砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > 南西諸島のサトウキビ産業の持続的発展から、新たな可能性へ〜豊かな明日と将来を見据えた技術と品種開発の現状〜

南西諸島のサトウキビ産業の持続的発展から、新たな可能性へ〜豊かな明日と将来を見据えた技術と品種開発の現状〜

印刷ページ

最終更新日:2025年12月10日

南西諸島のサトウキビ産業の持続的発展から、新たな可能性へ
〜豊かな明日と将来を見据えた技術と品種開発の現状〜

2025年12月

サトウキビコンサルタント 杉本 明
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
熱帯・島嶼研究拠点 主任研究員 寺島 義文

【要約】

 南西諸島地域の持続的発展のための活動が、「世界」の持続的発展につながること、また、地域の「今日」を守る活動が将来的に世界の「豊かな明日」の活動につながることから、「食料とエネルギーの同時的増産」と「環境改良型作物生産」を基本とし、「不良な自然環境に適応性の高いサトウキビを用いた糖質・エネルギー・繊維質複合生産」と「サトウキビの周年収穫・多段階利用」について考察した。

はじめに

 本稿では鹿児島県、沖縄県の南西諸島のことを、地理学上の呼称を少し拡大解釈して「琉球弧(りゅうきゅうこ)」と呼ぶこととしたい。著者らは、琉球弧の島々を「小さな地球」とし、アジア大陸の縁に沿ってその先の世界に連なる大きな「弧」の一部と位置付けようと思う。

 サトウキビ生産地域でもある琉球弧は、島しょ部の持つ自然的・社会的環境の調和と、琉球弧以外の地域との経済的・文化的な交流の収支の均衡により成立している。その中でサトウキビは、生産額が他の産業と比べ多く安定していること、製糖工場という大きな装置を必要とすることから少量の生産では成立し難いこと、この両面によって、地域の基幹的産業として成立している。筆者らは、それが存続の危機にあるという認識から考察を始めた。

 先の稿(注1)では、現在の問題の克服に向け、1)部分深耕、2)ビレットプランタによる植え付けとケーンハーベスタによる収穫、3)密植・深植えと低い培土、4)苗生産圃場(ほ じょう)の設置と採苗後の旺盛な萌芽(ほう が)・初期生育に依拠した製糖原料用株出し圃場としての活用、5)上記1)〜4)による多回株出し多収生産、6)情報通信技術(ICT)を活用した圃場・機械・労働力の高度利用―を挙げ、地域ごとに実行可能な方法を提案した。

 ただ、その提案は現在の問題克服のための必要事項ではあるが、サトウキビ産業の持続的発展に必要な「後継者の獲得」には不十分であると思われた。そこで、本稿では、先述の提案が実現してもなお残る問題の克服方法を考え、持続性の高いサトウキビ生産の姿を島しょの基幹的産業という観点で描きたいと思う。

 先の稿で述べた「機械化一貫栽培による多回株出し安定多収生産」が、本稿で述べる「糖質・エネルギー・繊維質複合生産」または「周年収穫・多段階利用」の二つの方向のどちらかにつながり、技術開発として矛盾がなければ、先の稿での提案は当面の行為として妥当性が高いものである。

 また、琉球弧の内で描くサトウキビ産業が、琉球弧の外の持続的発展のための行為と矛盾しなければ琉球弧の島々の発展が世界の発展にもつながるものとなるのではないだろうか。そのような著者らの意図をくみ取った上でご一読いただき、忌憚ないご意見をいただければと思う。

(注1)詳細は杉本明(2021)「南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点―産業の持続的発展に向けて―」前編・後編(『砂糖類・でん粉情報』2021年10月号11月号)、杉本明・末川修(2022)「南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点―産業の持続的発展に向けて―」前編・後編(『砂糖類・でん粉情報』2022年11月号12月号)をご参照ください。

 

1 琉球弧の経済の基幹としてのサトウキビ産業のこれから

(1)多回株出し安定多収生産が実現しても残る問題と克服の方向

 先の稿では、琉球弧のサトウキビ産業が持続するための基本は「軽労で省力的な多回株出し安定多収生産の実現」であると述べ、具体的な道を提案したが、どうしても残る問題があった。

