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〜沖縄県伊是名村の若手生産者の取り組み〜

サトウキビ+αの複合経営による経営の安定化
〜沖縄県伊是名村の若手生産者の取り組み〜

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最終更新日:2024年2月9日

サトウキビ+αの複合経営による経営の安定化
〜沖縄県伊是名いせな村の若手生産者の取り組み〜

2024年2月

那覇事務所 河西 真帆
調査情報部 高田 勇一

【要約】

 沖縄県伊是名村では、サトウキビ作農家数の維持のため、甘味資源作物交付金のほか、沖縄県や伊是名村の補助事業を活用しながら、他品目との複合経営により収益性の向上や経営の安定化を目指している。本稿では、県や村の農業支援策について若手生産者2人の事例を交えて報告する。

はじめに

 サトウキビは、沖縄県において基幹作物として位置付けられており、干ばつや台風の襲来といった厳しい気象条件の中でも他品目に比べ安定的に収量を得られることから、特に離島に住む生産者にとって重要な収入源となっている。その一方で、サトウキビ作農家数は県全体で減少傾向にあり(図1)、どの地域も人口減少や高齢化による担い手不足や安定した収入の確保などが課題となっている。

 このような課題を解決するため、県内には新規就農や移住・定住を促進するサポート事業、支援制度を実施している自治体も多く見られる。今回は、V字型回復と言わないまでも、新規就農者の増加によりサトウキビ作農家数の減少に歯止めをかけるとともに、他品目との複合経営による収益性の向上や経営の安定化を支援する伊是名村の取り組みについて紹介する。
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1 伊是名村の概要

 伊是名村は沖縄本島の北部半島からフェリーで約1時間の距離にあり、総面積15.43平方キロメートル、人口1300人ほどの島である(図2)。自然豊かな環境を生かし、サトウキビの生産やもずくの養殖が行われている。

 令和3年の農業産出額(6億4000万円)のうち81.3%(5億2000万円)をサトウキビが占める。もずくの生産も盛んに行われており、平成30年時点の市町村別養殖魚種別収穫量は1118トンと、県内5位の生産量を誇っている。

 伊是名村のサトウキビ生産者数は令和4年産で212人となっており、生産者数は減少傾向にある(図3)。直近10年間のサトウキビ生産実績は、令和元年産が日照不足や病害虫の影響で1万8000トンを下回った以外は、2万トン前後で推移しており、収穫面積は400ヘクタール弱となっている。


 
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2 サトウキビ増産と就農・定住支援の取り組み

(1)伊是名村・JAによるサトウキビ増産に向けた取り組み

 伊是名村やJAおきなわ伊是名製糖工場では、サトウキビ生産者に対し、サトウキビ増産に向けたさまざまな取り組みを行っている。

 同村では、受委託体系が構築されており、村を五つの地区に分け、地区ごとの受託組織が植え付け作業が難しい高齢の生産者の作業を請け負っている。また、ガイダー(注1)の防除作業についても、村単独で一定の予算(令和4年度実績:440ヘクタールに約1000万円)を確保し、ガイダーの発生抑制・単収の増加を図っている。

 一方、JAおきなわ伊是名製糖工場では、優良種苗の無償配布や、堆肥の導入・害虫防除費用の補助などを行っている。

 このように、地域一体となって生産者の負担を軽減し、サトウキビの生産を促すことで、製糖工場の損益分岐点である2万トンの生産量維持を図っている。

 なお、令和5年産は、夏の降水量不足などにより生育が伸び悩み、生産見込みは約1万9500トンとなっている。

(注1)カンシャコバネナガカメムシの沖縄名。成・幼虫が集団で葉の隙間などから吸汁加害し、サトウキビの生育を阻害する。被害を受けた葉は黄変し、甚大な場合は枯死する。

(2)沖縄県・伊是名村による政策的支援

 担い手の育成・確保は、沖縄県および伊是名村により、以下の支援が行われておりどちらも平成24年度に新設された国の新規就農者育成総合対策の一環で、就農前、経営開始直後の新規就農者に対する支援となっている。

 県では、新規畑人(はる さー)資金支援事業(就農準備資金)(以下「県事業」という)により、青年の新規就農を図るべく、就農前の新規就農希望者で、県知事が認める研修機関などにおいて研修を受けた者に対して、就農準備資金を交付している。支援額は年150万円で最長2年間となっている。

 一方、伊是名村では、平成24年度から令和4年度まで伊是名村農業次世代人材投資事業により、経営の不安定な就農直後の青年就農者に対して資金を交付することにより、青年の就農意欲の喚起とその後の定着を図ってきた。令和5年度からは「新規畑人資金支援事業(以下「村事業」という)」に事業名を変更して、従来と同様の支援に取り組んでいる。

