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〜第32回国際甘しゃ糖技術者会議参加報告〜

世界最高水準の単収を誇るコロンビアのサトウキビ生産
〜第32回国際甘しゃ糖技術者会議参加報告〜

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最終更新日:2026年5月12日

世界最高水準の単収を誇るコロンビアのサトウキビ生産
〜第32回国際甘しゃ糖技術者会議参加報告〜

2026年5月

摂南大学農学部 特任助教 渡邉 健太
国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点 寳川 拓生
農匠ナビ株式会社 小川 諭志

【要約】

 南米でブラジルに次ぐサトウキビ生産量を誇るコロンビアでは、恵まれた自然環境、集約的な栽培管理、積極的・効率的な研究開発・技術普及といった好適条件が重なり、高水準の生産性を生み出している。2025年8月に同国で開催された第32回国際甘しゃ糖技術者会議大会では、設立100周年を迎えた記念セッションのほか、近年のトレンドであるスマート農業やゲノム解析に関する発表が多く見られたため、筆者らの発表と併せて報告する。

はじめに

 国際甘しゃ糖技術者会議(International Society of Sugar Cane Technologists、ISSCT)は、サトウキビを原料とする製糖業およびその副産物利用の技術発展に関わる研究者、技術者、機関、企業のための会合である。本会議は、1924年の第1回ハワイ大会からおよそ3年間隔で開催され、2025年8月25〜28日には100周年記念となる第32回大会がコロンビア共和国第三の都市カリ(正式名称はサンティアゴ・デ・カリ)市にて開催された(図1)。60カ国以上の国々から1150人が参加した本大会では、基調講演を含む口頭発表176課題、ポスター発表107課題、150社にも及ぶエキシビションの申し込みがあり、100周年記念にふさわしい盛大な大会となった(写真1)。筆者らはスケジュールなどの都合で参加できなかったが、サトウキビ研究所(Cenicaña、セニカーニャ。以下「Cenicaña」という)や大規模製糖工場を回るプレコングレスツアー、観光メインのポストコングレスツアーも本大会と併せて実施された。本稿では、開催地となったコロンビアのサトウキビ産業情勢に加え、本大会で興味深かった研究発表や筆者らの発表について紹介する。



 
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1 コロンビアにおけるサトウキビ産業の情勢

(1)サトウキビ生産の概要

 2024年におけるコロンビアのサトウキビ収穫面積は35万7000ヘクタール、生産量は3190万トンである。生産量ベースでは世界第9位に位置しており、南米ではブラジルに次ぐ第2位となっている(日本は収穫面積が2万2000ヘクタール、生産量が120万トンで世界第53位)。コロンビアで栽培されるサトウキビの用途は、分蜜糖やエタノール生産に用いられる工業用原料と、含蜜糖の一種であるパネラ用原料の2種類に大別できる。前者のサトウキビ生産は、同国西部を流れるカウカ川流域(写真2)に集中しており、特にカリ市が含まれるバジェ・デル・カウカ県の占める割合が圧倒的に高い。このバジェ・デル・カウカ県を中心として、その南側に位置するカウカ県や北側に位置するリサラルダ県およびカルダス県、キンディオ県にまたがり、カウカ川流域に巨大プランテーション帯が形成されている(図1〈右〉参照)。24年における同地域のサトウキビ収穫面積は23万9000ヘクタール、生産量は2210万トンとなっている1)。稼働している15工場のうち8工場で砂糖生産、1工場でエタノール生産、そして6工場で砂糖とエタノール両方の生産が行われており、年間200万トンの砂糖と41万キロリットルのエタノールが生産されている。また、全工場でコージェネレーションシステム(注1)が導入され、余剰電力は地域へと供給されている。同地域では1万2000戸のサトウキビ生産農家が存在し、関連産業を含めると約30万人の雇用を創出している。例として、灌漑(かん がい)施設の整備のみならず、灌漑管理の代行やコンサルティングを担う企業も存在し、灌漑関連サービスそのものが一つのビジネスとして成立するほどである。その結果、サトウキビ産業を主とする自治体では、約6割の世帯が生計を同産業に頼っているともいわれている。このように、同国の工業用サトウキビ生産は、農業分野における循環型経済の実践例として位置付けられ、生産はカウカ川流域に集中しているものの、製糖、バイオエタノール生産、電力供給などのバリューチェーンを通じて、国全体の持続可能な発展に貢献している。一方で、かつて年間110万トンを超えていた砂糖輸出量は、05年のバイオエタノール生産開始以降、政策転換によりサトウキビが主要なエタノール原料としても利用されるようになったことなどを背景に減少している。