 具体的には、1)冬春季の収穫は株出し萌芽には低温過ぎること、2)台風・干ばつが頻発するため、既存の製糖原料品種を用いるだけでは、世界に通ずる株出し7回の8年8作、単位収量(10アール当たり8トン)を達成するのは難しいこと、3)島しょゆえに産業規模・圃場面積が世界標準の製糖産業と比べ小さいこと、4)作物の吸肥力や圃場の保水・保肥力(養水分の保持能力)が不十分で、土砂流出や地下水汚染を招いていること―などである。これらの問題を克服するために有効と考えられる技術を以下に述べる。

ア 植え付け・萌芽・初期生育期の低温の回避
 
熱帯性の作物であるサトウキビにとって、生育適温は32〜33度程度であるが、琉球弧におけるサトウキビの収穫期間は、冬から春(12月〜翌4月)である。収穫の中心となる1月、2月の気温は、最南部の石垣島でも最高・最低でそれぞれ21度、17度程度と低い。

 このような低気温は萌芽に不都合であり、さらに低気温に適応している雑草や病害虫との競争にも不利である。萌芽・初期生育が阻害され、欠株・少収につながることは想像に難くない。それを回避し、多回株出し安定多収を実現するにはどうしたらよいだろうか。「植え付け・萌芽・初期生育期を高温期に充てる」というのが答えである。

 比較的高温な時期に植え付け、1年後に収穫すれば発芽・萌芽・初期生育が促進され、低温期収穫を前提とする現行の栽培体系に比べ、収量は新植も株出しも向上するはずである。夏植えは植え付け期の高温という意味では合理的であり、在圃期間で補正しても春植えと比べ収量が高い。実際に、種子島における試験では、10月に植えて翌10月に収穫する栽培が、11月植え翌11月収穫、12月植え翌12月収穫、1月植え翌1月収穫と比べて、新植も株出しも収量が高いという結果が得られている。

イ 頻発する干ばつ・台風被害の克服
 
琉球弧では、しばしば干ばつや台風が発生(来襲)し、サトウキビが大きな被害に遭うため、地上・地下のダム、かん水施設、防風林整備が安定生産に貢献している。ただ、多額の建設費を要するダムやかん水施設の管理・運用・整備にかかる経費は、生産コスト上昇の大きな要因ともなる。また、貯留された水はサトウキビのみに使うのではなく、花き・園芸作、観光業や市民の生活水準向上への利用など、より広範な価値創造に振り向ける必要も高い。

 干ばつ条件への高い適応性、台風被害への抵抗性の獲得には、「生育期間を前進化することによる対応」が有効であろう。先の稿で、梅雨が遅い種子島の単位収量が比較的高く安定していると述べた。暑い夏でも、圃場に降雨による水があるからである。奄美以南の地にも梅雨はある。奄美大島以南の地域では、梅雨終了時期の種子島との差と同等の期間、植え付け時期を前倒しし、梅雨終了期までにサトウキビが生育旺盛な時期を迎えられるようにすることによって、生育を種子島のそれに近付けることができるはずである。

 具体的には、生育の開始(新植の出芽、株出しの萌芽)を現在の冬春季ではなく、夏秋季に変更することである。生育期間を前倒しして根系や茎を夏までに十分成長させておくことで少雨時の吸水機能を高め、風折への抵抗力を向上させようとする実践である。肥培管理の変革による不良気象回避のほか、サトウキビの根系強化も有効である。

ウ 経営規模の克服
 
島しょゆえの小さな産業・経営・圃場規模のままでは、省力的な多回株出し多収生産を実現しても、創出する価値量は島の経済活性化には不十分である。島全体の価値創出量を増加させるために、単にサトウキビの生産量を増やすだけでは、島の経済は浮揚しない。そこで必要となるのが、「サトウキビ作の収益性向上に基づく生産量の増加」である。収益性向上に向けた対策の中心はコスト削減ではない。コスト削減は個別経営にとっては良いものの、地域の価値・富の最大創出にはつながらないと考える。答えは、売上額の増加、すなわち圃場(単位収量の向上)と作物の高度利用の実現である。

