

ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > 砂糖とエタノールで揺れ動くインドのサトウキビ産業(前編)
最終更新日:2026年7月10日

ア 産地分布
インドにおいてサトウキビは、全国28州と8連邦直轄領のうち、熱帯地域に属する6州と亜熱帯地域に属する6州の合計12州で国内生産量の約98%が生産されている(図1)。北部のウッタル・プラデーシュ州(以下「UP州」という)が国内生産量の5割弱を占め、次に西部のマハラシュトラ州や南部のカルナータカ州が続き、上位3州で国内生産量の8割弱を占める。

イ 主な作型
熱帯原産のサトウキビは、萌芽期が26〜33℃程度、生長期は30〜34℃程度が適温とされており、生長期には大量の水を必要とする。
国土の広いインドは、北部が亜熱帯、南部が熱帯気候と二つの気候帯にまたがっている。また、季節は高温になる暑期(3月〜5月)、降水量が多い雨季(6月〜10月)、比較的気温が低く乾燥した乾季(11月〜翌2月)の三つに分かれている。このため、インドでは、サトウキビの生育ステージに合わせ、1)春作型(北部および西部)、2)秋作型(北部および西部)、3)Eksali作型(南部)、4)Adsali作型(南部)−の4作型に分かれており、栽培期間は長期栽培のAdsali作型以外は12カ月以内となっている(表1)。10アール当たり収量は、長期栽培で積算気温が十分得られるAdsali作型が17トン程度で最も多く、次いで春作型および秋作型が12トン程度、Eksali作型が10トン程度となっている。

ウ 主な品種
インドで生産される代表的なサトウキビ品種には、UP州などを中心に栽培される「Co 0238」や、マハラシュトラ州などを中心に栽培される「Co 86032」などがある。両品種とも、高収量で搾汁率が高い。2025年9月に連邦政府がサトウキビ搾汁液などから直接エタノールを生産することを解禁したことから、バイオエタノール向け原料としても多く生産されることが見込まれる(写真2、表2)。


2009年に品種登録されたCo 0238は、優れた品種特性からUP州などのインド北部で既存品種からの転換が進み、同地域で約半数の生産者により栽培されている。
品種登録当初は、赤腐病(注1)の耐病性が高いとされてきたが、近年は耐病性が低下しており、同品種が主力のUP州では、同病による収量低下が問題となっている。同州では、ドローンによる農薬散布とセットで他品種への置き換えプログラムが実施されており、2020/21年度から24/25年度にかけて1238万ヘクタールを置き換え、この期間におけるCo 0238の作付け比率は、87%から44%まで大幅に低下した(図2)。









カ サトウキビ生産の課題
引き続き人口が増加傾向にあるインドでは、サトウキビはもちろん、他の作物生産を含む農畜産業、さらに工業など他産業でも土地や水資源需要が増加していることから、生産性を低下させずにこれら他産業などと共存することが求められている。ISRIは、2015年に公表した「Vision2050」で、1)サトウキビの品種改良、2)土壌および水管理、3)新しい栽培管理技術−などが必要とした。特に、水はサトウキビ生産にとって重要な資源と位置付けられており、灌漑施設の整備と利用効率の向上が必要とされている(写真4)。この課題に対してマハラシュトラ州では、点滴灌漑を採用することで、サトウキビ生産の水使用量を慣行栽培比で30〜40%削減できたとしている。

