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中国のサトウキビ主産地における生産強化の動き〜広西チワン族自治区の糖業発展のための第14次5カ年計画〜

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最終更新日:2025年4月10日

中国のサトウキビ主産地における生産強化の動き
〜広西チワン族自治区の糖業発展のための第14次5カ年計画〜

2025年4月

調査情報部 伊澤 昌栄、岡田 真希奈

【要約】

 世界第1位の砂糖輸入国である中国の動向は、砂糖需給を見る上で欠かせないものである。本稿では、主産地である広西チワン族自治区のサトウキビ生産状況と、同自治区が策定した「広西チワン族自治区の糖業発展のための第14次5カ年計画」およびその取り組み状況について紹介する。

はじめに

 中国は、2023/24砂糖年度(10月〜翌9月)でブラジル、インド、EUに次ぐ世界第4位の主要砂糖生産国であるとともに、インドに次ぐ世界第2位の砂糖消費国でもある(図1、2)。このため、約14億人の人口を抱える同国は、国産糖のみでは国内消費を賄いきれず、砂糖の輸入大国でもある。23/24年度の砂糖輸入量は世界第1位(世界の総輸入量の約1割)となるなど、中国の生産・消費動向が砂糖の国際需給に及ぼす影響は大きい(図3)。
 









 
 現在、中国で生産される砂糖は、約9割がサトウキビ由来の甘しゃ糖であり、その多くは中南地域(注1)南部の広西(こう せい)チワン族自治区(以下、「広西自治区」という)で生産されている(図4)。

(注1)中国の6大地理大区の一つである南部中央地域であり、河南(か なん) 省、湖北(こ ほく)省、湖南こ なん)省、広東(かん とん) 省、広西チワン族自治区、海南(かい なん) 省が含まれる。

 

 

 広西自治区は現在、「広西チワン族自治区国家経済社会発展の第14次5カ年計画および2035年までの長期目標」に基づき策定された、「広西チワン族自治区糖業発展のための『第14次5カ年計画』」(以下、「広西糖業第14次5カ年計画」という)に基づき、24/25年度までのサトウキビ生産および糖業生産振興を進めている。

 本稿では、広西自治区の砂糖生産の現状と広西糖業第14次5カ年計画の概要を示し、今後の中国におけるサトウキビ生産について考察する。

 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」2025年2月末TTS相場の1中国人民元=20.80円を使用し、面積単位の換算には1ムー=0.0667ヘクタールを使用する。

1 中国の砂糖需給動向

 中国の糖化作物(砂糖原料)の構成は、約9割が中南地域を中心としたサトウキビ、残り1割が北東地域を中心としたてん菜であり、過去10年間の糖化作物の生産量は1億2000万トン前後で推移している(図5)。



 

 国内の砂糖生産量は1000万トン前後で推移し、消費量は同じく1650万トン前後で推移している。このため国産糖では需要を賄いきれず、不足分は輸入に頼らざるを得ない状況にある。また、期末在庫量は1500万トン前後で推移している(表1)。

 

 

 22/23年度の需給動向を見ると、生産量の減少要因として、広西自治区でユーカリの植林地からサトウキビへの転換が進んだことなどにより作付面積は増加したものの、干ばつなどの天候不順により収穫量が969万8000トン(前年度比6.1%減)とかなりの程度下回ったことが影響した。また、同年度の輸入量の減少要因として、世界的な砂糖価格の上昇から、中央備蓄糖(注2)などの国家備蓄糖管理制度(注3)による備蓄在庫の放出により粗糖の輸入を一時的に中止していたことなどが挙げられる。

 23/24年度については、広西自治区でのサトウキビ生産の作況が順調であったことから生産量は増加し、粗糖の輸入再開から輸入量も増加している。

(注2)中央政府が備蓄する粗糖、白砂糖を含む砂糖のこと。
(注3)砂糖の生産および流通を円滑に進めるため、国が1991年に構築。砂糖を戦略的備蓄品として、国が砂糖の管理を強化し、品質適合基準、入庫および保管数量を定め、国内の砂糖需給状況に応じて適切な買い付けおよび放出を適切に実施する制度。

