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南西諸島におけるサトウキビ産業の持続的発展に必要な品種特性と品種開発の可能性

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最終更新日:2026年3月10日

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南西諸島におけるサトウキビ産業の持続的発展に
必要な品種特性と品種開発の可能性

2026年3月

国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター 
熱帯・島嶼研究拠点 寺島 義文
サトウキビコンサルタント 杉本 明

【要約】

 南西諸島のサトウキビ産業の持続的発展には、厳しい自然環境に適応し、多回株出し栽培での糖質・繊維質の持続的な多収生産を実現する新しい品種の開発が不可欠である。これまでに、サトウキビ野生遺伝資源を利用することで、株出し栽培での生産性が優れる品種や根が深く発達する不良環境適応性改良に利用できる新規素材を開発した。今後、これらの品種や素材を育種に利用することで、産業の持続的発展に貢献する新たな品種の開発が期待される。

はじめに

 先の稿(注)で述べた南西諸島のサトウキビ産業の将来像、すなわち「砂糖・エネルギー・繊維質複合生産」、「周年収穫多段階利用」、「環境改良型サトウキビ生産」の実現のためには、南西諸島の厳しい環境条件への適応性と、多回株出し栽培での糖質・繊維生産性の持続的な向上を達成する新しいサトウキビ品種の開発が不可欠である。しかし、そのような新しいサトウキビ品種開発のためには、現在の育種上の課題を克服し、従来の砂糖生産に特化した極高糖度・低繊維分を目指す育種戦略を大きく転換する必要がある。

 (注)詳細は、杉本明・寺島義文「南西諸島のサトウキビ産業の持続的発展から、新たな可能性へ〜豊かな明日と将来を見据えた技術と品種開発の現状〜」(『砂糖類・でん粉情報』2025年12月号)をご参照ください。

1 サトウキビ育種の現状と課題

 まず、育種上の課題克服については、未利用の野生遺伝資源を利用した遺伝的多様性の拡大がある。現在、サトウキビでは、世界的に品種改良の停滞が大きな問題となっている(Jackson et al. 2013)。これは、世界のサトウキビ育種事業で利用されている品種や育種素材が、インドネシア(POJ品種)やインド(Co品種)などで育成されて世界中に広まった重要な優良品種を育種素材として開発されているため、遺伝的な多様性が非常に狭いことが大きな要因であると考えられる(Jackson et al. 2013)。日本のサトウキビ育種においても、近年育成されたRK97-14、はるのおうぎ、RK10-29、有望系統のRK10-33などは、NiF8、Ni9、Ni27と比較して品種としての能力は確実に向上している一方で、これまでと同じような交配集団からは、それら品種を超える系統を選抜することが難しくなっている。そのため、製糖用か砂糖・エネルギー・繊維質複合生産用かにかかわらず、将来に向けた品種開発において、育種停滞の打破に向けた未利用の野生遺伝資源利用による遺伝的多様性の拡大は不可避のものとなっている。

 育種戦略転換の一つ目は、現在のように砂糖の生産効率を重視した極高糖度・低繊維分の品種開発から、糖と繊維の生産性を重視した品種開発への転換である。サトウキビは、光合成により空気中の二酸化炭素を糖や繊維として茎中に固定するが、既存の極高糖度・低繊維分の品種よりも、高糖度・高繊維分のものの方がより多くの乾物(糖+繊維)を蓄積できることが知られている。つまり、極端な高糖度を求めて砂糖の生産効率を上げるよりも、砂糖を生産できる糖含率を維持しながら、繊維含率を同時に高める方が、サトウキビの作物としての炭素固定能力や乾物生産能力を最大限に生かすことができ、糖や繊維の生産にはより効果的であるということである。

