改正食料・農業・農村基本法について
最終更新日:2024年8月9日
改正食料・農業・農村基本法について
2024年8月
農林水産省大臣官房政策課
企画官 加集 雄也
1 はじめに
本誌2024年1月号において、「食料・農業・農村基本法の検証・見直しについて 〜食料・農業・農村政策審議会答申の概要〜」として、食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会による答申までの過程についてご紹介させていただきました
(注1)。
その後、令和5年12月27日に、岸田文雄内閣総理大臣を本部長とする官邸本部(食料安定供給・農林水産業基盤強化本部)により、「食料・農業・農村基本法の改正の方向性」が示されました。
これらを踏まえて、令和6年2月27日に「食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案」が閣議決定された後、第213回通常国会に提出され、3月末より改正法案の審議が行われました。改正法案は、国会審議の過程で一部の修正が行われ、同年5月29日に可決・成立、6月5日に公布・施行に至りました。
本稿では、改正食料・農業・農村基本法(以下「改正基本法」という)の内容についてご紹介します。
(注1)詳しくは、(https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003052.html)をご参照ください。
2 改正基本法
基本法の制定から四半世紀が経過する中で、世界的な食料需給の変動、地球温暖化の進行、わが国の人口の減少などの食料・農業・農村をめぐる情勢の変化が生じ、基本法制定時の前提が大きく変化してきました。こうした変化を踏まえて、基本理念や関連する基本的施策の見直しを行いました(図)。
(1)基本理念
改正基本法では、食料安全保障の確保(第2条)、環境と調和のとれた食料システムの確立(第3条)及び多面的機能の発揮(第4条)、農業の持続的な発展(第5条)、農村の振興(第6条)を基本理念としました。
まず、食料安全保障について、全体としての食料の確保(食料の安定供給)に加えて、国民一人一人がこれを入手できるようにすることを含むものへと再整理しています。
また、国内人口が減少する中にあっても、食料安全保障の観点から、国内の農業生産の増大を基本に、輸入・備蓄を行うという食料安定供給の基本的考え方は堅持することとし、その上で、食料安定供給を図る上での生産基盤等の重要性、国内供給に加えて輸出を通じた食料供給能力の維持、安定的な輸入・備蓄の確保といった新たな視点を追加しています。
また、食料の安定的な供給に向けては、農業生産の基盤や食品産業の事業基盤等が確保されていることが重要であるとし、海外への輸出を図ることで、農業及び食品産業が発展し、これを通じて食料の供給能力の維持が図られなければならない旨を規定しています。
加えて、食料の合理的な価格の形成に当たっては、食料の生産から消費に至る各段階の関係者が有機的に連携して行う一連の活動を「食料システム」と定義し、その関係者により食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならないことを明確化しています。
環境と調和のとれた産業への転換に向けては、食料システムが環境に負荷を与えている側面にも着目し、多面的機能に加え、環境への負荷の低減が図られ、環境との調和が図られなければならない旨を規定しています。
農業の持続的な発展に関して、人口減少に伴う農業者の減少や、気候変動等の農業を巡る情勢の変化といった状況においても、今後のあるべき農業生産の姿として、(1)生産性の向上(2)付加価値の向上(3)環境負荷低減−の3点を農業生産の目指すべき方向性として新たに規定しています。
農村の振興に関しては、人口の減少など、農村をめぐる情勢の変化が生ずる状況においても、地域社会が維持されるよう、農村の振興が図られなければならないとの視点を追加しています。
以上のように基本理念を再整理した上で、各分野について具体的な施策の方向性を定めています。
この他、食料・農業及び農村に関する団体は、その団体が行う農業者、食品産業の事業者、地域住民または消費者のための活動が、基本理念の実現に重要な役割を果たすものであることに鑑み、これらの活動に積極的に取り組むよう努める旨、規定しています。
また、食料安全保障の抜本的な強化を図るに当たり、食料安全保障上のさまざまな課題の性質に応じて評価を行う必要があることから、食料・農業・農村基本計画において、食料自給率に加え、食料安全保障の確保に関する目標を設定することとしています。平時から食料安全保障の状況を定期的に評価することが重要との考えの下、毎年これらの進捗状況を公表すること等を通じて、PDCAを回す仕組みを導入するなどの見直しを行うこととしています。