 工業用原料とは対照的に、パネラ用原料の生産は特定地域に集中しておらず、サンタンデール県、ボヤカ県、クンディナマルカ県、アンティオキア県を中心として、アンデス山地の標高1000〜2000メートルの山間部に広く分散している(図1〈右〉参照)。これについては、「(3)含蜜糖「パネラ」について」で詳しく後述する。

 (注1)熱源より電力と熱を生産し供給するシステムのこと。
 
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(2)世界最高水準のサトウキビ単収

 大会開催地のカリ市はサバナ気候に属し、四季の変化はないが、乾季と雨季が年2回ずつ訪れる。年間降水量は900ミリメートルほどで、日本の沖縄県那覇市と比較すると、雨季であってもあまり降水量が多くないことが分かる(図2)。月別の平均気温は23〜24度であり、1年を通じてほとんど変化が見られない。一方、日気温は18〜31度の間で推移しており、年較差よりも日較差の方がはるかに大きい。カウカ川流域の工業用サトウキビ生産地における2024年期のサトウキビ単収は10アール当たり11.4トン、砂糖単収は同1.2トン1)と世界最高水準の生産性を有する。これには、以下に示す複数の要因が関与していると考えられる。

 ア 赤道直下特有の強い日射と年間を通じて安定した高温および気温の日較差が、C4型光合成(注2)を有するサトウキビの生育に適している。また、アンデス山脈の北部に属する西コルディリェラ山脈と中央コルディリェラ山脈の間に形成されたカウカ渓谷は、標高約900〜1200メートル前後とやや高地に位置するものの、極端な寒波や霜がなく、1年を通じてサトウキビの生育が可能である。

 イ 同地域はカウカ川流域の豊富な水資源を利用した灌漑システムが発達しているため、乾季にも安定した生育を確保できる。

 ウ 平坦な地形を生かした大規模なプランテーション栽培が行われているため、機械化や効率的な収穫システムの導入により、栽培管理が均質化されている(写真3)。

 エ 前述した研究所Cenicañaの品種改良プログラムにより、耐病・高糖度・高バイオマス性を有した品種の更新サイクルが早く、農家が最新品種にアクセスしやすい。また、生育モニタリング、気象データ活用などが可能なスマートフォンアプリケーション(CeniClima、Gotasなど)がCenicañaから農家向けに提供されており、精密な施肥・土壌・灌水管理、また、収量予測のための意思決定支援システムが浸透している。

 オ サトウキビ産地がバジェ・デル・カウカ県を中心としたカウカ川流域に集中しているため、物流や研究・普及活動が効率的に行われている。

 このように、恵まれた自然環境、集約的な栽培管理、積極的・効率的な研究開発・技術普及といった条件が一体となって好適循環が実現され、高い生産性を生み出していると考えられる。また、カウカ川流域は平坦地が限られており、作付面積の拡大余地は小さいため、面積拡大ではなく、単収向上によるさらなる生産性の改善がCenicañaの方針としてうたわれている。同地域の単収はすでに世界最高水準に達しているが、低単収圃場(ほ じょう)の改善による平均単収のさらなる底上げ、気候変動下における収量の安定化、持続可能性を考慮した化学肥料・農薬低投入下での安定多収化、灌漑水といった資源利用効率の向上、生産管理のスマート化(省力化、省エネ化)などが主要な課題となっている。