コラム1 砂糖消費をけん引する中国のコーヒー市場

 中国の砂糖消費けん引の一因となるコーヒーの消費は、1989年に欧州総合食品企業が製造するインスタントコーヒーの輸入・販売を開始したことに始まったとされる。

  その後、99年に米国の大手コーヒーチェーン店が北京市に出店したことでコーヒー消費が伸長し始め、2010年にはコンビニエンスストアでレディ・トゥ・ドリンク・コーヒー(RTD。缶やパック入りコーヒーを指す)が販売され、より手軽にコーヒーを味わうことができるようになった(コラム1−写真1、2)。中国では、一般的にコーヒーは砂糖とミルクを入れたものが好まれており、コーヒー市場の広がりは砂糖および乳製品の需要の増加につながっている。

 現地報道によると、22年の北京市における人口1万人当たりのカフェ店舗数はニューヨークや東京と同水準とされ、同年のコーヒー市場規模は2007億元(4兆1746億円)であり、25年には3693億元(7兆6814億円)に成長すると見込まれている(コラム1−写真3)。









 22年の中国のコーヒー生豆輸入量は170万4000トン(2840万袋(コラム注))とわが国の約4割程度にとどまるが、今後の成長見込みを踏まえると、輸入量の増加が続くと思われる。

 中国のカテゴリー別コーヒー製品の比率を見ると、インスタントコーヒーが全体の75%を占め、次いでカフェなどで販売されるレギュラーコーヒーが15%、コンビニエンスストアなどで販売されるRTDが10%となっている。都市部を中心に、日常的にコーヒーを飲用する者の中には、無糖のコーヒーを好む者も増加しているが、人口が多く、まだまだ需要の伸びしろが大きいことから、関連商品である砂糖の需要も引き続き伸長するとみられる。

(コラム注)1袋60キログラム換算。
 

2 広西自治区のサトウキビ生産状況

(1)スプーン3杯のうち2杯の砂糖は広西自治区産

 中国の伝統的なサトウキビの主要生産地は福建(ふっ けん)省と広東省であったが、1978年から始まった改革開放政策で経済特別区が設置され、これらの省では地域開発や工業化が進んだ。このため、国主導でサトウキビの栽培条件に適していた広西自治区に生産地が移されたことで、同自治区での生産が本格化し、現在ではスプーン3杯の砂糖のうち2杯は同自治区産といわれるまでに成長した。

 近年、広西自治区のサトウキビ作付面積は、他作物への転作や製糖工場の再編、集約化による工場数の減少などの影響で減少傾向にあり、2018年には砂糖価格の上昇などにより微増に転じたが、その後は微減傾向となっている(図6)。



 

 栽培面積の減少に合わせて、砂糖生産量も減少傾向にある。ただし、天候により作況が左右されるものの、品種の更新や機械化の進行により、砂糖生産量は作付面積の減少に比べて穏やかな微減傾向にある(図7)。

 

 

 広西自治区では、既存のサトウキビ生産圃場(ほ じょう)から双高基地(注4)と呼ばれる高品質、高収量、高糖度のサトウキビ生産圃場への改良が進められており、20年時点で504万ムー(33万6000ヘクタール)の圃場が双高基地化された。双高基地の機械化一貫体系率(植え付けから収穫までの機械化)は64%と、既存圃場よりも進展し、大規模圃場であるメリットを生かした大型収穫機の導入も進んだ。双高基地の平均収量は1ムー当たり6.89トン(1ヘクタール当たり103.3トン)と、同自治区の既存圃場の平均収量である同5.72トン(同85.8トン)を大幅に上回った。

 20年の広西自治区のサトウキビ作付面積は87万5000ヘクタールであり、双高基地はその4割未満にとどまっている。既存圃場は依然として小規模で効率性が低いことから、さらなる双高基地化が求められているが、傾斜地などの圃場も多いことなどから、同自治区内のすべて圃場を双高基地化することは難しいのが現状である。

 広西自治区各地級市(注5)の作付面積および生産量を見ると、崇左(すう さ)市、来賓(らい ひん)市および南寧(なん ねい)市の3市で、作付面積および収穫量とも同自治区の6割を占めている(表2、3)。

(注4)サトウキビの生産性、品質を高めるため、区画整理、土壌改良を実施し、畑道、排水、かんがい設備の設置などを行った高水準な大規模圃場のこと。
(注5)中国の行政区分で、省級市、副省級市に次ぐ市。広西自治区には、省都南寧市を含め14地級市がある。
 


