学イノベーション社会連携推進機構 客員教授 中久喜 輝夫

【要約】

 近年、再生産されるでん粉から美味しさや健康機能を付与したでん粉糖が開発され、でん粉糖の新たな市場を形成するとともに、砂糖の甘味特性を補助したり、代替したりする方法で砂糖に次ぐ甘味料としての位置を確保するようになった。嗜好性の多様化が進むとともに、健康志向が進展するにつれて機能性オリゴ糖およびデキストリンなどを含む機能性でん粉糖の需要はますます拡大することが予想される。
 

はじめに―でん粉について―

 太陽の電磁波エネルギーを利用する緑色植物の光合成によって、二酸化炭素と水を原料として生産されるのがでん粉、砂糖(ショ糖)、セルロースを中心とする炭水化物である。また、でん粉の構成糖はブドウ糖(グルコース)であり、グルコースがα-1,4グルコシド結合で直鎖状につながったアミロースと、グルコース残基約25個に1個の割合でα-1,6グルコシド結合による分岐構造を有するアミロペクチンの二成分からなることが知られている。

 現在、アミロースの構造研究が進展し、アミロースには分岐した構造を有するものがあることも明らかにされている1、2)。また、アミロペクチンの構造に関しては、いくつか提案されてきたが、クラスターモデル(房状モデル)が妥当な構造として受け入れられている3)。アミロースは通常でん粉中に約20%含有し、分子量は5×105〜2×106、またアミロペクチンはでん粉中に約80%含有し、分子量は1.5×107〜4.0×107と推定されている。各種でん粉の平均粒径はおよそ2〜50マイクロメートルであり、でん粉粒は結晶部分と非結晶部分からなる層状構造を有していることが明らかにされている。アミロースとアミロペクチンの分子モデルおよびでん粉の層状構造を図1に示す4、5)
 
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1 でん粉原料の種類と各種でん粉

 世界の主要な穀物であるトウモロコシ、小麦、米の生産量は、2023/2024年度でそれぞれ12億1350万トン、7億9337万トン、5億2094万トンと報告されている6)。国内においては、農林水産省「でん粉の需給見通しについて」によると、令和4でん粉年度(10月〜翌9月)の国内のでん粉供給量としては、ばれいしょでん粉が15万3000トン、かんしょでん粉が1万5000トン生産されている7)

 でん粉原料としては、これらトウモロコシ、小麦、米などの種子、ばれいしょ、かんしょ、キャッサバおよび幹にでん粉を蓄積するサゴヤシなどが知られている。図2に示すように、でん粉は大きく分けて地上で生産される地上でん粉と、地下で生産される地下でん粉に分けられる。

 でん粉は、通常約20%のアミロースと約80%のアミロペクチンからなり、このアミロースとアミロペクチンの組成比がでん粉の物性に大きく影響する。すなわち、アミロペクチンが多くなると、食品に利用した場合に老化しにくくなり、アミロースが多くなると逆に老化しやすくなることが知られている。でん粉の中には、アミロペクチンのみから組成されているモチ種(ワキシー種)も存在しており、前述の通り老化しにくい特性がある。

 図3に示す通り、でん粉原料および原料の生育環境によってでん粉の形状と大きさは異なり、この差がでん粉の物性を大きく左右する。近年は遺伝子組み換えを含む育種により、自然界になかったモチコムギ、モチバレイショ、ハイアミロースコムギやハイアミロースコメが開発され、今後の発展が期待されている8)



 
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2 でん粉から作られる糖化製品9)

 でん粉を酸または酵素(アミラーゼ)で加水分解すると、その分解程度に応じて種々の重合度を有する糖類の混合物が得られる。また、分子量が同じで化学構造が異なるものを異性体というが、酵素反応により液状ブドウ糖に含有するブドウ糖の一部を果糖に変換した液糖を、異性化された液糖という意味で「異性化液糖」または「異性化糖」と呼んでいる。異性化液糖を含め、これらのでん粉加水分解物はすべて甘味を有し、一般に「でん粉糖」と呼ばれている。

 日本国内におけるでん粉の生産量は令和4でん粉年度でおよそ約247万トンであるが、そのうち輸入トウモロコシから得られるでん粉(コーンスターチ)は86%を占め、生産量は約212万トンである。なお、でん粉の総需要数量のうち、でん粉糖の生産には約167万トンが利用されている7)
 