 (注2)イネやコムギなどの一般的な植物が行うC3型光合成と比較し、サトウキビやトウモロコシといった熱帯・亜熱帯性の植物が有する光合成型。C4型光合成は、二酸化炭素を効率よく吸収し利用できるため、一般的にC3型よりも光合成の最大速度が高く、また、強光・高温条件により適している。



 

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(3)含蜜糖「パネラ」について

 パネラは、日本の黒糖と同様にサトウキビ汁を煮詰めて固めた含蜜糖であり、コロンビアではコーヒーと並び、農村経済において重要な農産加工品である(写真4)。同国では、これを溶かして作る「アグアパネラ」という飲料が広く消費されている(写真5)。パネラは、ツールドフランス自転車競技選手から農家まで幅広く愛されるほか、学校給食にも取り入れられるなど、日常的なエネルギー補給源となっており、同国におけるパネラ生産量は2000年以降緩やかに増加後、近年は年間約100万〜120万トン程度でおおむね横ばいに推移している。既往研究や現地報告によれば、パネラ用サトウキビの収穫面積は無視できない規模であり、サトウキビ収穫面積全体の40〜50%を占めるともいわれている。一方、パネラ用サトウキビの生産は、小規模農家を主体として山間部に広く分布しており、機械化や灌漑の導入が限定的であることから、単収は10アール当たり4〜6トン程度と、工業用サトウキビと比較して著しく低い水準にあると考えられている。ただし、パネラは小規模農家による非公式生産や自家消費の割合が高く、これらのデータには不確実性が伴う点に留意する必要がある。コロンビアはインドに次ぐ世界第2位の含蜜糖生産国とされている一方で、小規模生産者が主体であることから加工工程の標準化が十分に進んでおらず、製品品質のばらつきが大きいことが、付加価値向上や国際市場展開における制約要因の一つとなっている。

 また、余談になるが、図3はコロンビアのサトウキビ単収の推移をCenicaña年報とFAOSTATに基づいて示したものである。本図を見て明らかなように、出典元によって単収は大きく異なることが分かる。この理由の一つが、上述した工業用サトウキビとパネラ用サトウキビとの著しい単収格差である。すなわち、同じコロンビア国内でも、比較的大規模で灌漑、品種改良、集約管理が進んでいる工業用サトウキビの単収水準は10アール当たり11〜13トンと非常に高い一方で、小規模で手作業主体の労働集約的な栽培が行われているパネラ用サトウキビの単収は同4〜6トンと相対的に低いために、これらを統合した全体平均を押し下げてしまっていると考えられる。








 
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2 海外の研究者の発表

(1)ISSCT100周年記念セッション

 大会初日には、ISSCT設立100周年を記念した全体会議が開かれ、事務局長であるJean Claude Autrey氏らがこれまでの大会を振り返り(表)、今後の発展に期待を寄せた。特に、現在はローカルな課題だけでなく地球規模の課題が増えており、次の100年では、各国の枠組みを超えてより国際的な共同研究が発展することが求められ、そのための研究基盤・産業基盤の維持発展が必要になると提言した。また、設立当初より、ISSCTがそのためのプラットフォームとなることが重要であると強調した。各分科会では、100年間の歴史を四つの年代に分け、その研究の変遷をまとめた冊子集が発行されるとともに、各分野の講演会場にて分科会会長(または代理)による記念講演が執り行われた。農学部門では、筆者らを含む日本研究者の発表も数多く引用され、ISSCTへの日本の貢献度がうかがえた。第1回大会は1924年に米国ハワイ州ホノルル市で開かれたが、当時は本会議の名称が「国際甘しゃ糖技術者会議(International Society of Sugar Cane Technologists)」ではなく、「キビ砂糖職人たちの国際会議(An International Conference of Cane Sugar Men)」だったのが印象的であった(写真6)。育種・分子生物学部門では、2018年に沖縄で育種・分子生物学部門ワークショップ2)が開催されたことにも触れられた。また、数多くの研究者らから、農学・農業機械部門でも日本における再度のワークショップ開催を求める声が聞かれた。



