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緑肥で土づくり、減肥、サトウキビ増収を実現!〜沖縄県における試験結果を基に〜

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最終更新日:2025年3月10日

緑肥で土づくり、減肥、サトウキビ増収を実現!
〜沖縄県における試験結果を基に〜

2025年3月

沖縄農業技術開発株式会社 技術開発部長 宮丸 直子

【要約】

 沖縄県のサトウキビ収量は長期的に減少傾向にあり、近年は肥料価格の高騰もサトウキビ農家の経営を圧迫している。化学肥料を減らしつつ収量を増加させることが求められるが、そのためには土壌の可給態窒素(地力窒素)を高めることが重要である。沖縄県の土壌において、可給態窒素の増加には緑肥の活用が有効であり、サトウキビ夏植え栽培の休閑期に緑肥(クロタラリア)を栽培することによって、化学肥料を3割減らしてもサトウキビ増収が可能であることが明らかとなった。この知見は、同様な土壌が分布している鹿児島県の南西諸島地域でも有効であると考えられる。

はじめに

 サトウキビは沖縄県の基幹作物であり、県内のほぼ全域で栽培されている。令和5年産サトウキビの栽培面積は1万6700ヘクタールと県耕地面積の約5割を占めており、特に離島地域においては地域経済の要となる作物である。しかし、サトウキビ収量は長期的に減少傾向であり、過去5カ年(令和元〜5年産)の平均生産量は74万1000トン、10アール当たり平均収量は5.6トンであった。これは、さとうきび増産プロジェクト計画の令和7年度目標値である生産量90万2000トン、10アール当たり収量6.3トンを大きく下回っている。一方、肥料価格の高騰により生産コストは上昇しており、サトウキビ農家は経営的に厳しい状況にある。この状況を改善するには「化学肥料の使用量を減らし、サトウキビ収量を増やす」という一見、矛盾した取り組みを行う必要がある。そんなことが可能だろうか。 

1 サトウキビと可給態窒素(地力窒素)

 可給態窒素とは、土壌中で微生物の活動(有機物分解など)によって発生する窒素であり、地力窒素とも言われる。肥料三要素の中で、窒素はサトウキビの生育に最も影響するが、サトウキビが吸収する窒素のうち、肥料由来の窒素はおよそ30〜50%に過ぎない1)。残りの50〜70%の窒素の給源として、第一に考えられるのが可給態窒素である。約40年前に宮沢らは、サトウキビ増収には可給態窒素を高めることが重要であると指摘している2)

 サトウキビ栽培における窒素施肥の課題として、最終施肥が生育盛期(7〜10月)より早い点が挙げられる。サトウキビの栽培期間は長く、春植えおよび株出し栽培で約1年、夏植え栽培では約1年半であるが、すべての作型で最終施肥は5〜6月である(沖縄県サトウキビ栽培指針)。この時期以降は植物体が大きく、施肥作業は困難であるが、その後、収穫まで半年以上、無施肥状態となる。最終施肥はサトウキビの窒素吸収量が最大となる時期よりもかなり早く、「施肥窒素の効果をサトウキビの生育最盛期まで持続させることは、はなはだ困難である。基本的には畑の地力窒素の水準を高める必要がある」と宮沢らは述べている。

 近年、北大東島におけるサトウキビ畑の実態調査からも、可給態窒素がサトウキビ収量に大きく影響していることが解明された。吉田らは、北大東島のサトウキビ春植え圃場(ほ じょう)50筆について土壌理化学性の実態調査を行い、サトウキビ収量との関連を解析した3)。その結果、収量に最も強く影響する土壌要因は可給態窒素であり、可給態窒素が高い圃場ほどサトウキビ収量が高かった(図1)。



 

 以上のことから、サトウキビ増収のためには土壌中の可給態窒素を高めることが必須であることが明らかとなった。可給態窒素は堆肥など有機物を施用することで増加することが知られているが、沖縄県では堆肥の生産量が多くはなく、離島県であることからも堆肥を安価に入手することが困難である。堆肥に代わる有機物はないだろうか。