2−1 でん粉糖の加工方法

(1)水飴、粉飴、オリゴ糖およびブドウ糖

 ブドウ糖の生産フローを図4に示す。固形分濃度30〜35%(w/w)のでん粉乳液を水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液でpH6.0に調整した後、耐熱性α-アミラーゼを添加し、ジェットクッカーを使用して加圧蒸気とでん粉乳液を混合し、105±2℃、10分間処理ででん粉粒の構造破壊と同時にでん粉分子の分解を進める。その後、約50〜55℃に冷却し、pHを調整した後、糖化酵素を添加して約50時間反応を進める。反応終了後、加熱して酵素を熱失活させた後、オリバーフィルターによるろ過処理を行う。その後、活性炭による脱色処理、イオン交換樹脂による脱イオン処理、さらにメンブレンフィルターによる膜処理を行った後、所定の濃度に濃縮して液糖を得る。



 

 このような過程を経て生産されるのが液状ブドウ糖、オリゴ糖シラップ、マルトースシラップ、水飴などの商品である。なお、粉飴は水飴を原料として噴霧乾燥方式で生産される。

 結晶ブドウ糖や結晶マルトース、トレハロースなどの結晶品は、液糖を原料として結晶化法で目的の結晶を析出させた後、遠心分離機で結晶を分離する。分離した結晶を乾燥させると、結晶ブドウ糖など前述の商品が完成する。

 ブドウ糖の生産は、シュウ酸や塩酸などを用いた酸糖化法で実施されていたが、近年、微生物起源の各種アミラーゼが発見され、でん粉糖の大部分は酵素法によって生産されるようになった。また、酵素反応中に生成するブドウ糖やマルトースの純度をアップするために、でん粉の構成成分であるアミロペクチンの分岐結合を加水分解するプルラナーゼやイソアミラーゼなどの枝切り酵素を糖化酵素と併用する方法が開発されている。
 

(2)異性化液糖

 酵素法によるブドウ糖生産が進み、1963年には国内での生産能力が40万トンを越えるまでになった。また、国内産砂糖の供給量が需要量の2割に満たない状況の中で、国内のでん粉の滞貨も30万トンとなり、砂糖の代替甘味料の開発が望まれていた。

 砂糖の代替甘味料として期待されていたブドウ糖であったが、ブドウ糖は砂糖の約70%の相対甘味度しかなく、かつ甘味の質も砂糖に劣ることから需要は伸びなかった。一方、ブドウ糖の構造異性体である果糖(フルクトース)は、低温で砂糖の1.3〜1.8倍の甘味度があり、摂取してもインスリンの分泌を促進しないなどの優れた甘味料として知られていたが、高価なことから食品用甘味料としての普及が進まなかった。そこで、ストックされていたでん粉からブドウ糖を生産し、そのブドウ糖を果糖に変換して甘味度を高め、砂糖代替甘味料としての異性化液糖の開発と利用拡大に大きな期待がかけられた。

 1957年、米国の研究者によって微生物起源の生産する異性化酵素(キシロースイソメラーゼまたはグルコースイソメラーゼ)が発見されて以来、ブドウ糖の異性化研究は酵素法が主流になった。1965年以降、放線菌由来の異性化酵素が日本の研究者によって相次いで見いだされ、酵素の生産性や精製法の改良が進み、異性化液糖の工業的生産方法が確立されるに至った。

 当初、菌体そのものをブドウ糖溶液に投入してバッチ式(回分式)で異性化反応を行っていたが、反応液の着色が著しく、酵素コストも高くなることから、固定化酵素の研究が進展した。その結果、微生物菌体をグルタルアルデヒドで架橋する方法、異性化酵素をイオン交換樹脂やイオン交換セルロースに固定化する方法が開発された。世界で最初に工業化したのはデンマークのノボザイムズ社であった。菌体そのものをグルタルアルデヒドで架橋し、造粒化した固定化酵素である。現在では、世界の異性化液糖はすべて固定化酵素を用いたバイオリアクターで生産されており、世界最大のバイオリアクターとなっている。

