製糖工場の砂糖製造工程で副産物として発生する生パルプ(プレストパルプ、以下「PP」という)は、乾燥ビートパルプ(以下「DP」という)に加工され、酪農家の生乳生産を支える消化の良い繊維質飼料として、
嗜好性を高めるために糖蜜分を添加し乾燥・ペレット化されるほか、一部は地元酪農家向けに加工せずそのままの状態で販売されており、いずれも地域内の耕畜連携を支える重要な資源である。
しかしながら、近年の燃油価格の高止まりや円安の影響で、加熱乾燥を要するDPの価格は国産・輸入ともに高騰が続き、酪農家の大きな負担となっている。一方、加工コストが掛からず安価に供給できるPPについても、高水分で腐敗しやすいためそのままでは長期間の貯蔵が難しく、現状では工場での引き取りが可能な近隣の酪農家が製糖期間(10月〜翌2月)に即時給与し、あるいは庭先でサイレージ化し春に給与するにとどまり、輸送・貯蔵効率の悪さからDPの多くはPPに置き換えられる可能性が低い。
そこで製糖工場から出るPPをその場でラップサイレージとし、工場敷地で冬期貯蔵中に乳酸発酵を完了すれば、嗜好性の良い貯蔵飼料としての需要が期待できる上に、輸送業者の余力が出てくる春から夏にかけて、酪農家のオーダーに合わせてトラック配送することも可能となるため、製造・輸送・給与の各段階にわたる実証を行い、早期実用化を目指すこととした。
なお、今回の取り組み目的は砂糖需給ギャップ分の新たな用途開拓のため、通常であれば裁断した原料てん菜を温水に漬け、糖分が溶け出した溶液を次の工程に送って結晶化するが、この溶液を滞留させ濃縮した糖分をPPに付着したまま取り出すことで、従来のPPよりも栄養価に優れる高糖分生パルプ(HSP)を原料とするサイレージ(HSPS)を製造する(写真1)。なおHSPSの成分比率は、事前に実施した小規模試験の結果から、発酵品質や砂糖転用効率のバランスが最適と思われる糖分10%、水分70%を目標とした(表1)。