 二つの事業の応募要件は、それぞれ表1、表2の要件をすべて満たす者となる。

 このように、県や村では、新規就農者への資金援助を行いながら、若手生産者がサトウキビ生産に加えて新たな作物や家畜を生産し、複合経営を行うことによる収益の向上を支援している。


 
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3 伊是名村若手生産者の取り組み事例

 ここでは、同村で複合経営による経営の安定化に向けた取り組みを行う2人の若手生産者を紹介する。

(1)神山勇太朗氏の取り組み

ア 経営概況
 神山氏はサトウキビ49.8アールとピーマン10アールの複合経営を行っている(写真1、2)。

 現在28歳で、もともと祖父がサトウキビ栽培をしており、「祖父の行うサトウキビ生産をこの先も続けたい」との思いから沖縄本島の農業大学校に進学、その後、島に戻りピーマン栽培を始め、ピーマンの生産体制が落ち着いたことから、徐々に祖父からサトウキビ圃場(ほ じょう)を譲り受けている。就農当時、県事業や村事業をビニールハウスの防風・遮光ネットやパイプの購入費用、苗代などの初期費用に利用した。

 伊是名村でピーマン生産者は神山氏1人だが、本島でピーマン栽培の盛んな具志頭(ぐしかみ)(注2)豊見城(とみぐすく)のピーマン生産者と模合(も あい)(情報交換)を行いながら、生産性の向上に努めている。

(注2)『野菜情報』2020年10月号「沖縄県島尻郡八重瀬町におけるピーマンの生産〜地域ブランド「ぐしちゃんピーマン」の産地形成の取り組み〜」をご参照ください。〈https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2010_chosa01.html



 

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イ ピーマン生産との複合経営
 神山氏がピーマンの生産を始めたのは、(1)農業大学校で扱った経験があった(2)果菜類に分類されるピーマンは、葉物野菜より日持ちすることから、離島から本島へ出荷することができる―などの理由からである。神山氏が栽培している「ちぐさ」という品種は、小さいうちに収穫すると収量が伸びること、長い期間収穫できることもメリットである。

 神山氏のピーマン生産は8月後半に植え付けを行い、10月から翌年6月まで収穫が行われる。植え付け後は、台風シーズンが終わる10月に誘引を行い、11月にハウスにビニールを張り、12月に剪定(せん てい)作業を行う(図4)。

 ピーマン栽培には、もみ殻や米ぬか、サトウキビの葉を緑肥として圃場に散布したり、工場で副産物として生産される糖蜜を薄めて圃場に散布することで、より良い土壌づくりを行っている。

 神山氏のピーマンは、他の生産者との差別化を図るため「ゆーぴー」という商品名で販売しており、特徴は大きくてみずみずしいほか、子どもでも食べられるほど苦味が少ないため、島内の売店や本島のファーマーズマーケット(直売所)で人気が高い(写真3、4)。

 こうしたピーマン生産とともにサトウキビの生産も行っており、春から夏にかけてサトウキビの植え付けを行い、作業時期が重なる冬は午前中にピーマンの収穫、午後はサトウキビの手刈り収穫を行っている。サトウキビ植え付け後は、圃場ごとに設置された放水ポンプ(写真5)で村内のため池の水を簡単に放水でき、収穫期には、村のハーベスタ組合に委託することで省力化を図っている。また、村ではゆいまーる(助けあい)の精神もあり、ピーマンとサトウキビの収穫が忙しい時は、村の青年に声をかけ収穫を手伝ってもらうこともあるそうだ。









 

 

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ウ 今後の見通し
 一度、ピーマンの経営面積をハウス6棟(20アール)まで拡大したことがあったが、管理作業が大変で休む間もなかったことから、現在はハウス3棟(10アール)を管理している。その分、単価の高いLサイズではなくS〜Mサイズを多く出荷し回転率を上げること、自ら梱包作業を行うこと、直売所に卸してコストを削減することで収益性の向上を目指しているほか、将来的にはネット販売も検討している。

 そして、今後は、祖父からさらにサトウキビ圃場を引き継ぐ予定であり、収穫面積の増加や単収の増加を見込んでいる。神山氏が農業を始めたきっかけである「祖父の行うサトウキビ生産をこの先も続けたい」という思いは今後も引き継がれていくことだろう。

(2)伊禮い れい勇作氏の取り組み

ア 経営概況
 伊禮氏は、令和5年5月時点で、サトウキビ18アールを生産するとともに、母牛17頭、子牛11頭を飼養する複合経営を行っている(写真6、7)。サトウキビは幼い頃から身近な存在であったが、父親が人工授精師で畜産業に従事していたことから畜産業への憧れがあった。専門学校卒業後は沖縄本島で介護職に従事していたものの、40歳目前の令和元年に脱サラし、農業大学校へ進学し憧れであった肉用牛繁殖農家となった。それとほぼ同時に、親族からサトウキビの圃場を承継し、サトウキビ生産を始めた。就農前の農業大学校では畜産の勉強をしながら、今帰仁(なきじん)村家畜市場で周辺の肥育農家と繁殖農家の両方から情報収集を行った。