 
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(2)農業機械部門(Agricultural Engineering Section)

 農業機械部門では、AI・機械学習および人工衛星・ドローンなどのリモートセンシング技術を利用した栽培管理や収量・品質予測といった発表が多く見られ、世界的にもスマート農業技術がめざましく発展していることを強く感じた。特に、Cenicaña研究者から、カウカ川流域のサトウキビ生産地帯を対象として、人工衛星データからサトウキビ圃場の蒸発散量を算出し、慣行法と比較したところ、その推定精度は非常に高く、灌水管理の効率化に有用であると報告されたことは、強く印象に残っている。筆者(渡邉)は、気象データから算出した蒸発散量をサトウキビの灌水管理に利用することを提案しているが、そのためには気温や日射量といった気象データセットを地区単位で取得する必要がある。もし人工衛星データを蒸発散量の推定に利用することができれば、気象データ観測装置の設置が不要となり、データに基づく無料の灌水管理が可能となる。ただし、使用した人工衛星の観測周期は5日であり、晴天でないと正確なデータが得られないことから、得られる情報は限定的であることに留意する必要がある。

(3)農学部門(Agronomy Section)

 農業機械部門では、かなりスマート農業寄りの発表が多かったのに対し、農学部門では、土壌・施肥・灌水・雑草管理といった、いわゆる伝統的な研究テーマを扱った発表が多かったように感じた。また、日本ではほとんど聞いたことがない他作物の間作やバイオスティミュラント施用に関する発表など、国際会議ならではの研究テーマも数多く見られた。興味深かったのは、「干ばつストレスの‘記憶’は圃場栽培サトウキビの収量および品質を向上させる」というブラジル研究者の発表である。干ばつを経験したサトウキビ茎から採取した苗を圃場で栽培したところ、十分に水を与えて栽培したサトウキビ茎から採取した苗よりも根系の発達が著しく、原料茎重や葉面積、蔗汁品質が向上したという結果であった。このように、茎の各節に生じる小さな芽は前作のストレス情報を保存・保持し、ストレスに順応できる力を発揮するということだった。これは、例えば干ばつ頻発地域や灌漑設備未設置の地域では、ストレスを受けた苗を植え付けに用いることで、干ばつによる減収を抑えられることを示しており、日本国内でもすぐに利用可能な有用な技術であると感じた。

(4)遺伝資源・育種部門(Germplasm and Breeding Section)

 近年のゲノム研究の進展は著しく、ゲノミックセレクションやゲノムワイド関連解析(genome-wide association study、GWAS)(注3)に関する発表が多く見られた。ゲノミックセレクションでは、糖度や収量関連形質に関して予測精度が高いことが報告された。また、病害抵抗性や出穂性に関するGWAS解析が実施され、それらと関連する染色体領域が報告されていた。世界で初めてサトウキビゲノムを解読したフランス農業開発研究国際協力センター(CIRAD)を中心とする研究グループからは、国際的に権威のある科学雑誌『Nature』にも掲載された論文に関する発表もあった。サトウキビは高次倍数性であり、遺伝資源の倍数性も多様であるため、遺伝資源集団を用いて各形質を支配する遺伝子を解析する際には、倍数性の変化に伴う遺伝子のコピー数の変化を考慮した解析も必要となる可能性がある。その点に着目し、フローサイトメトリー(注4)を用いて遺伝資源のDNA含量(倍数性に相当する)を評価し、倍数性と出穂関連形質との強い関係を示した報告も見られた。今後は、より複雑な遺伝様式により成り立つであろう生理形態形質やそれらに基づく非生物ストレス耐性の遺伝解析が進められることが期待される。その他、ドローン空撮による群落評価や、近赤外分光装置を用いた糖度評価などのフェノタイピング(注5)関連の発表もいくつか見られた。

