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最終更新日:2024年10月10日
ア GHG排出量削減目標の設定
政府のエネルギー政策諮問委員会(CNPE)が国としての向こう10年間のGHG排出削減目標を設定しており、2024年は18年基準で33年までに11%を削減するとしている(図15)。これを踏まえ、石油・天然ガス・バイオ燃料監督庁(ANP)が、化石燃料市場への参加比率に応じてガソリンやディーゼルなどの燃料配給事業者それぞれに対し、義務的な年間削減目標を作成する。各事業者は年間削減目標を達成するために、CBIOの購入義務を負うことになる。CBIOの購入義務を満たさない場合、ANPによる罰金や法的制裁が科されるほか、市場での社会的信用の低下や将来的なコスト増加(注4)などのデメリットがある。
(注4)CBIOは市場で流通する商品でもあるため、購入義務を満たしていない事業者が購入を後回しにし、後日まとめて購入する場合、需給のバランスによっては価格が急上昇する可能性がある。
イ バイオ燃料生産のプロセスの認証
バイオ燃料生産者は、ブラジル農牧研究公社(Embrapa)が開発したRenovaCalcと呼ばれるツールを用いて、バイオ燃料のエネルギー環境効率スコア(EEES)を算出する。このツールは生産されたバイオ燃料がGHG排出削減にどの程度貢献しているかを定量化し、環境への影響を数値化するために使用される。具体的には、バイオ燃料の生産から燃焼に至るまでのライフサイクル全体を対象にGHG排出量(1メガジュール当たりのCO2換算グラム)を算出する仕組みになっている。
RenovaBioにおけるEEESの評価工程では、バイオ燃料生産者はANPに登録された第三者の検査機関に検証を依頼し、独立した評価を受ける必要がある。検査機関ではRenovaCalcで得られたEEESについて、データの正確性や生産工程の監査のほか、持続可能性基準を満たしているかなどが確認され、その結果を基に評価し、報告書が作成される。
バイオ燃料生産者は検査機関の報告書をANPに提出し、ANPはその報告書をもってEEESの承認手続きを行う。報告の内容に不備がなければバイオ燃料生産者はEEESに基づきCBIOの発行ができるようになる。EEESの値が高いほど、より多くのCBIOを発行することができる。
ウ CBIO
先述の通り、CBIOはバイオ燃料の生産に応じて発行されるカーボンクレジットである。CBIOは市場で取引することが可能な商品であり、化石燃料を配給する事業者が自社のGHG排出量削減目標を達成するために利用する。つまりは、これらの事業者は年間当たりのCBIO購入目標が定められており、2024年には事業者全体で3878万クレジットとなっている(図16)。
次年度の目標算出時に、燃料販売事業者が個別の年間目標達成に必要なCBIOよりも多くのCBIOを償却していることがANPにより判明した場合、その余剰残高は、翌年の年間目標達成に向けたクレジットとしてカウントされる。一方、罰金の支払いは販売業者の年間目標達成を免除するものではなく、未達成のCBIOに対する目標は、販売業者に適用される翌年の目標に加算される。
CBIOの発行数は年々増加し、23年には3452万クレジットが発行されている(図17)。バイオ燃料別に見ると、その84%がエタノール由来であり、残りの15%がディーゼル由来のCBIOとなっている。月ごとのCBIOの発行数と購入数の推移を見ると、発行数はコンスタントに推移している一方、購入数は変動が大きいが、これは事業者がCBIO取得義務の法的期限に一括購入しているためである(図18)。直近1年程度のCBIOの価格を見ると、148.1レアル(3818円)となった23年6月以降は下落基調にあり、24年9月16日時点で1CBIO当たり80.7レアル(2080円)となっている(図19)。