 
1

(2)「中国の糖都」崇左市のサトウキビ生産

 広西自治区最大のサトウキビ産地である崇左市は、広西自治区の南西部に位置し、南方はベトナムと接しており、中国が提唱する「一帯一路」の陸上および海上の貿易拠点として機能している(図8)。



 

 同市は亜熱帯湿潤気候のため、温暖で降水量が多く、サトウキビ以外ではリュウガン(果物)、ユーカリ、タピオカ(原料となるキャッサバ)などが生産されているほか、鉱山都市の性格も併せ持っており、マンガンや希土類元素(レアアース)の採掘も行われている。

 崇左市は、広西自治区のサトウキビ作付面積および砂糖生産量の約3割、全国の同作付面積および同生産量の約2割を占めていることから、「中国の糖都」と呼ばれている。2023年現在、同市のサトウキビ作付面積406万4900ムー(27万993ヘクタール)のうち、半分に当たる203万6400ムー(13万5760ヘクタール)が双高基地化されている。

 崇左市では、生産圃場の双高基地化だけではなく、高収量に向けた無病サトウキビ種苗の供給にも力を入れている。同市南部の憑祥(ひょう しょう)市では、崇左市内の健全サトウキビ種苗供給および育種を目的として23年6月、憑祥市、広西自治区の研究機関である広西農業科学院サトウキビ研究所と製糖企業2社ととともに、広西ASEAN越境協力農作物種苗センター(以下、「種苗センター」という)を設置した。24年2月現在、種苗センターの無病サトウキビ種苗の供給能力は1000万本で、これは憑祥市域の全圃場と同市外の崇左市域の一部圃場の定植株数に相当する。また、種苗センターでは健全種苗自動生産施設の建設を進めており、同ラインでは年間5000万本の無病サトウキビ種苗の供給が可能になるとしており、将来的には広西自治区内への種苗供給はもちろん、ベトナム国境に位置する地理的利点を生かし、ASEANへの種苗輸出も視野に入れている。

3 広西自治区の糖業発展のための第14次5カ年計画

 2021年に公表された「中華人民共和国国民経済社会発展の第14次5カ年計画および2035年までの長期目標」(以下、「国家第14次5カ年計画」という)では、農業関連目標として「食糧総合生産能力を6億5000万トン以上にする」「食糧の生産・貯蔵・運輸・加工段階のロスを効果的に引き下げる」が提起された。国家第14次5カ年計画を受け、各省および自治区でも第14次5カ年計画を公表し、広西自治区も「広西チワン族自治区国家経済社会発展の第14次5カ年計画および2035年までの長期目標」(以下、「広西自治区第14次5カ年計画」という)を公表した。

 広西自治区第14次5カ年計画では、広西自治区の主要産業である農業や製糖業の振興についても明記されており、以下に分野別の5カ年計画である広西糖業第14次5カ年計画の概要を紹介する。

(1)広西糖業第13次5カ年計画期間の実績

 広西糖業第14次5カ年計画策定の基礎となる広西糖業第13次5カ年計画(2016〜20年)では、170億元(3536億円)以上の事業費を投下して中小規模圃場を双高基地化したことにより、砂糖生産量は同計画公表時の510万トンから600万トン以上に増加した。これにより、広西自治区のサトウキビ生産額は250億元(5200億円)を超えた。

 同計画公表時には、広西自治区内で17社の製糖企業が操業していたが、生産性向上を目的とした戦略的再編により10社に整理統合され、製糖工場16事業所が廃止された。これにより、原料となるサトウキビをこれら再編後の企業に集約したことで、年間100万トン以上の製糖能力を持つ基幹的製糖企業6社を中心に、広西自治区内の製糖工場稼働率を大幅に向上させた。

(2)広西糖業第14次5カ年計画の目標

 上述の通り広西糖業第13次5カ年計画は、広西自治区のサトウキビ生産量の増加および糖業企業の効率化の達成につながった。しかし、依然として砂糖の輸入量が多いことから、広西糖業第14次5カ年計画ではサトウキビの生産基盤を強化し、より供給力を高めることを目標としている。これにより、1000億元(2兆800億円)の製糖業基盤の構築と、国内で最も競争力の高い砂糖生産地域を構成し、国内の製糖業をけん引するとしている。

