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最終更新日:2024年4月10日
〜コラム バンダバーグ市のラム酒〜サトウキビを原料に生産されるラム酒は、通称「バンディ」の愛称で知られている。このバンディの製造は、1888年にサトウキビ生産地であるバンダバーグ市で開始された。同市では69年以降からサトウキビの栽培が盛んになり、現在でもサトウキビの産地として有名である。ラム酒は製糖工程で生じる副産物の糖蜜(以下「モラセス」という)から作られる。このモラセスは糖分50%、無機塩15%、他有機物10%および水分25%を含んでいる。バンダバーグ市の製糖期間は7月〜11月の5カ月間のみであるため、1年を通じてバンディが製造できるよう、製糖工程で発生したモラセスは貯蔵タンク(最大1000万リットル=オリンピックのプールサイズ四つ相当)に保管される。バンディの製造工程は大きく4段階あり、浄化、発酵、蒸留、熟成に分けられる。まず、浄化工程では蒸留工程で発生した液体と水を使用してモラセスを薄める。その後、熱を加えながら薬品を加え、不純物を沈殿させ、遠心分離機で取り除く。次の発酵工程では、酵母菌を使用して約36時間発酵させる。この酵母菌がモラセス内の糖分を分解し、アルコール度数8%のエタノールを作る。発酵を終えたモラセスは次の蒸留工程で8%から78%までアルコール濃度を上昇させる。その後、シラカシの木材6トンを用いて作られた一つ6万リットルの容量をもつ大樽で熟成される。この熟成期間は最低2年間となり、熟成中にカラメルが加えられる。最後に純水と混ぜ、瓶に詰めて出荷される。豪州版の地酒ともいうべきバンディは、ワインと並び豪州を代表するお酒とされている。 |
(注5)詳細については、2023年5月24日付海外情報「豪英FTAおよびNZ英FTAが5月31日に発効(豪州、NZ)」〈https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003537.html〉を参照されたい。
これらの主要輸出先の輸入状況を見ると、韓国は、豪州およびタイからの輸入が主流となっている(図5)。14年12月に豪韓FTAが発効され、粗糖の関税が3%から無税となったことを機に輸入が増加し、一時的に豪州からの輸入が150万トンと輸入量全体の9割を超過した。その後、タイの増産を受けて同国からの輸入も再び増加傾向にあり、23年には豪州とタイの両国から同等の数量が輸入されている。
日本は、かつてタイが主要輸入先であったが、日豪EPA(15年1月発効)およびCPTPP(18年12月発効)により、高糖度粗糖(糖度98.5度以上99.3度未満。以下「ハイポール」という)への関税および調整金の条件が緩和されたことで、豪州からの輸入が増加し、23年は豪州産が輸入量全体の92%に拡大している。
インドネシアは、国内の需要拡大とともに輸入数量が増加傾向にあり、23年には480万トンに拡大している。また、かつてはタイおよびブラジルが主要輸入先であったが、18年にブラジルと交渉した3年間の免税アクセスが終了し、2年間ブラジルの輸入が止まっていた。その後、タイで発生した干ばつにより収量が減少したため、2年ぶりにブラジルからの輸入が再開された。一方で20年に豪州との包括的経済連携協定(IA−CEPA)が発効したことで、関税率は1キログラム当たり550インドネシアルピア(5.4円)から5%に削減された。この結果、21年はタイ、ブラジル、豪州から平均的に輸入しており、22年、23年は豪州産がブラジル産に次ぐ輸入状況にある。
英国は、ブラジルおよびガイアナが主要輸入先であるが、豪英FTAの発効を受けて約50年ぶりに約7万トンの粗糖が豪州から無税で輸入された。QLD砂糖公社によると、順調な出荷状況を踏まえ24年は関税割当(10万トン)はすべて消化する見込みとされている。
また、豪州の主要輸出先3カ国(韓国、日本、インドネシア)の輸入(CIF)価格を見ると、それぞれ国際相場と連動しており、近年は国際相場の高騰に伴い、右肩上がりで上昇している(図6)。英国の輸入価格は、輸入が再開された23年9月からのデータのみであるが、主要3カ国に比べて高く、また、英国は1973年にEUの前身であるEEC(European Economic Community)に加盟する前は豪州の主要な砂糖輸出先であり、英国は豪州の砂糖輸出量の約3分の1を輸入していた。このような背景からも、今後の主要輸入国および英国の価格動向が注目される。
豪州の砂糖輸出港を見ると、主に六つに集約され、それらの湾岸施設はサトウキビ生産者と製糖工場とで所有するシュガー・ターミナル株式会社(STL)が管理しており、砂糖以外にも木材ペレットや石こう、けい砂なども取り扱っている(図7)。日本向け粗糖(ハイポール)は、他国向けと糖度が異なるため倉庫内で分別する必要がある。現地での聞き取りでは、日本向けに対して製糖工程では特段の追加費用は発生しないものの、倉庫での仕分けや区分管理などの追加作業が加わることで、1トン当たりおよそ3〜5豪ドル(300〜500円)程度の追加負担が発生しているとのことであった(写真5、6)。