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畑作物およびバイオものづくり原料としてのてん菜の役割〜日甜アグリーン戦略で考える未来〜

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最終更新日:2026年3月10日

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畑作物およびバイオものづくり原料としてのてん菜の役割
〜日甜アグリーン戦略で考える未来〜

2026年3月

日本甜菜製糖株式会社 
シニアアドバイザー 内野 浩克

【要約】

 てん菜は、作物としての歴史は浅いものの、今では北半球で最も光合成能力の高い作物となった。てん菜栽培時の温室効果ガス収支に着目し、北海道で一般的な4作物による輪作体系(てん菜−ばれいしょ−豆類−小麦)と、てん菜を含まない輪作を比較したところ、てん菜は、圃場(ほ じょう)における1年当たりのガス収支が最も小さく、圃場物理化学性の改善に加えて、温室効果ガス抑制の面でも有利な作物であることが示唆された。てん菜は砂糖の原料であるが、発酵や酵素変換技術を利用することで、バイオ燃料、バイオプラスチックなどの工業素材を製造でき、食用タンパク質や脂質へも変換できる。本稿では、持続可能な北海道農業への貢献とてん菜産業の育成を目指した、日本甜菜製糖株式会社の取り組みについて紹介する。

はじめに

〜糖料作物の位置付け〜
 
世界の作物収穫面積はおよそ10億ヘクタールといわれ、トウモロコシ、小麦が各々2億ヘクタール程度、次いで米(水稲)と大豆が各々1億5000万ヘクタール程度栽培されている。これに続くのは糖料作物であり、サトウキビとてん菜が合わせて約3000万ヘクタール栽培されている(表1)1)2)
 



 


 サトウキビから生産される甘しゃ糖は2000年を超える歴史を持つが、てん菜とてん菜糖(ビート糖)の歴史は非常に浅く、欧州ビート糖産業の父と呼ばれるフランツ・カール・アハルト(Franz Carl Achard)が、プロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世に謁見し、てん菜から砂糖を製造できることを報告した1799年を始まりとすると、今年(2026年)が228年目に過ぎない(図1)3)
 

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 アハルトが最初に製糖に用いた飼料用ビートの根中糖分は5%程度だったが、ドイツにおけるてん菜の生産能力の推移を見ると、今から100年前には現在と同程度の根中糖分に到達した。その後、植物生理学的理由から糖分の大幅な上昇は認められないものの、根重については着実に増加し、その傾向が続いている(図2)。



 

 今では、北海道においても16%前後の根中糖分、1ヘクタール当たり70トンに近い収量(根重)が得られるようになった(図3)。



 

 てん菜は、育種学および栽培技術において最も成功した作物の一つといわれ、アハルトの時代(図4)4)から200年を経て、バイオマスとしての評価においても、北半球で最も太陽エネルギーの蓄積能力が高い植物体となった。
 
2

1 みどりの食料システム戦略と日甜アグリーン戦略

 地球温暖化が進行する中で、世界的に農業の持続可能性が強く意識されるようになり、環境負荷を低減しつつ食料生産力を維持向上させることを目的とし、2020年、EUは新たな農業政策として「Farm to Fork戦略」を策定した。翌2021年、日本でもこうした世界的な環境・健康志向の政策を踏まえ、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を農林水産省が策定、日本甜菜製糖株式会社(以下「当社」という)もこれとリンクする形で「日甜アグリーン戦略」を策定した。具体的には1)環境負荷低減とカーボンニュートラルへの貢献、2)てん菜を“砂糖原料”としてだけでなく、総合的な資源として活用する産業へ拡大すること−などを掲げている。

2 環境負荷低減とカーボンニュートラルへの貢献

 畑作物は、連作すると特定病害虫の増大、特定要素の欠乏、その他の要因により連作障害が生じ、収量が低下するとされる。養分吸収量が多く根張りの良いてん菜、養分吸収量が比較的少なく根張りの浅い小麦など、性質の異なる複数の作物を組み合わせて輪作を行うことが、各作物の能力を引き出し、最大の収穫量を得るために必須といわれている(図5)5)
 