 (注3)多検体のゲノム全域を対象に遺伝的変異を比較し、形質と統計的に関連する変異を網羅的に検出する研究手法。
 (注4)蛍光染色した細胞にレーザーを当て細胞の計数、選別を行う装置および測定手法。DNA含量(ゲノムサイズ)が既知の試料と併せて分析することで、細胞数からDNA含量を推定することができる。
 (注5)生物個体が示す形や大きさ、生育状態や病態などの表現型を、集団を対象に計測する技術。多検体の安定したデータを取得するために高効率であることが求められる。

3 日本の研究者の発表

(1)渡邉健太「Smart irrigation systems combined with subsurface drip irrigation improve sugarcane yield and water-use efficiency(地中点滴灌水を組み合わせたスマート灌水システムはサトウキビの単収と水利用効率を向上させる)」(写真7)
 
2019年度に始まった、沖縄県南大東島を対象としたサトウキビスマート農業実証プロジェクト3)は、23年度をもっていったん事業終了となったが、筆者(渡邉)は引き続き南大東島を対象に、灌水管理のスマート化を中心とした実証試験や技術普及に取り組んでいる。この取り組みの中で、気象データを用いた灌水判断、灌水ポンプの遠隔制御、ドリップチューブ埋設による地中点滴灌水から構成されるスマート灌水システムの実証試験を、現地の南大東島において3年間にわたって実施したため、本大会ではその報告を行った。なお、研究内容の詳細な報告は本稿では割愛するが、本誌26年2月号掲載記事4)に詳しく紹介されているため、ご一読いただければ幸いである。

 農業機械部門で行われた本発表は、立ち見客を含め大勢の参加者で埋め尽くされ、特に地中点滴灌水への高い関心がうかがえた。サトウキビへの地中灌水は、国内では実施している農家はほとんどいない珍しい技術だが、海外ではブラジルやインド、豪州といったサトウキビ大国から、中東やアフリカといった水資源の限られた国や地域で試験導入や実用化が進み始めている。しかし、農家レベルで一般的に本技術が普及している地域は、世界的にもほとんど見られないのが現状である。その理由として、長大作物であるサトウキビの管理・収穫に利用される大型機械が埋設したチューブを損傷する危険性がある、根の伸長が非常に活発であるためドリップ孔へ侵入する可能性があるといった、その作物特性が関与している。実際に質疑応答時には、地中埋設するチューブのメーカーや構造、耐久性、埋設の深さなど、いかにチューブを長持ちさせられるかに関する質問を数多くいただいた。また、サトウキビは他作物と比較して栽培面積が広く生産量が多いため単価が低いが、地中点滴灌水は初期投資・更新コストが高く、費用対効果が見合わないといった経済的な理由や、慣行法である畝間(うね ま)灌水やスプリンクラー灌水でも比較的高収量を実現できるため地中点滴灌水の必要性を感じないといった理由も挙げられる。この点に関しては、農家の高齢化・後継者不足や気候変動に伴う水需要の拡大などが進む中で、省力・節水灌水がこれまで以上に求められるようになると考えられるため、今後の有益な技術として提言できると考えている。その他、実証した技術の実用化に向けての考えなどへの質問もあり、どの国でも現場実装フェーズにおいて同様の課題を抱えているように感じた。

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(2)寳川拓生「Intensive use of varietal diversity for managing gaps in sugarcane: attempts and perspectives(サトウキビ栽培におけるギャップ管理に対する品種多様性の集約的利用:試みと展望)」(写真8)
 
本大会に先立ち2024年にタイで開催されたISSCT農業部門ワークショップにおいて、欠株(yield gapともよばれる)対策に関する強い関心が示された5)。それを受け、本大会において筆者(寳川)は、欠株への耕種的対策の一例として品種混植について紹介した。

