砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 話題 > 気候変動が作物に与える影響と適応
〜イモ類(ばれいしょ、かんしょ)、砂糖原料作物(てん菜、サトウキビ)〜

気候変動が作物に与える影響と適応
〜イモ類(ばれいしょ、かんしょ)、砂糖原料作物(てん菜、サトウキビ)〜

印刷ページ

最終更新日:2026年8月10日

気候変動が作物に与える影響と適応
〜イモ類(ばれいしょ、かんしょ)、砂糖原料作物(てん菜、サトウキビ)〜

2026年8月

九州大学大学院 農学研究院
教授 広田 知良

はじめに

 近年、日本の農業は高温や豪雨の影響を強く受けており、イモ類(ばれいしょ、かんしょ)や砂糖原料作物(てん菜、サトウキビ)では、従来の栽培管理が通用しにくくなっている。2015年以降の日本の気温は長期的に上昇傾向が強くなり、2023年以降はさらに高温化している(図1)。その結果、夏季(6〜8月)の極端な高温や短時間強雨の増加が顕著となっている1)。これらは一時的な異常気象ではなく、大気中の二酸化炭素などの温室効果ガス増大に伴う地球規模での海水温の上昇や海面水温の分布変化を背景として、今後も長期的に継続する気候の変化と考えられる。そのため、高温、豪雨、干ばつといった極端気象のリスクは、今後さらに高まる可能性が高い。このような条件の下では、これまでの平年の気候・気象条件を前提とした栽培から、リスクの発生を前提とした適応への転換が求められる。
 
1

1 近年の気候の特徴1)と栽培リスク

 近年の気候は、猛暑日が急増し(図2)、短時間で強い雨が降る日数も増加している(図3)一方、雨の降らない期間も長くなる傾向がある。また、秋季(9〜11月)の高温が長引くことも特徴である。特に、夏の時期に熱帯太平洋西部の海水面の温度が高い場合や、太平洋高気圧が日本付近に強く張り出す場合には、日本全体が猛暑となる。夏において比較的涼しいとされる北海道でも顕著な高温となるため、夏の暑い時期における日本列島の南北の温度差が小さくなっている。







 このような気候条件では、大雨による冠水や湿害と、干ばつによる生育不良が同時に問題となりやすい。高温多湿条件も生じやすく、病害虫の発生を助長するため、従前よりも迅速な対応が必要である。また、大雨や台風の頻度は、日本列島では南に位置する九州・沖縄の方が北海道よりも多いが、高温化の範囲も北の方へ広域化しているため、北海道や東北の北日本側でも大雨や台風の頻度が増加傾向となっている。秋の高温が長期化した後で、初冬の12月に気温が降下し、ようやく低温となる傾向にある。冬季(12〜2月)は、全般的に気温は平年より高いが、一方で大陸から来る寒波も生じやすく、一時的に低温となることもあり、寒害・凍害のリスクは依然として残る。春季(3〜5月)は、2015年以降の気温が平年より高い年が継続しており、2026年で12年間連続となっている。一般的には、年々の値は平年より高い年・低い年の両者があるので、近年の春の傾向は異例とも言える。

2 作物別の影響と対応

(1)てん菜(北海道)

 てん菜は、高温多湿が大きな減収要因となる。北海道の夏も高温多湿条件が発生しやすい気候へと変わりつつあり、このような気象条件によっててん菜褐斑病(かっ ぱん びょう)の発生頻度が増加している(写真1)。近年は発生時期が早まり、高温年には初発が6〜7月にまで前倒しされる例も見られる。この結果、夏季に被害が急速に拡大し、収量低下につながる2)3)。このため、防除の早期化と防除間隔の見直しが必須である。

 一方で、北海道では春の高温化に伴い、融雪も早まってきており、従前よりも初期生育期間を確保しやすい条件となっている。このことは現在、栽培面積が拡大している直播(ちょく は)栽培に対しても好条件となる4)。この点を生かして、作物の初期生育を確保する栽培管理ができれば、収量性の向上にもつながる。
 
3

(2)ばれいしょ(北海道・全国)

