操業期間の違いを生かして、働き手の確保へ〜北海道と沖縄県の製糖工場における人材相互交流の取り組み〜
最終更新日:2025年2月10日
操業期間の違いを生かして、働き手の確保へ
〜北海道と沖縄県の製糖工場における人材相互交流の取り組み〜
2025年2月
日本甜菜製糖株式会社 美幌製糖所 次長 佐藤 晴彦
【要約】
北海道の製糖工場は、てん菜の収穫が始まる10月から操業が始まるが、地方では高齢化や人口減少を背景に、近年は操業期間中の労働力の確保が課題となっている。サトウキビの産地である沖縄県の甘しゃ糖工場も同様の課題を抱えており、平成29年に開始した北海道網走郡津別町における労働力確保に向けた取り組みを起点に、今回、北と南の製糖工場の繁忙期のずれを利用した人材相互交流が実現した。JAおきなわとJAつべつ、美幌運送株式会社、当社による4者連携の取り組みで、種々課題は残るものの、互いの繁忙期における人材の確保および育成に向けての第一歩を踏み出すことができた。
1 美幌製糖所の現状
日本甜菜製糖株式会社美幌製糖所(以下「美幌製糖所」という)(写真)は北海道東部、オホーツク海から約30キロメートル内陸に位置し、昭和34年より操業している。原料のてん菜を美幌町、津別町、北見市常呂、大空町東藻琴の一市三町から受け入れ、砂糖(分蜜糖・含蜜糖)や飼料(ビートパルプ)を製造している(図1)。製糖期間は近年では10月〜翌1月であり、各製造工程に季節作業員を配属しているが、年々高齢化が進んでおり、地域内の労働人口の減少や定着率の低下により、新たな人材の確保が困難になっている。特に製糖期前半の10〜11月はてん菜以外の各種作物の作業時期とも競合するため、労働力の確保が特に厳しい状況にある。このような状況から、新たな取り組みが必要であった。
季節労働力の不足は、美幌製糖所の重機作業を請け負う美幌運送株式会社(以下「美幌運送」という)でも同様である。同社では重機関係資格の取得を積極的に奨励し、有資格者の確保に取り組んできたが、担当する業務によっては重機を操作する機会が十分に得られず、熟練した重機オペレーターの育成に時間を要することが課題となっていた。
2 人材相互交流開始の経緯
てん菜集荷地域の一つである津別町は、生産者の高齢化など将来の労働力不足に起因する不耕作農地の発生を防止する観点から、平成29年に「津別町農業労働力支援協議会」を国の事業を活用して設立し、農家向けのアルバイトを中心とした人材の派遣(紹介)を行っている(図2)1)。また、北海道と農作業の繁忙期が異なる沖縄県との関係構築を目的に、現地への視察なども行っている。沖縄県農業協同組合(JAおきなわ)では、すでに西宇和農業協同組合(JAにしうわ:愛媛県)、ふらの農業協同組合(JAふらの:北海道)と連携し農作業のアルバイターをリレー形式でつなぐという取り組みを行っており2)、この例を参考に、津別町農業協同組合(JAつべつ)と美幌製糖所は共同で、農作業や製糖作業についても同様な取り組みができないか検討を始めた。
令和5年1月にJAつべつが役員研修においてJAおきなわ本部を訪問、同年10月にはJAおきなわ他がJAつべつと美幌製糖所を現地視察し、意見交換を行った。その後も両者で打ち合わせを重ねた結果、北海道と沖縄の製糖工場間の人材相互交流を開始するに至った。
3 製糖工場間における人材相互交流の概要
北海道と沖縄の人材相互交流は、それぞれの製糖工場の操業期間の違いを利用している。操業期間は共に約4カ月であるが、美幌製糖所は10月〜翌1月、沖縄の甘しゃ糖工場は12月〜翌3月であり、この前後にずれた2カ月間で人材相互交流を行った(図3)。以下に概要を紹介する。
(1)美幌町→沖縄県の人材交流
令和5砂糖年度(令和5年10月1日〜令和6年9月30日)の美幌製糖所の操業は令和6年1月末に終了し、製糖作業に従事していた美幌運送の作業員2人が、令和6年2月14日〜3月23日の39日間、JAおきなわに出向し、同JAの指定管理工場である伊是名製糖工場で製糖作業に従事した。この2人は共に車両系建設機械(整地・運搬・積み込み用および掘削用)、大型特殊自動車の免許などを取得していたことから、伊是名製糖工場では集中脱葉施設においてホイールローダーの操作を主に担当することとなった。
具体的には、1)原料ヤードからサトウキビ茎をホイールローダーで工場内に投入する、2)集中脱葉施設の監視、3)清掃の各作業―に従事した。宿泊施設については、季節作業員用宿舎は満床であったことから指定民宿を利用し、通勤用としてバイクまたは自動車を無償貸与され、燃料代は自己負担であった。
伊是名製糖工場での作業を終えた作業員の感想としては、「重機を使った連続投入作業は原料が途切れないように集中力が要求され、オペレーターとして良い経験となった」「共同作業を行う他の重機オペレーターとの連携を考えながらの作業を経験できた」「職場の雰囲気が良く、皆さん親切で働きやすかった」「島の方言に最初は戸惑ったが、仕事は標準語で話してもらえたので、業務に支障はなかった」「来年も機会があったら作業したい」とのことであった。