 異性化液糖の製造に利用される原料でん粉は、一般に生産量の大きいコーンスターチが使用される。コーンスターチを原料として生産した液状ブドウ糖(ブドウ糖含量約95〜96%)を濃度40〜45%に減圧濃縮した後、pH7.5〜8.2、温度55〜60℃の反応条件で固定化グルコースイソメラーゼを充填(じゅう てん)したプラグフローリアクター(管型反応器)にブドウ糖液を通液する。そして、果糖含量が約42%になるように流速を制御したコンスタントコンバージョン方式で連続的に異性化反応を行う。得られた反応液は脱色・脱イオン処理や膜処理を行った後、約75%の固形分濃度に濃縮して製品化される。
 

2−2 でん粉糖の種類

(1)水飴、粉飴、オリゴ糖およびブドウ糖

 水飴の種類としては酸糖化水飴と酵素糖化水飴がある。水飴(シラップ)には種々の加水分解率(DE10-60)を有するものがあり、DE(Dextrose Equivalent、ブドウ糖当量、加水分解の度合いを示す)が大きくなるにつれて甘味度が高くなり、粘度は低下する。米国ではDE20未満のデキストリンをマルトデキストリンと呼ぶ10)。粉飴は、DE20〜40の水飴を原料として噴霧乾燥法によって得られる。デキストリンの分野では、古くは難消化性デキストリン、近年では高分岐環状デキストリンやイソマルトデキストリン11)および難消化性グルカン12)が開発されている。

 また、酵素水飴にはマルトース(麦芽糖)を主成分とするシラップが大部分を占め、この中には、マルトース含量45〜60%のシラップ、マルトース含量65〜80%のハイマルトースシラップ、85〜95%の高純度ハイマルトースシラップがある。

 でん粉関連オリゴ糖としては、近年、表1に示すような種々のオリゴ糖が開発されている13)。機能性デキストリンや機能性オリゴ糖などのでん粉糖は特定保健用食品または機能性表示食品に利用されている。

 ブドウ糖には、液状ブドウ糖、結晶ブドウ糖および精製ブドウ糖がある。結晶ブドウ糖には煎糖法で生産される無水結晶ブドウ糖と、結晶缶を用いて冷却方式で結晶を生産する含水結晶ブドウ糖がある。さらに、液状ブドウ糖を原料として噴霧乾燥法式で生産、あるいは結晶析出後、切削工程を経て製造する精製ブドウ糖がある(図4)。
 
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(2)異性化液糖

 異性化反応によって得られるブドウ糖からの果糖の生成量は最大50%であるが、果糖50%の純度での生産においては製造コストが高くなるため、経済性を考慮すると果糖の純度は42%が効率的である。この果糖42%含有製品が第1世代の異性化液糖(ブドウ糖果糖液糖)である。

 1979年、アメリカのコカ・コーラ社が果糖含量55%の異性化液糖を砂糖の代替甘味料として使用することを決定した。その理由は、異性化液糖が液状製品のために扱いやすいこと、55%果糖含有異性化液糖の甘味度および甘味の質が砂糖に類似していたこと、さらに大幅なコスト削減につながることであった。このため、世界の異性化液糖メーカーはカチオン交換樹脂カラムクロマトグラフィー(クロマト分離)による第2世代の異性化液糖(果糖ブドウ糖液糖)の生産を開始することになった。なお、クロマト分離で得られた果糖含有約90%の液糖と、第1世代の異性化液糖をブレンドすることで第2世代の異性化液糖が得られる。さらに、1996年には果糖含有率90%以上の異性化液糖(第3世代の異性化液糖)も登場し、従来の異性化液糖と同じように日本農林規格指定の商品となった。

 以上のように、異性化液糖には第1世代から第3世代、さらに、それらに砂糖を10%(w/w)以上混合した3種類の異性化液糖があり、合計で6種類の異性化液糖が市場で販売されている。なお、異性化液糖に砂糖を混合する理由は、砂糖の甘味の質に近い液糖にするためと推察される。以上6種類の異性化液糖の生産フローを図5に、3種類の異性化液糖の糖組成を表2に示す。






 

 以上のでん粉糖の他に、でん粉糖を還元処理して得られる還元水飴、ソルビトールやマルチトールなどの糖アルコール、ブドウ糖を原料として酵母を用いた発酵法により得られる四炭糖のエリスリトール、およびマルトースを原料として製造されるマルトビオン酸14)がある。また、異性化液糖を原料としてクロマト分離により95%以上の高純度果糖溶液を製造した後、晶析法により結晶果糖が製品化されている。さらに、異性化液糖を原料としてアルカリ異性化法によりプシコースやアロースなどの希少糖を含むシラップも開発されている15)
 