(2)食料安全保障の確保
食料安全保障の確保に向けた施策の方向性として、以下の内容を新たに規定しています。
ア 幹線物流やラストワンマイル等の、国民一人一人の食料安全保障上の課題に対応するための食料の円滑な入手の確保(第19条)
イ 食品産業の持続的な発展に向けた、環境負荷低減、円滑な事業承継、先端的技術の活用、海外展開(第20条)
ウ 農産物、生産資材の安定的な輸入に向けた、官民連携による輸入相手国の多様化、輸入相手国への投資の促進(第21条)
エ 輸出促進に向けた、輸出産地の育成、輸出品目団体の取組の促進、輸出相手国における販路拡大支援、知的財産の保護(第22条)
オ 持続的な供給に要する合理的な費用を考慮した価格形成に向けた、関係者による理解の増進、合理的な費用の明確化の促進(第23条)
カ 不測の事態が発生するおそれがある段階から、食料安全保障の確保に向けた措置の実施(第24条)
(3)農業の持続的な発展
農業の持続的な発展に向けた施策の方向性として、以下の内容を新たに規定しています。
ア 効率的かつ安定的な農業経営を営む者(担い手)の育成・確保を引き続き図りつつ、農地の確保に向けて、担い手とともに地域の農業生産活動を行う、担い手以外の多様な農業者を位置付け(第26条)
イ 家族経営に加えて、農業法人の経営基盤の強化に向けた、経営者の経営管理能力向上、労働環境の整備、自己資本の充実(第27条)
ウ 農地集積に加えて、農地の集約化・農地の適切かつ効率的な利用(第28条)
エ 防災・減災、スマート農業、水田の畑地化も視野に入れた農業生産基盤の整備、老朽化への対応に向けた保全(第29条)
オ スマート農業技術等を活用した生産・加工・流通の方式の導入促進や新品種の開発などによる「生産性の向上」(第30条)
カ 6次産業化、高品質の品種の導入、知的財産の保護・活用などによる「付加価値の向上」(第31条)
キ 環境負荷低減に資する生産方式の導入などによる「環境負荷低減」を位置付け(第32条)
ク 人口減少下において経営体を支える「サービス事業体」の活動の促進(第37条)
ケ 国・独立行政法人・都道府県等、大学、民間による産学官の連携強化、民間による研究開発等(第38条)
コ 家畜伝染病・病害虫の発生予防・まん延防止の対応(第41条)
サ 生産資材の安定確保に向けた良質な国内資源の有効活用、輸入の確保や、生産資材の価格高騰に対する農業経営への影響緩和の対応(第42条)
(4)農村の振興
農村の振興に向けた施策の方向性として、以下の内容を新たに規定しています。
ア 農地等の保全に資する共同活動の促進(多面的機能支払)(第44条)
イ 農村との関わりを持つ者(農村関係人口)の増加に資する、地域資源を活用した事業活動の促進(第45条)
ウ 中山間地域の振興に資する農村RMO(注2)の活動促進(第47条)
エ 農福連携(第46条)、鳥獣害対策(第48条)
オ 農泊の推進や二地域居住の環境整備(第49条)
(注2)農村型地域運営組織のこと。複数の集落の機能を補完して、農用地保全活動や農業を核とした経済活動と併せて、生活支援等地域コミュニティの維持に資する取組を行う組織。
3 おわりに
現行基本法の検証を開始して以来、法案の国会での可決・成立に至るまで、約1年半をかけて検討・審議を行ってまいりました。また、今国会では、基本法改正法案に加え、関連法案として「食料供給困難事態対策法案」「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案」「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律案」も成立しました。
今後は、これらについて、食料システム関係者の皆さまに広く知っていただくため、周知活動を行っていきたいと考えております。また、改正基本法による新たな農政の実現に向けた施策を具体化させるため、今年度中に「食料・農業・農村基本計画」を策定することとしていますので、これを実効性のあるものとできるよう、引き続き、関係者の皆さまから幅広く意見を伺いながら、さらに検討を深めてまいります。
加集 雄也(かしゅう ゆうや)
【略歴】
平成25年農林水産省入省。
食料産業局食品製造課(JAS制度の見直し)、大臣官房政策課(食料・農業・農村基本計画(令和2年3月)の策定)、民間企業への出向等を経て、令和5年6月から大臣官房政策課にて、食料・農業・農村基本法の見直し、次期食料・農業・農村基本計画の策定等を担当。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272