 サトウキビにかかる非生物的・生物的ストレスの中には、不均一なものがあり、長い生育期間を通じて季節ごとに広大な畑の中でその程度が変化する。また、植物を引き抜く、あるいは株上を走行するといった機械化収穫による悪影響は、作業者の技能や倒伏の程度に依存する。このような予測不可能な環境的・人為的ストレスは、欠株を引き起こし、サトウキビの収量および株出し性を低下させる。本研究は、同一または異なるサトウキビ品種を栽培することによるギャップの埋め合わせ効果、およびそれが株出し栽培時の生育と収量に及ぼす影響を評価することを目的とした。生育特性やストレス耐性が異なる品種の混植は、サトウキビのストレス条件下における収量ギャップを縮小し、生産の安定性を向上させる可能性があった。まず、初期生育に優れた異なる品種のセル苗を補植することで、欠株を解消する試みを行った。異なる品種の補植は、その作期だけでなく、続く作期の収量に対してもプラスの効果を示した。次に、分げつ能力の異なる品種を株ごとに交互に混植することで、株出し収量に与える影響を評価した。混植は、株出しにおける茎数と収量の維持に寄与した。これらの結果から、初期伸長能力が高く隣接株との競合に優れる品種や、分げつ能力が旺盛で欠株によって生じた空間を有効活用できる品種が混植に適しており、一部効果的であると判断された。
 
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4 ISSCTと関連のある国際研究コンソーシアム

(1)国際サトウキビモデリングコンソーシアム(International Consortium for Sugarcane Modelling、ICSM)
 
ICSMは、サトウキビの成長モデルに関する情報交流の場として、南アフリカ共和国糖業研究所(SASRI)やCIRADなどの機関が中心になって2006年に設立され、成長モデルの改良や気候変動予測などに関する国際共同研究プロジェクトを実施している。これまでに、各国のデータを共有し、遺伝子型と環境交互作用の組み合わせの大規模な評価を行ったり、成長モデルの改良を試みたりしてきた。世界各国の研究機関や大学によって構成されているため、普段は電子メールやオンライン会議でやりとりを行っているが、ISSCT関連の国際会議に合わせて現地ミーティングを開催し、取り組むべき課題について意見交換し、活発的に議論を行っている。筆者のうち寳川は、19年アルゼンチン大会より、渡邉は本コロンビア大会より、ICSMに参画している。本大会時のミーティングでは、呼吸や糖蓄積の影響を加味したモデル開発の必要性や、間作に関するモデルの紹介があった(写真9)。寳川からは品種混植に関し話題提供し、データ提供を含めた共同研究の進め方について議論した。現在、サトウキビに関連する成長モデルや環境モデルのためのデータ共有プラットフォームの作成や、成長モデルのためのデータ収集方法プロトコールの作成なども進行中である。
 

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(2)国際サトウキビバイオテクノロジーコンソーシアム(International Consortium for Sugarcane Biotechnology、ICSB)
 
ICSBは、サトウキビのゲノム解析に関する情報共有や研究費捻出を目的として、1988年に第1回国際サトウキビゲノム解析ワークショップが米国で開催された折に設立されたコンソーシアムである。当初は米国メンバーがほとんどであったが、その後、世界各国から参加者が集い、現在では20カ国以上の公的・民間研究機関によって構成されている。ICSBは、サトウキビ界における分子遺伝学の研究分野を飛躍的に進めたコンソーシアムであり、サトウキビのゲノム解読・遺伝子マッピング、マーカー選抜用分子マーカー開発、遺伝子形質転換技術開発といったプロジェクトを先導してきた。これらの成果は、特に国際的な遺伝資源共有の枠組みを構築したという点で非常に重要であり、農業バイオテクノロジー分野における共同研究モデルの代表例とされる。