エ 海浜に囲まれた特性の克服
 
自然環境の保全は、島しょにおける経済活動の前提である。土砂流出は圃場の地力を低下させ、流出先の汚染を招く。土砂が海浜に向かえば生物に大きな影響を及ぼす。硝酸態となった窒素が地下に浸透すれば、水源の汚染をもたらす。それらを回避するために、圃場からの土砂流出の最小化と硝酸態窒素浸透の抑制、すなわち「圃場の保水力・保肥力の向上、吸肥力の高い作物栽培」を考えたい。そのために、多回株出し多収性品種の利用、非収穫部分のすき込みと耕畜連携に基づく有機物の圃場還元を提案したいと思う。施肥成分を残さず吸収する、作物の吸肥力強化は生育の基本でもある。次節では、開発する不良環境適応性の高いサトウキビを高度に活用した新たな適地適作にも触れたい。

(2)サトウキビ産業に求められる機能

 地域の基幹産業が備えるべき特性は、1)産業自体としての高い人口涵養(かんよう)力(経済規模が大きく安定していること)、2)地域の最大富創出に必要な土地・労働力運用の高い柔軟性(他の経済活動を助ける機能)、3)富創出の基盤となる地域の自然・社会的環境の高い保全機能―の3点に集約される。

 琉球弧のサトウキビ生産圃場は、どの地域においても小さく、海に向かって傾斜しているものが多い。その中で、個別経営の自立性を高めて(労働生産性の高さに依拠)産業を持続的に成立させるための基礎を作り、かつ、地域の人口を高水準に維持(土地生産性の高さに依拠)するためには、サトウキビ産業自体による一層の価値創造と他の作物・産業との連携による地域の富の最大創出が必要である。自然環境の保全や傷んだ環境の修復はその前提であると思う。

 人口増加や優良農地減少による食料・エネルギー需給のひっ迫、異常気象による豪雨、干ばつなど世界的な課題が多い中、琉球弧がサトウキビ産業によって食料やエネルギーにおける課題を解決し、豊かな未来を創ることは、その先の地球全体における課題の解決にもつながると考える。さらに、サトウキビ産業が、小さな島における「持続性の高い産業」として世界的な社会性をそなえることで、産業の存在意義が高まり、若者の就業意欲を継続的に誘うことのできる魅力的な産業となるのではないだろうか。

 課題解決のために考えられる手法として、「食料とエネルギーの同時的増産」が挙げられる。食料とエネルギーの同時的増産を指向するとき、最初に考えるべきことは、既存作物の枠を越えて描く「適地適作」である。図1に、北回帰線から南回帰線の間を対象に、土地利用の粗々な概念を五つに区分して示した。区分T「農業適地」(水、太陽光が豊かな高温多雨を特徴とする農業適地・サトウキビ多収地域)、区分U「低肥沃(ひよく)度」(やや少雨な現在のサトウキビ少収地域)、区分V「不良環境」(少雨で乾燥した圃場が多い農業不適地)、区分W「半乾燥地」(さらに雨の少ない農業困難地)、そして区分X「砂漠」である。

 琉球弧は、夏の干ばつを考慮すると大部分はUに、時にはVに該当する。それに加えて、冬の低温がある。現在の南西諸島におけるサトウキビ生産は、Tの高温多湿地向けのサトウキビ生産技術を用いているため、結果として低く不安定な単位収量となっている。「適地適作」とは、少雨適性の高い、U、Vの地域に適応性の高いサトウキビを開発し、その利用技術を作り産業化しようとするものである。具体的な内容は次節で述べる。
1

(3)「適地適作」の実現に向けた新たな技術

ア 地域に適応性の高い品種を用いた「糖質・エネルギー・繊維質複合生産」
 
琉球弧のサトウキビ圃場は、多くが肥沃とは言えず、保水・保肥力が低く、台風や干ばつも頻発する。さらに、収穫期は低温である。このような環境での多回株出し安定多収の実現には、「低温条件でも萌芽・初期生育が旺盛な品種」が必要である。

 そのような課題に対応する品種の例が、すでに普及が始まっている製糖用品種「はるのおうぎ」であり、2024年7月に沖縄県の奨励品種として採用された「RK10-29」である。このほか、低糖度であるが株出し多収性を備える砂糖・エタノール複合生産用の「KY01-2044」もある(図2)。「KY01-2044」は、干ばつや台風への抵抗性も既存の製糖用品種と比べると高く、不良な環境条件における多回株出し安定多収の実現に有用な品種である。一方で、「KY01-2044」は還元糖が多く、繊維分(バガス)が高いために可製糖率が低い、脱葉性が悪くトラッシュが多いなど、現行の製糖システムでは利用しにくいとされる特性がある。