インドでは、サトウキビ収穫の機械化が進んでおらず、地域住民などの季節雇用による手刈り収穫に頼る生産者が多いことから、収穫にかかる時間が長く、人件費が高い傾向にある。効率的な収穫と人件費抑制のためには、収穫機の導入が求められる。資金力のある大規模生産者であれば収穫機の個人所有が可能であるが、一般的な中小規模生産者は資金力に乏しいため、収穫機の導入は難しい。このため、農村住民全体や協同組合組織での共同所有および運用により、産地全体で機械化体系を構築することが求められる。
コラム インドの歴史・文化と砂糖1 砂糖製造はインドが発祥2400年ほど前のインド北部が起源とされているサトウキビによる砂糖製造は、サトウキビ搾汁液を直火で煮詰めて結晶化させ、貯蔵性の高い「ジャグリー(Jaggery)」(黒糖)を製造したことから始まった(コラム−写真1)。インドでは、後述する伝統医学の「アーユルヴェーダ(Ayurveda)」や宗教儀式などでも多く用いられてきた。その後、ジャグリーはインドから中国や中東、地中海地域などに伝わった。 ![]() インドからこれらの国や地域に伝わったジャグリーは、さらに欧州など世界中に広がった。その後、18世紀後半の産業革命により、均一で精製度が高い製糖技術が開発され、同世紀に英国がインドを植民地化すると、インド国内に英国資本の大規模製糖工場が設置され、19世紀には製糖業が国内で最も有力な産業に成長した。製糖業が成長する中でも、インドの食と文化に密接したジャグリーは、地域の生産者などにより、安定して製造されてきた。 なお、砂糖(Sugar)の語源は、サンスクリット語で「結晶化した甘味物」を意味する「Sharkara(シャルカラ)」とされている。 2 宗教儀式とジャグリー 前述の通り、インドでジャグリーは宗教儀式などに用いられてきた。代表的なものとしては、冬至の収穫祭である「マカラ サンクラーンティ(Makar Sankranti)」(1月14日前後に実施)が挙げられる。この祭事では、ジャグリーを重要な供物として神々に捧げるとともに、ジャグリーとごまを使った菓子「ティル・グッド(Til-Gud)」を家族や友人とともに食べる習慣がある。また、この祭事では、貧しい人々へジャグリーを寄付することが重要視されている(コラム−写真2)。 ![]() ジャグリーは、砂糖(精製糖)よりもミネラルなどが多く含まれることから、インドでは体によい食べ物として、宗教儀式などに限らず、普段から多く食べられており、アーユルヴェーダでも体質改善のための食べ物として重視されている。 3 アーユルヴェーダとジャグリー (1)アーユルヴェーダとは サンスクリット語で「生命科学」を示すアーユルヴェーダ(Ayurveda)は、インド発祥で約5000年の歴史を持つ世界最古の伝統医学である。予防医学を重視するアーユルヴェーダでは、人間の体質を形成する要素を、1)風、2)火、3)水−に大別しており、これらのバランスをいかに整えるかが重視されている。 (2)多汗などを鎮めるジャグリー アーユルヴェーダでは、多汗やじんましん、胸やけを鎮めるには、休息を十分とり、消化の良い甘いものを摂取すると良いといわれている。これに適した食材として、ジャグリーが挙げられている。ジャグリーは、日本の黒糖と同じく、サトウキビの搾汁液を4段階に分けて煮詰めたものを冷やし固めたものである。煮詰める温度が低いため、黒糖よりも水分含量が高いとされている。 ジャグリーで多汗などを鎮めるには、そのまま食べるのはもちろん、ミルクに茶葉とスパイスを入れて煮込んだチャイに入れたり、さまざまな料理の味付けに使用したりしている(砂糖には疲労回復や精神安定にも効果があるといわれる)。また、サトウキビの搾汁液も広く飲まれている(コラム−写真3)。 ![]() |

イ FRP
インド政府(内閣経済委員会〈CCEA〉)は、農業費用・価格委員会(CACP)の勧告に基づき、毎砂糖年度(10月〜翌9月)、サトウキビ破砕期の前までにFRPを設定する。設定されたFRPは、砂糖年度終了まで有効であり、サトウキビを受け入れる製糖企業が買い取り価格の指標としており、これを下回る価格では取引することができない。
FRPは、1)サトウキビ生産コスト、2)他品目との収益比較、3)国内外の砂糖販売価格、4)国内砂糖需給の状況−などを勘案した上で算定される。加えて、糖回収率が基本糖回収率(2025/26年度は10.25%)を上回る場合は、割増金の加算も定められている。25/26年度のFRPを見ると、1キンタル(注3)当たり365ルピー(668円〈1キログラム当たり6.68円〉)、割増金は糖回収率0.1%の増加につき同3.46ルピー(6円)だった。なお、糖回収率が9.5%を下回った場合には、FRPは減額される。
昨今は物価上昇などにより生産コストが上がっていることから、FRPは毎年度上がっており、15/16年の230ルピー(421円)から24/25年度には340ルピー(622円)となり、その後も上昇し続けている。CCEAは2026年5月、26/27年度のFRPを前年度より10ルピー(18円)高い、1キンタル当たり365ルピーにすると公表した(図7)