 広西糖業第14次5カ年計画では、「総合的な生産能力」「サトウキビ生産および製糖業の品質向上」「環境保全対応」「経済効果」の四つの類別目標を定めている(表4)。
 


 

ア 総合的な生産力
 
サトウキビおよび砂糖の生産規模を表しており、広西糖業第13次5カ年計画期間中に達成された規模を維持するとしている。サトウキビは国により重要農産物に指定されており(注6)、重点的な産地形成のための生産保護地域(注7)が設定されている。広西糖業第13次5カ年計画期間終了時点で1150万ムー(76万6667ヘクタール)が設定されていたことから、この規模を維持し、サトウキビおよび砂糖生産量も同期間終了時以上の量を維持するとしている。

イ サトウキビ生産および製糖業の品質向上
 
生産性の向上に関するもので、広西糖業第13次5カ年計画期間終了時点のサトウキビ生産の機械化一貫体系率および優良品種の普及率の向上を目標としている。また、製糖業では、大手製糖企業への原料集中度を高め、効率化により加工付加価値を高めるとしている。

ウ 環境保全対応
 
広西糖業第14次5カ年計画では、生産性の向上だけではなく、環境保全対応についても目標を定めており、圧搾抽出かすのバガスの有効活用がすでに100%達成されていることに加え、圧搾抽出に向かない梢頭部(ケイントップ)の飼料向け利用比率を高めるとしている。また、持続可能なサトウキビ生産および製糖業に向けて、製糖企業の処理水リサイクル比率を高めるほか、サトウキビ圧搾抽出時に投下する水資源や石炭の使用量も低減させるとしている。

エ 経済効果
 
サトウキビ生産および製糖企業の効率性を向上させることから、経済効果も向上するとしており、サトウキビ生産、製糖業に関連する諸産業(三産業統合)への波及効果も見込んでいる。

(注6)自給率向上が求められる綿、植物性油脂、砂糖、ゴムの原料となる、大豆、綿花、菜種、サトウキビ、天然ゴムなどの農産物。
(注7)水や土壌などの生産環境が良好で、生産に関するインフラが比較的整備されている重要農産物品目の圃場が多い地域を指定。生産保護地域では、さらなる生産インフラの高度化、農業融資の強化などの財政支援を実施。サトウキビでは、広西自治区と雲南省に生産保護地域がある。
 

コラム2 中国で最も栽培されるサトウキビ品種「桂糖42号」

 中国のサトウキビ生産では、広東省が台湾の糖業研究所から導入した品種に始まる新台糖系列(ROC)と、広東省の広州サトウキビ糖業研究所育品種の粤糖(えつ とう)系列が二大品種系統として普及してきた。

 現在も両系統は国内で広く栽培されているが、主産地の移動に伴い、広西自治区や雲南省の研究機関が育成した品種も増加している(コラム2−表)。



1 桂糖42号(広西自治区農業科学院サトウキビ研究所)
 近年、広西自治区農業科学院サトウキビ研究所が育成した桂糖系列の栽培面積が安定して増加している。 同研究所は、広西自治区を中心とした中南地域の気候条件などに適応した品種を多く育成している。中でも新台糖22号と桂糖92−66を交配し、2013年に品種登録された桂糖42号は、早生種で干ばつに強く、草丈が高いことから機械収穫に適しており、国内で19/20年度から5年連続で最も栽培面積が多い品種となっている。

 桂糖42号の登録以降も、同研究所は多くの品種を育成しており、23/24年度の上位10品種に桂糖44号(5位)、桂糖49号(9位)、桂糖55号(10位)が入っているが、3品種を合わせても桂糖42号の栽培面積よりも少ない。

 同研究所は、桂糖42号を中心とした桂糖系列のさらなる普及に向け、広西自治区内はもちろん、同自治区外の各産地に対しても積極的に推進を図り、国内のサトウキビ栽培面積における桂糖系列の占有率を高めていきたいとしている。

