サトウキビを原料としたラム酒の製造〜サトウキビを通じた地域おこし〜
最終更新日:2025年3月10日
サトウキビを原料としたラム酒の製造
〜サトウキビを通じた地域おこし〜
2025年3月
1 ラム酒とは?
ラム酒は、製糖過程で出る糖蜜またはサトウキビの搾り汁を原料とした蒸留酒である。生産国は、植民地時代に英国、フランス、スペインなどが宗主国であったカリブ海諸島や中南米大陸が中心となっている。近年は、日本国内でもラム酒の製造が行われており、蒸留所が全国に十数カ所ある。サトウキビの主産地である沖縄県や九州をはじめとする地域でも製造が行われている。
ラム酒は熟成度合いにより、樽熟成しないホワイトラム、樽熟成の期間がおおむね3年未満のゴールドラム、樽熟成期間が3年以上のダークラムがある。
ホワイトラムはすっきりとした飲み口なので、ロックやストレートのほかカクテルのベースに使われることが多い。ゴールドラムやダークラムはまろやかな甘い風味で、カクテルよりもそのまま飲まれることが多い。
製法は糖蜜を原料にしたインダストリアル製法と、サトウキビの搾り汁を原料にしたアグリコール製法の主に2種類がある。世界のラム酒の多くは前者で、後者は世界での生産量が3%程度とごく少ない。アグリコールラムが希少なのは、収穫したサトウキビは含有しているショ糖分が時間とともに減少するため、畑と蒸留所が近いという立地条件が求められるからだといわれる。大東製糖種子島株式会社(以下「大東製糖種子島」という)で造るラム酒は、アグリコール製法である(写真1)。単に希少性が高いだけではなく、サトウキビの香りが漂い植物由来の製品であることを伝えられ、サトウキビの産地である種子島のテロワール
(注)が反映できるため、この製法を採用した。
(注)生育地の地理、地勢、気候などその土地特有の生育環境が作物に与える特徴。
2 ラム酒の製造方法
アグリコール製法のラム酒の製造は、サトウキビの収穫期である冬から春先にかけて行われる。現在6ヘクタールのサトウキビ畑を有し、収穫したうちの半分をラム酒の原料にしている。製造工程はサトウキビの栽培、収穫、選別、搾汁、発酵(もろみづくり)、蒸留、ボトリングである。以下、各工程を詳しく紹介する。
(1)サトウキビの栽培・収穫
原料が製品の味に大きく影響することから、ラム酒の製造を開始するに当たっては、栽培するサトウキビの品種選びから行った。たくさんの品種の搾り汁を飲み比べ、その中から種子島生まれの園芸品種「黒海道」と「農林22号」を選出した。黒海道は収量が少ないものの、生育の過程においてショ糖濃度の上昇が早く、搾りたての汁はメロンを思わせる清冽な甘さがある。おいしい原料からおいしいラム酒ができることを信条とし、良質なサトウキビの栽培には特に注力している。
サトウキビは一日で搾汁できる量だけを収穫する(写真2)。先述の通り、収穫すると蓄えているショ糖分が減り、24時間を過ぎると大きく減少するためである。
(2)選別・搾汁
収穫したサトウキビは搾汁場に搬入され、えぐみや苦味の元となる虫食いが取り除かれる(写真3)。その後、搾汁機にかけて搾汁する。通常は3回搾るが、われわれは最も糖度の高い一番搾りのみを使ってもろみを作る(写真4)。
(3)発酵(もろみづくり)・蒸留
サトウキビの搾り汁を発酵タンクに移し、酵母を加えて約1週間かけてアルコール発酵させ、もろみを作る。その間、施設内には発酵の際に出る泡の音が静かに響き渡る。状態は日に日に変わり、初めのうちは緑がかっていたサトウキビ汁は、徐々にベージュのような色合いに変化する(写真5)。また、発酵の間、もろみに櫂入れをすることで、もろみ全体に酵母と酸素を行きわたらせてアルコール発酵を促す。原料のサトウキビの状態によっても、発酵の進み具合は異なる。
こうしてできたもろみを、蒸留機に移して蒸留する。蒸留には初留、本留、後留の過程があり、蒸気温度が一定して組成が安定している本留部分だけを製品にする。どこで本留をカットするかは、作り手の腕の見せ所のひとつである。
大東製糖種子島ではさとうきび酢も製造しているが、酢酸菌がもろみに入るとアルコールが酢に変わってしまうため、それに携わるスタッフは蒸留施設内に入ることはできない。蒸留作業はそうしたリスクのない責任者1人だけで行っている。
(4)ボトリング
蒸留したてのラム酒は風味がまだ荒々しいため、ステンレスタンクで半年ほどおいてからホワイトラムとしてボトリングする(写真6)。ゴールドラム、ダークラムを造る場合にはステンレスタンクから樽に移して熟成させる。蒸留酒の多くは、蒸留した各ロットをブレンドして味を均質化したり、加水して一定のアルコール度数にしたりするが、大東製糖種子島が製造しているラム酒は無加水・無調整でボトリングしている。原料の個性やクラフトのよさを大切にし、あるがままを消費者に届けたいからである。無加水ゆえアルコール度数は60%程度と高い。
