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ガムを「噛むこと」によるさまざまな作用

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最終更新日:2024年5月10日

ガムを「噛むこと」によるさまざまな作用

2024年5月

株式会社ロッテ 噛むこと研究部 菅野 範

1 チューインガム(ガム)の歴史1,2)

 ガムの発祥は西暦300年ごろメキシコ南部からグアテマラなどに住んでいたマヤ人にその源を求めることができます。当時、同地方にサポディラと呼ばれる巨木が生えており、住民はこの木の樹液のかたまりを()む習慣を持っていました。この樹液のかたまりがチクルと呼ばれ今日のガムの元祖となりました。チクルを噛む習慣はメキシコインディオやスペイン系移民の間にも広がっていき、1860年に甘味料などを加えないチクルをあめ玉状にしたものが売り出され、その後甘味料やハッカ、ニッキなどが加えられ、世界に普及しました。

 日本にガムが初めて輸入されたのは大正時代でしたが、当時の食習慣などに合わず、ヒットに至りませんでした。日本での広まりは第二次世界大戦後。日本に進駐したアメリカ兵がガムを噛んでいたことから、新しいファッションとして子どもや若者に人気となり、生活の洋風化とともに愛好者を急増させました。

 その後日本では、1980年代には眠気や息をスッキリさせるガム、1990年代には歯の健康に役立つキシリトール入りのガムなど機能性を持ったガムが人気となりました。

2 国内ガム市場の近況

 日本チューインガム協会が公表している統計によると3)、歯の健康に役立つキシリトール入りのガムといった機能性ガムのけん引により、ガム小売金額は2004年にピーク(1881億円)を迎えました。ただ、口臭ケアでの錠菓(タブレット)の台頭や、暇つぶしなどのすき間時間でのスマートフォンへの代替、車の運転や新型コロナ禍での外出機会の減少などさまざまな要因がある中で、翌2005年から2022年まで小売金額は下降の一途をたどり続け、2022年には710億円と2004年比で実に37.7%にまで落ち込んでいました(図1)。



 

 しかしながら2023年、ガムは前年比増に転じており、その要因として新型コロナ禍におけるマスク着用ルールの緩和や、感染症5類移行したことに伴うマスクなしでの対面で人と会う機会の増加に加え、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で選手たちがガムを噛んでいたことの話題化、さらには噛むことのさまざまな機能がメディアで取り上げられたことなどが考えられます(写真)。

 このように、ガムならではの特徴を伝えることで、ガム市場の再拡大は十分に可能であると考えており、本稿ではガムのいつまでも噛み続けられるという特徴を生かした研究成果など、「噛むこと」のさまざまな作用についてご紹介したいと思います。
 
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3 高齢者の口腔機能への作用

 近年の研究から、高齢者の口腔機能の低下と体の衰えや認知機能低下との関係性が明らかになっています4-6)。また、お口のささいな衰え(オーラルフレイル)を検出する6項目の質問票(残存歯が20本未満、滑舌(かつ ぜつ)の低下、咀嚼( しゃく)能力の低下、舌圧(ぜつ あつ)の低下、噛む力、嚥下(えん )〈飲み込む〉能力の主観的低下)のうち、3項目以上該当した場合をオーラルフレイル者とした約4年間の研究では、オーラルフレイルであった高齢者は要介護認定リスク・死亡リスクが2倍以上高いことが示されました7)。したがって、口腔機能を維持・改善するためには、歯ごたえのある食品を積極的に取り入れることや、栄養バランスの取れた食事をよく噛んで食べることが重要となりますが、ガムを活用して咀嚼・口腔トレーニングを行うことも口腔機能に良い影響を及ぼす結果が得られています。