2−3 でん粉糖の特性と用途

(1)水飴および粉飴

 コーンシラップを含む酵素糖化水飴は、2000年以降発泡酒や第3のビール製造用の糖質として需要が増大した。水飴およびデキストリンを含む粉飴は主に菓子類、乳製品、ジャム、調味料、飲料・乳性飲料、さらに医薬品用途で経口・経腸栄養剤用途に用いられている。近年は高齢化の進展に伴い、医薬品用途の需要が増大しつつある。
 

(2)オリゴ糖13)

 オリゴ糖にはエネルギーとしての栄養面の働き(1次機能)、美味しさなどの嗜好面の働き(2次機能)の他に、健康の維持・増進に関わる働き(3次機能または生体調節機能)が明らかにされ、その市場も増大しつつある。

 マルトオリゴ糖の特性としては(1)ブドウ糖や砂糖と比較して低甘味であること(2)水分の吸湿・放湿に対する安定性が高いこと(3)加熱加工に対して低着色性であること(4)皮膜形成能が高いこと(5)消化吸収性が高いこと(6)でん粉の老化防止効果やタンパク質変成防止効果を有すること―などが挙げられる。これらを活用して種々の食品に用いられる。

 イソマルト−スやパノースを含む分岐オリゴ糖は、味質改善効果、水分保持効果、整腸作用、あるいは低・抗う蝕性などの特性がある。さらに、近年では苦みを有するゲンチオリゴ糖や、免疫賦活効果を有するニゲロオリゴ糖などが開発され、それぞれの機能特性を生かして、さまざまな食品に利用されている。

 トレハロースは非還元性の構造を有しており、糖アルコールと同様に熱や酸に対して安定であり、食品加工の加熱工程における分解・着色がほとんどないという特性を有している。特有の機能、利用効果としては、食品の水分活性を低下させる機能を有するほか、食品の保湿効果、保存性や日持ち効果、冷凍・冷蔵における離水防止効果、でん粉の老化防止効果、およびタンパク質の安定化作用などが挙げられる。これらの特性を活用して、パン、麺類、和・洋菓子、冷菓、練り製品、米飯および飲料に利用されている。

 環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)は、当初医薬品や工業用途に利用されていたが、1980年代に入り日本国内で食品用途が初めて開拓された。CDは構造上、分子に親水性(外側)と疎水性(内側)を有し、そのため分子内に脂溶性の物質を取り込む作用(包接作用)があり、揮発性物質の安定化、乳化性・気泡性の向上、物質の溶解度・風味・吸湿性・色調などの物理化学的諸性質の改善、光学異性体の分離・分割、およびコレステロールの包接・除去などの分野で利用されている。

 また、マルトシルCDなどの分岐CDはCDと比較して水や有機溶媒への高い溶解性を示し、難水溶性物質の可溶化や飲料などの乳化の安定化に用いられる。その他、環状四糖にはラットによる動物試験の結果、脂肪低減作用、ミネラル吸収促進作用および大腸がん抑制作用が見いだされている。
 

(3)ブドウ糖

 ブドウ糖の製品は結晶品(無水・含水結晶)、精製ブドウ糖および液状ブドウ糖があり、これらの規格は日本農林規格で定められている。ブドウ糖の甘味度は砂糖の約60〜70%であり、甘味の立ち上がりも砂糖に比較して速く、かつ甘味の消失も砂糖より速いことが明らかにされている(図6)。

 特有の機能、利用効果としては、ブドウ糖は食品に利用した場合に組織への浸透性が高く、砂糖と比較して水分活性も低いため、日持ち保持効果が期待される。結晶ブドウ糖については、水に溶解する際に吸熱作用があり、菓子類に清涼感を付与するのに適している。

 用途については、結晶ブドウ糖および精製ブドウ糖の場合、輸液などの医薬品用途が最も多く、次いで菓子類、調味料、粉末製品、パン類、飼料、ガム、酒類の順になっている。液状ブドウ糖はソルビトール用原料としての用途が最も多く、次いで調味料、酒類、菓子、医薬品となっている。
 
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(4)異性化液糖

 異性化液糖はブドウ糖と果糖を含むため甘味の質は砂糖と異なり、砂糖よりもシャープな甘味であり、また、果糖を含むために甘味度も低温ほど高くなる。さらに、図6に示すように、果糖やブドウ糖は砂糖と比較して速やかに甘味が感じられ、かつ速やかに消失する。