 育種戦略転換の二つ目は、サトウキビ生産を支える地下部特性の改良である。従来のサトウキビ育種は、地上部の生産性を重視してきたが、世界的にも環境が厳しい南西諸島での多回株出し栽培における糖質・繊維質生産性の持続的向上のためには、地上部特性とともに、地上部を支える地下部特性(地下株や根系)についても戦略的に改良をしていく必要がある。また、干ばつ被害の軽減や、やせた土壌への適応性、機械による株の引き抜きや踏圧による土壌物理性の悪化など生育への悪影響の緩和(Paula and Molin 2013)においても、地下株や根系の改良は重要となる。さらに、根系の改良は、土壌深層の窒素利用率の向上(宇賀・木富2016)や多量の根による土壌への有機物還元(関谷ら2015)効果による生産の持続性向上への貢献も期待できる。南西諸島での“砂糖・エネルギー・繊維質複合生産”の実現には、高糖・高繊維化と地下部特性の改良を同時に達成し、多回株出しでの糖・繊維の持続的な安定多収生産を実現することが重要となる。

 サトウキビは、サトウキビ野生種などの近縁種とともに、近縁属野生遺伝資源とも雑種が作出できるという他の作物にはない特徴を持つ。この特徴を生かし、これら近縁の野生遺伝資源のゲノムや有用形質を導入・集積することで遺伝的多様性を拡大し、サトウキビの品種改良の停滞打破と、これまでにない新しい特性を備えた品種開発が可能になる。以下では、それら野生遺伝資源利用の現状と可能性について述べる。

2 サトウキビ野生種を利用した改良の現状と可能性

(1)種間交配を利用した製糖用品種開発の現状

 サトウキビの野生種(Saccahrum spontaneum L.)は、熱帯および亜熱帯アジアの広い地域、北オーストラリアやアフリカに自生するサトウキビの祖先種であり、株の再生力が極めて優れ、多様な環境ストレス(乾燥、湛水(たんすい)〈氾濫などにより茎葉部が浸かった状態〉、塩害、低温など)への耐性や病害虫への抵抗性も備えている(図1)。現在、世界中で利用されているサトウキビ品種(Saccharum spp. hybrids)は、すべて野生種との種間雑種であり、全ゲノムの10〜20%は野生種由来となっている。これまで株出し性やストレス耐性、耐病性の改良などを目的に世界各地のサトウキビ育種に利用されてきており、豪州ではミャンマーで収集された野生種系統Mandalayを利用してQ138やQ154、Q158(QはQueenslandの略)など22品種が、バルバドスではインドの野生種を利用してB80251、B881607(BはBarbadosの略)などの品種が、台湾では同地に自生する野生種を利用してROC16、ROC23、ROC24などが育成されている。また、米国ルイジアナ州では、タイで収集された野生種系統US56-15-8を利用してLCP85-384(LはLouisiana、CPはCanal Pointの略)が育成され、同地域の90%以上で栽培された。近年は、遺伝的多様性の拡大による育種停滞の打破や気候変動に対応するためのストレス耐性の改良などに向けた重要遺伝資源として再注目され、育種での利用が進められている。日本においても、種間交配を利用した日本初の製糖用品種はるのおうぎが育成され、種子島・奄美地域での栽培が拡大している(服部ら2019)。
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(2)種間交配を利用した「Energy Cane」の開発