 北海道におけるばれいしょ栽培も近年、高温による悪影響が現れている5)6)。特に、春の植え付けが低温や多雨により遅れ、夏の高温条件が重なった場合は生育期間が短縮され、収量が低下しやすい7)。また、高温多湿条件では疫病(軟腐病、夏疫病など)の病害も増加する(写真2)。一方で、ばれいしょはてん菜と異なり、作物の生育期間が3〜4カ月と短い。この特徴により、同じ年でも作期の違いで、異常気象から受ける影響は異なる8)。このように考えると、近年の春季の高温を生かした早植えに加えて、畑輪作では、秋の高温化に伴い小麦の播種(は しゅ)時期を10月に遅らせることができれば、作期の調整がより柔軟になり、減収リスクを分散させることができる。



 

 一方で、気候変動への対応として、加工用ばれいしょでは、主産地の北海道・道東地方の大規模畑作地帯での2016年の台風被害による供給不足(いわゆるポテチショック)をきっかけに、生産地の分散が図られている。現在でもばれいしょの主産地は北海道・道東・畑作地帯であることに変わりはないが、さらに東北から九州へ収穫時期の分散と併せて、リスクの低減が図られている9)。そして、加工用ばれいしょの生産地の分散では、水田を活用した栽培も取り組まれている。水田での生産は、単収が低い傾向にあるものの、水稲との輪作により、水を張り、農地が滞水する期間ができるため、結果として畑作のばれいしょ栽培地帯で大きな問題となる野良イモ(収穫後に畑に残った小イモが翌年雑草化する現象)の発生を防ぐことができる利点を有する10)。水田を活用したばれいしょ栽培は、単収だけでは評価できないリスク低減効果を持つ。

 このように、加工用ばれいしょの事例ではあるが、「作る場所」だけでなく「作る農地や栽培のやりかた」を変えることで、栽培リスク低減となる適応につながることがある。

(3)かんしょ

 かんしょでは、高温と多量の降雨を背景に、2018年からサツマイモ基腐病(もと ぐされ びょう)(以下「基腐病」という)(写真3)の被害が拡大した11)。この病害は圃場(ほ じょう)滞水と強く関連するため、排水対策の徹底が特に重要である。なお、鹿児島県においては近年、基腐病抵抗性品種への切り替えや防除対策の実践などの取り組みが進んだことで、基腐病の被害は減少している11)

 ところで、青果用かんしょにおいては、温暖化の影響により、栽培可能地域が北へと広がってきている。茨城県の生産量は鹿児島県に迫っており、北海道でも栽培地が広がっている12)。従来の主産地である南九州に加え、新たな産地形成が進んでおり、気候変動に伴う新たな栽培機会の拡大がうかがえる13)。ただし、基腐病のような新たなリスクも伴っている点には留意が必要である。なお、基腐病は、最大産地の南九州で甚大な被害が発生したばかりではなく、現在は北海道でも確認されている4)。気温の上昇に伴うかんしょの北進とともに、栽培地における大雨の頻度は北日本でも増加しており、大雨により圃場が滞水する頻度も増えている。圃場の排水対策は、栽培地の北進拡大に伴い、全国的に強化して取り組むべき課題である13)
 
4

(4)サトウキビ(鹿児島県南西諸島・沖縄県)

 サトウキビは、年ごとの気象条件の変動に影響を強く受ける作物である14)。今後は大型の台風が増えることも予測されており、豊作年と不作年の差が大きくなることが懸念される(写真4)。また、年々の降水量や台風の影響で生育や糖度が大きく変動するため、排水と灌漑(かん がい)の両面からの水管理が重要となる。また、気象条件に応じた収穫時期の調整も必要である。従って、年次格差を小さくする安定供給の確保のためには、気象情報に基づく対策技術の充実を図ることが有効となる4)13)15)16)
 
5

3 作物ごとに異なる適応の方策と今後の対応

 気候変動への適応は、作物によって方向が異なる点も重要である。かんしょでは、青果用かんしょを中心に、温暖化により栽培地域が北へ広がっており、「産地が広がる」形での適応が見られる。一方でばれいしょでは、高温の影響を受けやすいため、生産を維持しながら地域や作期を分散させる動きがある。このように、「産地を広げる作物」と「産地を分散させる作物」があり、それぞれに応じた適応が必要である。すなわち、青果用かんしょのように産地が拡大する作物と、ばれいしょのように産地を分散させる作物とでは、気候変動への適応の方向が異なる点が特徴である。