(3)国際サトウキビバイオマス利用コンソーシアム(International Sugarcane Biomass Utilization Consortium、ISBUC)
 
ISBUCは、世界的な再生可能エネルギー推進の流れを受け、ISSCTが主導して2006年に設立されたコンソーシアムである。サトウキビは糖とエタノール生産に広く利用されるが、その副産物であるバガスや葉・梢頭部(しょう とう ぶ)などのトラッシュといったバイオマスを未利用のまま廃棄するという問題があった。ISBUCは、これら副産物からより付加価値の高い製品を産み出し、炭素排出量削減と農業経済発展を両立させることを目的としている。ISBUCには、研究機関だけでなく民間企業やその他関連機関も参画していることから、資源の高付加価値化に関する研究推進だけでなく、開発した製品の商業化にも積極的に取り組んでいる。メンバー間で分析技術やプラットフォームを共有し、国際会議やワークショップを通じた知識交流を推進している。

 なお、これらのコンソーシアムは、ISSCT公式の下部組織や常設委員会ではなく、直接の関係はないものの、構成員や構成機関の多くがISSCTに所属しているため、人的・研究的なつながりは非常に強い。本大会でも、コンソーシアムメンバーによる共同研究の報告を行った発表が複数あり、活動の活発さがうかがえた。

おわりに

 今回コロンビアを訪れ、ISSCT100周年記念という節目となる大会に参加し、大変貴重な経験をさせていただいた(写真10)。コロンビアにおけるサトウキビ単収の高さは、以前から情報としては知っていたが、このたび現地を訪問し、研究者から直接話を聞くことで、気候・環境条件が恵まれているだけでなく、研究機関による積極的な介入が成果となって、高水準の生産性を実現できていることがわかった。特に筆者らは、データに基づく灌水管理や水利用効率の向上に焦点を当てた研究を行っているため、カウカ川流域の豊富な水資源を利用した灌漑システムの開発工程や技術普及状況について興味を持った。今後、機会があれば、Cenicaña研究員や現地農家への聞き込みを通じて、実態を把握したい。

 また、ISSCT100周年記念セッションでは、その歴史の長さや研究テーマの変遷を知ると同時に、この中で日本の研究者も継続的に大会に参加しており、世界的には生産スケールは小さいものの、大きなインパクトを与える研究成果を残し続けていることも分かった。ISSCT大会の開催は難しいが、以前からもオファーを受けているように、ワークショップや小規模な国際会議の日本開催はぜひ実現したいと考えている。なお、次回ISSCT大会は、2028年1〜2月に中米のグアテマラ共和国グアテマラシティで開催されることが発表されている。二連続の中南米開催で経済的・身体的負担は大きいが、次回大会にも参加し研究成果をアピールできるよう、今後も日々の活動に精力的に取り組んでいきたい。
 
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【参考文献】
1)ISSCT(2025)『ISSCT XXXII Congress Programme』ISSCT
2)寳川拓生・上野正実・川満芳信・渡邉健太(2019)「国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)育種・分子生物部門ワークショップ報告〜サトウキビ育種の急速化と持続可能性〜」『砂糖類・でん粉情報』(2019年1月号)独立行政法人農畜産業振興機構
3)南大東スマート農業実証コンソーシアム(2019)「ウフスマ・プロジェクトが始動〜南大東村におけるスマート農業技術の開発・実証に向けて〜」『砂糖類・でん粉情報』(2019年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構
4)渡邉健太(2026)「サトウキビスマート灌水システムの普及に向けた実証試験と農家の意識調査」『砂糖類・でん粉情報』(2026年2月号)独立行政法人農畜産業振興機構
5)渡邉健太・寳川拓生(2025)「タイにおける持続可能なサトウキビ産業に関する研究動向〜ISSCT農業部門ワークショップ参加報告〜」『砂糖類・でん粉情報』(2025年8月号)独立行政法人農畜産業振興機構

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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678