 表3に各種糖類との砂糖に対する相対甘味度の比較を示す。第1世代の異性化液糖(ブドウ糖果糖液糖)はブドウ糖が多いため砂糖よりも甘味度は低いが、第2世代の異性化液糖(果糖ブドウ糖液糖)は砂糖と甘味度がほぼ同等である。甘味の質も砂糖に似ているために、砂糖の代替甘味料として大量使用されるようになった。また、蜂蜜の糖組成は第2世代の異性化液糖に類似していることも興味深い16)

 異性化液糖の特性としては、砂糖と比較して結晶化しにくい性質を有する。また、砂糖に比較して浸透圧が高く、水分活性も低い。さらに、異性化液糖は保水性に優れており、食品に乾燥防止効果を付与することができる。

 用途については、果糖はフレーバーの増強効果や高い氷点降下を有するため、果汁飲料や冷菓に利用されている。さらに、果糖はブドウ糖よりも速くグリコーゲンに変換されるとの研究報告もあり、スポーツドリンクなどに利用されている。




 近年、甘味離れや低甘味嗜好が進む中で、異性化液糖は商品として年間約100万トン消費されている。令和4砂糖年度(10月〜翌9月)の砂糖の消費量(実績見込み)は178万2000トンであり、加糖調製品は40万7000トン、異性化液糖は76万3000トン(果糖55%ものの固形ベース)となっている。また、砂糖、加糖調製品および異性化液糖の供給量の中で、異性化液糖は約26%を占める17)

 以上のように、でん粉を中心とする応用糖質科学は微生物起源酵素の発見とその利用技術の進展とともに発展し、世界に類のない新しいでん粉関連糖質産業を創出してきた。
 

3 でん粉糖の甘味産業における役割と位置

 甘味の王様は砂糖(ショ糖)であることは論をまたない。しかし、近年消費者の嗜好が多様化し、甘味以外に甘味を抑制して風味を発揮し、優れたボディー感やテクスチャーを有する食品が求められるようになった。この場合に有効に活用されるのがでん粉糖である。砂糖にでん粉糖を適宜配合して食感改善、味覚・風味改善および低カロリー化を図り、また日持ち効果などの品質改善を目的として利用されるようになった18)

 また、ソルビトールやマルチトールおよびエリスリトールなどの糖アルコールおよび希少糖は、低カロリー食品やシュガーレス食品などの健康食品に利用されている。近年、我が国は世界一の長寿国となり、生活習慣病が多くなってきた。その生活習慣病の改善にオリゴ糖をはじめとした種々のでん粉糖が有する生理機能特性が活用され、新しい市場も形成されつつある。

 でん粉糖は砂糖の特性を補強するとともに、砂糖にない種々の機能特性を有効に生かしつつ、砂糖に次ぐ甘味料として今後ますます重要な位置を占めるものと推察される。
 

おわりに―でん粉およびでん粉糖の将来―

 前述の通り、光合成によって再生産されるでん粉は植物の主要な貯蔵炭水化物であり、多くの植物の種子、塊根茎などに蓄えられたでん粉は種子や塊根茎の生命の維持である呼吸および新たな生命のスタートである発芽の主要なエネルギー源として利用される。また、でん粉は人類をはじめ多くの動物の重要な食糧になっている他、でん粉から作られる糖は、その性質や特性に合わせてさまざまな食品で活用されている。製紙・繊維などの工業用途として大量利用されており、さらにアミノ酸およびエタノール発酵や生分解性プラスチックの原材料としても使用されている。

 2050年には世界の人口が100億人に達すると見込まれる中、必要な食糧および化石エネルギーに代わるエネルギー資源の観点から、でん粉原料の増産が求められる。食糧や代替エネルギー資源としてさらなる活用が期待されるでん粉関連糖質産業の発展は、その産業を明るくするのみならず、世界を明るくする存在となり得るのではないだろうか。

 以上のように、食糧や代替エネルギー資源としてさらなる活用が予測されるでん粉関連糖質産業には明るい将来が期待される。

 近年、でん粉の生合成に関与する酵素と遺伝子との関係が明らかにされてきた。今後遺伝子工学およびでん粉工学を駆使して、でん粉原料の増産とともに高機能性でん粉や高機能性でん粉糖が開発され、食糧問題、エネルギー問題および環境問題の解決、さらに高齢化社会に生きる人々の健康の維持・増進によりいっそう貢献できることを期待したい。
 