 目的生産物が砂糖のみの場合は、還元糖も過剰な繊維量も価値生産の系から排除すべき「トラッシュ」である。しかし、エタノールやアミノ酸の生産には還元糖が、電力の地域供給には火力発電の燃料として多くのバガスが必要である。海上輸送した燃料を用いている琉球弧の発電事情の改善につながることに関し、少なくとも技術的にはプラスであろう。バガスからは使用領域の広いエネルギー商品を生産する試みもある。さらに、梢頭部(しょうとうぶ)やバガスは圃場に還元される貴重な有機質資材でもある。

 サトウキビ野生種とのいわゆる「種間交雑系統」には、株出し多収などの優れた特性とともに、製糖の欠点と見なされるような成分特性を備えるものが多い。現行製糖法の場合、純糖率が下がると急速にショ糖の結晶化が難しくなるため、不良な環境への適応性の高い多収で純糖率が低い品種の利用には、製糖法の改良が必要である。そこで、アサヒグループホールディングスと独立行政法人(現国立研究開発法人)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センターでは、還元糖の発酵工程を清澄化工程と蒸発工程の間に挟み、エタノールに変換することによって還元糖を砂糖生産の系からエタノール生産の系へと移行させてしまう、「逆転生産プロセス」を共同で開発した(注2)。この工程の導入により、結晶化工程には純糖率の高いシロップが送られ、結晶化が容易になる。晶析できなかった純糖率の低い蔗汁(登熟途中のサトウキビやそもそも純糖率の低い多収性サトウキビの搾汁液)を用いてもショ糖の結晶化、すなわち砂糖の製造が可能になる。この技術は、既存製糖工場の工程の一部を用いた大規模試験によって稼働可能であることが確認されている。高温期登熟型品種の利用に逆転生産プロセスを加えれば、製糖期間の大幅な前倒し的拡張も期待できる。操業期間の大幅な拡張は製糖工場という大きな施設の稼働性を向上させるとともに、電力の供給期間を長期化させる意味も持つ。株出しの多収化とともに、高温期収穫がもたらす大きな恩恵だと思う。この技術は試験段階であるものの、今後に向けた多くの可能性を秘めている。

(注2)「逆転生産プロセス」の詳細については小原聡(2013)「砂糖の生産性を飛躍的に高めるバイオエタノール生産技術〜逆転生産プロセス〜」(『砂糖類・でん粉情報』2013年6月号)をご参照ください。

 琉球弧で、サトウキビ産業が労働の快適性と収益性、社会性を伴う産業であり続けるためは、熱帯多雨地域を適地とする既存の品種ではなく、琉球弧を適地とする品種を開発し、その利用技術を作ることがまず必要である。図1に示した通り、世界には少雨などによる農業不適地が多い。地球環境の保全がうたわれる昨今、「適地適作」の実践は大きな意味を持ち、次世代の担い手をひきつけるに足るものであろう。

 

 

イ 価値創造に向けた「サトウキビの周年収穫・多段階(カスケード)利用」
 
圃場も経営の規模も小さい琉球弧で、世界のサトウキビ産業にも、国内の他産業にも劣らぬ人口涵養力を発揮するために必要なこと、それは少ない生産量を補うに足るサトウキビ単位収量当たりの大きな価値創造量である。それを目指す「周年収穫・多段階(カスケード)利用」とは、どんなものだろうか。琉球弧で実現できる可能性はあるのだろうか。残念ながら、実現しているところは世界中を見渡しても、今のところない。

 最も近いのは、コロンビアのカウカ渓谷であろう。ほぼ周年でサトウキビを収穫・操業し、砂糖を中心に紙や化学製品などの多品目を生産している(図3)。気温、土壌水分が十分なため、サトウキビの単位収量は世界でも最高位にある。課題は糖度・純糖率である。茎の成長に適しているということは、葉で作られたショ糖を分解して成長を促す還元糖を作る「酸性インベルターゼ」の活性が常に高い状態にあるということである。カウカ渓谷では、根の活性を抑制する薬剤(登熟促進剤)を散布して吸水を抑制し、インベルターゼ活性を抑制している。収穫予定日から逆算して登熟促進剤を散布して根の活性を下げるため、葉の色が緑から黄緑・黄・肌色に至るグラデーションが観察される。高温と畦間かんがいによる水供給で周年植え付けが可能になり、登熟促進剤の計画的散布で周年収穫が実現している。さらに、団地化された工場立地を活用して、多品目生産を実現している。「カスケード利用」に向けて、製糖産業の最も進んだ姿であると言えよう。