 

 欧州砂糖製造業協会(CEFS)のレポートでは、てん菜は深根性で土壌を膨軟にし、肥沃(ひ よく)度を維持するとともに、窒素吸収能が高く、硝酸塩の土壌残留も他作物の半分と少なく、地下水の保護にも寄与する旨が記されている6)。北海道でも、公的機関による数多くの研究が行われて同様の評価が得られ、寒冷地畑輪作における基幹作物と位置付けられている。

 前述のみどりの食料システム戦略では、2050年までの農林水産業における温室効果ガス(GHG)排出のゼロエミッション化が目標の一つに掲げられた。ここでは、てん菜による炭酸ガス固定と栽培時のGHG収支に関する検討結果を紹介する。大規模畑作地帯である北海道十勝における主要畑作4品の収穫量(2017〜21年の平均)と炭酸ガス固定ポテンシャルを図6に示した。
 
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 てん菜は他作物に比べて単位面積当たりの収穫量が多い。これに未利用部分(すき込み残渣(ざん さ)および持ち出し残渣)も加えた植物体全体の炭素含有量から、炭酸ガス固定ポテンシャル(光合成能力)を算出すると、てん菜は1ヘクタール当たり36.1tCO2eq(tCO2eqは、各種GHGの排出量に地球温暖化係数を乗じて炭酸ガス1トン〈tCO2〉相当量〈equivalent〉に換算した値)となり、秋播き小麦(同23.8tCO2eq)の約1.5倍で、比較した4作物中最大だった。次に、作物栽培における圃場でのGHG収支を求めた。てん菜は施肥量が多く、重量作物のため収穫時に使用する燃料なども多い。環境負荷データベース「IDEA」を用いて栽培時の炭酸ガス排出量を算出すると、てん菜は同3.4tCO2eqとなり、他作物より多かった。

 一方、てん菜は、畑にすき込まれる残渣量も多く、これらは土壌微生物により分解されて大気中にGHGとなって放出されるが、一部は土壌中に固定される。英国ローザムステッド農業試験場(注)の試験結果に基づいて提案された「RothCモデル」を用いて、1年間の土壌CO2変化量を算出すると、てん菜は同マイナス3.0tCO2eqとなり、畑におけるGHG収支(間接・直接排出量+土壌CO2変化量)は同0.4tCO2eqとなった。他作物の収支も同様に求めた結果、最も高いのはばれいしょの同2.5tCO2eqで、次いで大豆、秋播き小麦の順となり、てん菜(直播)は4作物中最も低かった(図7)7)

 (注)英国で1843年にジョンベネットローズにより創設された世界最古級の農業研究施設であり、人工肥料の開発や統計学的手法の農業への応用など、農学の基盤を築いた機関として知られる。
 



 

 これらの結果を基に、北海道で一般的な1)てん菜−ばれいしょ−大豆−秋播き小麦の4年輪作(てん菜栽培時は堆肥を施与し、次作の窒素施肥量を1ヘクタール当たり40キログラム減肥)と、2)てん菜を栽培せず豆を2作する作型(秋播き小麦−大豆−ばれいしょ−大豆)、3)小麦と豆の交互作(秋播き小麦−大豆−秋播き小麦−大豆)−を各5サイクル20年続けるときの、畑における1年当たりのGHG収支を算出すると、各々1)1ヘクタール当たり0.62tCO2eq、2)同1.64tCO2eq、3)同1.21tCO2eq−となり、てん菜を含む4年輪作が最も小さくなった8)

 てん菜は多肥・重量作物で、栽培時のGHG排出は大きいものの、植物体の炭酸ガス固定が大きいため、すき込み残渣に由来する土壌への炭酸ガス固定も大きかった。道内での実栽培による検証は必要だが、輪作にてん菜を導入することは、畑におけるGHG排出抑制の面からも有用と考えている。

3 “砂糖原料”のみならず、総合的な資源として活用する産業へ

 砂糖は食品であり、炭水化物である。一方、近年急速に発展しているバイオものづくり(微生物を活用した有用物質生産)の分野では、原料(発酵基質)として注目される物質でもある(表2)。
 
