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〜沖縄県伊是名村の若手生産者の取り組み〜
最終更新日:2024年2月9日
ア 経営概況
神山氏はサトウキビ49.8アールとピーマン10アールの複合経営を行っている(写真1、2)。
現在28歳で、もともと祖父がサトウキビ栽培をしており、「祖父の行うサトウキビ生産をこの先も続けたい」との思いから沖縄本島の農業大学校に進学、その後、島に戻りピーマン栽培を始め、ピーマンの生産体制が落ち着いたことから、徐々に祖父からサトウキビ圃場を譲り受けている。就農当時、県事業や村事業をビニールハウスの防風・遮光ネットやパイプの購入費用、苗代などの初期費用に利用した。
伊是名村でピーマン生産者は神山氏1人だが、本島でピーマン栽培の盛んな具志頭(注2)、豊見城のピーマン生産者と模合(情報交換)を行いながら、生産性の向上に努めている。
(注2)『野菜情報』2020年10月号「沖縄県島尻郡八重瀬町におけるピーマンの生産〜地域ブランド「ぐしちゃんピーマン」の産地形成の取り組み〜」をご参照ください。〈https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2010_chosa01.html〉
イ ピーマン生産との複合経営
神山氏がピーマンの生産を始めたのは、(1)農業大学校で扱った経験があった(2)果菜類に分類されるピーマンは、葉物野菜より日持ちすることから、離島から本島へ出荷することができる―などの理由からである。神山氏が栽培している「ちぐさ」という品種は、小さいうちに収穫すると収量が伸びること、長い期間収穫できることもメリットである。
神山氏のピーマン生産は8月後半に植え付けを行い、10月から翌年6月まで収穫が行われる。植え付け後は、台風シーズンが終わる10月に誘引を行い、11月にハウスにビニールを張り、12月に剪定作業を行う(図4)。
ピーマン栽培には、もみ殻や米ぬか、サトウキビの葉を緑肥として圃場に散布したり、工場で副産物として生産される糖蜜を薄めて圃場に散布することで、より良い土壌づくりを行っている。
神山氏のピーマンは、他の生産者との差別化を図るため「ゆーぴー」という商品名で販売しており、特徴は大きくてみずみずしいほか、子どもでも食べられるほど苦味が少ないため、島内の売店や本島のファーマーズマーケット(直売所)で人気が高い(写真3、4)。
こうしたピーマン生産とともにサトウキビの生産も行っており、春から夏にかけてサトウキビの植え付けを行い、作業時期が重なる冬は午前中にピーマンの収穫、午後はサトウキビの手刈り収穫を行っている。サトウキビ植え付け後は、圃場ごとに設置された放水ポンプ(写真5)で村内のため池の水を簡単に放水でき、収穫期には、村のハーベスタ組合に委託することで省力化を図っている。また、村ではゆいまーる(助けあい)の精神もあり、ピーマンとサトウキビの収穫が忙しい時は、村の青年に声をかけ収穫を手伝ってもらうこともあるそうだ。
ウ 今後の見通し
一度、ピーマンの経営面積をハウス6棟(20アール)まで拡大したことがあったが、管理作業が大変で休む間もなかったことから、現在はハウス3棟(10アール)を管理している。その分、単価の高いLサイズではなくS〜Mサイズを多く出荷し回転率を上げること、自ら梱包作業を行うこと、直売所に卸してコストを削減することで収益性の向上を目指しているほか、将来的にはネット販売も検討している。
そして、今後は、祖父からさらにサトウキビ圃場を引き継ぐ予定であり、収穫面積の増加や単収の増加を見込んでいる。神山氏が農業を始めたきっかけである「祖父の行うサトウキビ生産をこの先も続けたい」という思いは今後も引き継がれていくことだろう。
ア 経営概況
伊禮氏は、令和5年5月時点で、サトウキビ18アールを生産するとともに、母牛17頭、子牛11頭を飼養する複合経営を行っている(写真6、7)。サトウキビは幼い頃から身近な存在であったが、父親が人工授精師で畜産業に従事していたことから畜産業への憧れがあった。専門学校卒業後は沖縄本島で介護職に従事していたものの、40歳目前の令和元年に脱サラし、農業大学校へ進学し憧れであった肉用牛繁殖農家となった。それとほぼ同時に、親族からサトウキビの圃場を承継し、サトウキビ生産を始めた。就農前の農業大学校では畜産の勉強をしながら、今帰仁村家畜市場で周辺の肥育農家と繁殖農家の両方から情報収集を行った。
同家畜市場は子牛の質が良いとの評価から取引価格が高く県外の購買者も多いため、沖縄県内から多くの農家が同家畜市場に出荷している。9カ月齢で300キログラムになる子牛は増体が良く高く売れるため、飼料の配合や給餌する牧草の長さにもこだわっている。なお、母牛用の牧草は7割が自家生産で、子牛用の濃厚飼料はJAから購入している(写真8)。
イ 肉用牛繁殖経営との複合経営
サトウキビ生産は比較的手がかからず、複合経営に向いているのがメリットである。植え付け作業や防除作業を村の受託組織に委託することで、空いた時間で、繁殖経営に従事することができる。
繁殖経営は、他の農作物に比べて初期費用がかかり、伊禮氏は経営開始前に牛舎の建設や母牛16頭の導入に2000万円を要したとのこと。繁殖経営では、母牛を導入してから子牛を売るまでに一定期間を要するため、その間の収入を県事業や村事業、甘味資源作物交付金で賄うことで生活の見通しが立ったと語っている。他にも村では繁殖雌牛の導入費用を半額(上限40万円)助成しており、生産者負担は実質6割ほどで済んでいる。
現在では、経営が軌道に乗り、収入全体のうち7割を繁殖経営が占めている。
ウ 今後の見通し
令和5年産のサトウキビの作付面積は、親族からの承継もあり300アールを超えた。令和4年度には人工授精師の資格を取得し、今後は、和牛の受精卵移植に取り組みたいとし、今後2〜3年のうちに牛舎を増設し、母牛が50頭まで増えたら従業員の雇用を検討している。また、伊禮氏の牛舎では、敷料に島内のライスセンターから出たもみ殻を用いており、今後は、牛糞堆肥をサトウキビ圃場に散布し、循環型農業による付加価値を高めることを考えている。牛糞堆肥の散布は地力の向上にもつながるため、サトウキビの単収の増加も期待される。
コラム 伊是名村のさまざまな農水産物沖縄県では、サトウキビやもずくの栽培が盛んなイメージがあるが、伊是名村では温暖な気候と豊かな水源を利用して米の二期作やイチゴの栽培も行われている。米の品種はひとめぼれで、「尚(しょう)円(えん)の里(さと)」というブランド名で販売されている。例年7月ごろに全国に先駆けて新米が出荷され、最も早く味わえる新米になっている。 イチゴは、高付加価値の作物を栽培することで、新たな特産品および雇用を生み出すことを目的に、平成29年度から沖縄離島活性化推進事業を活用して栽培が始まり、令和元年度に実用化に至った。徹底管理された植物工場から良質なイチゴを安定的に出荷できるため、沖縄本島のホテルやカフェ、ケーキ屋からの需要も高い。コロナ禍前には、本島の小学生を島に招いてイチゴの収穫体験を行い、本島と離島の交流を促していた。 村のふるさと納税では、定番の泡盛やもずく、海ぶどうのほかに、米や米のパスタ、米のプリンなどバラエティ豊かな返礼品がそろっている。皆さまも調べてみてはいかがだろうか。 |