今回出向した作業員は、美幌製糖所では重機作業の主担当では無かったが、伊是名製糖工場で重機作業を繰り返し行う業務に従事できたことで、重機オペレーターとしての技能も向上することができた。
(2)沖縄県→美幌町の人材交流
美幌製糖所の製糖開始に合わせて、令和6年10月1日〜10月31日の31日間、JAおきなわの職員1人が美幌運送に出向し、工場に搬入されたてん菜を洗浄するワッシャー工程の監視と清掃の業務に従事した。期間について美幌製糖所側は当初10〜11月中旬を希望していたが、JAおきなわの事情により10月の1カ月間となった。また、期間中はさまざまな見学の機会を設け、甘しゃ糖工場との違いを理解してもらえるよう努めた。
具体的には、JAつべつによる大型収穫機(テラドス)を使ったてん菜収穫作業の見学、美幌製糖所の各工程の見学および業務説明(てん菜受入〜製造〜包装〜製品倉庫〜資材)を行った。宿泊施設は社有施設(独身寮)を利用し、周辺施設(製糖所、駅、スーパー、コンビニ、総合病院など)は徒歩圏内であるため、自転車を無償で貸し出した。
出向を終えた職員の感想としては、「これからの業務に役立つ貴重な経験ができた」「甘しゃ糖工場には無い工程での作業だったが、優しくレクチャーしてくれて作業はしやすかった」「独身寮は過ごしやすかった」「半袖で過ごせた沖縄と比べて寒かったが、耐えられないほどではなかった」など、秋の北海道の寒さを体感しつつも、美幌製糖所での作業が今後の業務に向けて良い経験になったようであった。
(3)JAおきなわと連携したJAつべつの取り組み
今回の人材相互交流の一環として、JAつべつもJAおきなわと連携して労働力確保に向けた取り組みを行っている。津別町における農作業の繁忙期は4、5、8、9、10月であり、美幌製糖所と同様に季節労働力の確保が難しい実態にある。JAつべつはJAおきなわ指定管理工場で働いているアルバイターに向けて、津別町の農作業繁忙期での農作業の紹介、PRを積極的に行っている(表)。両JA間の人材相互交流も実現が待たれる。
4 今後に向けた改善点や課題
(1)宿泊施設
宿泊施設は遠隔地から来た作業者には不可欠である。JAおきなわ指定管理工場には季節作業員専用宿舎があるが、今回は満床のため指定民宿の利用となった。一方、美幌製糖所には季節作業員専用宿舎は無く、今回は社有設備の独身寮を増室工事した直後であったため、寮を用意することができた。今後空室がない場合は、沖縄と同様に町内の宿泊施設を利用することになる。通勤に当たっての交通手段の確保なども課題として挙げられる。
(2)交流時期
今回の人材相互交流では、製糖所の修繕期に、稼働中の相手の製糖工場に出向するが、修繕期にも前半と後半があり、事情が異なる。北海道から沖縄へ出向する2〜3月は、美幌製糖所では修繕期に入ったばかりの頃であるが、沖縄から北海道への出向となる10月以降はJAおきなわでは修繕作業が終盤の追い込みの時期となるため(表)、その進捗状況によっては出向に人員を割くことが難しい場合も予想される。
(3)気温差
北海道と沖縄では気温差が大きく、出向者の体調への影響が心配される。2〜3月の厳冬期の北海道から温暖な沖縄へ出向するケースでは、気候的になじみやすそうである。一方、10月に沖縄から美幌町に移動しての生活は、東京の真冬並みの気温となることもあり、寒さに慣れていない沖縄からの出向者にとって、体調管理に留意する必要がある。
なお、今回の交流では、出向に伴う諸経費(往復旅費、宿泊代、食事代など)については、出向先にも一部負担してもらう形とした。
おわりに
今回の人材相互交流は、製糖工場の労働力確保が難しい現状を双方の共通課題として取り組んだことで、労働力確保に向けた第一歩を実現することができた。結果的に互いの繁忙期に労働力確保が図られたことに加えて、各作業員は通常では行くことのできない遠隔地の製糖工場での作業などを通じて、知識や経験が得られスキルアップにもつながった。今後に向けての課題はあるが、労働力確保と人材育成の二面性を持つ人材相互交流が継続できることを願っている。
【参考文献】
1)有岡敏也(2024)「遊休地発生を防ぐ!北海道JAつべつのスマート農業推進と労働力不足対応」『砂糖類・でん粉情報』2024年2月号No.137 pp.2-7東京:独立行政法人農畜産業振興機構
<https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003072.html>(2024/12/1アクセス)
2)宮平浩史(2024)「北海道・愛媛のJAと連携〜農作業アルバイトをリレーでつなぐ〜」「令和6年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会配布資料」pp.54-58:独立行政法人農畜産業振興機構
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