2 明らかになった緑肥の効果

 緑肥とは、土づくりのために休閑期に栽培し、堆肥と違って腐熟させずに生のまま畑にすき込む作物である(写真1)。沖縄では琉球王朝時代から、土づくりのためにマメ科植物が緑肥として利用されてきた。もちろん、堆肥も土づくりに利用されてきたが、緑肥と堆肥の土づくり効果の違いについては明らかとなっていなかった。そこで、著者らは緑肥と堆肥の連年施用が土壌の理化学性に及ぼす影響について、沖縄県において10年間の試験を行った4)




 
 試験区は、化肥区(化学肥料のみ施用)、緑肥区(マメ科緑肥のセスバニアを毎年10アール当たり2.5トンすき込み、化学肥料窒素3割減肥)、堆肥区(牛ふん堆肥を毎年10アール当たり2.5トン施用、化学肥料窒素3割減肥)として、2001〜2010年の10年間、スイートコーンを栽培して、収穫後に土壌理化学性の変化を調べた。その結果、化肥区に比べて化学肥料窒素を3割減肥しても、緑肥区は11%、堆肥区は7%、スイートコーンが増収した。土壌の変化について、三相分布などの物理性に大きな変化はなかったが、可給態窒素はすべての試験区で経過年数に伴って増加した。その増加量は、化肥区に比べて緑肥区と堆肥区が約1.5倍と大きく、有機物施用の効果が顕著に表れた。試験最終年の可給態窒素は、化肥区100グラム当たり1.9ミリグラムに対して、緑肥区は100グラム当たり3.4 ミリグラム、堆肥区は100グラム当たり3.0ミリグラムであり、緑肥には堆肥と同等以上に可給態窒素を高める効果があることが明らかとなった。前述した通り、可給態窒素は土壌微生物の活動によって発生する窒素であるが、緑肥区と堆肥区では、土壌微生物量が化肥区の約1.7倍に増加していることも確認された。

 緑肥の種子は安価であり、容易に入手することができる。堆肥を安価に入手することが困難な地域では、緑肥を堆肥の代替として土づくりに活用することが有効だろう。

 この結果から緑肥の有効性は明らかとなったが、サトウキビに対する緑肥の効果はどうであろうか。

3 緑肥で土づくり、減肥、サトウキビ増収!

 サトウキビの夏植え栽培では、収穫から植え付けまでに5〜6カ月の休閑期間があり、この期間に緑肥を栽培すれば、可給態窒素を高める土づくりができる(図2)。沖縄で一般的な緑肥であるクロタラリアを例にすると、梅雨前(4月下旬〜5月上旬頃)に播種(は しゅ)して8月頃にすき込み、3〜4週間程度の腐熟期間をおいて夏植えサトウキビを植え付ける。肥料は必要ないが、酸性土壌では生育不良になるため注意する。すき込みは立毛状態でプラウをかける、もしくはストローチョッパーで細断した後にロータリーで土壌に混和する(写真2)。クロタラリアの草丈が1.5〜2メートル程度になった時期にすき込むことが多いが、栽培管理の都合などでもっと早い時期にすき込んでも問題はない。クロタラリアは原産国のインドでは繊維作物としても利用されており、生育が進むほど繊維が強くなるので、大型機械がない場合には作業性を考慮して早めにすき込むとよい。
 


 
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 緑肥を休閑期に栽培することによって、土づくりばかりでなく、雑草の発生抑制や土壌流出防止も期待できる。これらのことから、沖縄県では夏植え栽培の際に緑肥を栽培して土づくりをすることが推奨されている。しかし、サトウキビ生産現場における緑肥利用は一部の地域にとどまっている。吉田らは、サトウキビに対する緑肥の効果が具体的に明らかになっていないことがその一因であろうと考え、緑肥がサトウキビ収量と可給態窒素に及ぼす効果について北大東島の農家圃場で試験を行った5)

 緑肥は、沖縄県内で一般的なマメ科のクロタラリアとイネ科のソルガムを供試した。北大東島の農家圃場にて、化肥区(緑肥栽培なし、慣行施肥でサトウキビ栽培)、クロタラリア区(クロタラリア栽培すき込み後、施肥3割減でサトウキビ栽培)、ソルガム区(ソルガム栽培すき込み後、慣行施肥でサトウキビ栽培)を設けて夏植え栽培で試験を行った。その結果、クロタラリア区ではすき込み後に可給態窒素が増加し、すき込み6カ月後でも化肥区に比べて高く維持されていた。ソルガム区の可給態窒素は化肥区と同等であった。サトウキビ収量はクロタラリア区で最も高く、化肥区に比べて35%増収となった(表)。同様に、収益性もクロタラリア区で最も高く、対照区に比べて10アール当たり8万4800円の増益となった。