 噛む力の衰えを自覚する高齢者に1回5分程度のガム咀嚼トレーニングを1日3回、2カ月間行ってもらったところ、ガムを噛まなかった方と比較して噛む力が向上するという結果が出ています8)。また、自立高齢者において、週に30分以上ガムを噛む習慣のある方をガム噛み習慣群とし、ガム噛み習慣の無い方と健康状態について比較したところ、ガム噛み習慣群は噛む力〈咬合(こう ごう)力〉、咀嚼能力などの口腔機能が有意に高く、オーラルフレイルの有症率が約4割低かったのです。さらには、噛む力といった口腔機能のみならず、握力やバランス能力、通常歩行速度などの身体能力も高く、認知機能テストの点数も高いということが明らかになりました(図2)9)。この結果から、ガム噛み習慣を促進することはオーラルフレイル予防や身体機能維持に役立つ可能性が考えられます。
 
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4 健康・美容への作用

(1)免疫、自律神経および気分への影響

 唾液は、成分の大部分は水分ですが、酵素や免疫に関する物質などさまざまな要素で構成され、口腔だけにとどまらず全身の健康に関与しています10)。唾液成分の一つである分泌型免疫グロブリンA (S-IgA)は多くの哺乳類の粘膜表面において主要な免疫物質です11)。S-IgAは細菌やウイルス、毒素と結合することで、これらの細胞への接着や取り込みを阻止し、多様な病原体に対する防御を担っています11)。一方でS-IgAは慢性的なストレスで減少することが知られています12)。健康な方にガム咀嚼を1日3回(1回10分程度)2週間続けてもらったところ、噛まなかった方と比較して唾液中のS-IgA濃度が高まり、さらにはネガティブな気分や自律神経バランスも改善するという結果が得られました13)。歩行や呼吸、咀嚼といったリズム運動は幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンの分泌を高めることが報告されています14)。これらのことから、ガムを継続的に噛むことがセロトニンの分泌を促進し、日ごろのストレスを軽減することで、唾液中の免疫物質の増加や気分の改善につながったことが考えられ、ガム咀嚼によって心と体両面の改善が期待できます。

(2)フェイスラインへの影響

 小顔に憧れる方は多いかと思います。顔にはさまざまな筋肉が存在し、表情筋と呼ばれている表情を作るために必要な筋肉や、咀嚼に必要な咀嚼筋などがあります15, 16)。これらの筋肉を鍛えることにより、小顔阻害要因の一つであるたるみ改善を目指した美容器具やメソッドも多々あります17-19)。「噛むこと」も簡便に咀嚼筋を動かし、連動して舌の筋肉や表情筋など多くの筋肉へ作用することが知られていますが20-22)、逆に筋肉が発達することでエラが張るなどマイナスなイメージを持たれている方も多いと思います。そこで、ガム咀嚼トレーニングによるフェイスラインへの影響を、20-40歳代の健康な女性を対象に検証しました。ガム咀嚼を毎食前3回(1回10分程度)、8週間実施してもらい、左右のフェイスライン角度と皮膚の弾力性を測定しました。その結果、ガム咀嚼をした方は、しなかった方と比較してフェイスライン角度が増加し、フェイスラインの引き締め効果が示唆されました(図3)23)。皮膚弾力性の測定結果から、あご下のたるみが改善された可能性も示唆されました。
 
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(3)毛髪との関連性

 20歳以上の男女に実施したインターネット調査によると、約44%が「抜け毛」や「薄毛」、「脱毛」の進行を感じているという結果となり、日本国内約4500万人の方が悩みを抱えていることになるとされています24)。また、育毛剤には頭皮血流増加成分が配合されており25)、頭皮マッサージによって血流上昇作用や毛髪が太くなることが報告されています26, 27)。一方、ガム咀嚼によっても前頭部や頭頂部の血流が増加することが明らかになっています28)。さらに、20-59歳の健康な男女を対象に、ガム咀嚼時間と毛髪の太さの関係性について研究を行ったところ、1日の平均ガム咀嚼時間が30分以上(平均咀嚼時間約50分)の方はそれ未満の方より、頭頂部の毛髪径が太く、日常的なガム咀嚼が毛髪へ影響を及ぼす可能性が示唆されました(図4)29)
 
