同社では正社員や季節工を募集するも充足されていない。正社員に関しては島外出身者・中途採用者も多いが、島出身者も含めて、採用後1、3、5、10年目が「退職が懸念されるタイミング」だという。調査時点も、正社員は欠員が出ている状況であった。
季節工は46人いる。40歳代・50歳代の男子が多く、製糖期以外は沖縄本島、本土で働いており、中には北海道出身者もいる。毎期、季節工の約半数は、過去にも同工場季節工として従事した経験があるリピーターであった。しかし彼らに正社員への転換を勧めるも、断られるという。工場は毎年、季節工の新規獲得に向け、岩手県などで募集をかけている。しかし働き方改革で製糖期間中の賃金目減りも予想される中、賃金水準に非常に関心をもつ彼らへのアピールが難しくなっている。別の価値観を持つ、例えば「就業時間の長さや負荷の大きさを考え、三交替でよい」という存在に、期待するほかない。なお現時点で予定されている勤務形態は三直二交替で、12時間勤務→12時間勤務→休み→……、を繰り返す(毎日4時間の残業)。それが時給の引き上げを伴うかどうかは、調査時点で未定であった。
正社員の獲得も季節工確保も手詰まりとなる中で、同社が有望視しているのが、特定技能の労働力であった。彼らは同社が直接雇用しているが、リクルートや面接、入国の諸手続、彼らとの複雑なやり取り時の通訳は、登録支援機関であるT組合に委託している。特定技能に関連して出入国在留管理庁に提出する書類が多く、T組合の支援は欠かせないと同社では認識している。特定技能に関しては、来日時に初期費用がかかるほか、T組合に毎月、支援機関委託料を支払う。T組合はインドネシア側の複数の送り出し機関と連携しており、同社ではT組合と将来的にも関係を保っていく予定である。
同社と特定技能との契約は1年更新である。工場側からは採用時、3年間という勤務期間希望を伝えるが、拘束力がある訳ではない。特定技能1号では最長でも5年間の滞在となるため、工場としては彼らに、滞在期間を延長できる特定技能2号の受験を要望するが、実際に滞在につながるかは不確かである。工場内では、工務のベテラン正社員や季節工のリピーターに手当をつけて彼らの指導にあたらせる。社員からの彼らの印象は、明るく、業務にも日本語習得にも熱心と、肯定的なものである。工場そして島に若者が増えたことによる活気を喜ぶ声も聞かれる。
特定技能の中には過去に技能実習生としての来日経験のある者もおり、その場合日本語でのやりとりも可能であることもあるが、語学力、特に読み書きにおいては個人差が大きい。イスラム教徒が多いことと関連して、工場の食堂での提供メニューや弁当の献立には配慮するが、通常以上の対策が必要であったのは現時点では豚肉の混入だけであった。断食期間中は一般に体調を崩しやすいため、彼らの工場内での転倒や事故に備えた安全管理体制を、T組合とも相談しながら構築していく予定である
(注6)。
ところで近年増加傾向にあるインドネシアから日本への送り出しについては、もちろん日本での賃金水準という魅力もあるが、現地政府・民間をあげた「追い風」ともいうべき状況が、別の事情で生まれている。インドネシア政府は独立100周年をにらみ、国家開発目標 “2045 Indonesian Vision”を掲げているが、その早期達成(2016-25年)課題の一つに「勤勉で知識と技術に精通した人材の育成」がある。こうした、資本制社会に適合的ともいうべき人材の育成に当たって、インドネシア人が日本をはじめ国外の労働市場に参画することが、有効な手段の一つと見られているのであって
(注7)、そこにインドネシア政府の、国内資本主義経済の拡大にむけた、真剣な姿勢を捉えることができる。同時に、インドネシアにある送り出し機関などの充実
(注8)なども加わって、当面インドネシアから日本への送出が継続されることを予想させる。
(注6)2022/23年期は断食期間が製糖期と数日重なっただけであったため、本格的な対応は2023/24年期に持ち越された。
(注7)山口(2023)4)によれば2023年9月、インドネシア労働省主催で開催された日本への技能実習生の壮行会の場で、イダ労働大臣は参加者らに、出発前の10万円の奨励金の給与、プログラム修了者が帰国後に独立・起業した際応募できる奨励金の存在などを伝え、国外で質の高い労働力としての知識やスキル、勤勉などの習慣を身につけてくること、それらを帰国後の起業や就職によってインドネシア社会に広めることを訴えた。これは、これから日本へ向かう壮行会でのスピーチであることを割り引いても、現インドネシア政府がもつ、国外で資本制社会の労働者として鍛錬されることへの期待と、将来の労働力送り出し推進の姿勢継続を示したものであろう。他にも2045インドネシア・ビジョンとの関連で、海外での就労経験を通じたインドネシア労働者の成長、彼らの送り出しのためのインドネシア国内体制の充実が、しばしば期待を込めて言及されている(例えば、Jiwa Muda Indonesia紙、2022年12月26日付〈https://www.jiwamudaindo.com/indonesias-2045-vision-in-the-field-of-employment/〉〈2024/2/9アクセス〉を参照されたい)。
(注8)ワオデ(2023)5)によれば、数や研修内容を充実させつつある在インドネシア仲介業者、法令や手続き規則の整備、通信や支援の仕組みの充実(Xiang and Lindquist (2014)6)のいう「移住インフラストラクチャー」)が、労働移動の促進と反復化をもたらしている。また、過去に日本で技能実習を経験した者が、帰国後に自らが送り出し機関として起業・就業し、この「移住インフラストラクチャー」を再強化するという。