 気候変動への適応としては、高温耐性品種の開発の重要性はどの作物においても変わらない。しかし、新しい品種の普及には時間がかかる。そのため当面は、防除の前倒しや排水対策、作期調整、産地分散など、現在すぐに取り組める適応を組み合わせて進めていくことが重要である。

おわりに

 近年の気候の極端化(高温、多雨、干ばつなど)は一時的なものではなく、今後も継続すると考えられる。このような状況の下では、従来の栽培方法にとらわれず、気候の変化に応じて柔軟に対応していくことが求められる。作物の特性に応じて、「どこで作るか」、「どのように作るか」を見直しながら、リスクを抑えた生産体系を構築していくことが重要である。
 
【引用文献】
1)気象庁(2026)「各種データ・資料」https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html(2026年6月22日確認)
2)北海道 農政部 生産振興局 農産振興課(2024)「令和5年産てん菜の生産状況について」『砂糖類・でん粉情報』(2024年7月号)pp.56-60.独立行政法人農畜産業振興機構

3)一般社団法人北海道農産協会(2026)「令和7年産てん菜の生産実績」
https://hokkaido-nosan.or.jp/manager/wp-content/uploads/seisan-kouzyou_r07.pdf(2026年6月22日確認)

4)広田知良・中辻敏朗・小南靖弘(監修)(2021)「北海道の最新農業気象」,2021年ニューカントリー秋季増刊号,北海道協同通信社,pp228
5)三上晃一郎(2025) 「高温条件(温暖化)がばれいしょ生産に与えた影響〜過去最高気温を記録した2カ年の事実から〜」 『砂糖類・でん粉情報』(2025年4月号)pp.42-48. 独立行政法人農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003328.html
6)田中宏樹(2026)「でん粉原料用ばれいしょの安定生産に向けて〜北海道における気象変動の影響と対策〜」 『砂糖類・でん粉情報』(2026年4月号)pp.43-50. 独立行政法人農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003524.html 
7)S. Shimoda, H. Kanno, T. Hirota (2018) Time series analysis of temperature and rainfall-based weather aggregation reveals significant correlations between climate turning points and potato (Solanum tuberosum L) yield trends in Japan. Agricultural and Forest Meteorology, 263,147-155.
8)柳沢朗・荒木宏通・住ノ江努(2022)「2021年の高温,干ばつが北海道の加工用馬鈴薯の収量に及ぼした影響について」,北農,89(3),181-189
9)植村弘之(2020)「気候変動への対応:近年の異常気象に対するカルビーポテトの取り組み」,農家の友.3,59-62
10)Y. Iwata, T. Hirota, T. Yazaki, A. Iwasaki, T. Suzuki, S. Inoue, K. Usuki (2015) Effects of saturated hydraulic conductivity on volunteer potato (Solanum tuberosum L.) tuber survival. Soil Science and Plant Nutrition, 61, 235–241.
11)鹿児島県さつまいも・でん粉対策協議会(2025)「鹿児島県における令和6年産でん粉原料用さつまいもの生産状況などについて」『砂糖類・でん粉情報』(2025年11月号)pp.53-57. 独立行政法人農畜産業振興機構
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/stem_blight_and_storage_tuber_rot_of_sweetpotator04.pdf(2026年6月22日確認)

12)農林水産省,(2026) 作物統計
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/index.html(2026年6月22日確認)

13)日本学術会議(2023) 見解 気候変動に対する国内農業の適応策と食料安定供給へ果たす農業生産環境工学の役割https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-k230926-15.pdf(2026年6月22日確認)
14)當好二(2011)「さとうきびの気象災害予防に向けて 〜エルニーニョ現象のさとうきび栽培への影響の研究〜」独立行政法人農畜産業振興機構https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000409.html(2026年6月22日確認)
15)沖縄気象台(2020)農業に役立つ気象情報の利用の手引き
https://www.data.jma.go.jp/okinawa/katsuyou/katsuyou/jyoho/tebiki.html(2026年6月22日確認)

16)渡邉健太・川満芳信・上野正実・池田剛(2022)「気象データに基づくサトウキビスマート灌漑システムの構築」『砂糖類・でん粉情報』(2022年10月号)pp.47-55. 独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678