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5 子どもへの作用

 近年、食事の軟食化などが原因で子どもの口腔機能の発達不足が課題となっています。咀嚼や会話などさまざまな機能を発達不足のまま放置すると、日常的に口が開いてしまう「お口ポカン」の症状が現れることもあり、子どもの3割にその症状があるという研究結果もあります30)。「お口ポカン」は歯並びや滑舌の悪化につながったり、むし歯や歯周病さらにはアレルギーなどさまざまなトラブルの要因となったりすることが分かってきています。口腔機能を楽しく発達させる方法としてシャボン玉を作ったり、吹き戻しで遊んだりなどお口遊びが推奨されていますが、その一つとしてフーセンガムを膨らませることをお勧めしています。フーセンガムはガムを噛み、舌でガムを丸めたり、舌と上あごで押しつぶしたり、口をすぼめて膨らませるため、楽しみながら舌や口周りのトレーニングが出来ます。実際に、年中クラスから小学2年生までのお子さんに1日10分、1カ月間フーセンガムトレーニングを行ってもらったところ、トレーニングをしなかったお子さんに比べ、唇の機能が向上し、親御さんの認識としてお口ポカンや滑舌が改善する結果が得られ31)、子どもの口腔機能の健全な発育の一助になることがわかりました(図5)。

 また、スポーツや勉強の場面でも噛むことが作用することがわかっており、女子中学生を対象とした研究ではガム咀嚼を1日3回、1カ月間実施してもらったところ、トレーニングをしなかった生徒より噛む力が強くなり、0-10メートルのスタートダッシュが速くなるという結果が出ています32)。また、中学2年生を対象に、14週間ガムを噛みながら数学の勉強を行ってもらったところ、噛まなかった生徒と比べ数学のテストの点数が高くなるという結果が出ています33)。ガムを噛むことで集中力や脳血流が高まるという結果も出ているので、そういった作用が今回の結果につながった可能性が考えられます。よって、噛むことは子どもに対してもさまざまな良い影響をもたらすことが可能です。
 
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おわりに

 本稿では、「噛むこと」によるさまざまな研究成果について紹介しました。「噛むこと」はあらゆる世代に良い影響を及ぼすことが分かっていますが、食事の軟食化などに伴い噛む回数が減ってきているのが現状です。

 ガムはいつまでも噛み続けられるのが特徴で、噛むツールとして適した食品だと考えています。ただし、普段あまり噛まれていない方が急に噛みすぎてしまいますと、あごを痛めてしまったりする場合もありますので、ご注意頂ければと思います。噛むことが不足しがちな現代において、咀嚼トレーニングツールとして、あるいは集中したいとき、ストレスがたまったときなどにガムを噛んで頂き、皆さまの生活の質改善の一助になれば幸いです。

 また、本稿掲載日に近い6月1日は「チューインガムの日」(平安時代に餅などの固いものを食べて健康と長寿を祈る「歯固め」の風習があったことに由来)となっています。ガムを通じて噛むことの大切さを考える機会になればと思います。
 