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 表2に示したように、細菌、糸状菌、微細藻類まで多岐にわたる微生物を用いることで、工業製品としてはバイオ燃料、各種バイオプラスチック、セルロースナノファイバー、工業用油脂や有機酸を砂糖から製造できる。食品としては、オリゴ糖類、マイコプロテイン、アミノ酸類、機能性油脂、核酸系調味料などまで、三大栄養素ほかのさまざまなものが砂糖から製造できる9)10)

 2017年に砂糖の生産割当と輸出制限が撤廃されたEUは、現在、主要7社(Südzucker社、Nordzucker社、Pfeifer & Langen社、Cristal Union社、Tereos社、Cosun Beet社、Krajowa Grupa Spoywcza社)で域内27カ国全体の8割以上の砂糖を製造する体制となっている。100%に近い自給率を達成しているが、いずれの会社もバイオエタノール製造設備を有することは興味深い11)。また、PLA(ポリ乳酸)などのバイオプラスチック生産も行われている。

 日本では、糖類から一時エタノール製造が行われたものの、現在は他の工業製品製造の検討が進められている。このうち、当社も協力し本誌でも紹介された製品として、SAF(持続可能な航空燃料)とCNF(セルロースナノファイバー)の製造がある。田口らによれば、糖類を基質に用いてトレボウクシア藻Parachlorella kessleriを従属栄養培養する方法により、トリグリセリドが得られ、搾油精製してSAFを製造できることが示された。

 しかし価格面を考慮すると、得られる脂質を食用に供した後、廃食油として回収して精製する方が有利とされた12)。CNFについては、芹沢・田島が酢酸菌Gluconacetobacter intermediusを用いた製造法とその特長・用途について紹介している。培養時の分散剤を工夫することで、親水性、両親媒性(水と油脂の両方になじむ性質)の異なるCNFが得られ、用途の拡大が図られた。商業生産が開始され、樹脂補強材のほか、食品や医療品素材としての用途開発も進められている。さらに、繊維材料の作製にも成功し、今後の用途拡大が期待される13)14)。

 1960年に国際連合の諮問グループにより、1980年代までに発展途上国を中心に世界規模の飢饉(き きん)を招く予測が出され、プロテインクライシスとして注目を浴びるようになった。一時下火になったものの、近年の世界的人口増加、食肉需要の増大から再び危機が叫ばれるようになり、代替タンパク質の開発が進んできた。これらは、植物由来(原材料:大豆など)、昆虫由来(原材料:コオロギなど)、微生物由来(糸状菌、藻類など)、細胞培養(培養タンパク質)の四つに大別される。

 微生物由来のマイコプロテインの開発は1980年代に開始され、Fusarium venenatumの培養菌体を用いた「クォーンTM」が商品化されている15)。現在は麹菌(Aspergillus oryzae)によるマイコプロテイン開発が複数行われており、当社もノルウェーのノーミー社(NoMy; Norwegian Mycelium AS)と連携し、ノーミ―社が独自開発した技術をベースに国内製造の検討を進めている。また、ノーミー社はカゴメ株式会社と共同で、本マイコプロテインを原料として活用した食品の開発可能性についても検証を開始している。

おわりに

 糖料作物(サトウキビ、てん菜)は、三大穀物および大豆に次ぐ、世界5位の作付けを有する。てん菜の歴史は二百数十年と短いものの、育種、栽培における近代の先端技術を用いて開発が進められた結果、現在、北半球において最も光合成能力が高く、炭酸ガスを固定できる作物となった。欧州、特にドイツにおいて、てん菜は「作物の女王」と呼ばれ、圃場の物理化学性の改善にも有用であるとの認識から、輪作体系にしっかりと組み入れられている。当社にて、GHG固定・排出の観点からモデル計算を行って各作物の能力を比較した結果、てん菜栽培後に畑にすき込まれる茎葉部分が、畑での炭酸ガス固定に大きく寄与することから、北海道で普及している4作物による輪作体系(てん菜−ばれいしょ−豆類−小麦)は、てん菜を含まない輪作に比べて、畑における1年当たりのGHG収支を最も小さくできると考えられた。