 世界のサトウキビ産業は、砂糖産業から、砂糖とともにバイオエタノールやバガスを利用した電力生産を行う砂糖+エネルギー産業に変化してきており、将来的には、サトウキビが生産する糖や繊維を総合利用するバイオリファイナリー産業にまで発展すると考えられている。これは、日本の南西諸島のサトウキビ産業の明日に向けた“砂糖・エネルギー・繊維質複合生産”の方向性とも一致する。世界のサトウキビ育種においても、糖と繊維の総合利用に向けて、サトウキビ野生種などを利用した「Energy Cane」開発が行われている。世界的に、サトウキビと野生種の種間交雑の後代は糖含率が製糖品種より低いが、雑種強勢によりバイオマス生産性が高くなることが知られている。「Energy Cane」は、サトウキビが本来持つ高いバイオマス生産能力を最大限に活用し、従来の「糖だけを利用する」サトウキビ産業から、植物全体のバイオマスを総合的に活用する新しい産業への転換を実現するための新しいサトウキビの概念として、プエルトリコの研究者 A.G. Alexanderが1970年代に提唱したものである。実際にAlexanderらは、その著書『the energy cane alternative』の中で、種間交雑を利用することにより、既存の製糖品種よりはるかに生産性が高い系統(乾物で100 t ha-1-1〈1年間に1ヘクタール当たり100トンの乾物を生産〉)の作出が可能であることを示している。現在、Energy Caneは、糖度と繊維の含率の違いにより2タイプに分けられている(Tew and Cobil 2008, Crusi et al. 2022)。Type I Energy Caneは、既存の製糖用品種より糖度は同程度かやや低いが、繊維分は高く、既存の製糖工場を利用した砂糖生産と繊維の利用を想定したタイプであり、Type II Energy Caneは、糖含率は低いが繊維含率を極めて高く改良することで繊維を主産物としつつ、糖質を砂糖生産以外の用途に利用するタイプである(図2)。また、Type I、IIともに、既存の製糖品種より茎に蓄積する乾物の割合が高く、多収で株出し回数を多くできるという特徴や不良環境への適応性が高い特徴を持つことが提案されている。これまでに、豪州やブラジル、バルバドスや米国などの多くの国で、Type IやType IIのEnergy Caneの品種開発が進められている。日本においても、砂糖・エネルギー生産に向けたモデル品種としてKY01-2044が育成されており(寺島ら2009)、Type IのEnergy Caneに分類される。また、はるのおうぎについても、既存品種よりやや繊維分が高く、砂糖だけでなくバガスの生産量も増加することから、Type I Energy Caneに分類することができる。南西諸島の明日に向けた “砂糖・エネルギー・繊維質複合生産”を実現するための新しいサトウキビ品種についても、多回株出し栽培での糖質と繊維多収生産を実現する高糖度・高繊維のType I Energy Caneの開発が目標になると考えられる。
 
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(3)野生種を利用したサトウキビ改良の可能性

 南西諸島のサトウキビ産業の明日を実現するためには、多回株出し栽培での糖と繊維の持続的な安定多収生産の実現が必要であり、そのためには高糖度・高繊維化や地下部の改良が重要であることを述べた。サトウキビ野生種は、それら特性の改良に向けた最も重要な遺伝資源となる。野生種を利用した高糖度・高繊維化による茎中の乾物率の増加の可能性を示すために、はるのおうぎを育成した交配組み合わせ集団(KRFo93-1×NiN24、種間雑種BC1)の糖度と繊維分の石垣島(令和5年度)での分布の一例を図3に示した。茎中の乾物率(糖度+繊維分で推定)は、Ni27の25.3%、RK10-29の25.9%に対し、種間交配で育成したはるのおうぎは、繊維分がやや高いため28.1%と他の品種より乾物率が高いことが分かる。これら品種と比較して、種間雑種BC1集団は、茎径は細いものの、茎の乾物率は集団平均で30.9%、最大値で37.5%と製糖品種より乾物を高密度で茎に蓄積することが可能であり、はるのおうぎやRK10-29と同程度の糖含率を備えつつ、繊維含率が高い系統が選抜可能である。このように、サトウキビ野生種との種間交配を利用することで、茎中により多くの光合成産物を蓄積して乾物率を高めることが可能であり、利用目的に合わせて多様な茎中の糖度と繊維含率のバランスを備える高糖度・高繊維系統を選抜することができる。
 


 