 参考文献
 1)村田剛(2019)『学研まんがでよくわかるシリーズ147 ガムのひみつ』学研 pp.130-131.
 2)日本チューインガム協会「チューインガムの歴史」<https://chewing-gum.jp/>(2024/4/8アクセス)
 3)日本チューインガム協会「チューインガムの統計」<https://chewing-gum.jp/>(2024/4/8アクセス)
 4)Watanabe Y, etal (2017)「Relationship Between Frailty and Oral Function in Community-Dwelling Elderly Adults」J Am Geriatr Soc, 65(1) pp.66-76.
 5)Miura H, et al(2003)「Relationship between cognitive function and mastication in elderly females」J Oral Rehabil, 30(8) pp.808-811.
 6)Hatta K, et al(2020)「Occlusal force predicted cognitive decline among 70- and 80-year-old Japanese: A 3-year prospective cohort study」J Prosthodont Res, 64(2) pp.175-181.
 7)Tanaka T, et al(2018)「Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly」J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 73(12) pp.1661-1667.
 8)Kashiwazaki K, et al(2023)「Improvements in Maximum Bite Force with Gum-Chewing Training in Older Adults: A Randomized Controlled Trial」J Clin Med, 12(20) 6534pp.
 9)Kawamura J, et al(2024)「Relationship between a gum-chewing routine and oral, physical, and cognitive functions of community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study」 Geriatr Gerontol Int, 24(1) pp.68-74.
 10)Pedersen AML, et al(2018)「Salivary secretion in health and disease」 J Oral Rehabil, 45(9) pp.730-746.
 11)Corthésy B(2013)「Multi-faceted functions of secretory IgA at mucosal surfaces」Front Immunol, 4.185.
 12)Bosch JA, et al(2002)「Stress and secretory immunity」Int Rev Neurobiol, 52 pp.213-253.
 13)菅野範ら(2022) 「ガム継続摂取による免疫および自律神経,ストレスへの影響―オープンランダム化並行群間比較試験―」『薬理と治療』50(6) pp.1049-1054.
 14)Kamiya K, et al(2010)「Prolonged gum chewing evokes activation of the ventral part of prefrontal cortex and suppression of nociceptive responses: involvement of the serotonergic system」J Med Dent Sci, 57(1) pp.35-43.
 15)Arx TV,et al(2018)「The Face – A Musculoskeletal Perspective. A literature review」Swiss Dent J, 128(9) pp.678-688.
 16)McComas AJ(1998)「Oro-facial muscles: internal structure, function and ageing」Gerodontology, 15(1) pp.3-14.
 17)Nishimura H, et al(2017)「Analysis of morphological changes after facial massage by a novel approach using three-dimensional computed tomography」Skin Res Technol, 23(3) pp.369-375.
 18)西銘亮ら(2018) 「表情筋ローラーの及ぼす効果」『名古屋文化短期大学研究紀要』pp.13-19.
 19)金子剛ら(2019) 「化粧品美容液とフェイシャルマッサージを併用した際の,顔のたるみとほうれい線に対する効果」『診療と新薬』56 pp.763-768.
 20)増田裕次(2016)「口から食べるということと脳」『日本顎咬合学会誌』36 pp.231-234.
 21)Herring SW, et al(1979)「Functional heterogeneity in a multipinnate muscle」Am J Anat, 154(4) pp.563-576.
 22)服部佳功(1991)「三次元咬合力に基づく咬筋の機能的分化に関する研究」『東北大歯誌』10 pp.1-11.
 23)松井美咲ら(2023)「ガム咀嚼によるフェイスラインへの影響 -オープンランダム化並行群間比較試験-」『アンチ・エイジング医学』19 pp.247-251.
 24)リーブ21:News Release「あなたの髪は大丈夫?「全国薄毛リスク調査 2019」結果発表」(2019)
<https://www.reve21.co.jp/files/2019/NewsRelease_2019082002.pdf>(2024/4/8アクセス)

 25)小友進ら(2002)「ミノキシジルの発毛作用について」『日薬理誌』119 pp.167-174.
 26)曽我元ら(2014)「地肌マッサージの頭皮への作用」J Soc Cosmet Chem Jpn, 48 pp.97-103.
 27)Koyama T, et al(2016)「Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue」Eplasty, 16, e8.
 28)松井美咲ら(2022)「ガム咀嚼による頭皮血流への影響―オープンランダム化クロスオーバー比較試験―」『薬理と治療』50(9) pp.1605-1609.
 29)大島直也ら(2021) 「ガム咀嚼習慣による毛髪への影響―観察研究―」『日本抗加齢医学会雑誌』17(2) pp.82-85.
 30)Nogami Y, et al(2021)「Prevalence of an incompetent lip seal during growth periods throughout Japan: a large-scale, survey-based, cross-sectional study」 Environ Health Prev Med,26(1) p.11.
 31)菅野範ら(2023)「フーセンガムトレーニングによる子どもの口腔機能への影響」『薬理と治療』51(1) pp.105-112.
 32)菅野範ら(2020)「ガム咀嚼トレーニング介入が中学生の咬合力と運動能力に及ぼす影響」『スポーツ歯学』24(1) pp.12-17.
 33)Johnston C, et al(2012)「Brief report: gum chewing affects standardized math scores in adolescents」 J Adolesc, 35(2) pp.455-459.

 
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