ビレットプランタ植え付けで省力化へ〜鹿児島県奄美地域におけるケーンハーベスタ採苗向け種苗生産技術〜
最終更新日:2024年10月10日
ビレットプランタ植え付けで省力化へ
〜鹿児島県奄美地域におけるケーンハーベスタ採苗向け種苗生産技術〜
2024年10月
鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場 餅田 利之
【要約】
労働力不足が深刻化する中、鹿児島県奄美地域においては夏植えを中心にビレットプランタによる機械化植え付けの普及が進んでいる。そこで、ビレットプランタによる夏植え用のハーベスタ採苗向け苗生産適期について検討した。その結果、前年10月以前の早い時期に苗栽培を開始することで、健全芽子を多く含み夾雑物の混入が少ない苗を多く確保することができ、採苗に必要な圃場面積を抑制できることが明らかとなった。
はじめに
近年、サトウキビ栽培における大規模化や労働力不足(図1)により、鹿児島県奄美地域でも夏植え栽培を中心にビレットプランタによる植え付けが急速に増加している。
これまで鹿児島県では、夏植え用の苗生産は、曲がりが少なく良質な苗を多く確保できる点から10〜11月頃の植え付けが奨励され
1)、採苗については手作業が主体であった。しかし、ビレットプランタによる植え付けは、ケーンハーベスタ(以下「ハーベスタ」という)での採苗が前提となることから(図2)、芽の損傷などにより出芽が不安定になりやすい。そのため、出芽を安定させるためには従来と比べて多くの苗量を必要とすることがこれまで報告されている
2)3)。
一方、必要な苗量が増えれば採苗用の圃場面積を拡大する必要があり、加えて、比較的栽培期間の短い苗を使用する場合には、さらに広い面積の採苗用圃場を準備する必要がある。しかし、採苗用圃場面積の拡大は、製糖工場へ出荷を予定している圃場の減少にもつながりかねない4)。
そこで、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場(以下「当場」という)ではビレットプランタ植え付けを前提とした夏植え栽培用の効率的な苗生産技術を確立するため、苗栽培開始時期と苗量、苗質および必要な採苗圃場面積などとの関係について検討した。
本稿では、奄美地域におけるビレットプランタの普及状況などに触れつつ、この試験結果について報告する。
1 奄美地域の概況およびビレットプランタの普及状況
鹿児島県奄美地域(群島)では、奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島および与論島の五つの島で製糖用サトウキビが栽培されている。各島のサトウキビ栽培面積は、主要作物栽培面積の4〜8割弱を占め、サトウキビは地域の重要な基幹作物となっている
5)(図3、表1)。
近年、機械の地域適応性が向上したことなどにより、鹿児島県内ではビレットプランタが普及している。奄美地域では平成24年頃には6台が導入され、さらに令和に入ってから急激に導入台数が増加し、令和4年時点で、奄美地域内だけで40台を超え(図4)、令和6年7月末時点では49台が導入されている(鹿児島県農政部農産園芸課調べ)。
また、令和5年度の夏植え栽培について、奄美地域各島のサトウキビ生産対策本部担当者などに聞き取り調査をした結果、夏植え全新植面積に占めるビレットプランタ植え付け面積の割合は、与論島は1割未満であったものの、奄美大島、喜界島、沖永良部島は2割程度、徳之島では約5割に達していた。奄美地域においては、ここ数年で夏植え栽培におけるビレットプランタによる植え付け比率が急激に高まっており、この傾向は今後もさらに続くと予想される。
2 ハーベスタ採苗と従来の採苗との相違点
ハーベスタ採苗では、基本的に調苗や選別は行わないことから、
硬化芽子(芽が固くなり発芽しづらいもの)や虫害などの不良芽子も苗に含まれる。また、ハーベスタ収穫による機械的な芽の損傷も生じることから、人力採苗と比較して芽子の健全性が劣る(写真1)。そのため、前述の通り、手植えや全茎式(全茎〈地際から刈り取った地上部全体〉苗を人力で投入し、苗を切断しながら植え付けていく機械)用に比べて多くの苗量を必要とするとともに、従来の採苗圃場よりも面積を拡大する必要がある。
一方、生葉(主に
梢頭部)や枯葉(ハカマ)など、サトウキビの茎部以外の夾雑物も苗として収集される(写真2)ことから、ハーベスタ採苗での苗生産においては、この夾雑物の混入割合も考慮する必要がある。
3 ビレットプランタ植え付けを前提としたハーベスタ採苗向け種苗生産技術
(1)試験および調査方法
試験は当場内圃場で令和3〜4年の2カ年実施した。8月から9月上旬の標準的な夏植えを想定し、採苗圃場への植え付けを前年の8〜11月にかけて各月の中旬に行った。また、採苗調査は植え付けた翌年の8月下旬に全試験区一斉に実施した。なお、供試品種として、奄美地域の普及品種である「Ni23」と標準品種「NiF8」の2品種を用いた(表2)。