 欧州は、主要7社による砂糖の製造体制で、EU域内の砂糖をほぼ自給している。原料てん菜に豊凶はあるものの、すべての会社がバイオエタノール生産設備を有しており、糖の他用途開発も積極的に行っている。微生物を利用した製品製造、昨今のバイオものづくりにおいて「糖」は重要な基質であり、砂糖としての利用のみならず、バイオ燃料、バイオプラスチックのほか、他の工業製品素材に変換可能である。また、食品として、タンパク質や脂質への変換もできる。当社も同様にSAFやCNFの開発に協力し、直近ではマイコプロテインの共同開発を通じて、糖の他用途利用の検討を進めている。

 北海道において、てん菜を組み入れた適正輪作は、大地の持つ能力を最大限引き出す上で重要であり、GHG削減の観点からも有効である。国内てん菜糖の製造には制度上の制限があるものの、他用途への利用が可能となれば、適正輪作に見合った栽培面積の確保にも貢献できる。

 てん菜糖業からてん菜産業への飛躍を目指して、今後も挑戦を続けていきたい。
【参考文献】
1)農林水産省(2025)「食料安全保障月報(第45号)品目別需給編」pp.28
2)FAOSTAT DATA(2025)Crops and livestock products 2022, https://www.fao.org/ faostat/en/
3)Hans-Heinrich Müller (2021) The“father of the beet sugar industry” On the 200th anniversary of the death of Franz Carl Achard. Sugar industry 146 No.4, 216-221.
4)Martin Bruhns (2025) 1835 bis 2025 – 190 Jahre Strukturwandel der Zuckerindustrie. Aus Anlass des 175jähringen Jubiläums des Vereins der Zuckerindustrie. Sugar industry 150 No.6, 460-470.
5)細川定治(1980)『甜菜』養賢堂,東京,p.138-141.
6)CEFS and EFFAT secretariats (2022) 5. A sustainable EU sugar industry. CSR in the time of COVID. The EU sugar industry corporate social responsibility report 2020-2021, p.11-13
7)合田健登・大竹勝(2024)「北海道の輪作作物における温室効果ガスの排出と固定」『日本土壌肥料学会講演要旨集』第70集,150
8)合田健登・大竹勝・白戸康人(2025)「北海道の畑輪作へのてん菜導入による温室効果ガス収支」『日本土壌肥料学会北海道支部2025年度秋季支部大会講演要旨集』9
9)大西康夫・小川順編(2025)『応用微生物学第4版』文永堂出版,東京,p.175-262
10)松本圭司(2021)「発酵で作るバイオプラスチック」『生物工学第99巻第4号』188-192
11)Jürgen Bruhn (2025) Production of European sugar companies: French cooperatives try to gain lost market share. Sugar industry 150 No.9, 588-592
12)田口裕基・森竣之介・河野重行(2024)「糖から油脂へのバイオマス変換:廃糖蜜を利用したクロレラによる油脂の生産」『砂糖類・でん粉情報』(2024年6月号)42-54
13)Haruto Tsujisaki, Masaaki Hosokawa, Yuichi Takasaki, Yoshifumi Yamagata, Yui Kawabata, Daisuke Tatsumi, Shuichiro Seno, Keisuke Miyamoto, Takuya Isono, Takuya Yamamoto, Hirofumi Tani, Toshifumi Satoh, Hiroshi Orihara, Kenji Tajima (2024) Detailed structural analyses and viscoelastic properties of nano-fibrillated bacterial celluloses. Carbohydrate Polymer Technologies and Applications 8 (2024) 100565, 1-8
14)芹沢領・田島健次(2024)「てん菜糖蜜を原料とする微生物由来セルロースナノファイバーFibnano?の特徴と実用化」『砂糖類・でん粉情報』(2024年11月号)39-45
15)T.J.A. Finnigan (2011) Mycoprotein: origins, production and properties. Handbook of food proteins, Woodhead Publishing Ltd., UK p.335-352

 
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