 多回株出しでの生産性や不良環境適応性、持続的生産に関わる特性の向上に向けた地下部の改良についても、野生種を利用することでそれが可能である。サトウキビ野生種との種間交配により株の再生力が改良できることは古くから知られており、現在の製糖用品種は、栽培種であるS. officinarumに野生種のゲノムを取り入れることで、株出し栽培での再生力の向上を実現したものである(Daniel and Roach 1987)。株出し栽培での萌芽(ほうが)茎数の確保には、地下株の芽子(がし)数が重要になるが、種間雑種は細茎で茎数が多い特徴があり、地下芽子数が多くなる(図4)。また、株の再生が速く、地下株の深い位置にある地下芽子の発芽が旺盛であり、多回株出し栽培で問題となる株上がりを抑制できる特徴を備えている(図5)。はるのおうぎは、これら種間雑種に特徴的な特性を備えており、種子島のこれまでの主力品種NiF8と比較して、株出し栽培での収量が多く、株出しの継続回数を多くすることができる(図6)。また、種間雑種は、茎数が多いため、地下株からより多くの根を発生させることが可能である(図7)(Terajima et al. 2005)。海外では、既存品種よりも、干ばつややせ地などへの適応性が優れる品種開発が可能であることが報告されている(Matsuoka et al. 2011, 2014)。タイでは、筆者の所属する国立研究開発法人国際農林水産業研究センターが種間交配を利用して、干ばつ常習地域への適応性に優れ、かつ、既存品種と同程度の砂糖を生産しながら繊維をより多く生産できる多用途型サトウキビ品種「KK4」を育成した(写真)(寺島ら2024)。
 
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 このように、サトウキビ野生種を利用することで、高糖度・高繊維化による茎中乾物率の向上、地下株や根系の改良による株出し収量の向上が可能であり、単位面積当たりの糖や繊維収量の増産が期待できる。日本においても、これまでに、KY01-2044やはるのおうぎが育成されていることがそれを証明している。一方で、筆者らが南大東島の厳しい干ばつ条件下で実施した種間雑種の栽培試験では、既存品種が原料茎重で10アール当たり2トンのところ、種間雑種は株出し栽培で同3トン程度と1.5倍程度の茎収量となったものの、大幅な収量向上には至らなかった。しかし、同じ試験で評価したサトウキビの近縁属遺伝資源であるエリアンサスは、原料茎重で同8トンと明らかに株出し栽培での生育が旺盛で多収となった(図8)(寺島 2011)。地下部を評価したところ、種間雑種は、既存品種より地下株が大きく根量も多かったが、根が地下20〜30センチメートル程度のところにある硬盤層を突き抜けておらず、土壌表層に分布していた。一方で、エリアンサスは、地下株が大きく根量が多い上、硬盤層を突き抜けてその下まで根が発達しており、この根の発達の違いが厳しい干ばつ条件下での収量差に現れていると考えられた(図8)。これらのことから、南西諸島のサトウキビ産業の明日を実現するための新しいサトウキビ品種の開発では、サトウキビ野生種を利用するだけでは不良な環境への適応性改良は不十分であり、野生種の優良特性とともに、エリアンサスが持つ力強い根系特性などの導入も行うことが不可欠である。
 
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3 エリアンサスを利用したサトウキビ根系特性の改良

 エリアンサス(Erianthus spp.)は、数年間の株出し栽培において1年間で1ヘクタール当たり30〜50トン程度の乾物生産が可能であり、水ストレス条件下や湛水条件下でも高いバイオマス生産性を示す(Jackson and Henry 2011)。また、2.6メートルの深さまで根が発達し、根重や根長もサトウキビなどより大きく、根の伸長角度が鉛直方向であること(関谷ら2015)、タイではエリアンサスの根がサトウキビの貫通できない硬盤層を貫通して下層に伸長していること(Matsuo et al. 2002)が報告されており、根を深くまで発達させるための有用な特性を備えている(図9)。また、エリアンサスの根は、リグニン化した細胞壁を持つ導管や耐干性に重要なリグニン化した数層の厚い厚壁細胞が発達するなど、水ストレスやセンチュウなどの外部ストレスへの耐性が期待される根の構造をしていることも報告されている(Shiotsu et al. 2015)。サトウキビでは、深根性が耐干性などの改良において重要であることが報告されており(Inman-Bamber et al. 2012)、エリアンサスは、サトウキビの遺伝的基盤の拡大だけでなく、サトウキビの地下部特性、特に根系特性の改良を通した株出し収量や不良環境適応性の改善に向けた重要な育種素材となる。