全茎を調査対象とし、苗の調査は手収穫、手作業で調製したものを用いた。梢頭部、ハカマおよび茎部に分け、各部位の重量や苗質などを測定した。
ハーベスタによる採苗量には、茎部に加え、茎部以外の夾雑物の4割がハーベスタの収穫物に含まれ、そのうちの6割がハーベスタのファンで除去されると仮定し算出した値を用いた(図5)。なお、夾雑物には梢頭部とハカマが含まれる(注)。
(注)・徳之島におけるトラッシュ率の実績や当場におけるNiF8の部位別重量の割合から、梢頭部やハカマ重の4割がハーベスタの収穫物に含まれると判断した。また、この条件で全試験区のハーベスタ収穫量(採苗量)などを算出した。
・本試験では梢頭部およびハカマなどを「トラッシュ」ではなく「夾雑物」と表記することとした。
・梢頭部については苗としての利用も考えられるが、生葉が幾重にも重なり出芽が遅くなることや重量としては大半が「生葉」部分であることを考慮し、本試験では「夾雑物」として取り扱うこととした。
(2)苗栽培開始時期と苗量、苗質の関係
ア 採苗圃10アールのハーベスタ採苗量および芽子数
8月下旬に夏植えの植え付けを行う場合、前年の8〜9月に苗の栽培を開始すると、10〜11月に開始する場合に比べ、10アールの採苗圃から苗量や芽子の総数を多く確保することができた。これは、栽培開始時期が早く栽培期間が長くなるほど、茎数が増加し茎長が長くなるためである(データ略)。
また、栽培期間が長くなると、総芽子数に対する良質な芽(健全芽子)の割合はやや低下するものの、奄美地域の普及品種である「Ni23」では、問題なく健全芽子数を多く確保することができた。一方、標準品種である「NiF8」は、8月に苗の栽培を開始(栽培期間12カ月)した場合、健全芽子数が大きく低下するが、9月の栽培開始では、健全芽子数を最も多く確保することができた。「NiF8」の8月植えで健全芽子数が低下する原因については、品種の脱葉性(NiF8:易、Ni23:中〜やや難)が関係していると考えられる4)(写真3、図6)。
イ ビレットプランタ植え付け10アール分の苗(1トン)に含まれる芽子数
ビレットプランタ植え付け時の苗量について、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「ビレットプランター活用の手引き」(令和2年10月)を参考に、植え付け面積10アール分の基準苗量を10アール当たり1トンとし、これを基に、ビレットプランタ植え付け10アール分の苗(1トン)に含まれる各芽子数を算出した。
奄美地域における基本的な夏植えの栽植密度は、人力植え(手植え)の場合、畝間120センチメートル、株間(二芽苗で)30センチメートルで、二芽苗の必要本数が10アール当たり2778本、芽数は10アール当たり5556芽である。また、本県では、ハーベスタで採苗した苗を無選別で植え付ける場合、慣行二芽苗の2倍程度の植え付け本数を確保することが望ましいとしている(2014年、鹿児島県指導参考情報)。
ハーベスタで採取した苗1トンに含まれる健全芽子数は、両供試品種とも10月植え(栽培期間10カ月)が多かったものの、「Ni23」では8月植え(栽培期間12カ月)でも、10アール当たり1万芽以上が得られた。これは、前述した人力植え基準の約2倍量を健全芽子で植え付けできることを示している。また、「NiF8」の8月植えは、他の試験区に比べて健全芽子数は少なかったが、9月植え(栽培期間11カ月)では、10アール当たり1万2000芽の健全芽子が得られた。なお、両供試品種とも11月植え(栽培期間9カ月)では、総芽子数が他の植え付け時期に比べて最も少なかった(図7)。
(3)ハーベスタ苗に含まれる夾雑物の割合
ハーベスタで採苗する場合、サトウキビの茎部以外に、生葉や枯葉などの夾雑物も混入する。夾雑物の混入は、ハーベスタで採苗した総量に含まれる芽子数を減少させ、また、ビレットプランタで植え付けた際、芽子の上部に夾雑物が覆いかぶさるなど、出芽の不安定化を招く。また、夾雑物が多い場合は、芽子が付いた苗をビレットプランタで均一に植え付けることが難しく、欠株が多く発生する可能性がある。そこで、苗栽培開始時期とハーベスタで採苗した苗に含まれる夾雑物の割合について調査した。
その結果、ハーベスタ採苗では、栽培期間の短い10〜11月植えに比べ、栽培期間の長い8〜9月植えで夾雑物の混入が少ないことがわかった。また、10〜11月植えでは、苗に含まれる夾雑物の混入割合が2割以上になると試算された(表3)。