2 桂柳05136(広西チワン族自治区柳城県サトウキビ研究センター《現:柳州農業科学研究サトウキビ研究センター》)
 2014年に広西自治区柳城(りゅう じょう)県サトウキビ研究センター(以下、「柳城センター」という)により品種登録された桂柳05136は、米国の品種と新台糖22号を交配した品種で、生育が旺盛で干ばつ条件下でも安定した収量が確保できることから、柳州市内の主要栽培品種となっている。

 これとは別に、柳州農業科学研究サトウキビセンターでは、かんがい設備が未整備の傾斜地などの条件不利地でも安定したサトウキビ生産ができるよう、15年に柳城センターが育成した桂柳01539を活用した栽培技術の研究などを行っている。

3 云蔗(うん しょ)081609(雲南省農業科学院サトウキビ研究所)
 
雲南省農業科学院サトウキビ研究所(以下、「雲南省研究所」という)は、広西自治区に次ぐサトウキビ産地である雲南省の研究機関であり、云蔗系列品種の育成を行っている。

 2018年に品種登録された云蔗081609は、生育が旺盛で干ばつ条件下でも安定した収量が確保できる上、国内育成品種の中でも糖度が高いことから、製糖企業からの支持も高い品種である。

 雲南省研究所が育成する云蔗系列品種は、23/24年度上位10品目に云蔗081609(3位)だけではなく、干ばつ条件下で安定した収量が確保でき、条件不利地でも栽培しやすい云蔗0551(6位)も入っている。

 これまで国内の主要品種となっていた新台糖系列の新台糖22号は、収量低下が顕著になってきたことから、各産地の研究機関では新台糖22号に代わる新たな品種育成が活発に行われており、桂糖系列を中心に多くの品種に置き換えられている。

 今後も各産地の地域特性などに適応した品種育成が活発に行われるとともに、気象条件などに左右されない栽培管理技術の研究が進むと思われる。
 

(3)高生産性を維持するための生産基盤の整備

ア 双高基地
 
広西自治区の双高基地は、同自治区内10地級市46区市県に分布し、サトウキビ生産保護地域の93%を占めている(表5)。





 前述の通り、双高基地はサトウキビ生産保護地域の中核的な大規模圃場であり、同基地化に当たっては、作業効率性の高い比較的平坦な圃場が優先されている。同基地は、より効率的なサトウキビ生産を行う生産基盤であることから、大規模区画化や土壌改良、スプリンクラーなどのかんがい設備整備はもちろん、大型収穫機の搬入や収穫物の搬出に適した農道などのインフラ整備も行っている。

 双高基地は、集約前の圃場耕作者により組織された合作社(農協)、担い手生産者による集団化のほか、製糖企業などによる圃場集約が奨励されており、これらの組織などにより同基地でのサトウキビ生産が行われている。また、同基地は、大規模区画で集団化されており、同基地内の生産管理技術の統一によりサトウキビ品質が均一化されている。

イ サトウキビ生産および砂糖生産のデジタル化
 
広西自治区では2012年、携帯電話大手の中国移動通信(China Mobile)と共同でサトウキビ関連情報アプリ「甜密通(スイートパス)」を開発し、サトウキビの生産管理や病害虫発生予測による適正防除、収穫判定などの効率化を図ってきた。スイートパスは、生産者が生産管理などの補助ツールとして活用することはもちろん、製糖企業からのSNS形式による情報発信や、サトウキビ収穫時の製糖企業工場への運搬手配、サトウキビ受入数量通知などの機能も有している。スイートパスの機能はスマートフォンで活用できることから、現地報道によると、スイートパスは30万人以上の生産者などに活用されている。

 サトウキビや砂糖の生産などにおけるデジタル技術のさらなる活用として、広西自治区糖業発展弁公室は2021年、広西自治区糖業ビックデータプラットフォーム(以下、「シュガークラウド」という)の運用を開始した。シュガークラウドは広西糖業第14次5カ年計画において、デジタル技術活用によるサトウキビ生産、砂糖生産などの競争力強化に資するものとしており、シュガークラウド内のアプリセンターで、生産者向け、製糖企業向けのアプリを提供している(写真、表6)。




 