中久喜 輝夫(なかくき てるお)
静岡大学イノベーション社会連携推進機構 客員教授
【略歴】
1972年5月 東京大学農学部農芸化学科卒、日本食品化工株式会社入社
1984年   農学博士(東京大学)
2004年〜2008年 日本食品化工(株)取締役研究所長
2008年〜2010年 日本食品化工(株)顧問
2011年〜2021年6月 一般社団法人菓子・食品新素材技術センター理事長(代表理事)
1998年より静岡大学イノベーション社会連携推進機構 客員教授を務め、現在に至る。


参考文献
1 不破英次、小巻利章、檜作進、貝沼圭二編(2003)『澱粉科学の事典』朝倉書店、pp.13-21. 檜作進「2.2アミロース」
2 竹田靖史(2007)「澱粉の分子構造と食品のおいしさ」『日本調理科学会誌』第40巻、第5号、pp.357-364
3 貝沼圭二(2021)「澱粉の基礎科学アラカルト−最近思うこと−」『応用糖質科学』第11巻第4号、pp.158-165. 一般社団法人日本応用糖質科学会
4 山本和貴、松本順子、貝沼圭二編(2010)『澱粉の科学と技術―澱粉研究懇談会の50年の歩みと展望―』澱粉研究懇談会編、pp.138-140、竹田靖史「澱粉の分子構造」
5 山本和貴、松本順子、貝沼圭二編(2010)『澱粉の科学と技術―澱粉研究懇談会の50年の歩みと展望―』澱粉研究懇談会編、pp.181-182、久松眞「澱粉粒の層状構造」
6 農林水産省「米国農務省穀物等需給報告(2023年8月11日発表のポイント)」〈https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_usda/attach/pdf/index-41.pdf
7 調査情報部(2023)「でん粉の国内需給」『砂糖類・でん粉情報』2023年11月号、pp.42. 独立行政法人農畜産業振興機構
8 中久喜輝夫(2021)「夢が多い澱粉関連産業」『応用糖質科学』第11巻第4号、pp.172-179. 一般社団法人日本応用糖質科学会
9 貝沼圭二、中久喜輝夫、大坪研一編(2009)『トウモロコシの科学』朝倉書店、pp.153-183. 中久喜輝夫「6.3糖化品」
10 早川幸男、小林昭一監修、一般社団法人菓子・食品新素材技術センター食品新素材事業部幹事会編(2010)『良くわかる食品新素材』pp.191-194. 株式会社食品化学新聞社
11 渡邊光ほか(2019)「新しい水溶性食物繊維イソマルトデキストリン(ファイバリクサTH)の開発」『応用糖質科学』第9巻第1号、pp.35-42. 一般社団法人日本応用糖質科学会
12 濱口徳寿ほか(2018)「活性炭触媒を利用した脱水縮合技術の開発とそれを用いた難消化性グルカンの生産」『化学と生物』第56巻第6号、pp.432-437. 公益社団法人日本農芸化学会
13 中久喜輝夫(2011)「オリゴ糖開発研究の現状と将来」『応用糖質科学』第1巻第4号、pp.281-285. 一般社団法人日本応用糖質科学会

14 深見健ほか(2020)「糖質酸化酵素を用いたマルトビオン酸を主成分とする酸っぱい水飴“オリゴ糖酸®”の開発」『応用糖質科学』第10巻第1号、pp.36-41. 一般社団法人日本応用糖質科学会
15 徳田雅明(2018)「香川大学発の新機能糖質『希少糖』」『砂糖類・でん粉情報』2018年2月号、pp.60-63. 独立行政法人農畜産業振興機構
16 越後多嘉志(1977)「蜂蜜の特性と利用」『日本醸造協会雑誌』第72巻第4号、pp.244-249. 公益財団法人日本醸造協会
17 調査情報部(2023)「砂糖類の国内需給」『砂糖類・でん粉情報』2023年11月号、pp.19-20. 独立行政法人農畜産業振興機構
18 二國二郎監修、中村道徳、鈴木繁男編(1977)『澱粉科学ハンドブック』朝倉書店、pp.430-435. 鈴木繁男「澱粉の加水分解工業」

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