なお、前項でビレットプランタ植え付け10アール分の苗(1トン)に含まれる芽子数について、11月植え(栽培期間9カ月)の総芽子数が最も少なかったと述べた。この理由について、栽培期間の短い苗は茎数が少なく茎長が短いため、採苗圃単位面積当たりの芽子数が少ない反面、梢頭部重およびハカマ重は重い(データ略)ため、夾雑物の混入割合が高くなり、総芽子数の低下につながったものと考える。
(4)必要な採苗圃面積
ビレットプランタ植え付け面積10アール分の必要苗量を10アール当たり1トン(=1ヘクタール当たり10トン)とし、1ヘクタールの植え付けに必要な採苗圃面積を算出した(表3)。
その結果、10月植え(栽培期間10カ月)に比べて、9月植え(栽培期間11カ月)では約3割、8月植え(栽培期間12カ月)では約4割の採苗圃面積を削減できることが明らかとなった。また、両供試品種とも、8〜9月植えでは必要な採苗圃面積が10アール未満で、ビレットプランタ植え付け面積の10分の1以下に抑えることが可能であった。
一方、11月植え(栽培期間9カ月)では、10月植えに比べて採苗圃場を2割程度拡大する必要があることが明らかとなった。
(5)試験結果のまとめ
以上の試験結果から、ビレットプランタによる夏植え用苗生産において、「Ni23」では8〜9月、「NiF8」では9月に植え付けし、翌年8月に採苗することで、夾雑物の混入が少なく良質な芽を多く含む苗を確保できること、また、採苗に必要な圃場面積を抑制できることなどが明らかになった。なお、苗栽培開始時期と苗量、苗質および採苗圃場面積との関係については、図8に整理した。
4 今後の課題および展望
現状において、ビレットプランタ植え付けに用いる苗は、従来の人力作業同様、出芽を安定させるため比較的短い栽培期間の苗を利用する場合が多い。
一方で、奄美地域ではビレットプランタの急速な普及により、これまでより多くの苗量が必要となることから、苗の確保に苦慮している生産者や法人が出始めている。また、採苗圃場の確保を優先するあまり、優良種苗の利用がおろそかになることが懸念される。
ビレットプランタ利用による最大のメリットは、植え付け作業時間が短いため、広い面積の植え付けが適期に行えることである。特に、収穫や管理作業が競合しない夏植え栽培では、適期である8月中の植え付け面積拡大が期待される。その際、今回の試験結果を参考に、各生産現場において品種や苗生産の栽培期間、必要な採苗圃場面積を総合的に考慮し、優良種苗を用いた専用の採苗圃場を設置することが望まれる。
また、今後ビレットプランタの普及に伴い、採苗用の圃場面積が適正に確保され、原料向けの圃場面積確保につながるとともに夏植え栽培の面積が拡大することを期待する。
なお、本稿では春植えについて触れていないが、春植え用のビレットプランタ向け苗生産については、「令和5年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会」(令和5年10月25日)で、夏植え同様、比較的栽培期間の長い苗がハーベスタ採苗に適する結果が得られたことを報告している6)。
最後に、本試験は奄美群島糖業振興会委託試験「サトウキビ種苗専用栽培技術開発(令和2〜4年度)」の支援を受けて実施した。また、本稿の執筆に当たり、奄美地域各島のサトウキビ生産対策本部担当者ほか、情報提供にご協力いただいた皆さまに深く感謝の意を表す。
【参考文献】
1)公益社団法人鹿児島県糖業振興協会(2015)「さとうきび栽培指針」
2)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(2020)「ビレットプランター活用の手引き」
3)馬門克明・樋高二郎(2012)「さとうきびの省力化栽培技術〜ハーベスタ採苗とビレットプランタの利用〜」『砂糖類・でん粉情報』(2012年10月号)独立行政法人農畜産業振興機構〈https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000586.html〉
4)服部太一朗、安達克樹、田村泰章「ビレットプランター植え付けのためのハーベスター採苗における種苗重量当たりの健全芽子数の多少に関与するサトウキビの品種特性」『日本作物学会紀事』(2022年91巻2号)pp.111-119. 一般社団法人日本作物学会
5)鹿児島県大島支庁(2024)「令和5年度奄美群島の概況」
6)鹿児島事務所、那覇事務所「令和5年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の概要」『砂糖類・でん粉情報』(2024年1月号)pp.78-80. 独立行政法人農畜産業振興機構〈https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003056.html〉
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