 大規模生産のカウカ渓谷に比べ、はるかに規模が小さい琉球弧での多段階利用の実現には、高価値成分の探索と効果的な抽出・利用、そして一層細やかな処理が必要である。細やかな処理法(少ない1日当たり処理量)で適正規模の原料処理をどう達成するか、収穫・操業の飛躍的な長期化(周年化)が第二の重要事項となるゆえんである。




 


 サトウキビが光合成に由来して生産する物質は、「ショ糖」、「還元糖」に加え、「ヘミセルロース」や「リグニン」などの他、「ポリフェノール」、ワックスを構成する「高級アルコール」などが知られている。国や地域によっては、バガス由来の紙製品、布製品を生産しているところもある。日本では、精製糖会社が有用成分を抽出して、消臭剤として商品化した例がある。ワックス関連物質を成分にした飲料や、スポンジ様の製品の開発も行われ、茎皮と柔組織に分けて加工する方法(ケーンセパレーションシステム)が試されたこともある。

 多段階利用は、サトウキビの成分を価値の高い物質から低い物質へと順に抽出・生産することを本旨としている。高いものから低いものへと滝のように価値化していくことから、この方法を「カスケード(滝)」利用とも呼ぶ。サトウキビは、栽培作物の中ではバイオマス生産量が多いのが特徴の一つである。それを高度に利用するための成分分析と利用加工、その情報を整理するところからそれが始まる。

 周年収穫に向けてまず必要なのは、砂糖製造に有利な高温期登熟型の品種であろう。既存品種の中では、四国などで栽培されている「黒海道」の糖度上昇期が最も早く、著者による圃場試験では石垣島の株出し栽培で、9月収穫でも甘蔗糖度が現行の買取基準である13%に達するという結果が得られている(未発表)。サトウキビの糖度上昇の契機は、順調な光合成の継続と茎伸長の鈍化である。生長鈍化の要因には、1)低温、2)乾燥、3)土壌中の窒素欠乏、4)花芽分化など―がある。成熟促進剤により根の活性を下げる場合もある。著者は、温度低下に敏感に反応する品種、干ばつ時の乾燥で糖度・純糖率が上昇する事例、早期出穂性野生種との交雑で出穂時期が早期化する事例を得ている(未発表)。夏季・秋季でも製糖可能な糖度に達する品種育成の可能性が高い上に、逆転生産プロセスもある。ましてやこの系の目的生産物は、砂糖のみではない。近い将来に、周年収穫・多段階(カスケード)利用による高付加価値型サトウキビ産業が成立することが期待される。

 

ウ 「環境改良型農業」の実践と「農工融合型思考」による技術開発
 
「食料とエネルギーの同時的増産」の達成にまず必要なのは、保水・保肥力の高い優良農地を増やすことである。食料やエネルギーを生産しつつ、それを達成するのが「環境改良型農業」である(図4)。サトウキビ産業の持続のためには、産業が環境を劣化させることは許されない。「島の環境保全」をすべての活動の前提に置くのは、それゆえである。世界の状況と同様に、琉球弧の島々にも少雨の農業不適地、保水・保肥力が低く、単位収量の低い圃場が少なくない。そのような圃場における環境改良型農業とは、どういうものだろうか。

 保水・保肥力の低い圃場ではサトウキビ収量が低く、土壌の表面が太陽にさらされ、雨粒から表面を守るものがなく土砂流出が容易に引き起こされる。頻繁に繰り返される新植のための耕起は、土壌微生物叢の発達も妨げる。そのような圃場には、深く強い根系による作物的深耕と、有機物の積極的な蓄積による地力改良、多回株出しによる土壌表面の保護、すなわち環境改良型農業の実施が必要である。その出発は、「少雨環境や低肥沃度土壌」でも安定多収性を示すサトウキビの開発と利用加工技術の開発である。