 筆者らは、これまでにサトウキビとエリアンサスを交配するための(しゅっ)(すい)同期化に向けた電照処理技術を開発し、世界的にも珍しい雑種作出に成功した(図9)(Pachakkil et al. 2019)。属間雑種F1は、雑種強勢が発現する種間雑種とは異なり、両親より生産性が劣る雑種弱勢を示す系統が多く出現するが、母本のサトウキビと同程度の生育となる雑種も選抜可能である(Pachakkil et al. 2019)。母本としたサトウキビは、表層から30センチメートル程度までに根が多く分布するが、生育が優れる属間雑種やエリアンサスは、地表面から60センチメートル以深の土壌深層の根長密度がサトウキビより大きく、サトウキビにエリアンサスの深根性が導入できることを世界で初めて明らかにした(図10)(Terajima et al. 2023)。属間雑種は、エリアンサスと同様に、母本のサトウキビより根の伸長角度が鉛直方向に伸長する特性を示すことから、このような根系特性がサトウキビに導入されたことにより、根が深く発達するのではないかと考えている。また、南大東島やタイにおいて、エリアンサスは、硬盤層を突き抜けて根を発達させることが確認されているが、この特性には根の貫入力が大きく関わっていると推察される。属間雑種は、エリアンサスと同様に母本のサトウキビより根の貫入力が高いことから、土壌物理性が悪い環境下での根系発達が優れる可能性がある。また、属間雑種は、エリアンサスと同様に根のリグニン含率が高く、エリアンサスのストレス耐性に関連する根の構造も導入されている可能性も示唆されている(図10)(Terajima et al. 2023)。これらのことから、サトウキビとエリアンサスの属間交配により、エリアンサスの多様な根系特性をサトウキビに導入することが可能であり、作出した属間雑種は、サトウキビのストレス耐性向上のための根系改良を実現する新しい育種素材となる。また、根系が改良された属間雑種は、母本サトウキビより窒素利用効率が高く、海洋汚染などにつながる硝酸態窒素の溶脱が少ないことも明らかになっており(Takaragawa et al. 2022)、サトウキビの持続的生産に向けた特性改良にも貢献できる。
 


 
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 エリアンサスを利用したサトウキビの根系改良は、不良な環境条件下での糖質・繊維質生産性の向上や環境負荷を減らした持続的な生産に向けた新しい可能性を開く重要な戦略となる。筆者らは現在、これら属間雑種のサトウキビへの戻し交配を進めており、属間雑種をサトウキビに2回戻し交配したBC2系統においても、根の伸長角度や根の貫入力が優れ、根が深く発達する系統が出現することを確認した(図11)。これは、エリアンサスからサトウキビに導入された根系特性がサトウキビの育種で利用可能であることを示しており、これまでに、新たなサトウキビ品種の開発に向けた育種素材や有望系統が開発されている。これらの素材は、将来に向けた品種開発とともに、現在の製糖産業に向けた品種開発でも利用可能であり、現在、沖縄県と協力して品種選定に向けた取り組みを進めている。
 
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おわりに 南西諸島の明日に必要な新たなサトウキビ品種の開発に向けて

