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北海道 JA つべつのスマート農業推進と労働力不足対応

遊休地発生を防ぐ!
北海道 JA つべつのスマート農業推進と労働力不足対応

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最終更新日:2024年2月9日

遊休地発生を防ぐ!
北海道JAつべつのスマート農業推進と労働力不足対応

2024年2月


 
 JAつべつマスコットキャラクター だいち君           
                       
 
 




 

津別町農業協同組合営農部 マシ−ネンリング・マネージャー  有岡 敏也

【要約】

 北海道網走郡津別町では、農業労働力の減少が進む中、現在の生産規模を維持・拡大するべく、コントラクターの強化とスマート農業推進に取り組み、ばれいしょ、てん菜生産における、省力化・効率化を図っている。

はじめに

 ばれいしょやてん菜は、寒冷地における基幹作物として広く生産されており、輪作体系を維持する上でも重要な役割を果たしている。しかしながら、ばれいしょについては、産地供給が日本の需要を満たしていない。一方、てん菜については、ばれいしょと真逆の様相を見せ、砂糖は供給過多となって在庫が増え、てん菜糖の国内産糖交付金の交付対象数量を調整しているのが現状となっている。

 こういった現状を踏まえ、津別町農業協同組合(以下「JAつべつ」という)では、小麦、豆類を含めた輪作体系の維持を図り、農業労働力の急激な減少に備えるためスマート農業を取り入れるなど、ばれいしょ・てん菜を中心とした省力化・効率化に向けた取り組みを行ってきた。そこで、本稿ではJAつべつで行っている事業について紹介する。

1 津別町(JAつべつ)の概況

 津別町は、オホーツク総合振興局管内の南東部の内陸部に位置し、総面積のうち86%が森林地帯となっている(図1)。扇状に広がる河川流域に農村集落がある典型的な中山間地で、地域の農業は、小麦、ばれいしょ、てん菜、タマネギなどの寒冷畑作物と酪農・畜産が主体であり、林業と並ぶ基幹産業となっている(写真1)。







 JAつべつは、津別町を事業区域とする総合農協であり、令和4年産農産物の販売額は、36億円(交付金含む)である。最も金額が大きいのは、タマネギ14.5億円、次いでばれいしょ8.7億円、てん菜5.9億円となっている。畜産物の販売額は37億円であり、内訳は、肉用牛25.4億円、酪農11.2億円となっている。また、高齢化などによる生産者の離農後もJAつべつ管内の生産規模を維持するべく、有限会社だいち(以下「だいち」という)を平成12年に、株式会社あぐり(以下「あぐり」という)を令和3年に設立した。現在「だいち」は、TMRセンター(注1)と粗飼料コントラクターに特化し、「あぐり」は新規就農と農地流動化対策を担うJA出資型法人となっている。


(注1) TMRとはTotal Mixed Ration の頭文字で粗飼料と濃厚飼料を混ぜ合わせ、栄養価の高い牛の餌を大規模に製造し、畜産農家へ提供する施設。畜産農家に代わって粗飼料の収穫などを請け負う組織がコントラクター。

2 労働力不足への対応

 JAつべつでは、生産者の高齢化など将来の労働力不足に起因する不耕作農地の発生を防止する観点から、平成29年に「津別町農業労働力支援協議会」を国の事業を活用して設立し、生産者へアルバイトを中心とした人材の派遣(紹介)を実施している(図2)。その具体的な活動内容を紹介する。

 まず、生産者を対象として、人手が必要な時期や必要人員、作業内容を聞き取る需要調査から始まり、次に募集をかける。募集方法は、リピーターや取引先企業への声掛けのほか、農業求人ポータルサイトの「あぐりナビ」や「おてつたび」といったインターネット求人サイトも活用している。その後、生産者とのマッチングを行い、作業後には費用精算業務も協議会が担う。直近では、自治会長が過去に農業バイトとして津別町で働いていた縁で大阪府伊丹市の北野自治会や、連携協力協定を令和4年に結んだ「北見工業大学」の留学生、学生に向けても募集を行った。令和5年度は、総勢28人が当町において農作業に従事した。