2

(4)サトウキビ生産保護地域内における資源循環サイクルの構築

 サトウキビ生産保護地域では、双高基地などの生産圃場と製糖企業工場が近接しており、サトウキビ収穫後、速やかに砂糖が生産されるが、砂糖生産時の糖みつ、バガス、ケイントップおよびろ過汚泥の有効活用が課題となっていた。広西糖業第14次5カ年計画では、持続的なサトウキビおよび砂糖生産のため、同地域内での資源循環体系の構築を図るとしており、広西自治区の主要サトウキビ産地である崇左市、来賓市、南寧市および柳州市の4地級市に、これらの有効活用を目的とした大規模畜産施設、飼料工場、有機肥料工場を設置し、資源の地域循環サイクルを構築するとしている。このうち、大規模畜産施設についてはケイントップを肥育牛に給餌することを目的としており、ケイントップはもちろん、バガス、糖みつの混合飼料は同地域近隣の牛飼養農家などに供給され、飼養農家からは栄養価が高く、増体が良くなるとして高い支持を得ている。

(5)製糖企業の競争力強化と砂糖製品の付加価値化

ア 製糖工場の製造能力向上による競争力強化
 
広西糖業第13次5カ年計画による糖業企業および製糖工場の戦略的再編により、71カ所あった製糖工場は2023年に16カ所減の55カ所に集約化された。基幹的な製糖工場にサトウキビ原料が集約化されたことで工場稼働率が向上し、国内競争力は向上した。しかし、国際競争力の向上のためには、さらなる再編が求められている。

 このため、製糖企業の所有する各製糖工場の統廃合はもちろん、製糖企業間の連携による産地内の基幹的製糖工場へのサトウキビ原料の集約、小規模製糖工場の粗糖専門工場への転換や閉鎖などが、引き続き求められている。産地ごとの粗糖専門工場と大規模集約化された精製糖専門工場の設置と連携により、砂糖生産競争力の向上を図るとしていることから、引き続き製糖工場の整理統合が進むとみられる。

イ 砂糖製品などの付加価値化
 
約14億人の人口を抱える中国の巨大な砂糖需要を背景に、双高基地によるサトウキビ生産力の強化、製糖工場の戦略的再編による生産能力向上などを通じて、砂糖生産量を伸ばしている。砂糖需要は、食用としての家計消費向けはもちろん、飲料や食品製造などの食品工業向け、バイオエタノールなどの非食品工業向けなどがある。広西糖業第14次5カ年計画では、国際競争力を高めるためにも、非食品工業向け原料を含む付加価値原料化を進める必要があるとしている。

 広西自治区で第1位のサトウキビ産地である崇左市の中糧集団有限公司(COFCO)崇左製糖有限公司は、精製糖生産だけではなく、医薬品や化粧品原料としてのスクロース生産を行っている。

 第2位のサトウキビ産地の来賓市では、製糖企業による精製糖生産はもちろん、非製糖企業を誘致し、副産物であるバガスを活用した使い捨て容器、バガスペーパーなどの生産が行われている。また、サトウキビ破砕工程時に発生する汚泥を肥料として生産者に還元するなど、本来は廃棄物であった副産物の利用促進に取り組んでいる。

おわりに

 中国は、世界第4位の砂糖生産国であるが、約14億人の人口を抱える一大消費国でもあることから、世界第1位の砂糖輸入国でもある。このため、広西自治区は主要なサトウキビ産地として、同自治区が策定した広西糖業第14次5カ年計画に基づき、サトウキビの生産振興とともに、製糖企業の効率化による生産競争力強化を図ってきた。

 しかし、広東省などの伝統的なサトウキビ産地では生産規模が縮小し、主産地の広西自治区や雲南省も、双高基地以外の小規模圃場では、傾斜地など条件不利地が多く規模拡大が困難であるため、国内の砂糖需要を賄うためには引き続き輸入に頼らざるを得ないのが現状である。

 砂糖は重要な甘味資源であり、燃料向けのバイオエタノール、医薬品や化粧品などの非食用需要も堅調なことから、今後も世界的な需要は堅調に推移すると見込まれている。わが国でもサトウキビの多収技術の研究、効率的な製糖技術や副産物の有効活用による非可食糖の生産研究などが行われているが、国内の砂糖需要を充足できる生産量には至らないことから、輸入に頼らざるを得ない状況にある。世界的な砂糖輸入国である中国の動向は国際糖価に影響を与え、わが国の砂糖小売価格などにも影響があることから、引き続き中国の動向を注視する必要がある。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272