 このように、サトウキビ夏植え前の休閑期に緑肥(クロタラリア)を栽培することによって地力が向上し、化学肥料を3割減らしてもサトウキビ増収を実現することが可能となる。沖縄県内ばかりでなく、同様な土壌が分布する鹿児島県の南西諸島地域でもこの知見は有効だと考えられる。
 
2

おわりに

 北大東島ではサトウキビ増産に向けて地域全体で土づくりに取り組んでおり6)、サトウキビ夏植え前には、ほとんどの圃場でクロタラリアが栽培されている。北大東島の過去5カ年(令和元〜5年産)のサトウキビ夏植えの平均収量は10アール当たり10.1トンと同期間の県平均7.1トンを大きく上回り、土づくりの効果が表れている。しかし、夏植えは植え付けから収穫まで約1年半かかることから、その栽培面積は春植えや株出しに比べて少ない。全県的にも夏植えの栽培面積は減少し、株出し栽培が増加している。株出し栽培では収穫後に発生する再生芽を栽培するため、緑肥を栽培することはできず、堆肥などの有機物を施用することも難しい。株出し栽培の増加が地力の低下やサトウキビ収量の低下につながるのではないかと懸念される。

 また、全県的に見ると、夏植え栽培においても播種やすき込み作業の手間を惜しんで緑肥を栽培しない圃場も多い。その場合、休閑期間に雑草が繁茂し、次作で雑草防除の手間が増えることになりかねない。夏植え前の休閑期間は、サトウキビ栽培において土づくりができる数少ないチャンスであることから、地力の増強や増収に向けて、ぜひ緑肥の栽培に取り組んでもらいたい。

 最後に緑肥で土づくりを実践している3人のサトウキビ優良農家の声を紹介する。「親父はずっと緑肥を植えて土づくりしていた。それを見て育ったから、緑肥を植えるのが当たり前」「春植えではなく夏植えをするのは、緑肥で土づくりをすることができるから」「土づくりをして良い畑にして次の世代に引き継ぐ、それが本当の農家だと思う。そのために緑肥は必ず植える」。持続可能な農業が求められ、さらに肥料価格の高騰など生産環境が厳しい昨今ではあるが、今だからこそ、土づくりを見直すことが必要ではないだろうか。

【参考文献】
1)草場敬、郡司掛則昭、藤冨慎一、猪部巌、古江広治、井手勉、山本富三、山田一郎(2009)「九州沖縄各県試験データに基づく土壌・施肥管理の現状解析と適正化に向けた課題」『九州沖縄農業研究センター研究資料』(92)pp.1-89.国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター
2)宮沢数雄、伊東祐二郎、銘苅敏夫(1981)「沖縄県に分布する特殊土壌の生産的特性−主要土壌群の施肥基準の設定−」『九州農業試験場研究資料』(60)pp.37-64.農林省九州農業試験場
3)吉田晃一、川中岳志、豊田剛己(2017)「北大東島のサトウキビ生産性に影響する主な土壌要因」『砂糖類・でん粉情報』(2017年12月号)pp.2-6.独立行政法人農畜産業振興機構
4)宮丸直子、伊波聡、儀間靖、亀谷茂、豊田剛己(2012)「緑肥と堆肥の連用がジャーガルの各種性質に及ぼす影響」『日本土壌肥料学雑誌』(83)pp.280-287.一般社団法人日本土壌肥料学会
5)吉田晃一、宮丸直子、杉原創、豊田剛己(2022)「緑肥すき込みによる夏植えサトウキビの増収効果」『日本土壌肥料学雑誌』(93)pp.190-196.一般社団法人日本土壌肥料学会
6)山神尭基、河西真帆(2021)「地力増進により増産を達成した北大東島の取り組みについて」『砂糖類・でん粉情報』(2021年4月号)pp.47-57.独立行政法人農畜産業振興機構

 

 

 

 

 

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