 

 JAつべつの支援策として他にも、宿泊先の提供(北海道でてこいランド)や、交通費の一部助成などを実施している(写真2)。この取り組みの中から、従業員として年間雇用され、津別町に住所を移転した方、さらには、津別町にある中古住宅を購入しセカンドハウスを持ち、本業(広告代理店)の傍ら春と秋に農作業に従事する方が出るなど、農業関係人口の増加に寄与している。



 

 農業情勢が厳しい中ではあるが、これらの取り組みにより、新規就農、取引先会社(食品事業者)の農業参入を促し、遊休地発生の未然防止を図っているところである。

3 スマート農業推進の取り組み

 津別町は、さまざまな農地が点在しているため農地の集約化が困難で、大型機械やスマート農機普及に課題を抱えており、人手作業の依存度が高い地域であった。そこで労働力不足への対応策の一つとしてスマート農業の導入が挙げられている中、JAつべつでは、スマート農業の円滑な導入を図ることを目的として、平成28年に「津別町スマート農業研究会」を設立し、研修会や情報交換会を開催したり、補助事業の受け皿としても活動している(表1)。

 設立後の取り組みとして、主だったものをいくつか紹介する。ドローンとトラクターを併用した事業では、てん菜褐斑(かっぱん)病害感知システムを導入した結果、病斑画像認識率76%以上の成果となり、農薬散布量を約11%削減できた。また、鳥獣害対策用罠設置および捕獲通知システムを導入したところ、労働力を65.8%削減でき、被害面積の削減率は30.5%となった。他にも、産地生産基盤パワーアップ事業により、GPS自動操舵100台、ブロードキャスター32台、スプレヤー37台、ドローン2台を導入した。農山漁村振興交付金では、自動操舵、可変施肥技術、鳥獣害対策などを推進してきた(図3)。さらに、補正データを用いて精密農業を行うためには、携帯電話通信の不感地帯対策がどうしても必要であることから、令和5年からの2カ年間での実証を経て、町内の他不感地帯への整備を行う予定である。



 
1

4 ばれいしょ・てん菜のコントラクターの取り組み

 JAつべつでは、輪作体系の維持のため、食品メーカーから増反要請がある加工用ばれいしょと、輪作体系を維持する上で重要なてん菜について、面積の拡大および維持を図るべくコントラクターにより対応しているので、その取り組みを紹介する。

(1)ばれいしょ

 加工用ばれいしょユーザーであるC社からの強い要望に答えるべく、生産現場および輸送、集出荷施設の整備を図ってきた。

 まず、第1次整備として、平成20年度補正予算による「強い農業づくり交付金」を活用し、加工用ばれいしょの集出荷貯蔵施設を設置した。これは、畑で厳選し収穫されたばれいしょを()(じょう)で鉄コンテナに入れて施設へ運び、エチレン処理を行い、長期貯蔵して出荷を待つものであり、高品質のばれいしょの増産を流通面で下支えする役割を果たしてきた。

 次に、第2次整備として平成28年度「産地パワーアップ事業」を活用し、新規のバラ貯蔵による、集出荷貯蔵施設を設置し、さらに生産現場における高性能収穫機械(ポテトハーベスター)とばれいしょをバラで貯蔵庫まで運ぶ運搬車(アームロール車)を導入した(写真3)。導入には多大な投資費用がかかることが課題であったが、JAがポテトハーベスターをリース導入し、コントラクター事業により植え付け・収穫作業を担うことで、費用と労働時間の削減を図ることができた。これにより、集出荷貯蔵施設は、2棟で9720トンの貯蔵能力となり、加工用ばれいしょの作付面積についても、コントラクターを始めた当時(平成19年産)と現在(令和4年産)を比較すると、186ヘクタールから275ヘクタールと、15年間で約1.5倍に増加している。
 
2

(2)てん菜

 てん菜に関しては、輪作体系の維持を図るべく省力化技術の開発や作業を外部委託できる組織を作ることにより、生産現場での省力化に重点を置いた取り組みを図ってきた。

 まず、労働力不足に対応するため、出荷先である日本甜菜製糖株式会社(以下「ニッテン」という)と連携し、直播(ちょく はん)に力点を置いた播種(は しゅ)(移植含む)、収穫体系の見直しを行った。