 価値創造を続けながら小さな地球の環境改良(世界の持続的発展に必要な技術・システム)を実現するためには、農・工双方の変革が必要である。

 熱帯の多雨地域におけるサトウキビの効率的な利用技術開発と、その栽培地域拡大は、サトウキビ産業の歴史そのものであった。

 単位収量の低い南西諸島での環境改良型安定多収サトウキビ生産の達成には、少雨・やせ地環境でも高いバイオマス生産を発揮できる作物を開発して利用することが求められる(図5)。それを効果的に用いるためには新しい加工技術が必要である。農と工が互いに開発初期から情報を交流させつつ深めていく技術開発の在り方、それを「”農工融合型思考“による技術開発」と呼ぼうと思う。




 

2

(4)新類型サトウキビ開発への期待

 これまで述べた「糖質・エネルギー・繊維質複合生産」、「周年収穫・多段階利用」、「環境改良型サトウキビ生産」は、いずれも既存のサトウキビ品種では実現できない。1)干ばつ条件下でも旺盛な生育を示すためには、水分含量の少ない土壌で効果的に水を吸収する機能を持つ品種、2)高温期収穫のためには、高温でも糖度が上昇する品種、3)冬季収穫での株出しの改良には、低温条件への適応性を備える品種―が必要である。

 これまでに、株出し多収性を求め、サトウキビ野生種を用いて種間雑種を作出し、ここから圃場を水平方向に効果的に利用できる形態や多回株出しに向いた品種を作出した。しかし、一層高いバイオマス生産のためには、(光受容の高度化を前提に)土壌の下方向の効果的な利用が必要である。先の稿で述べたように、サトウキビが「C4型光合成」をする「要水量の低い」植物であることを思い返すとき、深く、強く、寿命の長い根系を備えること、少雨期でも水を含む土壌の深層に根が届く特性が必要である。「強く深く豊かな根系を備える良株出し性サトウキビの育成」、これを育種目標とし、有用特性をそなえる遺伝資源を広く求め、変異の作出と有用な変異の集積と選抜のための新しい手法を用いて、これまでに現出できなかった遺伝子型を創出する試みが国立研究開発法人国際農林水産業研究センターで行われている。その試みについては、別の稿で紹介したい。

おわりに

 本稿では、近い将来の琉球弧におけるサトウキビ産業を、今日に続く明日の産業として、琉球弧のサトウキビ生産地域の特性を「島しょ性」とし、「島は小さな地球」という理念の中で描き、サトウキビ産業の存立意義を考えてみた。その中で、サトウキビ産業を南西諸島の基幹産業として位置付けることを改めて確認した。そして、基幹産業として備えるべき、1)産業自体の高い人口涵養力、2)他の経済活動を助ける機能、3)富の創出の基盤となる地域の自然環境の保全・改良―の観点から、代表的な二つの道を描いた。どちらも、現在の課題の延長線に描いた産業の姿、産業存続の危機というべき事態をもたらした事情の理解に基づいた問題克服の道、昨日から見た今日の姿としての先の稿を受けた提案である。昨日、今日、そして、明日という時間軸を技術の発展史として整理した軸に沿うとともに、琉球弧と世界が途切れずにつながるものとして捉えた思考の結果である。

 一つの道は、不良環境に適応性の高いサトウキビを用いた「糖質・エネルギー・繊維質複合生産」とし、もう一つの道は周年収穫・周年操業に基づく「サトウキビの多段階利用による高付加価値生産」とした。技術の柱は、これまでにない飛躍的な特性をそなえる品種である。そして現在の製糖産業からみると、欠点としか見えない特有の特性を活用するための利用加工技術・システムの開発である。

 品種育成は遠くまで進めるような準備が進められている。サトウキビとは異なる属のエリアンサス属植物との交雑を発展させた。さらにサトウキビ野生種、時にススキ属植物を加え、深い根系による干ばつへ条件への適応性、耐霜性や低温条件への適応性など、飛躍的な特性をそなえる育種素材を準備するに至っている。しかし、新類型品種がそなえるこれまでとは異なる成分特性を効果的に利用するための技術は未発展である。「サトウキビの多段階利用」にも新たな利用技術の開発が必要である。

 読者諸氏にあっては、先の稿(サトウキビの昨日と今日)とこの稿(明日)との間を往復して、つまずくことがないかどうかを体感的に思考していただければ幸いである。冒頭で述べた通り、前述の二つと琉球弧の内と外との技術が矛盾しないものとしてあれば、本稿で行った提案は有用であり、有効である。先の稿からの一連の提案は、そのような文脈で構成されている。今日の経営の視線、後継者獲得の視点でご一読され、ご意見を賜ることができれば本望である。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272