 本稿では、南西諸島の明日に必要な新たなサトウキビ品種の開発に向けて、1)近縁野生遺伝資源の利用による遺伝的多様性拡大の重要性、2)サトウキビ野生種との種間交雑による高糖度・高繊維化や地下株改良による株出し栽培での糖・繊維生産性の向上、3)エリアンサスを利用した根系改良による不良環境への適応性強化と持続的生産への展望―について述べた。これら将来に向けて開発を目指す品種の特性は、減少が続く農家の維持にとっても重要となる。既存の製糖品種は、「適期適管理」を前提としているが、高齢化や大規模化によりこれまでのような肥培管理は難しい。将来に向けた品種のマイルストーンであるはるのおうぎは、茎が細い上に脱葉性も悪いことから、NiF8やNi27のように誰もが好む美しい品種ではない。また、現状の製糖原料としての利用においては、繊維分が高い故に製糖設備への負荷が大きいことや、大量に発生するバガスなどを経済性と両立した形で循環利用を図る必要があるなどの課題もある。しかし、ハーベスタ収穫後の株出し栽培での再生が旺盛で初期生育も早いため、雑草との競合にも強く、株出し回数を多くできる上、管理作業の省力化(根切りや排土、培土回数の削減など)も可能である(サトウキビ育種コンソーシアム、2025)。このような特性を備える品種は、今後の農家の大規模化に必須となる省力的な機械化一貫体系の実現にとって重要であると考えている。何よりも、サトウキビ栽培農家にとって収穫後すぐにサトウキビが再生し、圃場が緑の葉で覆われることは、栽培の安定だけでなく、農家の栽培意欲をかき立てる上で重要な特性ではないだろうか。

 今後は、種間交雑で得られた高糖度・高繊維・優れた株出し性を持つ素材に、属間交雑で得られた根系発達系統を交配し、それぞれの優良形質を集積することで、南西諸島の厳しい環境条件に適応しつつ、多回株出し栽培で糖質・繊維生産性を持続的に向上できる新しいサトウキビ品種の創出が期待される。現在、野生遺伝資源の育種利用を加速するため、関係機関が連携して、野生種由来の黒穂病抵抗性などのDNAマーカー開発、ゲノム情報を活用した交配組み合わせ設計や選抜手法の開発が進められている。これらの研究についても継続的に推進し、「明日をつくる新しいサトウキビ」品種の開発につなげていくことが重要である。また、南西諸島における「砂糖・エネルギー・繊維質複合生産」や「周年収穫多段階利用」、「環境改良型サトウキビ生産」の実現には、育種だけでなく、栽培法や利用技術の革新も欠かせない。品種改良とともに栽培・利用技術の開発を統合的に進め、南西諸島における新しいサトウキビ産業の実現を目指すことが求められる。

【引用文献】
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・Daniel, J., and B. T. Roach 1987. Taxonomy and evolution. In:Sugarcane Improvement through Breeding. (Heinz, D. J. ed.) Elsevier (Amsterdam) pp.7-84.
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・Inman-Bamber, N. G. et al. 2012. Sugarcane for water-limited environments:Theoretical assessment of suitable traits. Field Crop Res. 134:95-104.
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・Jackson, P. 2013. Sugarcane. In:Alien Gene Transfer in Crop Plants, Volume 2. (Pratap, A. and J. Kumar eds.) Springer-Verlag (Berlin), pp.317-345.
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・Matsuoka, S. et al. 2011. Sugarcane underground organs:Going deep for sustainable production. Tropical plant Biol. 4:22-30.
・Matsuoka, S. et al. 2014. Energy cane:Its concept, development, characteristics, and prospects.
・Pachakkil, B. et al. 2019. Cytogenetic and agronomic characterization of intergeneric hybrids between Saccharum spp. hybrid and Erianthus arundinaceus. Sci. Rep. 9:1748.
・Paula, V. R., and J. P. Molin 2013. Assessing damage caused by accidental vehicle traffic on sugarcane ratoon. Appl. Eng. Agric. 29:161-169.
・サトウキビ育種コンソーシアム(2025)「茎数型サトウキビ品種の活用の手引き」国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構〈satoukibihinnsyukatuyoutebiki20250331.pdf
・関谷信人ら(2015)「原料作物のエリアンサスとネピアグラスの根」『根の研究』24:pp.11-22. 根研究会
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・Takaeagawa et al. 2022. Evaluation of root distribution and nitrate leaching in sugarcane, Erianthus, and their intergeneric hybrid at new planting. Plant Production Science. 25(3):298-310.
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