 次に平成28年度「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト<次年度からの3年間は、経営体強化プロジェクト>)」に参画し、JAつべつでは、「高効率大型収穫機の性能実証とマシーネンリング(MR)(注2)の設立手法を確立するための現地実証試験」を実施した(図4)。この実証試験では、移植作業と収穫作業を受託する支援組織の設立により生産者の作業時間を削減することに加え、大型機械化体系に対応した狭畦(きょう けい)栽培法の開発を行った1)。各種手順の確認・検討を進めるとともに、大型機械導入による適正な運用面積などの試算と必要なルールの設定に関する検討を進めるといった取り組みを、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、サークル機工株式会社、有限会社すばる、ニッテンとともに推進してきたところである。

 その結果、MRの概念を取り入れ、津別町営農支援センター設立までには至っていないが、営農部が中心となって、現在は、播種から収穫まで労働力確保を含め効率的な機械運用ができるようコントロールしており、特に実証地域ではてん菜作付面積の約2割がコントラクターを利用している(表2)。

(注2)マシーネンリングはドイツを中心に発展している組織で、農作業機械を所有せず、農業者が所有する農作業機械を計画的に運用して最大効率化を図るためのスケジュール管理をしたり、農作業の受託者と委託者をつなぎ、受委託を成立させる仲介組織としての役割を担う。






 

 このような各種実証事業などを取り入れるためには、どの品目にテコ入れが必要かを品目の動向などとともに、生産者目線で選定することが必要である。津別町の場合、C社の協力もありばれいしょでいち早くコントラクターを進めてきた経緯があった。そのため、労働時間が10アール当たりで一番長い(移植栽培の場合)てん菜に焦点を当て、欧州農業を目指すJAつべつとして、欧州でのてん菜の取り組みを導入するべく、研究機関に話を持ち掛け実証事業に参画することができた。

 この際、ただ話を持ち掛けるだけではなく将来像も含め提示し、実証中に組織化も含め検証を行うことが肝要である。現在では、他地区においても大型収穫機械(テラドス)(写真4)の導入が図られるなど、一定程度、先進的な取り組みとなった。
 
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おわりに−今後の展望−

 JAつべつでは、このように多くの補助事業や交付金を活用し、精力的にスマート農業の推進・普及に取り組んでいる。スマート農業を円滑に導入するためには、まず産地側で将来のビジョンを描き、その中でスマート農業を展開することを、生産者理解のもと明確に打ち出す必要がある。津別町では、生産者の理解促進のためスマート農業研究会の役員が説明を行っている。

 次に、生産者組織(受け皿)を構築し、その中で、スマート農業の中で何を導入することが「遊休地」を発生させないためのツールなのかを関係機関を巻き込み選定する。その際、津別町の実態に反映できる補助事業と補助金が無くても自助努力で対応可能なものの見極めが重要となる。

 最後は、予算措置と普及計画である。これは、行政、研究機関、大学などと連携し、補助事業などに申請する場合、コンソーシアム(共同事業体)を設立するのが効果的である。ここが中心となって、事業推進、普及推進を図ることが、地域内で浸透が図れるかどうかの鍵だと考える。

 人口の急減に伴い食料供給を支える力の弱体化、食料安全保障を取り巻く環境の変化、環境などの持続可能性の取り組みの主流化、エネルギーを中心とした資源獲得競争など、農業・農村における急激な環境変化に対応するべく、基本である「遊休地」を発生させないことを念頭に「可能性のあるものはすべてやる」ことにより、今後の地域のさらなる活性化につなげていきたいと考えている。


【参考資料】
1)藤田直聡ら(2020)「稼働費用の比較から見たてん菜新技術の導入に必要な作業面積─ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機および高効率大型 6 畦狭畦収穫機を対象に─」<https://www.jstage.jst.go.jp/article/naroj/2020/3/2020_9/_pdf/-char/ja>(2024/1/12アクセス)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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