3 ラム酒製造のきっかけ
大東製糖株式会社は1952年創業の千葉県に本社がある製糖メーカーで、2018年に種子島に大東製糖種子島を設立した。その所在地の自治体である中種子町と立地協定を締結し、農地所有適格法人の要件を満たすと認定された。サトウキビ栽培を自社で行い、それを原料にしてプレミアム砂糖やさとうきび酢、サトウキビ蜜を製造し、2023年にはラム酒造りを開始した。
製糖メーカーの役割は、仕入れた原料糖を精製して製品を作ることだが、消費者は製糖メーカーに対し、砂糖のプロとしてサトウキビにも精通していることを求めているのではないか?そうした思いから、サトウキビ栽培から製品づくりに携わることが付加価値につながるのではないかと感じ、種子島に法人を起ち上げた。また、付加価値のある製品ができれば、それが島内のサトウキビ産業の振興や地域おこしにもつながると考えた。
このラム酒造りを持続可能な事業にするため、サトウキビを搾った後のバガス(繊維)と蒸留後の廃液をもとに堆肥を作り、それを畑に戻す循環型生産を行っている。廃棄ゼロを実現しながら、地力を高める持続可能なバランスを探っている(写真7)。
4 製造・製品化に向けた取り組み
われわれの造るラム酒のブランド名はARCABUZ(アーキバス)で、ポルトガル語で火縄銃を意味する。種子島は火縄銃の伝来や、日本で唯一の実用衛星打ち上げ基地・種子島宇宙センターがある、時代の幕開けのきっかけとなる出来事と縁の深い島である。種子島がラム酒でも世界に知られる、豊かな新しい時代が開かれることを願っている。
酒造りは初めてのため、各界の先達者にこのプロジェクトへの協力を仰いだ。また蒸留技術は、ラム酒の製造を通してサトウキビ産業の振興や地域おこしへつなげたいという想いに共感してくださった、鹿児島県日置市の蒸留酒の蔵元に大きなお力添えをいただいた。
サトウキビの素材のよさを大切にした製品づくりをするというビジョンは定まっていたが、それをどのようなボトルで表現するかに苦心した。八角形のボトル形状は種子島らしさを感じさせる火縄銃の砲身から着想を得ている。手の小さな女性のバーテンダーでも注ぎやすいように、ボトル下部のテーパーは1度単位で角度にこだわった。グリーンの色合いは、サトウキビの色であり、当社のコーポレートカラーでもある(写真8)。このボトルによって、自分たちでは想像もしなかった世界観を広げることができたと感じている。
2023年に初蒸留した製品を、イギリスの酒類品評会「World Drink Awards 2024」の一つのカテゴリーである「World Rum Awards 2024」に出品したところ、味ではアグリコールラムのUNAGED部門で金賞、デザインではベストボトルデザイン賞を受賞した。審査員からは、「新鮮なグリーンオリーブ、草、リンゴ、キウイが感じられ、ゆでたレモンのようなオイル感がある。口に含むとロウのようなテクスチャーと適度な甘さがあり、新鮮なサトウキビを砕いたような香りがする」といった味の評価をいただいた。
5 ラム酒の楽しみ方
多くのホワイトラムはカクテルのベースに使われ、モヒートやダイキリなどカクテルのベースとして広く知られている。また、レーズンをラム酒に漬けたラムレーズンなど、ドライフルーツの保存にも使用される。
当社のラム酒をバーや酒販関係者に試飲していただくと「ほかの材料で割るのはもったいない」「サトウキビを感じるので、なるべくシンプルな飲み方がよい」といった声をよくいただく。
われわれのおすすめの飲み方は、初めにストレートで飲んでサトウキビの風味を感じていただき、その後、好みで水を少し加える方法である。水を加えるとみずみずしい香りが開いてくる。ローアルコールが希望の場合はソーダ割りで、ラム酒1:ソーダ5の割合でお試しいただきたい。
おわりに
日本でのラム酒の消費量は少ないが、EU圏では高付加価値のラム酒のニーズがあるため、海外への輸出も計画している。EU圏の中でもアグリコールラムの本家であるフランスを第一ターゲットとしており、World Rum Awards受賞以降、現地から多くの引き合いをいただいている。また、東南アジアからもコンタクトがあり、シンガポールへの輸出も開始された。
種子島は焼酎文化の島であり、島の方々にとってラム酒はまだもの珍しい存在である。世界が認めるラム酒づくりを持続可能な産業とすることで、ラム酒が島で愛される存在となり、サトウキビ栽培を次世代につなげ、地域振興へ貢献することを目指していく。
鹿児島・沖縄の南西諸島では、各島の特徴を生かしたラム酒が製造されている。ぜひ飲み比べて楽しんでいただきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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