 同家畜市場は子牛の質が良いとの評価から取引価格が高く県外の購買者も多いため、沖縄県内から多くの農家が同家畜市場に出荷している。9カ月齢で300キログラムになる子牛は増体が良く高く売れるため、飼料の配合や給餌する牧草の長さにもこだわっている。なお、母牛用の牧草は7割が自家生産で、子牛用の濃厚飼料はJAから購入している(写真8)。




 

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イ 肉用牛繁殖経営との複合経営
 
サトウキビ生産は比較的手がかからず、複合経営に向いているのがメリットである。植え付け作業や防除作業を村の受託組織に委託することで、空いた時間で、繁殖経営に従事することができる。

 繁殖経営は、他の農作物に比べて初期費用がかかり、伊禮氏は経営開始前に牛舎の建設や母牛16頭の導入に2000万円を要したとのこと。繁殖経営では、母牛を導入してから子牛を売るまでに一定期間を要するため、その間の収入を県事業や村事業、甘味資源作物交付金で賄うことで生活の見通しが立ったと語っている。他にも村では繁殖雌牛の導入費用を半額(上限40万円)助成しており、生産者負担は実質6割ほどで済んでいる。

 現在では、経営が軌道に乗り、収入全体のうち7割を繁殖経営が占めている。
 

ウ 今後の見通し
 令和5年産のサトウキビの作付面積は、親族からの承継もあり300アールを超えた。令和4年度には人工授精師の資格を取得し、今後は、和牛の受精卵移植に取り組みたいとし、今後2〜3年のうちに牛舎を増設し、母牛が50頭まで増えたら従業員の雇用を検討している。また、伊禮氏の牛舎では、敷料に島内のライスセンターから出たもみ殻を用いており、今後は、牛糞堆肥をサトウキビ圃場に散布し、循環型農業による付加価値を高めることを考えている。牛糞堆肥の散布は地力の向上にもつながるため、サトウキビの単収の増加も期待される。

 

コラム 伊是名村のさまざまな農水産物

 沖縄県では、サトウキビやもずくの栽培が盛んなイメージがあるが、伊是名村では温暖な気候と豊かな水源を利用して米の二期作やイチゴの栽培も行われている。

  米の品種はひとめぼれで、「尚(しょう)円(えん)の里(さと)」というブランド名で販売されている。例年7月ごろに全国に先駆けて新米が出荷され、最も早く味わえる新米になっている。

 イチゴは、高付加価値の作物を栽培することで、新たな特産品および雇用を生み出すことを目的に、平成29年度から沖縄離島活性化推進事業を活用して栽培が始まり、令和元年度に実用化に至った。徹底管理された植物工場から良質なイチゴを安定的に出荷できるため、沖縄本島のホテルやカフェ、ケーキ屋からの需要も高い。コロナ禍前には、本島の小学生を島に招いてイチゴの収穫体験を行い、本島と離島の交流を促していた。

  村のふるさと納税では、定番の泡盛やもずく、海ぶどうのほかに、米や米のパスタ、米のプリンなどバラエティ豊かな返礼品がそろっている。皆さまも調べてみてはいかがだろうか。




 

おわりに

 沖縄県の各島における農業は、暖かい風土、豊富な資源と恵まれた条件にある一方、台風の脅威などの厳しい自然条件や島しょであるための地理的不利などこれまでさまざまな試練を乗り越え、サトウキビと野菜、畜産などとの複合経営を実践することにより着実に発展してきた。

 今回訪れた伊是名村でも、生産者の高齢化が進む中、島を盛り上げようと沖縄本島からUターンし、さまざまな事業を活用しながら、サトウキビと野菜、サトウキビと畜産といった複合経営により島の基幹産業を守ろうとする意欲的な若手生産者の姿が見られた。

 人口減少や高齢化による担い手不足、農作業の効率化・省力化や安定した収入確保など、島しょ地域の農畜産業にもさまざまな課題があるが、ゆいまーるの精神で生産者、行政、JAなど地域関係者が一体となった取り組みにより、島のサトウキビをはじめとする農業がますます発展し、全体として良い方向に進んでいくことを期待したい。

 最後に、本稿の執筆に当たりご協力いただいた神山勇太朗氏、伊禮勇作氏、伊是名村農林水産課神田課長、東江(あがりえ)主事、JAおきなわ伊是名製糖工場東江(あがりえ)氏ほか、取材にご協力いただいた皆さまに厚く御礼申し上げます。

 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272